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第 4 章 『歌曲集第 2 集』の分析

4.3 転調

『歌曲集第2集』においても『歌曲集第1集』と同様に、共通和音による転調(変位和 音による転調と「半音音階による転調」を含む)、エンハーモニックによる転調及び「仮想 和音」による転調の例がみられた一方で、反復進行による転調の例はみられなかった。変 位和音と「半音音階の和音」以外の和音を 2 つの調に共通する和音として転調する例は、

《ネル》、《秋》、《ある日の詩》の〈出会い〉などで確認することができるが、この転調方 法は、パリ音楽院で採用された和声論にも掲載されている上に、同時代の作品においても しばしば使われている方法であるので、本項目では扱わないことにする。

興味深いのは、フォーレが「半音音階の和音」や変位和音を用いない共通和音による転 調方法でもって、より遠い調への転調も実現させていることだろう。《秋Automne》(1878)

の第12小節では、嬰ヘ短調のVIの和音(レ‐ファ♯‐ラ)を介して、ト長調へ転調され ている。ト長調のVの和音と嬰ヘ短調のVIの和音が共通することを利用して、この遠隔 調への転調は実施されているのである。同様に、《わたしたちの愛Notre amour》(1879 年 頃)の第30小節においても、イ長調のVの和音を嬰ト短調のVIの和音(ミ‐ソ♯‐シ)

とみなして遠隔転調が行われている。

4.3.1共通和音による転調

ルフェーヴルの『和声論』において、共通和音による転調が変位和音や「半音音階の和 音」を介しても行われていることは、すでに第2章で確認した通りである。共通和音によ る転調は、パリ音楽院で採用された和声論においても認められていたが、「半音音階の和音」

と変位和音を2つの調に共通する和音としてみなした例は挙げられていない。従って、本 項では、ルフェーヴルの『和声論』に特有だと考えられる、この2つの転調方法を中心に 考察していくことにする。

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4.3.1.1変位和音による転調

『歌曲集第2集』では、変位和音による転調の際に、短三和音の第3音を上方変位させ た和音がしばしば用いられている。とくに、短七の和音の第 3 音が上方変位された場合、

各和音構成音が属七の和音と同じ音程関係をもつことになるので、この七の和音は転調し やすい和音となる。『歌曲集第2集』の中で最も頻繁にみられた変位和音による転調は、III の和音を介して行われるものであるが、その他にVIの和音やv7の和音を共通和音とみな した変位和音による転調も認められた。

《ある日の詩》の第1曲〈出会い〉では、変位和音を介した転調が多くみられる。第3 小節では、ロ長調の VI の和音(ソ♯‐シ♯‐レ♯)を共通和音として、嬰ハ短調に転調 している。ここでは、ロ長調のviの和音の第3音を上方変位させることによって、嬰ハ短 調のドミナントの和音と共通する和音が創り出された。(譜例4.17を参照)

[1] Si : I IV V7

[3] VI

do♯: V V9 V i sol♯: iv7 V i ré♯: iv7

譜例4.17 フォーレ、《ある日の詩》の〈出会い〉より第1~4小節(ルフェーヴルの和音記号による)

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さらに、〈出会い〉の第 7 小節では、嬰ニ短調のIII9の和音(根音省略、ラ♯‐ド♯‐

ミ♮‐ソ♮)をロ長調の V9の和音(根音省略)とみなし、共通和音による転調が行われて いる。第19小節においても同じように、2つの調に共通する和音を転調先の調でドミナン トの和音とみなす変位和音による転調がみられる。ここでは、第3音が半音上げられた嬰 ヘ長調の II9の和音(根音省略、シ♯‐レ♯‐ファ♯‐ラ♮)を嬰ハ短調の V9の和音(根 音省略)とみなして、嬰ヘ長調から嬰ハ短調へ転調されているのである。

このように七の和音を 2 つの調をつなぐ共通和音に選び転調させる方法は、〈出会い〉

の他に《秋》や《夢の国》においても実施されている。《秋》の第22~23小節では、ト長 調のIII7の和音を2つの調に共通する和音として、ト長調からイ短調への転調が行われて いる。イ短調のII7の和音と共通する、このト長調のIII7の和音(シ‐レ♯‐ファ♯‐ラ)

は、第21小節においても聴かれる。(譜例4.18を参照)

[18] mi : V9 VI

Sol : IV V9 I II7

[21] I III7 I III7

la : II7 V7 VI (Do : IV)

譜例4.18 フォーレ、《秋》より第18~23小節(ルフェーヴルの和音記号による)

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また、《夢の国》では、度々v7 の和音を共通和音として変ロ短調から変イ長調への転調 が繰り返される(第4~5小節、第8~9小節、第17~18小節、第21~22小節、第48~

49小節及び、第51~52小節)。ここでは、変ロ短調のiv7の和音が変イ長調のv7の和音 とみなされ、V7の和音へと続いている。

これらの上記の和音の他に、変位和音による転調の共通和音として使われているのは、

IIIの和音であり、それは《わたしたちの愛》と《イスパハンの薔薇》で確認することがで きる。《わたしたちの愛》(ホ長調)では、第7小節及び第31小節において、嬰ト短調の IIIの和音(シ‐レ♯‐ファ♯)をロ長調のI度の和音とみなして、平行調に転調している

(以下の譜例では、嬰ヘ短調からイ長調に転調されている)。(譜例4.19を参照)

《イスパハンの薔薇》の第49~51小節では、ト長調のV7 の和音が第3音上方変位の IIIの和音(シ‐レ♯‐ファ♯)に進行し、このIIIの和音を介して平行短調であるホ短調 に転調されている。このト長調のIIIの和音は、ホ短調ではVの和音と考えられ、ホ短調 の主和音iの和音に解決されている(ト長調:V7‐III‐ホ長調:i)。

[3] Ré : I fa♯: V7

[5] i (iv) i III (i) V

165 [7] fa♯ : III

La : I V7 I

譜例4.19 フォーレ、《わたしたちの愛》(ニ長調)より第3~8小節(ルフェーヴルの和音記号による)

4.3.1.2「半音音階の和音」による転調

『歌曲集第 2 集』においても、「半音音階の和音」による転調が《ネル》と《贈り物》

で用いられている。この2つの歌曲のなかで、転調のために用いられた和音は、♭II、♭

V、♭VIと♭VIIの和音である。

《ネル》(変ト長調)では、第19 小節以降、主調の変ト長調に戻る第29小節までの間 に、短いスパンでの転調が幾度となく繰り返されている。とりわけ第26~29小節では、「半 音音階の和音」を介した転調がみられる。第26小節では、まず変イ長調の♭VIIの和音(ソ

♭‐シ♭‐レ♭)を介して、ヘ長調へ転調されている。変イ長調の導音(ソ)が下方変位 したソ♭を根音にもつこの長三和音は、ヘ長調において♭IIの和音(現代和声では、ナポ リのII度と考えられる)と共通する。そして、第28小節では、ヘ長調の♭VI7の和音(レ

♭‐ファ‐ラ♭‐ド♭)を変ト長調のV7 の和音とみなすことによって、主調である変ト 長調へ回帰している。このV7の和音は、第29小節で変ト長調のIの和音に解決されてい る。このように《ネル》の第26~29小節では、「半音音階の和音」による転調を繰り返し ながら(変イ長調‐ヘ長調‐変ト長調)、遠隔調から主調への回帰が実現されているのであ る(以下の変ホ長調の譜例では、ヘ長調‐ニ長調‐変ホ長調へ転調)。(譜例4.20を参照)

《贈り物》においても、「半音音階の和音」よる転調を用いて、遠隔転調が行われている。

第27 小節では、ヘ長調の♭V の和音(ド♭‐ミ♭‐ソ♭)を変ロ短調の♭IIの和音とみ なして、ヘ長調から変ロ短調への転調が行われている。第 27 小節以降、変ロ短調の♭II の和音は、ºii7の和音に接続され、さらにVの和音へ進んでいる。

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[25] La♭: V7 I Fa : ii II9 I IV ♭VII

Ré :♭II V7

[27] I iii (ºiii) vi7 ♭VI7 Mi♭: V7

[29] Mi♭: I

譜例4.20 フォーレ、《ネル》(変ホ長調)より第25~30小節(ルフェーヴルの和音記号による)

また、《贈り物》の第20~21小節では、変ホ長調からヘ長調への転調が変ホ長調のIV7 の和音(ラ♭‐ド‐ミ♭‐ソ♭)を介して行われている。変ホ長調のIV7の和音は、ヘ長 調の♭III7の和音と共通する。このヘ長調の♭III の和音は、その後V7‐Iの完全終止へ 向かっている。

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4.3.2エンハーモニックによる転調

『歌曲集第 2集』においても、『歌曲集第 1集』と同様に、エンハーモニックによる転 調がみられる。《愛の歌Chanson d’amour op. 27-1》(1882)では、第40小節において、

2 つの調に共通する和音を異名同音で読みかえることによって、ホ長調からヘ長調への転 調が実現されている。ヘ長調の♭VIの和音(レ♭‐ファ‐ラ♭)は、ホ長調では第3音が 上方変位したVIの和音(ド♯‐ミ♯‐ソ♯)に読みかえることができる。(譜例4.21を 参照)

[36] Ré : I Mi : V7 I vi I vi

[39] I vi I VI Fa :♭VI I

譜例4.21 フォーレ、《愛の歌》より第36~42小節(ルフェーヴルの和音記号による)

また、《夢の国》においてもエンハーモニックによる転調を第37小節にみることができ る。第37小節では、変ト長調のV7の和音から続くIの和音(ソ♭‐シ♭‐レ♭)を介し て嬰ヘ短調への転調が実現されている。変ト長調のIの和音は、第3音が上方変位した、

嬰へ短調のIの和音(ファ♯‐ラ♯‐ド♯)と読みかえられる。第36小節の第3拍目か

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ら第37小節で聴こえる変ト長調の完全終止(V7-I)は、変ニ長調(第34~36小節)から 嬰ヘ短調へと至る遠隔転調を滑らかに行うための橋渡しとなっている。

4.3.3 「仮想和音」による転調

『歌曲集第 2集』では、『歌曲集第1集』にも増して「仮想和音」による転調が用いら れるようになる。《夢の国》の第13~14 小節(及び第26~27小節と第56~57小節)で は、「仮想和音」を用いてホ短調から変イ長調へ転調されている。第13小節で、ホ短調の iの和音(ミ‐ソ‐シ)が鳴らされた後、第5音が上方変位された の和音(ソ‐シ‐

レ♯)がエンハーモニックで読みかえられて、ソ‐ド♭‐ミ♭のように記されている。こ の和音を「仮想和音」として、その和音構成音のうち、ミ♭の音はそのまま留まり、ソと ド♭の音をそれぞれ次の和音に含まれるラ♭とドの音への倚音と考えることによって、変 イ長調のIの和音(ラ♭‐ド‐ミ♭)へ至り、転調が行われているのである。さらに、《夢 の国》の第43~44小節では、ニ長調のiii7の和音を「仮想和音」として、ニ長調から変 ニ長調へ転調されている。第43小節では、ニ長調のIの和音(レ‐ファ♯‐ラ)に続き、

iii7 の和音(ファ♯‐ラ‐ド♯‐ミ)が現れる。この和音をまずソ♭‐ラ‐レ♭‐ミのよ うに読みかえ、そのうちのラ、レ♭、ミの 3 音を、それぞれ次に鳴らされる変ニ長調の V7 の和音(ラ♭‐ド♮‐ミ♭‐ソ♭)に含まれるラ♭、ド♮、ミ♭への倚音とみなし、ソ

♭をそのまま残すことによって、変イ長調への転調が実現されている(譜例4.22を参照)。

[38] Ré : V7

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