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第 6 章 実験 28

6.6 議論

実験の結果が示すように,高齢者施設等において場の盛り上げ役として素人でも,ロ ボットと一緒にリクリエーションの時間を進行することで専門家に近い効果を上げられ,

新しいコミュニティに自然に入ってゆける可能性を示していると言える.

しかしながら,専門家とロボットには大きな隔たりがある.今回は発言を促す行動,司 会者にヒントを要求する行動,静寂を破る行動等のパターンを取り上げたが,それらは 概ね経験的に設定されたものであり,実験によって明らかになったように場を盛り上げ

るためにはその他の要因も極めて重要である.このとき,まずグループ対話の要件に加 えて人‐人コミュニケーション活性化の要件を踏まえ,その上で上でタスク独自の要件 を検討する必要がある.ロボットと複数人の存在するグループ対話においては,注視点 を共有したり現在の発話者を把握し,それをロボットが常に表出するべきであるとされ

てきた [11].しかし,人‐人コミュニケーション活性化行動に関しては未だ特定できてい

ない要件を残している.今後はそれらを再整理した上でこのようなゲームタスクに独自 な要件(必要な行動パターンやタイミング,その他の要件)について検討してゆく.

また一方で,このようなコミュニケーションロボットはゲームメディア,ゲームコンテ ンツとしても有効であり,情報機器に必ずしも明るくないユーザでも気軽に参加できる システムになりうる可能性を示していると言える.

7 章 今後の課題

発話要求への対応

コミュニケーションを活性化させるためにはゲームに即した行動選択だけでなく,呼ば れた人の方向を向き,場合によってはそこから対話モードへ状態遷移する必要があるが,

現在のシステムでは数秒の無音区間を発話タイミングとして発話・行動選択するだけに なっており,ユーザの発話要求はほとんど想定されていない.今後このような発話要求 に対応してゆく.

話題の展開

ゲーム進行中や対話中に,場の状況に応じて興味の対象を示したり,ユーザごとの事前 情報や問題の解答に応じた発話を出力できる枠組みを検討する.

行動資源の分配

上記のように状態や行動パターン,反射行動等が増えてゆく中で,第5章の図5.1で示し たように,限られた行動資源を効果的に分配し効果的なタイミングで出力できるトータ ルなアーキテクチャを再検討してゆく.

難聴の方への対応

発展的課題として,難聴の方へ対応するために音声合成器の見直しや補助的な画面出力 等について検討する.

8 章 総括

高齢社会を背景として,人と人のコミュニケーションの活性化を支援するコミュニケー ションロボットシステムについて検討した.

まず具体的な例からコミュニケーションの活性について考察し「コミュニケーション活 性状態」,「コミュニケーション活性化」,「コミュニケーション活性量」,「コミュニケーショ ン活性因子」を定義した.活性量は活性要素から構成され,活性要素は大きく「(コミュ ニケーションへの)参加度」,「(コミュニケーションへの)満足度」,「会話円滑度」に分け られる.ロボットの行動選択は,常にこの活性量を最大化しうるように行動と行動対象 を選択する.具体的な対象タスクとしては高齢者介護施設にて行われている「難読ゲー ム」を取り上げ,「参加度」として回答数や注意度,「会話円滑度」としてテンポ感と発話 頻度を,センサ情報を元に活性量に算入した.選択される行動パターンはAsk Someone

(特定の人に発言を促す),Hint(ヒントを要求する),Break Silence(静寂を破る)な どの行動を用意した.これらを実現するシステムのアーキテクチャは,センサモジュー ル群,判断モジュール,行動モジュール群,個人データベース,環境マップ(グラフィカ ルユーザインタフェース)から構成した.

これらを実装した上で,実装したシステムを用いて高齢者施設「ケアタウン小平」で フィールド実験を実施した.実験条件として,被験者3名に対して(1)司会者(学生=素 人)のみの場合,(2)司会者(学生)とスタッフ(専門家)が盛り上げ役として参加した 場合,(3)司会者(学生)とロボットの場合の3条件で行い,特に被験者の発言率と笑顔 の頻度を比較すると,ロボットがコミュニケーションの活性化に有効であったことを示 せた,また情報機器の操作に必ずしも慣れていない人を含む多くのユーザに対してゲー ムメディアとしても有望なシステムになりうる可能性を見出せた.

しかしながら,専門家と比較すると多くの課題が残っている.今後は人と人のコミュ ニケーションを活性化させる行動についてさらに詳細に分析し,実際の現象に即したよ り効果的な行動選択の枠組みを検討してゆく.

謝辞

本研究の着手および方針について多くの御指導,御助言を頂きました小林哲則教授に 心から感謝致します.

研究の方針など様々な面で御指導,御助言を頂いた早稲田大学高等研究所 藤江真也助 教,また共同研究者である理工学部4年の赤池辰介君,両氏の協力がなければこの研究 は成し遂げられませんでした.ここに深く感謝致します.

本研究は,「NEDO戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト 高齢者対応コミュニ ケーションRTシステム」および「早稲田大学グローバルCOEプログラム アンビエン トSoC教育研究の国際拠点」の支援を受けました.

また調査と実験の実施にあたっては,「NPO法人コミュニティケアリンク東京 ケア タウン小平デイサービスセンター」のご協力をいただきました.

最後に,経済的,精神的に支えていただいた祖父と両親に深く感謝致します.

参考文献

[1] 内閣府(編集),“平成19年版高齢社会白書,” 2007.

[2] 山崎章郎,“病院で死ぬということ―そして今、僕はホスピスに,” 文藝春秋,1996.

[3] 日本ホスピス緩和ケア協会,http://www.hpcj.org/.

[4] 牧野節子,“さびしくないよ―翔太とイフボット,” 岩崎書店,2006.

[5] 総務省(編集),“「ネットワーク・ロボット技術に関する調査研究会」報告書,” 2003.

[6] 伊吹征太,木村憲次,武田夏佳,“コミュニケーションロボットを用いた高齢者生活 支援システム,”日本機械学会誌,Vol.108,No.1038,pp.392-395,2005.

[7] 和田一義,柴田崇徳,谷江和雄,“介護老人保健施設におけるロボットセラピー−実験 一年目における効果の評価,計測自動制御学会,” 計測自動制御学会論文集,Vol.42,

No.4,pp.386-392,2006.

[8] 神田崇行,石黒浩,小野哲雄,今井倫太,前田武志,中津良平,“研究用プラット ホームとしての日常活動型ロボット Robovie の開発,”電子情報通信学会論文誌,

Vol.J85-D-I,No.4,pp.380-389,2002.

[9] 中田 崇行,石黒 浩,“対話型ヒューマノイドロボットからの日常生活の中の友達関 係の推定,”情報処理学会,2004.

[10] 神田崇行,平野貴幸,ダニエルイートン,石黒浩,“日常生活の場で長期相互作用す る人間型対話ロボット,” 日本ロボット学会,2004.

[11] 松坂要佐,東條剛史,小林哲則,“グループ会話に参与する対話ロボットの構築,”電 子情報通信学会論文誌,Vol.J84-D-II,No.6,pp.898-908,2001.

[12] 中野鐵兵, 藤江真也, 小林哲則,“MONEA: 効率的多機能ロボット開発環境を実現 するメッセージ指向ネットワークロボットアーキテクチャ,” 日本ロボット学会誌,

Vol.24,No.4,pp.543?553,2006.

[13] 柴田大輔,“ワンパストライグラムデコーダにおける単語履歴の束ね処理に関する検 討,”日本音響学会秋期講演論文集,pp.151-152,2002.

[14] Masahiro Shiomi,Takayuki Kanda,Hiroshi Ishiguro,Norihiro Hagita,Interactive Humanoid Robots for a Science Museum,Human-Robot Interaction 2006.

[15] C. Breazeal, C. Kidd, A. L. Thomaz, G. Hoffman, M. Berlin, Effects of Nonver-bal Communication on Efficiency and Robustness in Human-Robot Teamwork. Pro-ceedings of IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robotis and Systems, 2005.

[16] Kotaro Hayashi, Daisuke Sakamoto, Takayuki Kanda, Masahiro Shiomi, Satoshi Koizumi, Hiroshi Ishiguro, Tsukasa Ogasawara, Norihiro Hagita, Humanoid robots as a passive-social medium: a field experiment at a train station, IEEE Human Robot Interaction, 2007.

[17] Robot Therapy in a Care House - Its Sociopsychological and Physiological Effects on the Residents, Kazuyoshi Wada,Takanori Shibata,ICRA 2006.

[18] Socially Assistive Robotics in the Treatment of Behavioural and Psychological Symp-toms of Dementia, Patrizia Marti, Margherita Bacigalupo, Leonardo,Giusti and Claudio Mennecozzi,Takanori Shibata,BioRob 2006.

[19] Effects of Robot Therapy for Demented Patients Evaluated by EEG,IROS,2005.

[20] Takayuki Kanda, Takayuki Hirano, Daniel Eaton, Hiroshi Ishiguro,Interactive Robots as Social Partners and Peer Tutors for Children: A Field Trial,Human-Computer Interaction, 2004.

付録

ペルソナ(シナリオ)法によるニーズ分析

登場人物

主要ペルソナ 高齢者1(93歳女性):聴覚に若干の衰えがあるが,特に大きな病気 を持たない元音楽教師.週2回ケアタウンに通うことを心から楽しみにしている.

高齢者2(89歳男性):手先足先に若干の不自由があるが,特に病気もなくコミュニ ケーション能力も衰えていない.元技術者.

高齢者3(78歳女性):末期ガン患者.病院を退院し,いたずらな延命よりも,限ら れた命を全うしようと,ホスピスケアを受けることにした.

高齢者4(69歳女性):ケアセンターでもベッドに横になっていることが多いが,積 極的にコミュニケーションの輪に参加しようとする意欲がある.

ケアマネージャー(47歳男性):NPO法人早稲田デイサービスセンター代表理事.

ケアスタッフ1(40歳女性):NPO法人早稲田デイサービスセンター常勤スタッフ.

ケアスタッフ2(35歳女性):NPO法人早稲田デイサービスセンター常勤スタッフ.

ケアスタッフ3(27歳女性):NPO法人早稲田デイサービスセンター常勤スタッフ.

ボランティアの学生(20歳男性):現在,社会福祉学部2年生.週2回ケアタウンに ボランティアとして通っている.

高齢者1の長女(65歳女性):主婦.友人からケアタウンの素晴らしさを聞き,母 を入居させることを決めた.

ロボット1:体操の実演や,レクレーションのアシスタントをする.

ロボット2:来所者たちを見回り,会話の輪に参加していない人に声をかける.会話の 仲介なども行う.TA役.

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