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第 3 章 法律の論理推論

3.7 議論 (Argumentation)

3.6.2 通知の論理

通知(communication)とはエージェント間で情報を伝えることにより,各エー

ジェントあるいはエージェントのグループで知識と信念の状態が書き換わること を指す.通知が可能であるためには自分iが情報ϕを自覚し(Biϕ),相手jがその 情報を知っているかど うかに対して確度がなく(¬Bi(Bjϕ∨ ¬Bjϕ)),かつ通知の 結果として相手jがその情報を信じる(Bjϕ)とともに,その情報をiも知っている と信じ る(BjBiϕ)ことになる.これは知識状態の動的な書き換えであり,かつ時 間の推移を示すインデックスも必要となるため,知識の論理(epistemic logic)に加 えて,動的論理(dynamic logic)もしくはモデルの書き換え(model updating),時 間の論理(computational temporal logic)が必要となる.

もし通知を受けたエージェントが,もらった情報とそれまでの自分の知識と矛 盾する場合,知識状態の修正(belief revision)を行う必要がある.またこのような 知識状態の修正が複数のエージェントに波及する場合に集団での修正を考える必 要がある.さらに通知に限らず命令や依頼と言った行為も同様な枠組みで扱うと すると,信念(belief)・欲求(desire)・意図(intention)をそれぞれ別オペレータと したBDI論理が必要であるとともに,エージェントの行為に対するコミットを記 述するための義務の論理(deontic logic)が必要となる.

3.7 議論 (Argumentation)

近年の法的推論の会議(JURIXやICAILなど)においてもっとも論文数が多いの が論争に関わる話題である.これはもともと論駁可能な推論(defeasible reasoning) として研究されていたものである.ここでは推論規則は次の二種類の意味で論駁 可能である.

• 反駁(rebuttal) 同じ 前提から規則において異なる結論を導くこと.例えば

A1, A2, A3→Bに対して A1, A2, A3→ ¬Bなど .

• アンダーカット(undercutting) 推論規則のうちの前提なるA1, A2, A3 →B に対してA2, A3は不成立とする.

議論とは前提から結論に至る複数の推論規則の連鎖を指すが,議論の強弱を決定 するにはさまざ まな要因が考えられてきている.例えば,解釈の項で述べたよう に前提と帰結を連鎖させる際の妥当性,および 連鎖の長さなどが比較の対象とな る.また複数の議論から別の議論を導き双方が受け入れ可能となるような「妥協」

の概念も提案されている.

法令工学においては法廷における論争そのものが対象とはならないが,法令の 妥当性を検討する際に論駁可能な推論規則によって議論を比較することも研究の 視野に入ってくるものと思われる.

3.8 【ケース・スタディ】富山県の条例変更にともなう 知識ベースの改編

富山県は業務効率改善のため,諸手続きを電子的な方法で代替できるよう規則 を定めた.

富山県行政手続等における情報通信技術の利用に関する条例 (富山県 条例第54号原文)

富山県行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例 (目的)

第1条この条例は県の機関に係る申請届出その他の手続等に関し電子 情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法 により行うことができるようにするための共通する事項を定めること により県民の利便性の向上を図るとともに行政運営の簡素化及び効率 化に資することを目的とする

この改正により影響を受ける条例は次の三種類に分けられる.

• これまでの申請書類がそのまま電子的手段で代替できるようになるもの

• これまでの条例の記述を変更しない限り,この改正が適用できないもの

• この改正が適用できないもの

これは改正範囲が条例全体に及ぶ大規模知識ベース改編の例であり,

1.影響の及ぶ範囲を同定し,

2.影響の及んだ範囲内で無矛盾であることを検証する

ことは容易ならざ る作業となる.実際富山県は手作業によってこの膨大な処理を 完了したが,われわれは計算機上のシミュレーションによってこの問題の解析を 試みた.

3.8. 【ケース・スタデ ィ】富山県の条例変更にともなう知識ベースの改編 67 法令文の論理化

本文(富山県条例54条3項1号) 本文1

県の機関は申請等のうち当該申請等に関する他の条例等の規定により 書面等により行うこととしているものについては当該条例等の規定に かかわらず規則で定めるところにより電子情報処理組織(県の機関の使 用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ 。)と申請等をする 者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理 組織をいう。)を使用して行わせることができる。

本文1の括弧内の注意書きを抜き出して,本文2とする.

本文2

電子情報処理組織⇒県の機関の使用に係る電子計算機と申請等を受け る者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処 理組織をいう。

本文1を条例ロジックに分解し ,本文より単語をあてはめ,述語論理の変数を用 いると以下の条例ロジックが得られる.

本文1のロジック

電子申請行為(x, y, v, c)←申請行為(x, y, v, a)∧申請者(x)∧県の機 関(y)∧申請等(v)∧書面等(a)∧申請手段(c)∧規定(z, v)∧関連条 例等(z)∧電子情報処理組織(c)付帯状況:かかわらず(v,z)

同様に本文2の条文ロジックは以下のようになる.

本文2のロジック

電子情報処理組織(o)←接続(a, b, c)∧(電子計算機(a)∨入出力装置 (a))∧申請者(s)∧使用者(s, a)∧電子計算機(b)

XML

このように論理化された条文はXML形式によって保存される.以下はその最初 のほんの一部分である.

<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>

<xsd:schema targetNamespace="http://www.webgen.co.jp/"

xmlns:xsd="http://www.w3.org/2001/XMLSchema"

xmlns="http://www.webgen.co.jp/">

<xsd:element type="OrdinanceType" name="ordinance"/>

<xsd:complexType name="OrdinanceType">

<xsd:sequence>

<xsd:element ref="section" minOccurs="1" maxOccurs="unbounded"/>

</xsd:sequence>

<xsd:attribute name="id" type="xsd:string" use="required"/>

</xsd:complexType>

<xsd:element type="SectionType" name="section"/>

<xsd:complexType name="SectionType">

<xsd:sequence>

<xsd:element ref="subject"/>

<xsd:element ref="paragraph" minOccurs="1" maxOccurs="unbounded"/>

</xsd:sequence>

<xsd:attribute name="id" type="xsd:string" use="required"/>

</xsd:complexType>

<xsd:element type="xsd:string" name="subject"/>

<xsd:element type="ParagraphType" name="paragraph"/>

<xsd:complexType name="ParagraphType">

<xsd:sequence>

<xsd:element ref="logic"/>

</xsd:sequence>

<xsd:attribute name="id" type="xsd:string" use="required"/>

</xsd:complexType>

<xsd:element type="LogicType" name="logic"/>

<xsd:complexType name="LogicType">

<xsd:choice minOccurs="0" maxOccurs="unbounded">

<xsd:element ref="implies"/>

<xsd:element ref="clause"/>

<xsd:element ref="and"/>

<xsd:element ref="or"/>

<xsd:element ref="not"/>

<xsd:element ref="unp"/>

</xsd:choice>

<xsd:attribute name="lang" type="xsd:string" use="required"/>

</xsd:complexType>

...

無矛盾性検出

われわれは以上のデータに対して,以下のような方法を試みた.

1. XMLデータから一階述語論理式を復元し,引数の数を合わせるようにProlog

3.8. 【ケース・スタデ ィ】富山県の条例変更にともなう知識ベースの改編 69 のリテラルに変換し,Prologプログラムとする.

2.法令文中のリテラルを洗い出し,assumptive factを生成する.

3.オントロジーから概念的に共存不可能なペアを洗い出す.

4.以下のような不具合の検出を行う.

(a)論理的な矛盾

(b)オントロジー上共存不可能な概念による矛盾 (c)定義の循環

われわれが試みたのは第2,4,8,7,33,187条に限る.この範囲では修正後の条例集に は上記のような不具合は検出されなかった.しかしながらこの手法が実際に有効 であることをテストする目的で,われわれはXMLデータの一部を作為的に改編 し,不具合の検出を試みた.以下は旅行命令権者の定義に関わる部分である.

第4条 次の各号に掲げる旅行は、当該各号に掲げる区分により任命権

者(県費負担教職員にあつては、市町村教育委員会)又はその委任を受

けた者(以下「旅行命令権者」という。)の発する旅行命令又は旅行依

頼(以下「旅行命令等」という。)によつて行わなければならない。

(1)前条第1項の規定に該当する旅行 旅行命令 (2)前条第4項の規定に該当する旅行 旅行依頼

2旅行命令権者は 、電信、電話、郵便等の通信による連絡手段によつ ては公務の円滑な遂行を図ることができない場合で、かつ、予算上旅 費の支出が可能である場合に限り、旅行命令等を発することができる。

3旅行命令権者は 、既に発した旅行命令等を変更する必要があると認 める場合で、前項の規定に該当する場合には、自ら又は第5条第1項 若しくは第2項の規定による旅行者の申請に基き、これを変更するこ とができる。

4旅行命令権者は 、旅行命令等を発し 、又はこれを変更するには 、旅 行命令簿又は旅行依頼簿(以下「旅行命令簿等」という。)に当該旅行 に関し必要な事項の記載又は記録をし 、これを当該旅行者に提示して 行わなければならない。ただし 、これを提示するいとまがない場合に は、この限りでない。この場合において 、旅行命令権者は、できるだ け速やかに旅行命令簿等に当該旅行に関し必要な事項の記載又は記録 をし 、これを当該旅行者に提示しなければならない。

5前項の旅行命令簿等の提示については 、富山県行政手続等における 情報通信の技術の利用に関する条例(平成15年富山県条例第54号)第 4条の規定は、適用しない。

6旅行命令簿等の記載事項又は記録事項、様式その他の必要な事項は、

人事委員会規則で定める。

(平15条例55・一部改正) この部分に関し,追加条項

<原文>任命権者(県費負担教職員にあつては、市町村教育委員会)又 はその委任を受けた 者(以下「旅行命令権者」という。)の発する旅行 命令又は旅行依頼(以下「旅行命令等」という。)によつて行わなけれ ばならない。 ( 富山県条例第54号4乗第1項)

を組み合わせると定義のループが起こる[26].まず,

pv_sub(Root,任命権者

(x)):-pv(Root,市町村教育委員会(x)), pv(Root,県費負担職員(y)), pv(Root,所属(y,x)),

pv(Root,acceptable(富山県職員等の旅費に関する条例:第4条: 第1項)).

の中に現れる市町村教育委員会は次のように定義される.

pv_sub(Root,市町村教育委員会 (Var_0)):-pv(Root,旅行命令権者(Var_0)).

この中の旅行命令権者は次の規則で定義されている.

pv_sub(Root,旅行命令権者 (z)):-pv(Root,任命権者(z)),

pv(Root,acceptable(富山県職員等の旅費に関する条例:第4条: 第1項)).

ところがこの中に再び任命権者が現れ,「任命権者」→「市町村教育委員会」→「旅 行命令権者」→「任命権者」の間で循環が起きている.

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4 章 法令対象ド メインの形式記述