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第7章 提言

第5章で『「識字学級」で学ぶ渡日者への心理的援助および学習サポート体 制が急務となっている』と述べたが,本章ではこの点について3つの提言を したい。

①公的資金の投入

現在,識字学級は,ボランティアスタッフの活動に支えられている。2020 年の東京オリンピック開催,また2025年大阪万博開催誘致といった,国際イ ベントに積極的に公的資金を投入している現状があるが,その一環として,

公的資金の投入を推進し日本社会を下支えする渡日者が安心して学べるよう 彼らをサポートしていく必要があると考えられる。

②学生のボランティアスタッフの充実

どの識字学級においても,ボランティアスタッフの確保に窮している現状 がある。一方,学校現場では,教員志望の学生を中心にインターンシップの 導入がなされ始めている。文部科学省や各大学が連携して,単位として認定 する等の対策を講じて,識字学級に学生ボランティアスタッフを派遣しやす くすることことも必要だと考える。さらに,人数の確保だけでなく,臨床心 理学や教育の専門家による,ボランティアスタッフへの研修機会も増やし,

サポートの質も向上させていく必要もあると考えられる。

③渡日者の心理的援助の充実

臨床心理士がスクールカウンセラーとして学校に導入されるようになって 20年が経過している。また,2019年には,国家資格としての公認心理師第一 号が誕生する。国を挙げて,心の問題に取り組もうとしているこの時期に,

これら心理職の諸団体が連携して,社会貢献の一環として,渡日者の心理的 援助に携わることができればよいと考えられる。

以上3点が実現可能となれば,渡日者の生活および学びの質の向上だけでな く,日本の学生との相互理解,真の多文化共生の実現,ひいては日本の学校 教育の再生にも繋がると期待される。

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おわりに

筆者は,大学で心理学を専攻した後,小学校の教員となった。今振り返ると,

当時の筆者は「大学で心理学を専攻したのだから,児童や保護者の心を少しは 理解できるはずだ」と思い込もうとしていた。それは,初めて教職に立つ不安 の裏返しであったのかもしれない。

一方で,自他ともに認める「熱血教師」として児童を指導し,それなりの成 果も残してくることができたと自負している。しかし,子どもたちに関わりな がら,徐々に,筆者の指導に馴染めない子どもたちの存在が気にかかるように なってきた。そのような子どもたちに対して,20 代・30 代の頃は「どうして 先生の言うことが理解できないのか」と子どもたちに問い返し,問題の所在を 他者に置いていた自分がいる。そして,自分自身の指導法にもがき苦しみ自問 自答する中で 30 代後半になり「児童理解をもっと深めたい」という思いが湧 き上がってきた。言葉でいう程簡単ではなかったが,問題の所在を他者から自 分自身に向けた瞬間であった。

その後,筆者は,現職(小学校教員)のまま修士課程で学校臨床心理学を学ぶ ことになった。2 年間の大学院修士課程で,学校臨床心理学の専門性を身に着 けるプロセスは,同時に自分自身のこれまでを振り返るプロセスにもなった。

修士課程での学びは,現場復帰後の筆者の授業に取り組む姿勢に大きく影響を 与えた。それまで,「教師が教材研究を深め子どもたちが理解しやすい授業」を 提供することに重点を置いていたが,その後は,「授業は,ライブであり,教師 と子どもたちの相互作用である」,つまり関係性の中から生成されるものを大 切にするようになった。

これらの問題意識の変化が,それ以降の,筆者自身が教育実践や研究を行う 上での原点となっており,現在,高等教育機関で心理学担当教員として教員養 成を行うことに繋がっているという個人の歴史が存在する。

このように,変遷はあるにしても,常に教育に携わってきた筆者が教育とい う視点を意識した研究を行うことは,必然だと考えるようにもなった。そして,

筆者は,本研究を論文にまとめるにプロセスで,常に考え続けていた「問い」

がある。「マイノリティを研究対象とする意義は何だろうか?」ということであ る。確かに,マイノリティの人々に対しての理解を深めることは,逆境に置か

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れた人々の幸せ実現に繋がると言えるが,本当にそれだけだろうか。

筆者自身は本研究において,日本人というメジャーに属している立場である が,筆者自身が外国で暮らすことになれば,立場はマイノリティに逆転する。

また,他者から見れば取るに足らない問題かもしれないが,筆者自身にも未だ に解決できていない悩みが存在する。つまり,どんな立場の人であっても,マ イノリティな部分を抱えていると言えよう。人は,悩みを抱えている時,その 直接的な問題解決に向けた苦悩だけではなく,自分自身が抱えた悩みを誰にも 理解されない,「一人ぼっちだ」と感じることでさらに苦悩するのではないだろ うか。このように考えると,マイノリティの問題は,メジャーと呼ばれる人々 の問題であり,すべての人々の共生に繋がるのだと考えられる。

最後に,自分と違う存在に対して本当に受容できているか,簡単に理解した と思い込んでいないか,と自分自身に「問い」続けながらこれからも生きてい きたいと願っている。

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<謝辞>

本論文は,たくさんの方々の支えにより完成させることができました。

まず,インタビュー調査に協力してくださった,研究協力者4名の方々,お よび,識字学級のスタッフの皆様に感謝申し上げます。

そして,主指導教官である岩井圭司先生に心よりお礼申し上げます。前主指 導教官の転勤に伴い,指導を引き継いでいただいたこと,それにも関わらず,

丁寧に,時には厳しく,時には温かくご指導いただいたこと,感謝の念に堪え ません。また,副指導教官としてご指導いただいた葛西真記子先生(鳴門教育大 学),秋光恵子先生(兵庫教育大学)に深謝致します。

さらに,博士課程入学時よりご指導いただいた,前主指導教官の辻河昌登先 生(ウィリアム・アラソン・ホワイト精神分析研究所)には,研究計画を立てる段 階から長きにわたり,厳しくも温かくご指導いただき,深くお礼申し上げます。

また,当時の副指導教官としてご指導いただいた冨永良喜先生(兵庫県立大学),

上地雄一郎先生(岡山大学)に心より感謝申し上げます。

最後に,博士課程に入学し,教育職から研究職へと舵を切る人生の岐路に立 った時も,研究が思うように進まず困難な状況の時も,ずっと傍で,「大丈夫!」

と,常に微笑みながら応援し続けてくれた妻,清子に心から感謝します。

この論文は,指導・協力・支援くださった皆様と私との,まさに「共同生成」

の賜物といえるものです。改めてすべての方々に感謝申し上げます。

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