• 検索結果がありません。

超伝導薄膜

ドキュメント内 title (ページ 100-123)

III. コスト削減効果

8. 超伝導薄膜

88

8.超伝導薄膜

89

図 III-8-1 TDR における超伝導加速空洞の内面に高い転移温度を持つ超伝導体膜と絶縁体膜とを 交互に多層膜コートすることでニオブより高い臨界磁場を持たせることができ、加速勾配を上げら れる可能性がある。

ALDは、図III-8-2に示すように、異なった反応性ガスをミリ秒精度で成膜基板表面に導入し、原子層

を積み重ねてゆくものである。この時、基板温度は最適に高められ、導入ガスはプラズマ加熱されて反応 性を高めてある。現在構築中のALD成膜装置はサンプル基板と単セル空洞への成膜に対応でき、またい ろいろなプリカーサー(薄膜生成用反応性ガス)にも対応できる。しかしながらガスフロー制御が手動で あったり、温度制御やプラズマ生成制御が簡易のものなので精密なパラメータ制御が不十分であり、表 面分析から酸素などの不純物の混入が示唆されているので、純度の高い成膜に問題がある。精密なパラ メータ設定で成膜を繰り返し試験し、最良の条件を探し出すためには装置から不純物混入の要因を取り 除き、その制御機器の高精度自動化開発が必要である。

図 III-8-2 ALD 工程の説明図

サンプル片に対するALD成膜技術が確立した後には、単セル空洞へ応用する開発、そして9セル空洞 へ応用する開発が必要である。並行して、どの超伝導体のどの成膜方法が優れているかをサンプルで試 行し、臨界磁場性能を評価しなければならない。そのための臨界磁場計測装置開発も必要である。

3)メッキ法

超伝導 Nb3Sn 線材の製造方法を超伝導加速空洞に応用する手法の開発[III-8-4]がフェルミ研究所とジェ ファーソン研究所およびKEKの共同で進められている。これは、ニオブ基板上に薄い銅メッキを施し、

その上にスズメッキを施し、最後に再び銅メッキを施してから、700℃の熱処理を行うものである。そう するとニオブ基板の上にNb3Sn層が形成され、最表面はブロンズが形成されるので、最表面のブロンズ

90

を酸でエッチングして取り除き、最表面をNb3Sn層にする、という手法である(図III-8-3参照)。高純 度ガスフロー制御の必要なALD法と比べ、それほどの純度の要らないメッキ制御で実現できそうなので 有望視されている。ALD法とメッキ法の両方を追求して最終的に性能の良い方の成膜法を選択すること になるであろう。

図 III-8-3 メッキ法による Nb 基板の上への Nb3Sn 薄膜の製造方法。右端の写真はサンプル片に メッキ法を施し、その切断面を SEM で観察したものである。

4)コスト削減の評価

10年後にこの技術の開発、実用化によって期待されるコスト縮減効果は、4K温度でのQ値の増加(2

×1010)および従来の2K温度での加速器運転をヘリウムの液化温度である4K温度域での加速器運転を 可能とすることによるものである。主線形加速器・電子源・陽電子源・RTML 部分のヘリウム冷凍機に 対して 2K コールドボックスの削除および減圧ポンプの削除が可能となり、それらはその冷凍機コスト

の25~50%の削減に相当する。

さらに、将来的に高電界の運転が可能となれば、クライオモジュール数の削減とトンネル長の縮小が 期待できる。

5) 研究開発に必要な期間および費用

開発の第1ステップはプリカーサーが入手しやすいNbN薄膜のALD成膜技術を完成させ、超伝導体 として機能する薄膜を完成させ、空洞に応用することである。第 2 ステップでは、もっと高い臨界磁場 が見込めるNb3Sn薄膜の成膜を完成させ、空洞に応用することである。このとき、メッキ法によるNb3Sn 薄膜成膜も同時開発しておく。これらを、単セル空洞の場合、そして9セル空洞の場合、と段階的に実現 してゆく必要がある。ALD装置開発に約2年かかると見込まれ、その後単セル空洞応用に十分な成功統 計を得るために約4年、次に9セル空洞応用に成果を得るために約4年の合計 10年かかると見込まれ る。それらと平行して臨界磁場性能評価装置の開発にも約4年かかるものと見込まれる。これら10年の 開発期間を費やしたとしてもいままでのSRF開発経験から推定して現状のニオブ空洞と同等程度の性能

の35 MV/mに到達できるかどうか、である。その後、加速電界を上げていき55 MV/mにする開発にさ

らに10 年はかかるものと推定する。よって合計20年以上の先に 55 MV/mの技術的展望が開けるもの と推定する。そのスケジュールを図III-8-4に示す。

+

-Cu Nb

91

図 III-8-4 推定される開発スケジュール

これらの技術開発についての世界の動向は以下のとおりである。超伝導体薄膜の研究は世界中で競っ て行われており、おもな研究機関は、フェルミ研究所、ジェファーソン研究所、コーネル大学、サクレー 研究所、ブッパータル大学などであり、スパッタ法が主流であるが、フェルミ研究所はスパッタ法と並行 してメッキ法も追求している[III-8-5]。ALD研究は主にKEKとサクレー研究所が追求を行なっている。ど の研究機関も十分な性能の薄膜を製造できていないのが現状である。

10年で技術的可能性を見極めるための開発に要する経費(10年)は、

ALD(あるいはメッキ)成膜装置の設備開発 1億円

単セル空洞を使用した開発 1億円 9セル空洞を使用した開発 1億円 臨界磁場計測装置インフラ整備と評価用空洞30台製造 5億5,000万円 空洞性能評価費用 1億4,000万円 表面分析費用 1億4,000万円

と見込まれる。現状のニオブ空洞の1.6倍もの高電界55 MV/mを目指す実用開発には、さらに10年、

そして上の2−3倍程度の実用開発費用が必要であると見込まれる。

参考文献

[III-8-1] G. Mueller et.al. Proc. of EPAC1996, Sitges, Spain (1996) S. Posen, et.al. Supercond. Sci. Technol. 30 (2017) 033004 [III-8-2] A. Gurevich, APL 88 (2006) 012511,

T. Kubo, Y. Iwashita, T. Saeki, APL 104(2014) 032603 T. Kubo, Supercond. Sci. Technol. 30, 023001 (2017) [III-8-3] S. Kato, H. Hayano Proc of SRF2017 Ranzou (2017) [III-8-4] S. Franz et.al. Materials Letters 161(2015) 613-615

E. Barzi “Innovative Nb3Sn thin film approches and their potential for Research and Applications” CEC/ICMC, Madison (2017)

[III-8-5] Anne-Marie Valente-Feliciano “Superconducting RF materials other than bulk niobium:

a review” Supercond. Sci. Technol. 29 (2016) 113002

92

9.液圧成形

1) 液圧成形空洞の概要

楕円のセル形状を有する超伝導加速空洞の製造方法は、圧延したニオブの板材をおわん状にプレス加 工し、それらを電子ビーム溶接(EBW)で結合する方法が一般的である。空洞は内面が滑らかなことが 要求されるが、EBWの電子銃は大型のため空洞の外側から貫通溶接を行い、隆起の少ない滑らかな溶接 裏ビードを形成する必要がある。これは熟練を要する非常に難しい溶接作業である。EBW機の導入コス トも高く、EBWが空洞製造コスト上昇の主要因である。そこでEBWを用いずに塑性加工の一つである 液圧成形を用いて空洞を低コストで製造する研究が行われている。この工法は古くから知られ、自動車 部品や油圧部品の製造に広く用いられている。液圧成形はパイプの外側に金型を配置し、パイプの内側 を高圧にして軸方向に圧縮することにより、金型に沿って変形させるものである。液圧成形による空洞 の製造では、ニオブパイプにくびれ加工を行った後、油圧によって空洞に変形させる。

液圧成形による空洞の製造方法

以下に液圧成形による空洞製造方法に関して詳細を述べる。

① 予成形と液圧成形

予成形と液圧成形の工程を図III-9-1に示す。図は3セル空洞の場合を示している。まず、パイプが液 圧成形の金型に入るように予成形を行う。図 III-9-2(左)に示すネッキング加工機を用いてアイリス部 にくびれを成形する。ニオブパイプを回転させ、対向する 2 枚のローラをパイプに押し込むことにより くびれを形成する。加工機の構成はスピニング加工機と同じである。ローラはパイプに連れ回りする。

ローラとパイプの間に潤滑剤は用いていない。パイプをローラ近傍の左右両側でコレットチャックによ り把持し、くびれを1ヶ所ずつ成形する。1セル空洞の場合は 2ヶ所となる。予成形終了後、真空炉を

使って750℃で3時間焼鈍を行う。

図 III-9-1 液圧成形の工程

93

液圧成形は図III-9-1に示したように2段階で実施する。外側に金型を配置して、パイプに内圧を加え、

さらにパイプの両端を押え込む。金型の外周は円筒形状であり、長いシリンダーの中に配置され長手方 向に移動可能である。金型同士が密着するまで押し込み、内圧を25 MPa まで上げてしばらく保持し、

パイプを金型に密着させる。その後、金型を外して再び焼鈍を行う。次に金型を交換して最終成形を行 う。軸押込み力は油圧ピストンで発生させる。ここでは膨らむ様子を目視で確認しながら、内圧と軸押し 込み力を手動で調整する。なお、流体として油を使用している。成形が完了したニオブパイプを図 III-9-2(右上)に示す。

② 空洞への仕上げ

図III-9-2(右上)に示したパイプを2ヶ所のくびれ部分で切断し、左右にビームパイプをEBWで接

合する。端部にはニオブチタン製のフランジを取り付ける。こうして完成した1セル空洞を図III-9-2(右 下)に示す。液圧成形で空洞を製造する場合、図III-9-3に示す様に空洞内部が荒れることが多い。この 場合、機械研磨を行う。通常は超伝導加速空洞内面の機械式研磨に実績のあるバレル研磨を施す。これは 空洞内部に研磨剤と水を入れて空洞を回転させることにより、空洞内面を研磨する。

2) 世界的な動向

図 III-9-2 ネッキング加工機(左)、成形が完了したニオブパイプ(右上)、完成した 1 セルの空洞

(右下)

図Ⅲ-9- 4 液圧成型後の空洞内部 図 III-9-3 液圧成形後の空洞内部

ドキュメント内 title (ページ 100-123)