(1) 報告書等の活用,研究発表会の開催 28.公開研究発表会の開催
研究所の研究・事業の成果を,主として研究者,教育関係者,学生・大学院生等など,そ れぞれの分野の専門家をはじめとした各層を対象として公開し,発表・質疑・討論・研究室 公開などを通じて,評価や批判を受ける機会を設ける。そこで行われた議論や得られた評価
・批判を,その後の研究・事業の実施や企画に生かすことを目的にしている。例年,研究所 の創立記念日(12月20日)当日ないしその前後に開催するのを原則としている。
なお,研究・事業の内容を公表するための催事として,研究所は「ことばフォーラム」も 開催している。この「ことばフォーラム」が,専門家ではなく広く一般市民を対象として,
言葉にまつわる幅広い話題を選んで啓発的な姿勢を持ちながら講演や公開討論を行うことに 主眼を置くものであるのに対して,研究発表会は前記のような対象や目的を持ち,主として 所内プロジェクトによる研究課題について,より専門的な成果を世に問う場であるという点 で,両者の催事は性格を異にしている。
○開催の状況 担当
公開研究発表会企画部会:井上優(部会長) 小磯花絵 菅井英明 小高京子 田島正幸
以下の内容の公開研究発表会を実施した。対象は主に言語研究・工学研究の専門家であり,
219名(うち一般参加者166人,他はテーマの研究プロジェクト関係者,所員等)の参加があった。
【テーマ】話し言葉のデータベース−『日本語話し言葉コーパス』−
【日 時】平成15年12月20日(土)10:00〜17:00
【場 所】国立国語研究所講堂
【プログラム】
10:00〜10:10 あいさつ 甲斐 睦朗(国立国語研究所長) 10:10〜10:50 講演1 前川 喜久雄(国立国語研究所)
『日本語話し言葉コーパス』の設計と実装 10:50〜11:30 講演2 井佐原 均(通信総合研究所)
『日本語話し言葉コーパス』への情報付与
−自然言語処理の立場から−
11:30〜12:10 講演3 菊池 英明(早稲田大学 国立国語研究所)
XMLを利用した『日本語話し言葉コーパス』の検証と検索 12:10〜14:40 デモンストレーション* ポスター発表**(昼食時間を兼ねる) 15:00〜15:40 講演4 古井 貞熙(東京工業大学)
話し言葉の音声認識と自動要約:話し言葉コーパスの必要性 15:40〜17:00 コメント 全体討論
デモンストレーション(2件)
*
『日本語話し言葉コーパス』(国立国語研究所 通信総合研究所) 音声要約プロトタイプシステム(東京工業大学 京都大学) ポスター発表(12件)
**
『日本語話し言葉コーパス』の書き起こしの仕様について(小磯花絵ほか)
『日本語話し言葉コーパス』における形態論情報の設計(小椋秀樹ほか)
『日本語話し言葉コーパス』の音声ラベリングについて(菊池英明ほか)
『日本語話し言葉コーパス』における節境界認定(高梨克也ほか)
『日本語話し言葉コーパス』における係り受け構造付与(内元清貴ほか)
『日本語話し言葉コーパス』における談話構造タグの仕様(竹内和広ほか) 講演音声に対する印象評定尺度の作成と分析(籠宮隆之ほか)
『日本語話し言葉コーパス』に捉えられた言語変異(前川喜久雄ほか)
『日本語話し言葉コーパス』における挿入構造分析(丸山岳彦ほか)
『日本語話し言葉コーパス』における品詞分布の分析(山口昌也) 話し言葉音声認識へのベイジアンネットの適用(篠崎隆宏ほか) 講演音声の認識と重要文の自動抽出(南條浩輝ほか)
○開催に際しての広報手段の適切性 広報は次の三つの方法で行った。
(1) 電子メール,ホームページ (2) ポスター・チラシ・ハガキの送付 (3) 新聞,雑誌,広報紙
今回の研究発表会は基本的に専門家向けであり,かつ内容の紹介にかなりのスペースを要する ため,広報には電子メールとホームページを最大限に活用し,他の手段は補助的なものにとどめ た。
また,事前に多くの申し込みがあることが予想されたので,申し込みの手段は電子メールまた はファックスに限定した(ただし,電話による申し込みも若干受けつけた)。
○学術的有用性
テーマとした『日本語話し言葉コーパス』は,それ自体が学術的有用性の高いものであるが,
それをめぐって発表者と来聴参加者との間で専門的な質疑や議論が直接的かつ相互的に行われる 点で研究発表会という開かれた事業の学術的有用性が存在する。実際の発表会場では,上記のよ うな豊富なプログラムごとに専門的な発表や討論が行われ,音声言語データの作成や蓄積,デー タ分析,あるいはその利用・供用等の方法論に関して活発に行われ,学術的に多面的な有用性が 認められた。
○社会的有用性
『日本語話し言葉コーパス』は,平成16年春には質・量ともに世界最大の自発音声研究用デー タベースとして公開され,それ自体が一つの社会的財産と評価されるべきものであるが,それに
, 。
ついて研究発表会という開かれた場で紹介することも また高い社会的意義を有するものである
例えば,当該のコーパスは,当初から,音声や話し言葉のコンピュータによる認識や解析の基 盤データとして利用されることも一つの目標としているので,そうした応用技術に関わる研究者
・技術者・大学院生が多く来聴され,熱心な質疑や議論が行われたことは,今回の研究発表会の 社会的有用性を端的に示すものだと言える。
( )
○成果報告書等の内容の充実度 アンケート調査における満足度
講演4件,ポスター発表12件,デモンストレーション2件というのは,国立国語研究所の研究発 表会としてはかなり大規模なものであり,極めて充実した内容の研究発表会となった。アンケー ト(93人分回収)においても,96%(89人)の人から「役に立った 「有意義だった 「おもしろか」 」 った 「わかりやすかった」という回答を得た。内容的に専門家向けであったため 「むずかし」 ,
」 , 「 , 」
かった という回答も19%(18人)あったが そのうち14人は 有意義だったが むずかしかった という回答であった。
29 「日本語科学」の刊行.
国立国語研究所における調査研究,並びにそれらと関連を有する調査研究の成果を学術論 文の形で公表することを通じて,広範な日本語研究の発展に寄与することを目的とする。
研究所は日本語及び日本語教育に関する我が国のみならず世界唯一の研究機関であり,世 界の「日本語研究センター」として国の内外の日本語研究の発展に寄与することは,その社 会的使命の一つである 『日本語科学』を,良質で高度な研究成果を厳密な査読制度に基づ。 いて収録した専門学術誌として編集・公刊することは,そうした社会的使命を果たすための 重要な事業である。
○刊行の状況 担当
(平成15年10月まで)
所内委員:伊藤雅光(委員長) 山崎誠 小椋秀樹 尾崎喜光 小磯花絵 齋藤達哉 杉本 明子 福永由佳
所外委員:青山文啓(桜美林大学) 安部清哉(学習院大学) (平成15年11月から)
所内委員:井上優(委員長) 山崎誠 小椋秀樹 小磯花絵 齋藤達哉 杉本明子 福永由 佳 三井はるみ
所外委員:青山文啓(桜美林大学) 安部清哉(学習院大学)
平成15年度は 『日本語科学』第13号(平成15年4月)と第14号(同10月)を編集・刊行した。各号, の内容は以下のとおりである。
第13号(140ページ):研究論文1編 調査報告3編 研究ノート1編 その他
[巻頭言] 「分野を超えて対話可能な言語表現を」 杉田繁治
[研究論文] 「形容詞の中止形を用いた複文における先行句節と後続句節の関係」
津留崎由紀子
[調査報告] 「もののかずをあらわす数詞の用法について」 加藤美紀
「介護現場のカタカナ語」 中山恵理子
「英語に入った日本語語彙の初出年調査」 早川 勇
[研究ノート 「ハズダとニチガイナイについて−両者の置き換えの可否について」] 岡部嘉幸
[世界の言語研究所13 「欧州現代言語センター(オーストリア)」] 杉本明子
第14号(122ページ):研究論文4編 研究ノート1編 その他
[巻頭言] 「全体から細部を見る」 山口佳紀
[研究論文] 「同年代の初対面同士による会話に見られる『ダ体発話』へのシフト
−生起しやすい状況とその頻度をめぐって」 陳 文敏
「漢字平仮名交じり文中における表記の選択−博文館『太陽』における 外国地名の漢字表記と片仮名表記 深澤 愛 Learning simple and complex rules: Acquisition of Japanese
「
location particles and conjectural auxiliaries」
ウェイ・諸石 万里子
「Markedness in casual speech」 河井潤二
[研究ノート 「エントロピーと冗長度で表現の多様性と規則性を表す試み]
−韓国語系日本語学習者の敬語表現を例に」
玉岡賀津雄 宮岡弥生 林炫情
年間262ページという分量は,学会機関誌等の学術雑誌に比べても,遜色のない分量である。
また 『日本語科学』に掲載される論文は,所内外の研究者による厳正な審査を経て掲載され, るが,15年度においても,13号,14号の論文採択率はそれぞれ50パーセント,45パーセントであ って,この実績からも掲載論文の質が一定以上のレベルが保たれていることが理解されよう。
なお,13号刊行時には 「投稿規定」を和文・英文ともに増補・改訂し,投稿者にとって分か, りやすく明示的な内容とした。13号の編集協力者(査読者)は, 所外O人, 所内O人, 14号は, 所 外33人, 所内3人である。
○学術的有用性
研究所が行う現代日本語や国民の言語生活についての科学的な調査研究,日本語教育の内容や 方法に関する科学的・実践的な調査研究・事業は,他の大学や学会で組織的にこれらを専門に行 うところのない独自な領域を形成していると言ってよい。こうした領域に関する研究論文等を収 録する専門学術誌は,その領域を維持し拡大する上で大きな学術的有用性を持つ。
また,収録される論文が,研究所内外の専門研究者による厳正な査読を経たものであることに よって,本誌は当該の学術分野の質を高く維持する上で不可欠な役割を果たしている。
○社会的有用性
前述のような独自の領域における学術論文を公表する場として,本誌はひとり研究所員だけに 開かれているものではなく,所外の研究者や教育関係者に広く開放されており,社会全体として 見るとき必ずしも多くはない人文・語学系の専門学術誌の貴重な一つとして社会的な有用性を堅