本章では、まず、調査計画について説明し、その後、本調査(Step3)の準備のために 行った調査(Step1、Step2)の概要と結果についてそれぞれ述べる。最後に本調査(Step3)
の概要について述べる。
4-1. 調査計画
本研究における調査は、主に3つのStepの調査で構成される(図 4-1)。集約すると、
Step1が「選定」の段階、Step2が「確認」の段階、Step3が「検証」の段階という位置づ
けとなっている。まず、Step1では、本研究で想定するリスク事象の選定とStep3の本調 査で提示するリスク事象に関する報道記事文及び噴火画像の選定を行った。想定するリ スク事象の選定は聞き取り調査の結果を基に行い、提示する報道記事文や噴火画像の選 定はその後のアンケート調査の結果を基に行った。次に、Step2では、Step3の本調査で 提示する報道記事や介入記事、本調査で評価項目として使用する質問項目の妥当性の確 認を行った。具体的には、桜島に対して潜在的訪問客になると考えられる20~30代の被 験者を対象とし、Step3の本調査と同様、Webアンケートによる予備調査を行い、提示記 事や評価項目の妥当性の確認や得られる結果の傾向を把握した。最後の Step3 では、本 研究で目的とする①潜在的訪問客の火山観光地訪問回避モデルの構築と②情報介入が訪 問回避モデルに及ぼす影響の検証を行った。具体的には、Step2の結果を基に修正した提 示記事と評価項目を用いて、桜島に対して潜在的訪問客になると考えられる一般の被験 者624名を対象に、Webアンケートによる本調査を行った。なお、本調査は株式会社マ クロミル(5)に委託し、実施した。
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図 4-1 本研究の調査計画
4-2. 新聞記事の調査 (Step1)
この調査では、過去の桜島の噴火に関するリスク事象と、噴火に関する報道の記事文 を抽出することを目的とする。また、1-7-1で述べた通り、間接的なリスク経験における リスク増幅の要因の1つとなりうる、抽出したリスク事象に関する記事の「報道量」に 関しても検討する。
4-2-1. 分析対象の記事
本研究では新聞報道の記事を分析対象とする。新聞記事に関して、久保田・寺部・葛 西(2016)は、発行部数こそ下落傾向にあるが、報道媒体としての影響力は未だ大きく、
老若男女問わず幅広く市民に浸透したマスメディアであると述べている。このことは、
新聞が大衆に大きな影響を及ぼしうるマスメディアであり、大衆の関心が新聞記事の内 容により左右される可能性が高いことを示唆している。マスメディアには新聞の他にも、
雑誌、テレビ、ラジオなど多種多様の種類があり、これらの影響も無視することはでき ないが、これらのメディアはアーカイブが整備されておらず、データを入手することが 困難であったため、本研究では対象としていない。
4-2-2. 新聞報道における報道量の測定
1-7-1で述べた通り、マスメディア報道などの間接的なリスク情報においては、リスク
事象に関する報道の情報量(「リスク情報の流出量」)が、リスク増幅を促す要因の1つ
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として挙げられているが、本研究では、この「報道量」に関する指標を基に、本研究で 対象とするリスク事象を選定することを試みる。
報道量を測定している先行研究に関して、北田(2003)は新聞記事データベースを用 いて、1999年のJCO臨界事故と2002年の東京電力トラブル隠しの発生後2カ月半の新 聞報道量を、記事件数を用いて比較している。また、山田(2017)も同様に、新聞記事 データベースを用いて、火山に関する2種類の記事(火山科学記事、火山一般記事)の 報道量の比較を行っているが、彼の調査では、報道量の指標を“記事件数”ではなく、
“記事文字数”を用いて分析を行っている。一方、大西(1998)は新聞の縮刷版を用い ており、記事の面積を測定することで報道量と見なし、原子力報道の量と質の経年変化 を分析している。このように、新聞記事に限定しても報道量を測定する方法は標準化さ れていない。本研究では、記事ごとの文字数データを備えたデータベースを利用してい るため、リスク事象に関する新聞報道の「記事件数」及び「記事文字数」をもって報道 量とした。なお、記事文字数に関しては、データアーカイブに表示されている文字数を 使用している。また、具体的な記事文字数の測定方法に関して、「あるリスク事象に対す る記事文字数の合計/あるリスク事象に対する記事件数」の数値を算出している。
4-2-3. 調査概要
本研究では、全国紙4紙(日本経済新聞、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞)の新聞記 事(朝刊、夕刊を含む)を分析対象とし、対象期間は2012年1月から2018年8月まで とした。ただし、対象期間中の、2015年8月15日から2015年9月1日までの期間は、
桜島の噴火警戒レベルが4に引き上げられた唯一の期間であり、この期間中に起こった リスク事象は、本研究で対象とするもの、すなわち、大衆のリスク認知度は高いが、本 研究で想定する客観的リスクは低い(噴火警戒レベルが3以下である)リスク事象でな いことが明白であったため、分析の対象からは除外している。
新聞記事の収集には、首都大学東京の図書館を利用し、日本経済新聞の記事を「日経 テレコム」、毎日新聞の記事を「毎索」、朝日新聞の記事を「聞蔵Ⅱビジュアル」、読売新 聞の記事を「ヨミダス歴史館」という当該図書館で利用可能な記事検索システムを用い て検索した。検索では、「桜島 AND 噴火」を検索ワードとして用いた。その結果、280 件の記事が収集された。なお、記事の内訳は付録-1に示す。
4-2-4. 結果と考察
過去の桜島の噴火に関するリスク事象の中から、記事件数の多かった上位11事象の結 果を図4-2に示す。図4-2の示す通り、「2013年8月18日に起きた事象」(29件)の記事 件数が最も多く、次に「2016年2月5日に起きた事象」(24件)が続いている。また、
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この2つのリスク事象の記事件数については、他のリスク事象の記事件数と比べて特に 多いことが分かる。
次に、過去の桜島の噴火に関するリスク事象の中から、記事文字数の多かった上位10 事象の結果を図4-3に示す。図4-3の示す通り、「2012年3月12日に起きた事象」(682.5 文字/件)の記事文字数が最も多く、次に「2013年8月18日に起きた事象」(537.8文 字/件)、「2016年2月5日に起きた事象」(511.0文字/件)と続いている。記事文字数 においては、記事件数の結果と比べて、リスク事象間での顕著な差異は見られなかった ものの、先ほどの記事件数の多かった2つのリスク事象が、記事文字数においても上位 に位置する結果となった。
以上の結果から、「2013年8月18日に起きた事象」及び「2016年2月5日に起きた事 象」に関して、リスク増幅の要因である「報道量」の値がともに大きく、読者はこれら の事象に対して、過大にリスクを認知した可能性が高いと解釈できる。なお、記事から 読み取ることのできるこれら2つの事象の概要は以下の通りである(参考:読売新聞)。
「2013年8月18日に起きた事象」:
午後4時31分に起きた桜島の昭和火口での爆発的噴火により、噴煙が火口から約5000m まで上昇した。また、気象台によると、この昭和火口からの噴煙の高さは1955年の開始 以来最も高い。
「2016年2月5日に起きた事象」:
午後6時56分に起きた桜島の昭和火口での爆発的噴火により、気象台は桜島の噴火警 戒レベルを2から3に引き上げた。
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図 4-2 記事件数上位 11 のリスク事象(縦軸は事象が起きた日付)
図 4-3 記事文字数上位 10 のリスク事象(縦軸は事象が起きた日付)
6 6 6 6 6 6 7
9 10
24
29
2012年5月20日 2015年3月31日 2016年7月26日 2016年5月1日 2016年2月8日 2017年4月28日 2014年5月10日 2015年5月21日 2015年1月6日 2016年2月5日 2013年8月18日
66666654321
記事件数(件)
348 397.4 398.6 403.3
428.0 442.5
490.0 511.0
537.8
682.5
2013年9月4日 2012年7月24日 2015年1月6日 2017年5月2日 2013年2月1日 2012年5月24日 2016年1月2日 2016年2月5日 2013年8月18日 2012年3月12日
10987654321
記事文字数(文字/件)
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4-3. 聞き取り調査 (Step1)
この調査では、本調査で想定させるリスク事象を選定することを目的とする。なお、
リスク事象に関しては、新聞記事の調査で「報道量」の値が高かった2つのリスク事象
(「2013年8月18日に起きた事象」、「2016年2月5日に起きた事象」)を対象とする。
4-3-1. 調査概要
2018年8月28日(火)に、NPO法人桜島ミュージアムのスタッフを対象に聞き取り 調査を行った。桜島ミュージアムは、桜島に関する様々な事業に携わる非営利団体であ り、地域づくりや観光の促進に寄与することを目的とした活動を行っている。この団体 のスタッフは、桜島に関する資料の収集保存、調査研究、教育普及等に努めているため、
桜島の専門家として位置づけることができる。それゆえ、桜島ミュージアムのスタッフ への聞き取り調査から得られた結果には、一定の妥当性が担保されていると考えられる。
聞き取り調査の被験者は、本研究に対する協力を得られた1名のスタッフとした。調 査にあたっては、桜島ミュージアムの事務所に伺い、対面式で行った。
4-3-2. 聞き取り内容
被験者に対して、対象とする2つのリスク事象の、「当時の大衆のリスク認知度」及び
「客観的リスク(専門家によるリスク評価)の程度」に関する項目の聞き取りを行った。
具体的には、それぞれのリスク事象について、「当時の大衆のリスク認知度はどの程度あ ったと思いますか?」という質問と「実際のリスクはどの程度あったと思いますか?」
という質問を行い、被験者に回答してもらった。なお、被験者の質問に対する回答がま とまるまでは、筆者による介入は極力行わなかった。その理由は、「当時の大衆のリスク 認知度」や「客観的リスクの程度」について専門家として位置づけられる被験者がどの ように判定するのかを、こちらで事前規定せずに抽出する必要があったことと、それを できる限り恣意性のない形で被検者の言葉から探索的に抽出することが望ましいと考え たためである。本研究では、潜在的訪問客のリスク認知が過大に増幅されている場合の 訪問回避に着目するため、2 つのリスク事象を比較して、「当時の大衆のリスク認知度」
が高く、「客観的リスクの程度」が低いリスク事象を選定することとした。
4-3-3. 結果と考察
被験者は「当時の大衆のリスク認知度」について、当時の噴火に対する桜島ミュージ アムへの問い合わせ数や「レインボー桜島」という桜島にあるホテルの宿泊キャンセル