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報 告

ドキュメント内 ジャーナル4表紙 (ページ 31-73)

要旨:わが国では近年市町村合併が盛んになり,母子保健サービスの統合が行わ れ,サービスの低下が懸念されている。一方で,児童虐待や産後うつ病が注目さ れるようになり,母親への育児支援や精神的支援の方向性が検討されている。そ こで,これらの母子保健サービスが既にシステム化されて行われているオースト ラリアにおいて,母子保健システム,母子保健看護師の看護実践について調査し た。調査の結果からオーストラリアでは,チャイルドヘルスセンターを拠点に,

母子保健看護師(Maternal  and  Child  Health  Nurse)が母子を継続的に受け持ち,産 後うつのスクリーニングや母子関係の評価を行い,必要時に関連施設と連携して 支援する体制が成立していた。また,母子保健看護師は死産後の女性に対しても 地域において継続的に支援していた。母子保健看護師はその教育制度や役割から,

日本の地域で活動する助産師に相当していた。日本においても,分娩施設退院後 の早期から継続した母子保健サービスを行っていくためには,地域で活動する助 産師などの母子支援に関わっている専門家を中心にした情報の一元化や支援機関 間での連携がとれるようなシステムの構築が必要だと考えられる。また,EPDSな どの簡易で行えるスクリーニングの普及,死産後の女性の悲哀への支援など幅広 い対象者への支援を可能とする,助産師など母子支援に関わっている専門家に対 するさらに専門的な教育などが必要だと考えられた。

キーワード:母子保健システム,母子保健看護師(Maternal and Child Health Nurse : M & CHN),エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS),悲哀への支援

Ⅰ.はじめに

日本では,核家族化,少子化によって育児不安 を抱えた母親の増加が指摘されており1),2),自治 体や病院施設によってさまざまな育児支援サービ スが取組まれている3)〜6)。また産後うつ病にも注

オーストラリアの母子保健システムの現状と わが国の母子保健サービスへの提言

岡本美香子,大原良子,成田 伸

A suggestion from the family and child health service in Australia

Mikako OKAMOTO,Ryoko OHARA, Shin NARITA

看護師(M&CHN)を中心とした,新生児の健康 状態の把握から母親に対する育児支援や精神的支 援まで幅広いサービスを行うシステムを構築した。

この母子保健サービス事業について調査を行った ので,その結果と日本の母子保健サービス事業へ の応用の可能性について報告する。

Ⅱ.調査方法 1.目的

1)オーストラリアの母子保健サービスのシス テムを知る

2)母子保健看護師(M&CHN)の看護実践を 知る

2.方法

1)オーストラリアの母子保健サービスシステ ムに関連する資料を,オーストラリア保健 省,各州保健局のホームページやから収集 する。

2)現地調査として,チャイルドヘルスセンタ ーの施設見学調査,チャイルドヘルスセン ターに勤務する母子保健看護師(M&CHN)

1名への聞き取り調査を行う。聞き取り内 容については公表することを口頭で説明し,

同意を得る。

3.調査場所

豪州タスマニア州ロンセストンMowbray  チャイ ルドヘルスセンター

4.調査期間

2006年3月11日〜3月18日

Ⅲ.結果 1.調査の概要

オーストラリア保健省,各州保健局のホームペ ージから,母子保健サービスに関連する資料を収 集した。また,調査期間内にMowbray  チャイルド ヘルスセンターを訪問し,研究の主旨を説明し同 意が得られたので,母子保健看護師(M&CHN)

1名への聞き取り調査を行った。

今回中心に調査したMowbray  チャイルドヘルス センターは豪州タスマニア州ロンセストンにある。

タスマニア州の母子保健システムは,オーストラ リア政府が作成したガイドラインに沿った形で行

われており,各州の母子保健サービス内容と比較 したところ,サービス内容,実施時期ともに同様 であった。そのため,Mowbray  チャイルドヘルス センターで行われている母子保健サービスは,オ ーストラリアの状況をほぼ代表していると考えた。

2.オーストラリアの母子保健サービスのシステ ム

1)母子保健の流れ

オーストラリアでは,子どもの健康診査につい て国でガイドラインが作成されている11)。ガイド ラインによって推奨されている健診の時期と内容 を表1に示した。表に示したように健診の時期に ついては,日本の乳幼児健診とさほど変わりはな い。また,母子保健看護師によると,政府のガイ ドラインに基づいてタスマニア州で独自の母子保 健サービスを行っているが,他の州と健康診査の 内容や実施の時期などは大差ないとのことであっ た。

分娩した施設(以下分娩施設と略)退院から地 域への母子保健サービスの移行について,日本と 大きく違う点が2点あった。第一に,オーストラ リアでは通常,母子は産後3日程度で退院するが,

退院時に分娩施設助産師が母子の情報をチャイル ドヘルスセンターへの連絡を必ず行うことである。

第二に,退院後の母子が主にチャイルドヘルスセ ンターにおいて母子双方のサービスを受けていく 点であった。これら2点により,母子は,母子を 十分に理解したスタッフによる育児支援を地域で 受ける事が可能となっている。

2)Personal  health  record  (PHR)(通称,ブルー ブック)

分娩施設退院時,母子はPersonal health record (PHR),通称ブルーブックと呼ばれる手帳をもら って帰る。この手帳には健診結果の記録ページが あり,退院時には,分娩状況,出生直後の新生児 の状態,出生体重,身長,頭囲などの計測,ビタ ミンKやB型肝炎の免疫グロブリンの投与,ガス リーテスト,医師の診察結果など,入院数日間の 記録がされている。またPHRは,その後5歳まで 使えるようになっており,健診前に答える問診や,

健診に関する情報,育児に関する情報が含まれる。

具体的な健診や指導の内容は表1の健診のガイド ラインに示しているが,これらの内容は,日本の 母子健康手帳に類似していた。

自治医科大学看護学部紀要 第 4 巻(2006)

オーストラリアの母子保健システムの現状とわが国の母子保健サービスへの提言

時 期

1〜4週

6〜8週

6〜8ヶ月

1歳6ヶ月

2歳半〜3歳半

4〜5歳

健診内容

・分娩時の状況と退院後の経過

・身体観察(身長・体重・頭囲・大泉門・

呼吸・心拍・臍・生殖器・肛門・皮膚の 状態・反射など)

・栄養方法(母乳・人工乳)

・視力・聴力

・身体観察(身長・体重・頭囲・呼吸・心 拍 ・ 大 泉 門 ・ 首 の 据 わ り ・ 表 情 ・ 生 殖 器・肛門・皮膚の状態・モロー反射など)

・栄養方法(母乳・人工乳)

・視力・聴力

・身体観察(身長・体重・頭囲・呼吸・心 拍・生殖器・肛門・皮膚の状態など)

・栄養方法(母乳・人工乳)

・視力・聴力

・運動機能

・言語機能

・身体観察(身長・体重・皮膚の状態など)

・栄養方法(母乳・人工乳)

・視力・聴力

・運動機能

・言語機能

・社会性

・身体観察(身長・体重・皮膚の状態など)

・視力・聴力

・運動機能(歩行の仕方)

・言語機能

・社会性

・健康状態

・成長・発達

指  導

・授乳、睡眠、赤ちゃんのあやし方など育 児について

・母親の健康状態、産後うつ

・SIDS(乳児突然死症候群)

・寝かせ方について 頭の形の変形予防

・予防注射

・SIDS(乳児突然死症候群)

・離乳食の開始

・睡眠パターン

・子どもとの遊び

・赤ちゃんが動きだしてからの安全

・言語習得の支援

・歯のケア

・紫外線予防

・家族計画

・行動(分離不安を含む)

・家や外での安全の確保

・こどもとの遊び

・トイレットトレーニング

・しつけ

・予防注射

・就学前の予防注射

表1 乳幼児健康診査のガイドライン (文献12)を参考に作成)

しかし,日本の母子健康手帳との違いとして,

健診だけでなく風邪などで病院を受診した際にも 持参し医師に記録を書いてもらうようになってい る点があった。PHRには,子どもの健康,成長・

発達に関する情報がすべて記録される。これによ り,育児支援に関わる全てのスタッフが情報共有 でき,それまでの子どもの経過が一目瞭然でわか るようになっている。健診結果やアセスメントの 記録は,複写できる2枚綴りになっており,チャ イルドヘルスセンターが1枚保管し,一人の子ど もの健康状態から提供されている支援まで全てを 把握できるようになっている。

3)チャイルドヘルスセンター

チャイルドヘルスセンターでは,Family  Child and  Youth  Health  Serviceの一部を担っており,0〜 5歳までの親子を担当し健診を扱っている。チャ イルドヘルスセンターは,母親に対するカウンセ リングやサポートの実践を通して,家族に対して は健康と実践の親役割の情報提供,子どもたちに 対しては成長発達のアセスメントを行なっている。

また,母親の産後うつ病のスクリーニングを行い,

必要に応じてカウンセリング,介入,専門家の紹 介,子育てグループやほかの企画に参加する機会 を提供し,地域の中でほかのサービスへとつなげ ていた。

ドキュメント内 ジャーナル4表紙 (ページ 31-73)

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