• 検索結果がありません。

前章では,ANNA 数の数学的パターンを題材として,おはじきと位取り表を用いた操作 的証明を取り入れた学習環境のデザインを行い,試行授業,実験授業を繰り返す中で学習環 境デザインのリデザインを行ってきた.さらに,それらの改善サイクルを通して,学習環境 デザインに際してのいくつかの示唆を導出することができた.

本章では,それらの実証的研究の成果を踏まえ,「探究,発見,理由づけ」という一連の 活動として捉える広義の「証明すること(Proving)」の視点から,操作的証明の機能につい て考察することとする.ここでは,広義の「証明すること(Proving)」の視点からのカリキ ュラム開発の枠組みとして,宮崎らのプロジェクト「課題探究として証明することのカリキ ュラム開発」の枠組みを参考にし,カリキュラム開発としての枠組みの中で,操作的証明が どのような機能を果たすかということについて考察を行う.

また,証明の構想や構成,評価・改善・発展という一連の学習活動として操作的証明を考 えるとき,操作的証明をいかに構想し,構成していくかという問題は,学習環境デザインに おいて,重要な課題である.前章における実証的研究では,操作的証明の構想や構成につい ては,ある程度教師による方向付けが必要であることが確認されたが,生徒自身が操作的証 明を構想,構成していくことができるためには,学習環境のデザインにおいてどのような工 夫や手立てが必要であるかを明らかにする必要がある.そこで,操作的証明の構想,構成に 関わるインタビュー調査を実施し,その結果を分析することを通して,操作的証明の構想,

構成といったプロセスについて考察したい.

さらに,操作的証明の発展性として,特に算数・数学科の学習活動では重要であるとされ ている「練習」という概念に着目し,広義の「証明すること(Proving)」の枠組みの中で操 作的証明を取り入れた学習環境のデザインを,定着のための練習をも含めた学習環境とする ための具体的方策について検討したいと考える.

1節 課題探究としての証明における操作的証明の位置づけ

ここでは,「探究,発見,理由づけ」という一連の学習活動としての論証指導である広義 の「証明すること(Proving)」において,操作的証明がいかに機能するのかを考察するため に,宮崎らの研究プロジェクト「課題探究として証明することのカリキュラム開発」を取り

173

上げ,その概要を示すとともに,その枠組みの下での操作的証明の位置づけについて考察を 行う.

1.「課題探究として証明することのカリキュラム開発」プロジェクト

平成20年3月に行われた学習指導要領の改訂では,算数的活動・数学的活動が,基礎的・

基本的な知識・技能を確実な定着,数学的な思考力・表現力の育成,算数・数学を学ぶこと の楽しさや意義を実感のために重要な役割を果たすものと捉えられており,これまで以上に 数学的活動を充実させることが求められているといえよう.

証明に関する学習は,これまでも中学校数学科のカリキュラムを中心として重視されてき た内容であり,今回の学習指導要領の改訂においてもその位置づけは変わっていない.むし ろ,中学校だけではなく,小学校の高学年の段階から演繹的な推論を意識した学習活動の展 開が期待されていると言える.しかし,これまでの証明に関する学習活動を振り返ってみる と,時代背景に応じて常に改善が重ねられてきたとはいえ,十分な成果を上げているとは言 えない状況にある.例えば,国立教育政策研究所によって行われている全国学力学習状況調 査の結果を見ると,数学B(活用に関する問題)の数や図形の性質を証明する問題に対して は,どの年度も正答率は概ね4割前後となっており,証明することに関して十分な学習内容 の定着がなされているとは言えないだろう.

このような現状の要因は様々考えられるが,ともすれば,中学校における証明の学習自体 が,多くの生徒にとって,通過儀礼的になってしまっており,目的や状況に応じて何をどの ように証明すればよいのかについて主体的に思考・判断・表現することが疎かにされている ということも考えられる.つまり,小学校高学年から中学校にかけて行われる論証指導が,

証明を通して数学的に推論する力を身に付けるための学習活動とはなっておらず,証明の書 き方の学習にとどまっているということが懸念されるのである.本来,証明に関する学習指 導では,様々な数学的現象を探究することを通して,帰納的推論や類比的推論を用いて数学 的な性質や法則を見出し,それが一般的に成り立つことを証明するために構想を立て,構想 に従って証明を構成するとともに,証明を振り返って評価・改善・発展させていくという一 連の学習プロセスを通して数学的に推論する力を高めるために行われるものであり,知識と しての数学ではなく活動としての数学を具現化することを目的として行われるべきもので あろう.

このような問題意識のもと,宮崎を研究代表とする「課題探究として証明することのカリ

174

キュラム開発」のプロジェクトでは,中学校段階における証明の学習を総合的に捉え,形式 的な証明の書き方に終始する証明の学習ではなく,課題探究として証明の学習指導を展開す るためのカリキュラムの開発を目指している(宮崎・藤田(2013),宮崎・佐々・辻山(2013)). このプロジェクトでは,中学校の3年間を通した数学科の学習指導の中で,証明を構想・構 成し評価・改善・発展させていくためのカリキュラムの枠組みを構築するだけではなく,具 体的な授業を構想し,実践を通して効果を検証することを通してより実効性の高いカリキュ ラムの構築を目指している.

宮崎らの目指す「課題探究として証明することのカリキュラム」も,「探究,発見,理由 づけ」という一連の活動として捉えた広義の「証明すること(Proving)」の視点に立って論 証指導の改善を図ろうとするものであり,本研究と同じ考察基盤に立つ研究であると考えら れる.確かに,宮崎らのプロジェクトでは,中学校3年間というスパンでの学習活動を構成 しており,論証指導に関しても数学という教科における形式的証明を対象とした学習指導を 考察の対象としているのに対して,本研究では,小学校高学年から中学校にかけての,形式 的証明へと移行する前段階としての前形式的証明における操作的証明の概念を扱っている という意味で,その考察対象は異なるところもあるが,広義の「証明すること(Proving)」 の視点から論証指導を考察しようとしている点において,参考となるものである.そこで,

本研究では,この宮崎らの「課題探究として証明することのカリキュラム開発」のプロジェ クトの枠組みを参照し,論証指導のカリキュラムという視点から,操作的証明の機能につい て考察することとする.

2.課題探究として証明することのカリキュラムの枠組み

広義の「証明すること(Proving)」では,「探究,発見,理由づけ」という一連の学習活 動を論証指導の中心として捉えているが,それらをカリキュラムとしてどのように構成して いくかということに関しては,十分議論されていない.確かに,個々の学習活動においては,

「探究,発見,理由づけ」という一連の学習活動を意識した学習環境のデザインが必要であ るが,一方でそれをカリキュラムの中にどのように位置づけていくかということは,重要な 課題であると考えられる.「課題探究として証明することのカリキュラム開発」のプロジェ クトでは,カリキュラム開発の基本的な枠組みとして,証明することに見られる「ことがら の生成」「証明の生成(構想/構成)」「評価・改善・発展」という3つの側面とそれらの間 の相互作用を課題探究として証明することとして捉えている(図5-1,Chino et al.,2010).

175

【図5-1:課題探究として証明すること】

これは,「課題探究としての証明」という学習活動を構想するに当たっては,従来から行 われてきた論証指導において,「証明の書き方」が学習内容の中心であったように,生徒が 構成する証明というプロダクトの質を高めるための学習活動だけを考えるのではなく,数学 的な現象や対象の探究的活動を通して,証明すべき事柄を帰納的・類比的に推論し,数学的 パターンを発見するプロセスや,発見した数学的パターンが成り立つことを理由づけるため に証明を構想し,それを構成していくプロセス,さらには,出来上がった証明を振り返って よりよい証明に改善したり,そこから新たな性質や法則を発見して内容を発展させたりする プロセスも含めて考える必要があるということを意味している.この立場は,A. Stylianides ら(Stylianides, A. J. (2007),Stylianides, G. J., & Stylianides, A. J. (2008))の主張する 広義の「証明すること(Proving)」の考え方をベースとしたものであり,本研究の目指す学 習環境デザインの考え方と同じ基盤に立つものである.

また,このような枠組みのもとでの「課題探究として証明すること」を,特定の学年や領 域における単体の授業として構想するのではなく,中学校 3 年間を通したカリキュラムと して具体化していくために,証明の生成(構想すること,構成すること)に関して図5-2に 示すような学習レベルの設定を行っている.そこでは,「証明の構想」と「証明の構成」と いう 2 つの視点から論証指導のスコープとシーケンスを明確化し,第Ⅰ期と第Ⅱ期に分け て学習レベルの移行を,図式化している.また,各学習レベルにおいて,「評価・改善・発 展」の学習活動を位置づけ,「探究,発見,理由づけ」だけではなく,「評価・改善・発展」

関連したドキュメント