• 検索結果がありません。

資 料

ドキュメント内 ジャーナル4表紙 (ページ 73-119)

要旨:近年女性の特性に配慮した女性医療からさらに発展し,性差を考慮した性 差医療が必要であることが研究成果から指摘され,特に欧米においてその研究・

実践が進んでいる。カナダでは,女性の生涯の健康に配慮し,各年代に対応する 総合的な女性医療の国家的規模での推進,思春期女性や移民女性等社会的弱者に 配慮した保健・医療の実践,周産期医療の集中化,病院・家庭医,助産師の役割 分担と助産師の自立的実践,また,大学と医療機関との連携による女性医療の推 進がおこなわれている。カナダのブリティッシュ・コロンビア州で行われている 性差に考慮した女性医療の現状を視察調査した。視察調査した結果を日本で行わ れている女性医療と比較し,日本において女性医療の研究・実践を推進していく 上での示唆を得た。

キーワード:女性医療,性差医療,医療制度,周産期医療,助産師,カナダ

Ⅰ.はじめに

近年日本において女性医療の重要性が認識され,

女性外来の設置等が進んでいる。

従来女性の健康は妊娠,出産,産褥,育児とい う範疇で捉えられてきた。吉沢は「女性の健康は 母性の健康そのものであったといえる」と述べて いる1)

1994年カイロ会議で女性の生涯を通じた健康権 利として行使できるものとして捉える「リプロダ クティブヘルス・ライツ」の考え方が行動計画と して計画されるようになった2)。行動計画を実現

カナダにおける女性医療視察調査

―カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州における女性医療から 今後の日本の女性医療を考える―

黒田裕子,成田 伸

The Investigation of Women's Health in Canada

The Future Women's Health in Japan is considered from the Women's Health 

in the Canada British Columbia

とを目的とした医療改革」とのべている4)。 米国での医療研究は,1960年代のサリドマイド 医療事故(妊婦のサリドマイドを含む睡眠薬使用 による新生児の四肢異常)などから,妊娠の可能 性のある女性を薬の治療対象から除外するガイダ ンスがなされ,男性中心に研究がなされた。女性 でも同じであるがごとく当てはめられてきた。そ れに疑問を持った女性ジャーナリスト(Barbara Seaman)や医師(Edward  N.  Brandt)の提唱によ りNIH(National  Institute  of  Health:米国国立衛生 研究所)は,1986年女性および少数民族・人種を 調査研究の対象に含むことを義務付ける通達を交 付した5)

1990年には,NIHの中に女性における疾患の予 防,診断,治療の向上と,関連する基礎研究を支 援するORWH(Office  of  Research  on  Women's Health:女性健康研究局)が開設され,1991年に は米国における中高年女性の健康実態ならびに食 事 , サ プ リ メ ン ト , 運 動 , ホ ル モ ン 補 充 療 法

(HRT)とがん,心血管疾患,認知症などとの関 連を明らかにする目的でWHI(the Women's Health Initiative)プロジェクトが立ち上げられた。また,

地域における女性医療の研究,診療,啓発教育を 行 う た め の セ ン タ ー ( National  Centers  of Excellence in Women's Health:CoE)も1996年から 3年かけて,大学医学部に併設される形で全米18 ヶ所に開設された。このような研究の結果,米国 の女性医療は大きく変化した6)

日本では1999年天野がGender-specific  Medicine を紹介したことを契機に性差を考慮した医療が考 えられるようになった。それゆえ,性差医療の視 点からの研究はまだまだ少ない。また,性差医療 の実践は「女性外来」と標榜され,医療機関が中 心である。また山田が述べるように,臨床医師の 認識も低い7)。性差医療について,大学との協働 が実現されておらず,予防・早期発見・治療が一 貫して取り組まれるまでには至っていない。

周産期医療も欧米と日本では大きく異なってい る。欧米では周産期医療の中で分娩・新生児治療 を集中化させることで,安全な医療体制を整備し ている。開業医・助産師を活用し,産婦に安楽な 出産体験を保証する体制を整備している。このよ うな体制の整備も,女性が生涯を健康に過ごすた めに重要な女性医療の一部である。

今回,医療制度が公費で運営されているカナダ

のブリティッシュ・コロンビア州(以下BC州と 略す)の女性医療の現状を視察する機会を得た。

結果を報告する。

Ⅱ.調査方法 1.目的

1)BC州の女性医療の現状を把握する。

2)日本の女性医療における大学の役割について 検討する。

2.方法

女性医療ネットワーク主催カナダ・バンクーバ ー視察旅行(カナダ・BC州にてカナダの医療状 況受講,施設見学)

3.調査場所

Women's  and  Children's  Health  Centre  of  British Columbia(以下B.C. Women'sと略す)

4.調査期間

2006年7月4日〜7月8日

Ⅲ.調査結果

1.カナダの基本情報

カナダの国土は面積約997万h,日本の約27倍 世界で第2位の広さである。北は北極圏まで伸び 気候は変化に富んでいる。15世紀に大陸が発見さ れ,20世紀初頭まで移民が続いた。この国の独立 は1867年とまだ若い国である。10州と3つの準州 からなる多元文化主義国家である。州・準州は独 自の自治を行っている。人口は約3101万人のうち,

イギリス系カナダ人45%,フランス系30%その他 ヨーロッパ系,東洋系等,70を越す人種が暮す。

寒い土地柄ゆえ,先住民族の知恵を借りなくては 国の建設が進まなかった。皆が肩と知恵を寄せ合 ってきた歴史がある。国家の理念は「人権の尊重」

であり,人権教育に国を挙げて力を注いでいる8)。 女性の就業率は7割(01年データ)であり高い。

国連が作成する女性の経済や政治への参加度を測 るジェンダー指数(Gender Empowerment Measure)

は,日本は44位と低いが,カナダは70カ国中9位 である9)

カナダの医療は基本的に無料である。カナダ保 健法に基づき,主に公費で整備・運営されている。

カナダの医療行政は,州政府が行っている。その ため,カナダ10州と3準州のそれぞれが責任をも って医療制度を行っている。

また,カナダにおける健康管理には5つのポイン 自治医科大学看護学部紀要 第 4 巻(2006)

トがある。1.Universality普遍性,2.Comprehensiveness 包括性,3.Accessibility地理的平等性,4.Portabilityど こでも同じ医療,5.Public Administration行政管理で ある。

カナダの助産師は,1994年にオンタリオ州で始 めて認可された。それまでカナダでは,助産師が 法的に存在しなかった。分娩は主に家庭医が行っ ていたが,高い保険料(訴訟費用のために保険料 は高額)のために診なくなり,病院の産科医が分 娩を取り扱うようになった。高額な医療費がかか ることや,女性が助産師を中心としたケアを望む ようになり,保健省の評価基準を持って資格認定 が行われるようになった。オーストラリアやイギ リスで助産師の訓練を積んできた人々は看護師と して働いてきたが,13年前にやっと合法化され,

BC州を含め5州で助産師法が施行されている。助 産師ガイドライン(Practice  Act)が設定され,登 録できるようになり政府から賃金が払われるよう になった。

2.BC州の女性医療の現状

今回訪問したB.C.  Women's  は,世界各国からの 視察を受け入れ,現地病院組織の説明者として Steve Kenny博士が専任でその仕事を行っていた。

カナダは,1957年に医療制度が発足し,カナダ 健康法(Canada  Health  Act)により医療費は無償 となった。医療費については連邦政府が50%,州 政府が50%を負担している。BC州は,物品税が 6%,州税が7%かかる。合計13%の間接税が医 療保険を大きく支えている。高い間接税を払って はいるが,BC州は,州予算の4割を保健・医療に あてている。州民は月40ドル程度の健康保険料を 払えば,いつでも医療を受けることができる。こ れは,MSP(Medical  Services  Plan)と呼ばれてい る。現金を持たなくても医療を受けることが可能 である。受診する時は,基本的にいったんかかり つけの家庭医にかかり,家庭医が専門医につなぐ ことになっているため,専門医にたどり着くのに 時間がかかることが難点である。

カナダでは,女性の健康促進について1993年頃 より医療改革が行われた。見学したB.C.  Women's は,元々市立の総合病院であった。1988年に閉鎖 され,University  of  British  Columbia(以下UBC)

とBC州が提携して同じ場所に女性医療の研究セ ンターを作る計画が立てられた。建物をそのまま

利用し1994年B.C.  Women'sにBirth  Centreが合併し て現在に至っている。骨粗鬆症,尿失禁,ドメス ティック・バイオレンス(DV),乳房ケア,不妊 治療,体外受精,IVH,などの治療を行っており,

三次医療機関としても機能している。急性期周産 期プログラムとしてAntepartum/Postpartu  Care(周 産期ケア),Birth  Care(出産時ケア),Specialized Neonatal  Care(重症新生児ケア)などが行われて い る 。 外 来 プ ロ グ ラ ム は , P e r i n a t a l Diagnostic/Ambulatory Clinic(周産期の診断・外来), Reproductive Medicine Clinic(反復流産,不妊,月 経異常等へのケア),Reproductive  Mental  Health Clinic(月経前緊張症や産褥うつなど周産期に関 連 す る 心 の ケ ア ) な ど 以 外 に , C A R E ( T h e Comprehensive  Abortion  and  Reproductive Education)Program  Clinic(思春期性教育),Oak Tree  Clinic  for  Women  and  Children  with  HIV/AIDS

(HIV感染母子のケア),Breast  Health  Program Clinic(乳房ケア),Gyne/continence  Clinic(尿失 禁ケア),Aurora  Residential  and  Day  Treatment Clinic(薬物中毒治療),Asian  Women's  Clinic(ア ジア系女性のケア),Aboriginal  Health  Clinic(先 住民族の健康増進),Improving  Health  Clinic(障 害を持った女性のための外来)などのユニークな 外来がある。それはWomen's  Health  Researchとい う研究機関と連携して診断治療が行われている。

障害を持った女性用の診察には,診察台に上が るためのリフトが用意されていた。障害を持って いても婦人科検診受ける権利は同じようにあり,

そのために検診を受けやすい設備も整えるのであ る。

このような女性医療のセンターを作ることが出 来たのは,州政府が女性の健康を守ることに力を 入れるようになったからである。1990年代から 20%以上の女性政治家を抱える,より民主的な州 政府の成立もひとつの要因となっている。

3.BC州の周産期医療の現状

B.C.  Women's  は,年間約7,500件の分娩があり,

18名の常勤医と35名の家庭医,22名の助産師が分 娩や手術に立ち会っている。帝王切開率は,27%

である。7,500件の分娩のうち,4,000件はローリ スクの分娩で,それには家庭医か助産師が立ち会 う。3,000件のハイリスク分娩を病院内の産科医師 が取り扱っている。

カナダにおける女性医療視察調査

ドキュメント内 ジャーナル4表紙 (ページ 73-119)

関連したドキュメント