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第1節 調査協力者と方法 (1)対象者の検討

調査対象者の検討に際しては、モース(Morse, 1998)による見解を参考にした。モースは、

研究にとって意味のある事例を選択する基準として「当該の事柄や対象に対する必要な知 識と経験をもち、インタビューにおいては質問に回答することのできる立場にあること」

122としている。

よって本研究における調査対象者は、演奏を続けるMBAコース参加者10名の個人とし た。もっとも本研究の目的を顧みると、調査対象は、演奏を続けてきた社会人全般となっ ており、かなり幅が広い。その中で、MBAコース参加者に対象を設定したのは、本研究に おいて、音楽経験とのつながりについて関心を寄せる職業行動について、豊富なコンテク ストの収集が期待できると考えたからである。

MBAコース参加者の場合、その多くが、一定期間の職務経験をへて形成された問題意識 を入学の志望動機としている。すなわち、総じて自身の職業行動に対して自覚的であり、

且つそれに対する主体性と関心が高い。よって、演奏を続ける MBAコース参加者は、働 く自己、職業行動の主体としての自己が意識されやすい状況において、音楽にまつわる経 験的語りを展開する可能性が高い個人であり、本研究の調査対象者として妥当であると判 断した。

(2)調査協力者の決定とエントリーの手順

本研究では、演奏を続ける MBAコース参加者を調査対象とし、具体的には X 経営大学 院の在学生・OB・OGによって組織されている音楽サークル「X音楽の会」に所属する10 名の個人から調査協力を得た。10 名はいずれも、同経営大学院 MBA コースを受講中ある いは修了生であり、音楽サークルでの定期演奏会への出演をはじめ、継続的に演奏を続けて いる。なお「X音楽の会」には、2017年7月現在、在学生及びOB・OG含め、141名の登 録があり、定期演奏会をはじめ、音楽鑑賞会や勉強会の企画開催がなされている。最も大き なイベントは、半年から 1 年に一度のペースで行われている定期演奏会であり、2017年 3 月4日には、18組、総勢80名以上のメンバーがステージでの演奏を楽しんだ。次回の定期 演奏会は2018年年明けを予定している。

122 安田(2012)p.61

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まず「X音楽の会」のメンバーに対し、調査協力のエントリーを行なった。エントリー活 動の主な手段は、同サークルのインターネット掲示板での告知であったが、その他にも、定 期演奏会や合同練習、自主練習など、所属メンバーが一同に会する場においても、掲示板で の告知と並行して継続的に調査協力のエントリー活動を行なった。期間としては2013年7 月から2017年5月の期間にかけてエントリー活動を継続し、最終的に 10名の協力者に決 定した。エントリーの際には、本研究の目的に適う音楽経験に関する語りの量や質の収集を 考慮し、現在の音楽活動を3年以上継続して行なっていることと、現在の活動を含め、これ までに何かしらの演奏活動を10年程度続けていることを条件とした。なお、演奏活動を続 けてきた10年程度に関する解釈については、途中の中断、活動形態の変化、演奏楽器の変 更を可とした上で、実質的な演奏活動期間の合計を10年程度とした。その際、独学や指導 者についていたケース、バンドのような有志のコミュニティに所属していたケースや学校 での部活動などといった演奏スタイルについても特に問わず、多様なライフステージにお いて、演奏を続けてきたという人生の側面を重視した。これらのエントリー条件は、予備的 研究(船越 2013)および本調査に先立ち行った 4 名へのプレインタビューの結果をもとに検 討し決定している。予備的研究やプレインタビューを通しては、現在、音楽活動をしていて も、その期間が短く、初心者としての感覚が強い場合、または10年程度の音楽経験があっ ても現在演奏をしていない場合、音楽経験についての豊かな語りが収集しづらい傾向が確 認されている。

(3)インタビューの準備と実施形態

調査の方法にはインタビューを採用した。具体的には、筆者があらかじめ設定した質問項 目(表2-1参照)に沿い、半構造化インタビューの方法で、インタビュイーである調査対象に、

過去から現在にいたるまでの音楽経験の積み重ねについて話してもらうように準備を進め た。半構造化インタビューの方法は「質問項目や枠組みにある程度の構造化をほどこしつつ、

実際のインタビュー場面では、興味深いトピックスや語りについて適宜質問項目を加えた り、話題の展開に応じて順序を変える等、インタビュイーの反応やインタビュアーの関心に 応じて、十分な柔軟性」を持つものである123。なお、質問項目については、過去から現在ま での音楽経験についての語りを調査したPitts(2012)を参考に、3名へのプレインタビューを 実施し検討を重ねた上で決定した。

123 やまだ(2007a)p.102

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【表2-1 質問項目】

⓪名前、年齢、仕事内容

①これまでの音楽活動や受けたことのある音楽教育についての流れ。

②現在、どんな音楽が好きで、どのように楽しんでいるのか。

③子供の頃、ご家庭ではどのような音楽の存在があったのか。また、それは自身の成長 発達にどのように影響したと思うか。

④学校での音楽の思い出はどのようなものか。(人、部活、機会を含む)

⑤人生その時々のステージにおいて、どのような人があなたの音楽的なふるまいに対 し、影響をあたえてきたのか。

⑥自身の人生を音楽の面で振り返ってみて、もっとも印象的な出来事。

⑦音楽的な機会損失に関する後悔の有無。

⑧音楽に対する嗜好・思い・考え方などはどのように変化してきたのか。

⑨音楽を通して身についたものは何か。

⑩その時々の音楽活動をスタートするきっかけか。

インタビューの流れとしては、年齢や性別、仕事内容など、基礎的な項目を確認した後に、

現在の音楽活動の概要について尋ねた。その後、現在に通じる音楽活動のきっかけをたどる ように、過去の音楽経験を振り返ってもらい、話の自然な流れを尊重しながら、あらかじめ 設定されていた質問項目について確認していった。

インタビューの前にはあらかじめ、語りたくないことについては答える必要がないこと、

プライバシーを厳守すること、記録したインタビュー内容は学術的な研究目的の下に利用 することを説明し了解を得た上で、誓約書をかわした。面接の回数は最低1回から多い場合 で3回、所要時間は1回あたり40分から160分程度であった。直接面接終了後、事実確認 の補足として電話やメールを用いることもあった。またあらかじめ、本人の許可をえて、直 接面接を録音している。調査期間は2014年6月から2017年4月で、その期間において、そ れぞれの調査協力者と随時都合調整をしながら、インタビューを実施した。

(4)インタビュー調査の視点

本研究は、音楽経験がどのように自己へと意味づけられ、職業行動への影響と関連してい くのかを明確にするものである。よってインタビューもまた、ライフストーリー論の視点に 依拠し、どのように人生経験が構成され、意味づけられているかに目をむけて、その語りを

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丁寧に聞いていった。すなわち、インタビューの際には、語り手が所有するエピソードを重 んじ、それが具体的にどのような内容の経験で、その経験とその後の経験との関連がどのよ うであり、その経験についてどう思っているのか、経験の中身やその後の人生との関連性、

その体験の意味づけを深く聞くことに注力している。インタビューは、話し手にとって語る ことがなくなったと思われた時点で話題を終了し、インタビュイーによってなされる経験 の意味づけを重視した。

第2節 インタビュー協力者 (1)インタビュー協力者の概要

インタビュー協力者10名は、男性9名、女性1名、年齢が30代から50代、職業は10名 中6名が会社経営者であった。男女比と職業内容に偏りが見られる。男女比の偏りは X経 営大学院全体の男女比率においても圧倒的に男性が多いこと、職業内容の偏りについては、

起業家育成に重きをおいた実務直結型のマネジメントプログラムの提供がなされる教育特 性に起因すると考えられる。なお、全ての項目は、インタビュー時点での内容となる。

音楽経験の項目においては、現在、継続している演奏活動と過去の音楽経験に分けて、記 述した。内容が重複しないよう、現在、継続している演奏活動の内容は、過去の音楽経験の 項目に記載していない。加えて、過去の音楽経験については、演奏や歌唱、作曲など表現に 関わる活動経験と、主体的な聴取活動としての鑑賞に関わる活動経験についても記載した。

演奏経験年数については、演奏・歌唱・作曲に関わる活動をした経験年数と現在継続してい る演奏活動の期間の合計を記載した。活動頻度は低くても、語り手本人が断続していると認 識している場合は経験年数の対象として解釈したが、語り手本人が音楽をやめていた期間 として認識している場合は、経験年数の対象としなかった。表2-2がインタビュー協力者一 覧である。

【表2-2 インタビュー協力者一覧】

年齢 音楽経験

①現在の音演奏活動(継続期間、活動形態)

②過去の主要な音楽経験

演奏経験年数 職業(職種)

A(56) ①リコーダー(4年程度、社会人アンサンブル)

②ホルン(中学高校時代の吹奏楽部)、高校卒業

10年程度 会社経営

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