第 4 章 超伝導 34
4.2 常伝導とは何がどう違うのか?超伝導の決まり手
超伝導物質でなくとも、たとえば金や銀など電気を通しやすい物質はあります。超伝導物質でない、普 通の物質のことを常伝導物質といいますが、こういった、金や銀などの常伝導物質と、超伝導物質とはど こが決定的に異なるのでしょうか?超伝導体の特徴として、「電気抵抗ゼロ」と「マイスナー効果」の2 つがあります。電気抵抗ゼロとマイスナー効果、これら2つは超伝導体だけで見られる不思議な現象です が、逆にこれら2つの性質の両方が確認されて初めて超伝導体であると認められるのです。超伝導がいか
36 第4章 超伝導 に劇的な現象であるのかを実感するためにも、この2つの現象について、常伝導物質との違いをこれから じっくりと見ていきましょう。
4.2.1 電気抵抗ゼロ!
電池 電流
I
物質抵抗
R
電圧
V
図4.2 普通の物質を流れる電流
電流
I
超伝導体 抵抗ゼロ図4.3 超伝導体を流れる電流
「超伝導=電気抵抗ゼロ」というぐらい、超伝導体の電気抵抗 がゼロになることは有名です。ところで、さっきから繰り返し電 気抵抗という言葉を使っていますが、一体電気抵抗とはどういう ものでしょう?「抵抗くらい知っているよ」という人も、今ここ で電気抵抗について考えて直して見ましょう。
普通の金属に電源(電池)をつなぐと、オームの法則に従って 図4.2のように電流が流れます。オームの法則とは、電源の電圧 をV[V]、回路に流れる電流をI[A]、物質の電気抵抗をR[Ω]とす ると
I = V R
が成り立つことをいいます。つまり、物質の電気抵抗が小さけれ ばそれだけ流れる電流が大きくなるということです。
ここでもうひとつ重要なことがあります。詳しくは第4.3.2節で 書きますが、電流の正体は、実は電子という小さな粒子の運動で、
電気抵抗とはその電子の動きを邪魔する働きのことです。そして、
電子の運動が邪魔された時、失われた電気のエネルギーが熱に変わります。この熱がどのくらいの量なの かは電力P[W]という量を計算してみるとわかります。この電力は
P=V×I = R×I×I
と計算されます。この熱の分だけ、電気が無駄になっていると考えられるのです。
このことを踏まえて超伝導体だったらどうなのか考えて見ましょう。超伝導体では電気抵抗 R=0[Ω] です。このとき、上の電力W もゼロになります。つまり電気が少しも無駄にならないということです。
これはすごいことで、超伝導体だけを使って一周の環を作って、その環に一度電流が流れ始めてしまいさ えすれば、あとは図4.3のように電池なしでも電流が流れ続けるということになるのです。もしもほんの 少しでも電気抵抗があったなら、あっという間に電流は止まってしまいます。とある実験では、超伝導物 質の環には2年以上もの間、電流が全く減衰することなく流れ続けていたそうです。
4.2.2 電流と磁場の切っても切れない関係
上の電気抵抗ゼロの性質は超伝導の応用上で最も重要な性質です。しかし上の図を見て何か疑問に思い ませんでしたか?超伝導で作った一周の環にどうやって電流を流し始めるか、という点です。もし電池を つなごうとすると、超伝導の環を切らなければなりません。
しかし環を切らずに電流を発生させる方法がひとつあります。「磁場」を利用する方法です。とはいっ ても、突然「磁場」といわれたところで、いまいちよくわからないという人も多いと思います。磁石など
ん。しかし、超伝導を応用に使うにも、超伝導を理解するにも磁場の理解を避けては通れないのです。と いうわけで、いったん超伝導を離れて、磁場の解説にお付き合いください。
図4.4 磁石の周りの磁場
磁場
電流
図4.5 電流による磁場発生
誘導電流 磁場の変化
誘導起電力
図4.6 磁場の変化で電流が発生 磁石あるところに磁場あり
磁石は図4.4のようにN極からS極へと「磁場」というものを 作ります。この磁場は目には見えませんが、小学校や中学校で磁 石の周りに砂鉄をまいて、砂鉄がどのような模様を作るかを見た ことがある方は多いと思います。その模様が磁場の姿です。離れ た磁石同士でも、お互いに反発したり引き合ったりしますが、こ れは目に見えない磁場を通じてお互いに力が働いているからなの です。
電流の流れるところにも磁場あり
磁場は、磁石が作る以外にも、電流を流すことで作ることがで きます。図4.5のように導体の環に電流を流してやると、その中 心を貫くように磁場が発生します。
皆さんがよく知っている電磁石というものは、この環がたくさ んつながったものと考えることができます。磁石と電磁石の違う ところは、磁石が一定の磁場を生じるのに対して、電磁石は電流 によって磁場の強さを変化させることができるという点です。強 い電流を流せば、それだけ強い磁場を発生します。
この原理は、私たちの身の回りでは、モーターとしていたると ころで応用されています。最近では超伝導体を用いた強力なモー ターが開発されて、だんだんと実用化が進んでいます。
磁石につられて電気が発生?— 電磁誘導
電流と磁場は切っても切れない関係にあって、電流によって磁 場が発生する現象があれば、逆に磁場によって電流が発生する現 象もあります。それが電磁誘導です。
電磁誘導の法則とは、図4.6のように磁場の変化を打ち消すよ うに起電力(誘導起電力といいます)が発生するというものです。
「起電力」というものは電流を流そうとする力のことで、電池の
「電圧」と同じ意味です。つまり、誘導起電力が生じた結果、まるで電池をつないだときのように電流が 流れます。この電流が新たに磁場を作り、はじめの磁場を打ち消そうとするのです。この現象を使えば、
さっきの図4.3のように一周の環に閉じてしまった超伝導体にも電流を流すことができるのです。
この原理は発電機などに昔から広く使われていますが、最近では、電磁調理器やIH炊飯器など、身の 回りでもたくさん見られるようになっています。
38 第4章 超伝導
超伝導状態 磁束
図4.7 超伝導体の磁場排除
? ?
N
図4.8 磁石を近づ けるとどうなる?
4.2.3 超伝導体は磁場が嫌い? — マイスナー効果
ちょっと難しかったかもしれませんが、磁場についてはわかるよう になったでしょうか?磁場を説明し終えたところで、それでは超伝導 の話に戻りましょう。今回の展示では超伝導体を用いた浮上実験を行 います。超伝導体が浮上しているのは、電気抵抗ゼロと並んで重要な 超伝導の性質、「マイスナー効果」によって磁石から超伝導体に力が 働いているからです。
マイスナー効果は、「完全反磁性」と呼ばれることもあります。「反 磁性」とは、あまりなじみのない難しい言葉に感じると思いますが、
大雑把に言えば、物質が磁場の変化に「反」して、磁石から遠ざかろ うとする性質のことを表しています。
マイスナー効果の重要な事実は、超伝導体が磁場に「完全」に「反」
するために、図4.7のように超伝導体の中には磁場が全く侵入できな いということです。つまり近づいてくる磁石を全てはね返すことにな るので、この性質こそが超伝導体の浮上に最も重要な性質なのです。
このように聞くと、反磁性というのはとても不思議な性質のように 思えるかもしれませんが、「反磁性」自体は、実はさほど珍しい性質で もなく、かなり多くの物質が備えている性質なのです。ごく微弱なの で普通は気づきませんが、水、銅など身の回りのほとんどの物質は強 い磁石を近づけるとわずかに遠ざかろうとする力が働きます。これが 反磁性です。この反磁性は、さっき第4.2.2節で紹介した電磁誘導に よって説明することができます。図4.8のように物質に磁石を近づけ た時、どのようなことが起こるか考えて見ましょう。
じっくり考えてみよう —反磁性とは?
磁石を物質に近づけると、さっき説明した電磁誘導によって物質の周りで磁場の様子が変化します。こ の様子は少し複雑なので、図4.9のようにいったん2つの段階に分けて考えるとわかりやすくなります。
+ =
N
(a) (b) (c)
磁場の変化
磁石を近づける
N
図4.9 反磁性—常伝導体の場合
す。その結果、(b)のように物質内に誘導電流が流れて、磁石の磁場を打ち消すような磁場が新たに生じ ます。このとき最終的に物質の周囲にできている磁場は、(a)と(b)が合わさったものとなっています。
それを表したのが(c)です。(c)を見るとわかるように、磁石から出ている磁場が少し曲げられて、物質か ら追い出されたように見えます。このとき、物質が磁場を追い出そうとしているために、物質と磁石との 間にはお互いに遠ざかろうと反発する力がわずかに生じています。これが反磁性です。
上の図4.9は常伝導物質の様子を描いたものですが、常伝導物質は電気抵抗がゼロでないため、流れ続 ける誘導電流はきわめて小さく、(b)で生じる磁場はごくわずかです。そのため反磁性による磁石に対す る反発力もほんのわずかなのです。
一方、超伝導体で同様のことを行った場合を図4.10に示しました。
+ =
N N
(a) (b) (c)
磁場の変化
磁石を近づける
図4.10 反磁性—超伝導体の場合
常伝導体の場合と大きく異なるのは(b)で発生する誘導電流です。超伝導体では内部の電気抵抗はゼロ なので、誘導電流が減少せずに流れ続けます。そのため近づいてきた磁場全てを打ち消すだけの磁場が、
いつまでも発生し続けるのです。
このとき、(a)と(b)をあわせると、(c)のように超伝導体の内部で磁場はゼロになっていて、超伝導体 が磁場を完全にはじいていると見ることができます。。
これは確かにマイスナー効果の説明どおり、「超伝導体の中には磁場が全く侵入できない」という現象 を説明しています。
これは確かにすごいことですが、今説明してみたように電気抵抗ゼロという性質からすれば当然の結果 で、不思議なことではありません。しかしこれで終わる超伝導ではありませんでした。超伝導体と磁場と のせめぎあいにはまだ続きがあるのです。マイスナーが発見したのは、今までの説明が通用しない、とて も不思議な現象だったのです。
これでこそ超伝導体!不思議、不思議のマイスナー効果
マイスナー効果は次のような実験から発見された劇的な現象です。
さっきとは違い、超伝導体をまずは冷やさずに、常伝導状態で予め磁場をかけておきます。超伝導体 といえども冷やさなければ普通の常伝導体と変わりません。そのためこのときは、図4.9で説明したよう な、普通の物質と同じような弱い反磁性を示しています(図4.11の左)。
そのまま磁場をかけ続けた状態で温度を下げていくとやがて物質は超伝導状態になります。このとき一