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諸外国における影響防止に関する規制や取組の状況

ここでは、諸外国において、無線通信機器(主に携帯電話)からの電波が植込み型医療 機器に与える影響を防止するための規制や取組に関して、各国の規制当局及び関係団体(植 込み型医療機器等の適応となる心臓疾患の学術団体等)の公開資料を基に調査を行った。

参考として、日本の携帯電話に関する指針(携帯電話端末の電波が植込み型医療機器へ 及ぼす影響を防止するための指針)の内容を表 2-1に示す。

表 2-1 携帯電話端末の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針

(平成25年1月改正)

平成24725日以降サービスが行われている方式の携帯電話端末(スマートフォン等の無線LAN を内蔵した携帯電話端末を含む。)による植込み型医療機器への影響を調査した結果、一部の植込み型医療 機器について、携帯電話から最長で3cm程度の離隔距離で影響を受けることがあったことから、以下の通 り取り扱うことが適切である。

なお、PHS端末については、影響を受けた植込み型医療機器はなかったが、携帯電話端末と外見上容易 に区別がつきにくいため、PHS端末の所持者は、必要に応じて植込み型医療機器の装着者に配慮すること が望ましい。

植込み型医療機器の装着者は、携帯電話端末の使用及び携行に当たっては、植込み型医療機器の電磁耐 性(EMC)に関する国際規格(ISO14117 等)を踏まえ、携帯電話端末を植込み型医療機器の装着部 位から15cm程度以上離すこと。

また、混雑した場所では、付近で携帯電話端末が使用されている可能性があるため、注意を払うこ と。

携帯電話端末の所持者は、植込み型医療機器の装着者と近接した状態となる可能性がある場所では、携 帯電話端末と植込み型医療機器の装着部位との距離が 15cm 程度以下になることがないよう注意を払 うこと。なお、身動きが自由に取れない状況下等、15cm程度の離隔距離が確保できないおそれがある 場合には、事前に携帯電話端末が電波を発射しない状態に切り替えるなどの対処をすることが望まし い。

米国の各関係機関が公表する影響防止のガイドラインにおける記載内容の一覧を表 2-2 に示す。

表 2-2 米国の携帯電話に関する影響防止ガイドラインの内容(2017年3月確認時点)

発信主体 指針における関連部分の抜粋 離隔距離

食品医薬品局

FDA 医療機器 規制当局

ペースメーカ等その他医療機器との電磁干渉/植込み型医療機器の装着者に向 けた注意喚起(2014.10更新)37

EMI が発生した場合、以下の3つの影響のいずれかが発生する可能性がありま す。

心臓リズムを制御する刺激パルスが発生しない。

パルスの発生が不規則になる。

心臓の自己リズムを検知せず、規定レートでパルスを発生してしまう。

37 FDA, Interference with Pacemakers and Other Medical Devices

https://www.fda.gov/Radiation-EmittingProducts/RadiationEmittingProductsandProcedures/HomeBusinessandEntertainment/Cell Phones/ucm116311.htm

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しかし、現在の研究によると、携帯電話は大部分のペースメーカ装着者に対し て健康上の重大な問題を引き起こすものではないと考えられています。ペース メーカ装着者が携帯電話による問題を確実に防ぐためには、以下の簡単な予防 策をとってもよいでしょう。

ペースメーカと携帯電話間に付加的な距離を確保するために、携帯電話をペ ースメーカが植込まれている側とは反対の耳にあてる。

電源を入れた携帯電話をペースメーカの直近に位置しない。(携帯電話をペ ースメーカの上に着ているシャツやジャケットに入れて携行しないこと) 連邦通信委員会

FCC 通信規制当局

FCCが所管する送信機・設備からの高周波電磁界の安全性に関するFAQ 植込み型医療機器は、近くの電子レンジや携帯電話等のデバイスから影響を受 けますか?(2015.11更新)38

複数の研究において、携帯電話が植込み型ペースメーカのごく近傍(8 インチ 以内)で使用された場合、植込み型医療機器に影響を与える可能性があること が示されています。こうした影響は、既に使用されなくなっている古いペース メーカに限定されるようです。一方で、潜在的な影響の発生を避けるため、ペ ースメーカ装着者は携帯電話をペースメーカ近くのポケットに入れたり、ペー スメーカの近くで使用することを避ける等の対策をとることができます。ペー スメーカ装着者は、電磁干渉に関連する問題が発生したと思われる場合は、医 師やFDAに相談して下さい。詳細な情報はFDAサイトから確認できます。

米国心臓協会 学術団体

ペースメーカと干渉を起こしうるデバイス(2016.12更新)39

携帯電話: 現在、米国で利用できる携帯電話(出力3W以下)に関しては、ペー スメーカのパルスジェネレータやペースメーカの動作に影響を与えることはな いようです。

技術は急速に進化しており、FCCは新たな周波数帯を開放しています。

こうした周波数帯で使われる新しいタイプの携帯電話は、ペースメーカに影 響を与える可能性があります。

携帯電話の業界団体では影響の可能性について、研究を行っています。

Bluetooth のヘッドセットはペースメーカに影響が与えることはありませ

ん。

ICDと干渉を起こしうるデバイス(2016.12更新)40

携帯電話:現在、米国で利用できる携帯電話(出力3W以下)に関しては、アン テナからの電波によりICDに影響を与えるリスクは非常に小さいものです。

技術は急速に進化しており、FCCは新たな周波数帯を開放しています。

こうした周波数帯で使われる新しいタイプの携帯電話は、ICDに影響を与え る可能性があります。

携帯電話の業界団体では影響の可能性について、研究を行っています。

携帯電話を ICD の植込み部と逆側で使用する、胸ポケットに入れることは 避ける等して、携帯電話をICDから6インチ以上離すようにしましょう。

トランシーバ(出力3W以下)はICDから6インチ以上離しましょう。

6インチ

15cm

38 FCC, Frequently asked questions about the safety of radiofrequency (RF) and microwave emissions from transmitters and facilities regulated by the FCC

https://www.fcc.gov/engineering-technology/electromagnetic-compatibility-division/radio-frequency-safety/faq/rf-safety#Q22

39 American Heart Association, Devices that may Interfere with Pacemakers

http://www.heart.org/HEARTORG/Conditions/Arrhythmia/PreventionTreatmentofArrhythmia/Devic es-that-may-Interfere-with-Pacemakers_UCM_302013_Article.jsp#.WMSjQVWeaM9

40 American Heart Association, Implantable Cardioverter Defibrillator (ICD)

http://www.heart.org/HEARTORG/Conditions/Arrhythmia/PreventionTreatmentofArrhythmia/Devic

es-that-may-Interfere-with-Implantable-Cardioverter-Defibrillators-ICDs_UCM_448464_Article.jsp#.WMSlJFXc6M8

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米国においては、食品医薬品局(FDA)の方針に基づき使用方法の注意喚起が行われて いる。FDAのホームページ上の情報提供では、携帯電話と植込み型医療機器の離隔距離は 明示していないが、日本と同様、植込み型医療機器の電磁耐性に関する国際規格に基づき、

離隔距離15cm を前提とした使用方法の例示(植込み型心臓ペースメーカ等が植え込まれ ている側と逆の耳に携帯電話をあてる、植込み型心臓ペースメーカ等を胸ポケットに入れ ない等)をしている。FDAに対しては、平成23年度調査において、同じく指針の考え方 に関するヒアリング調査を行っており、上記の方針を確認している。米国の通信規制当局 である連邦通信委員会(FCC)も影響に関する情報提供を行っているが、基本的にはFDA の情報を参照するよう推奨している。また、このルールは医療機器メーカや医師等を通じ て、植込み型医療機器の装着者に周知されている。実際に、米国心臓協会のホームページ においては、植込み型心臓ペースメーカ及びICDと干渉を起こしうるデバイスとして携帯 電話が挙げられており、影響の防止方法として、ICDに関しては、携帯電話との離隔距離 を6インチ(15cm)以上とするよう、使用方法を推奨している。

その他の国の影響防止のガイドラインの内容を表 2-3に示す。

ガイドラインの発信主体は各国により異なり、米国と同様に医療機器の規制当局(英国、

韓国)、日本と同様に通信規制当局(インド)が発信するほか、欧州においては電波の人体 への影響の防止と絡めた形で衛生当局や放射線防護に関する専門機関から出される例が多 くみられる。携帯電話に関しては、英国、フランス、インド等の国においても、日本同様 15cmという離隔距離が提示されている。一方で、一部の国においては、より大きな離隔距 離を推奨する例(ドイツ、スイス、イスラエル等)もある。

指針の根拠について明示している例は少なく、日本のように影響測定結果に基づく指針 の策定、見直しの枠組みが整備されている例は他に例がない。なお、韓国の食品医薬品安 全庁が 2009 年に公表したガイドラインは当時の日本の指針に基づき策定されており、日 本の指針は他国にも影響を与える取組となっている。

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表 2-3 各国の携帯電話に関する影響防止ガイドラインの内容(2017年3月確認時点)

発信主体 指針における関連部分の抜粋 離隔距離

英医薬品・医療 製品規制庁

MHRA 医療機器 規制当局

電磁干渉に関するガイダンス:電波発射源/空港セキュリティ(2014.12発行)

41

携帯電話同様、ハンディ型のスキャナは植込み型医療機器から6 インチ(約15 cm)離してください。

15cm

英国民保健サー ビス(NHS 医療機関

携帯電話の安全性:リスク/携帯電話使用のリスク/電子機器との干渉(2016.1 更新)42

携帯電話からの電波は、以下のような重要な電子機器と干渉する可能性があり ます。

ペースメーカ

病院のモニタ類や機器類

飛行機の電子システム

(中略)

一般に、ペースメーカを装着していても携帯電話は安全に使用できると考えら れていますが、予防措置として携帯電話とペースメーカの距離をおき、使用す る際は右の耳に当てるようにしましょう。

個 別 の

NHS

設 で は 15cm ールを明 示すると ころもあ る。

英国心臓財団 学術団体

植込み型心臓ペースメーカ/携帯電話・コードレス電話(2014発行)43

(ペースメーカの装着者は)携帯電話やコードレス電話を安全に使用すること ができますが、携帯電話をペースメーカから15cm(6インチ)以上離すように しましょう。携帯電話を使用する際は、ペースメーカとは逆側の耳にあて、ペ ースメーカの上に位置するシャツのポケットには携帯電話を入れないようにし ましょう。より詳しい情報に関しては、ペースメーカを植え込んだ際に提供さ れた機器に関する資料を確認してください。

15cm

カナダ保健省

Health Canada 衛生当局

携帯電話及び携帯電話基地局の安全性(2015.3更新)44

携帯電話からの高周波エネルギーによる健康影響については確認されていませ んが、携帯電話の使用は完全なリスクフリーではありません。研究結果からは 以下のようなことが報告されています。

(中略)

携帯電話は植込み型心臓ペースメーカや ICD、補聴器等と干渉する可能性 があります。

携帯電話はその他、航空機の通信システムやナビゲーションシステム等の高 感度のシステムとも干渉する可能性があります。

カナダ心肺蘇生 財団

学術団体

植込み型心臓ペースメーカ(更新日不明)45

携帯電話はペースメーカと逆の側の耳にあてて使用するようにしましょう。電 源を入れた携帯電話をシャツのポケットに入れないようにしましょう。

MP3プレイヤーのヘッドフォン(イヤホン含む)は、磁性体を使用しているた め、ペースメーカの機能に影響を与える可能性があります。ヘッドフォンはペ ースメーカから 1.2インチ以上離し、胸ポケットに入れたり、ヘッドフォンを 付けた人が胸に頭を寄りかかるようなことがないようにしましょう。

41 MHRA, Guidance Electromagnetic interference: sources

https://www.gov.uk/government/publications/electromagnetic-interference-sources/electromagnetic-interference-sources

42 NHS, Mobile phone safety - Risks

http://www.nhs.uk/conditions/mobile-phone-safety/pages/risks.aspx

43 British Heart Foundation, Pacemakers

https://www.bhf.org.uk/-/media/files/publications/large-print/his15lp_pacemakers_0314_a4.pdf

44 Health Canada, Safety of cell phones and cell phone towers

https://www.canada.ca/en/health-canada/services/consumer-radiation/safety-cell-phones-cell-phone-towers.html

45 Heart and Stroke Foundation of Canada, Implantable pacemaker

https://www.heartandstroke.ca/heart/treatments/surgery-and-other-procedures/implantable-pacemaker