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超伝導体の中では一体何がおきているのか? — BCS 理論

ドキュメント内 ii i (ページ 46-49)

第 4 章 超伝導 34

4.3 超伝導体の中では一体何がおきているのか? — BCS 理論

ここまで超伝導のさまざまな不思議な性質をお話ししてきました。ところで超伝導の不思議な現象の 数々はそもそもなぜ起こるのでしょうか。その疑問に決定的な答えを与えたのが1957年に発表された BCS理論です。この理論は超伝導のさまざまな不思議を一挙に解決したすばらしい理論です。

この理論は金属の内部のとても小さい世界での現象を扱うので、量子論という理論に基づいて考えられ ています。しかしこの量子論というのはなかなか難しいので、今回は量子論は抜きの簡単な説明で、ミク ロの世界では物質や電気がどのようになっているのか、そして、超伝導はBCS理論によってどのように 説明されるのかをのぞいてみましょう。

4.3.1 ようこそミクロの世界へ — 電流と電気抵抗の正体

4.14 金属中の電子電流の正体

4.15 原子核の振動に電子が邪 魔をされる電気抵抗の正体

4.16 電子が動くと原子核もつられて動く まず超伝導体の話に入る前に、金属の中をどのように

して電気が通っているかを見てみましょう。全ての物質 は原子というとても小さい粒から作られていますが、こ の原子はさらに細かい原子核と電子とにわかれます。こ れを見るために、金属の内部を1億倍ぐらいに拡大して みて見ましょう。すると金属は図4.14のようになって います。プラスの大きい粒が原子核で、マイナスの小さ い粒が電子です。そして、プラス同士、マイナス同士は 反発し合い、プラスとマイナスはお互いに引き合う力が 働きます。

金属の原子核(+)は縦横に規則正しく並んで、決まっ た位置からほとんど動きません。一方でそのすき間を自 由に動き回れる電子(-)があります(自由電子といいま す)。この自由電子の運動が電流なのです。

次に電気抵抗について考えてみましょう。自由な電子 の運動が電流ならば、電気抵抗とは、金属の原子核(+) が、その運動の邪魔をすることによって引き起こされま す。このときの邪魔の仕方を詳しく見ていきましょう。

いま、図4.14のように金属の原子核が整然と並んで 止まっているならば、電子は原子核のすき間を上手にす り抜けていき、電流は流れ続けます。一方、図4.15のよ うに金属の原子核が振動していると、電子は原子核にぶ つかって進む向きを変えられてしまいます。このように 電子が原子核にぶつかって勢いを失ってしまうことが、

電気抵抗の原因なのです。そして、このときの衝突は原 子核の振動を引き起こしますが、これが、電気抵抗によ る熱の発生の正体なのです。

この原子核の振動は、温度が低くなると小さくなるこ とが知られています。では、温度をどんどん低くして、

原子核の振動を小さくしていって、ついには振動を止め てしまうと、電気抵抗はゼロになるのでしょうか?

ところが実はそれでも電気抵抗はゼロにならないので す。ある時点で原子核の振動が完全に止まっていても、

いざ電子が動き始めると、原子核もそれが引き金になっ てちょっとだけ動きます。すると、折角止まっていた原

44 第4章 超伝導 子核が振動を始めてしまい、(図4.16)結局その振動によって電子の運動が妨げられるのです。

4.3.2 超伝導で電気抵抗がゼロになる理由

電子が動く以上原子核の振動を抑えられないのならばこのままでは電気抵抗ゼロは絶望的です。原子核 の振動を抑えることができない以上、もっと他の理由によって電気抵抗がゼロになっていると考えざるを 得ません。その理由を説明した理論は、ジョン・バーディーン、レオン・クーパー、ジョン・ロバート・

シュリーファーの三人によって1957年に提唱されて、BCS理論(BardeenとCooperとSchriefferの頭 文字をとってBCS)と呼ばれています。BCS理論の要点は、二つの電子が一つの組となり(これをクー パー対と呼ぶ)、その結果、電気抵抗がゼロになるというものです。では、何故二つの電子が組となるの か、そして何故二つの電子が組になると電気抵抗がゼロになるのか、具体的に見てみましょう。

何故二つの電子が組となるのか

4.17 クーパー対の生成 電子はマイナスの電荷を持っています。お互いマイナ

スの電荷を持っている2つの電子は反発しあって、組に なる事は無いように思えます。しかし、金属中の2つの 電子の間には引力が働く事があるのです。

金属中をある電子が動いている場合を考えましょう。

電子はマイナス電荷を持っているので、図4.16のよう にプラスの電荷を持った原子核を引き付けます。電子が 通り過ぎると、そこはプラスの電荷を持った原子核が集 まって、プラスに帯電しています。(図4.17)すると、も う一つの電子(マイナス電荷を持っている)が引き付け られます。この時、先に通り過ぎた電子は後ろに引っ張

られて、後から来た電子は前に引っ張られているので、原子核の動きを介して間接的に2つの電子間に引 力が働いたと考えることができます。こうして全体として2つの電子が引き合う場合、二つの電子はクー パー対となります。

何故クーパー対ができると電気抵抗がゼロになるのか

図4.16では電子が原子核に引き寄せられて進行を邪魔されています。言い換えると、この電子は運動 エネルギーを原子核に奪い取られているということができます。このままでは原子核が奪い取ったエネル ギーは熱に変わってしまいます。しかし、このとき後ろからもうひとつの電子がやってきて、原子核が前 の電子から奪い取ったエネルギーを、すぐに取り戻してくれます(図4.17)。こうしてクーパー対はお互 いにエネルギーを失わないように協力しているのです。これが抵抗ゼロの説明です。

他にも、クーパー対を元に超伝導を考えるといろいろなことがわかります。

実は、二つの電子がクーパー対を作った状態というのは、二つの電子がばらばらに居る状態に比べて安 定なのです。そして、物質には低い温度では安定な状態にいたがるという性質があります。そのため、低 温では電子はお互いにクーパー対を作っています。

折角できたクーパー対を全部壊してしまいます。このため、温度を上げると超伝導状態は壊れてしまうの です。

超伝導体から磁場を排除するマイスナー効果も、クーパー対を考えると説明することができます。実は 電子はスピンという、磁石のような性質を持っています。そしてクーパー対では互いに逆向きのスピンを 持った電子同士が組になっていることが知られています。ここで外側から磁場を掛けると、磁場によって 引っ張られる方向がお互いに逆向きなので、クーパー対が引き離されそうになります。

しかし、もし外側の磁場が弱ければ、磁場を押しのけてクーパー対を保つことができます。ところが強 い磁場がかかると、クーパー対を引き離されてしまって超伝導状態が破壊されます。

このように超伝導を理論的に説明したBCS理論ですが、全ての超伝導を説明できる訳ではありません。

BCS理論によると超伝導転移温度の上限は30K〜40K(-240℃〜-230℃)と見積もられていて、私たちが 展示に使っている高温超伝導は、この枠組みを超えています。高温超伝導でもクーパー対ができているこ とは確かめられていますが、その生成のメカニズムは完全にはわかっていません。逆に低温の転移温度の 超伝導体のほとんどについては、BCS理論が正しいことが確かめられています。

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