3. 遠隔複写サービス利用者への質問紙調査
3.3. 調査設計
一般に,利用者が情報サービスの利用を選択する際には次のような要因に基づいて意思 決定が行われるとされている4)。
(1) 利用者に関わる要因:生活スタイル,行動様式,好みなど
(2) 利用の環境・条件に関わる要因:設備(情報機器),経費,登録や利用申請など
(3) 情報ニーズに関わる要因:入手までにかかる時間や情報の量
本調査の質問項目のうち主なものとこれらの要因との対応関係は,次に示す表
3.2
のよう になっている。表3.2 利用選択に関わる要因と調査項目 情報サービスの利用選択に関わる要因 該当する質問項目
(1) 利用者に関わる要因
・年齢
・職種
・関心領域(請求分野)
・学協会への所属
・インターネット利用
・国立国会図書館遠隔複写の利用頻度
・
FAX
/コピー/・経済性に対する選好
・普段よく使う情報源
(2) 利用の環境・条件に関わる要因
・所属組織の種類
・所属組織における図書館/資料部署の有無
・費用負担(公費/私費)
・登録利用者(申し込み方法が
NDL-OPAC
経由 の場合)か否か(3) 情報ニーズに関わる要因
・迅速性に対する選好
・請求分野
・複写した資料の種類 表中の網掛け部分はCBCの選好調査で扱う項目を示す。
選好に関する調査の部分では,合計
10
ページの雑誌論文(または記事)の複写を依頼す る場合を想定したシナリオを描き,対になった仮想的なサービス条件の組み合わせを5
組 提示して,それぞれの場合につき,2 つを比較して一方を選択してもらうというCBC
(Choice-Based Conjoint)と呼ばれるコンジョイント分析の手法を用いている。
コンジョイント分析とは,多属性選好を評価する手法の総称であり,評価対象に対する 選好を回答者に直接たずねる表明選好法の一種である。その特徴として,多属性によって 構成される対象の属性ごとの価値を評価することが可能である点が挙げられる。
例えば,人々は商品を購入しようとするとき,たくさんの競合品の中から,意識的に,
またしばしば無意識のうちに,それらの機能,デザイン,価格,品質などの判断材料とな る諸要因を比較検討して自分の意向に最も合ったものを選好する。コンジョイント分析で は,このような場合を想定し,顧客の判断結果から,商品選択の際の複雑な意思決定を分 析し,選択にどの要因がどれだけ影響を与えているかという個別の要因に対する効用値を 求める。つまり,選ばれた商品やサービスの全体に対する評価により,その商品を構成す る各要因に対する評価を把握するのである。
このとき,商品のコンセプトを「プロファイル」と呼び,その商品コンセプトを構成する 価格や機能などの要因を「属性」と呼ぶ。そして,各属性は具体的な金額の大小のように 様々な値をとるが,これを「水準」と呼ぶ。
本調査では文献複写サービスの提供条件を「プロファイル」として設定し,その属性に
「経済性」,「迅速性」,「複写物の画質/形態」の
3
種類を設定した。この3
種類を設定し た根拠として,田中久徳による利用調査結果 5) を参考にした。田中は利用者がどの文献提供機関を利用するかという点に関し「実際の利用行動の場面において,利用者は,経済性,
迅速性,利用の容易さ(手続き,資格,入手の可能性)などの条件を検討し,どの文献供 給システム(機関)を利用するかを選択する」と述べ,その選択理由が各々の文献提供シ ステムが現実に果たしている役割の反映と考えている。そして利用者が機関を選択する場 合の条件として,①地理的条件,②利用のしやすさ(簡便性),③提供の迅速性,④経済性,
⑤利用資格(公開性)などを想定し,調査結果からそれぞれの機関の使い分けに関するこ れらの
5
基準の影響についてまとめている。そのうち「利用を制約する要因」に関する部 分を表3.3
として示す。表3.3 機関ごとの利用を制約する要因
機関名 利用を制約する要因 NDL 利用の簡便性,迅速性
JICST 経済性
大学図書館 地理的条件,公開性
本調査の設計においては上記のような選択基準となる条件は利用者の選好に関わる属性 であると考え,実際の文献提供システム,すなわちサービスを提供している側の「役割の 反映」ではなく,サービスの受け手である利用者の観点から,仮想のサービス条件に対す る「選好」を把握しようとする。それによって,選択理由や実際の行動だけでは知ること のできない潜在的なニーズや情報(文献)提供サービスの今後の発展の余地を探るために 役立つ知見が得られるであろう。
前述の田中による調査で言及されていた利用者が情報提供機関を選択する場合の条件と して挙げられていたものの中から,本調査における文献複写サービスの利用選択というシ ナリオに適用されるものとして「迅速性」と「経済性」を属性として採用した。また,現
在は
BLDSC
やSUBITO
などでが実現している。このような変化に関連して,現在のサービス利用層がどのように反応す るかを検討する必要があろう。すなわち,紙媒体と電子媒体(PDF)に対する人々の選好 を把握するために「複写物の画質/形態」という属性を設定した。
本調査では,これら合わせて
3
つの条件を属性として設定し,それぞれについて水準を3
つないし4
つ設けた。提示するプロファイル自体は架空のものであるが,それぞれの水準を選定する際にはあ まり非現実的になり過ぎないように,現在実際に実施されているいくつかのドキュメント・
デリバリー・サービスの条件 6) を参考にし,ある程度の実現可能性があると思われる条件 とした。実際の質問の提示の仕方については付録Aの調査票を参照されたい。
各属性の具体的な水準については表
3.4
に示す。表3.4 文献複写サービスの属性と水準
属 性 水 準
複写物の受取:申し込みから
1
週間後 複写物の受取:申し込みから3
日後 複写物の受取:申し込みから2
日後①迅速性
複写物の受取:申し込み当日 料金: 300円
料金:
400
円 料金: 900円②経済性
料金:
1,400
円 画質/形態:FAX画質
/
形態:コピー機による白黒コピー③画質/形態
画質/形態:PDFファイル(電子文書)