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第5章 結論
①渡日者にとって識字学級が「安全基地」として機能している
本研究における研究協力者は,期待して渡日したにも関わらず,渡日後,
「日本語が分からない」「仕事を失う」等の喪失体験を経験している。そんな 中で,識字学級と出会い,人や社会とのの繋がりを感じながら日本での生活 に希望を見出そうとしていた。また,ただ知識を得るためではなく,現実社 会で受ける多大な苦しみ・怒り・悲しみを癒す安全基地としての意味があっ た。このように本研究では,渡日者にとって識字学級が「安全基地」として 機能していることを明らかにすることができた。
②彼らの語りは,1.「渡日の決心」,2.「日本での生活」,3.「識字学級 への参加」の3つの転機に分けられ,未来に繋がっていく
本研究において,渡日者は,それぞれの事情で渡日を決心することにな る。そして,日本での生活に期待と不安を抱き,時には砕かれながら生きて いくことになる。そんな中,彼らは識字学級にたどり着いたのである。本研 究では,彼らの人生において,「渡日の決心」「日本での生活」「識字学級への 参加」は人生の転機であり,彼らの人生にとって「喪失」と「再生」の物語 が生成され,未来に繋がっていくことを本研究で明らかにすることができ た。
③渡日者の公的なサポート体制の構築が真の国際社会に繋がる
本研究を通して,今まで不可視であった,ニューカマーと呼ばれる渡日者 の日本で生きていく上で,言葉が通じないことにより,仕事上だけでなく日 常生活にも困る,渡日者が学ぶ公的機関が未整備なために生じてくる彼らの 孤立感や無力感,といった困難さを統計上ではなく,具体的かつリアリティ を持ってはじめて明らかにすることができた。これまで単一民族国家として 高度成長を成し遂げてきた日本であるが,今後は益々ニューカマーが増加す ると予想され,「識字学級」も含めた渡日者への心理的援助および学習サポー ト体制の充実が急務となってくると考えられる。本研究は,その構築に大い に示唆を与える貴重な研究となったと考えられる。
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第 6 章
本研究の限界と課題
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第6章 本研究の限界と課題 5.1 本研究の限界
本研究では,筆者と研究協力者の関係の中で紡ぎ出される物語を検討するこ とができた。そして,日本人が渡日者の苦労を理解し尊重する姿勢で,ライフ ストーリーを共同生成するプロセスが彼らの生きる意味づけに貢献できる可 能性も示すことができた。しかし,この結果は少数の対象者から得られたもの である。本研究における研究協力者は渡日前,自国で高等教育を受けていた方 たちであり,「自己を振り返る」ことが容易だったのかもしれない。また,誰か に「語る」には,「語る」言葉や内省する力を有していることが前提であり,本 研究においる研究協力者にはその力があったと考えられる。したがって,限定 された中での本研究結果を持って,直ちに一般化できるとは言い難い。実際,
4名の研究協力者とのインタビュー調査を行うまでに,「当事者でない人に気持 ちを分かってもらえない」「ただ必死に生きてきただけ,それだけ。」とインタ ビューに応じてもらえないケースもあった。
5.2 今後の課題
識字学級で学ぶ人たちの中には,本研究で対象となった「ニューカマー」と 呼ばれる渡日中国人だけではなく,他の国からの渡日者も多数存在する。日本 語の理解力や,民族的な差異による問題も考慮した研究も必要となってくると 考えられる。さらに,識字学級には「ニューカマー」だけでなく,日本で生ま れ育った在日の方たちや「オールドカマー」と呼ばれる渡日して長い年月が経 過している方たちも存在する。これらの方たちは,日本で生きていく上で長年 にわたっての苦労が蓄積している可能性があり,アプローチの仕方も工夫が必 要であると考えられる。
また,渡日者のメンタルヘルスを考えるとき,筆者は教育および心理臨床家 としての専門性と経験を有していたが,渡日者をサポートする者すべてが筆者 と同様とは考えられないため,援助者を対象とした研究も重要となってくると 考えられる。
これらのことを鑑み,今後は,①他の事例についても同様の分析を進めてい くこと,また,②量的研究も行うこと,を通して研究の一般化に繋げていく必
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要もあると考えられる。さらに,心理的援助を潜在的に求めている識字学級に 通う渡日者に対する,援助システムの構築に向けた研究も今後の課題であると 考えられる。
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