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第 4 章 自傷行為に関する尺度の作成

第 4 節 調査実施時期

2008年6月 第5章,第6章の研究と同時にデータを取得した。

第 5 節 倫理的配慮

本研究の調査時点では,著者は,B高校に教諭として形式的に勤務しながら,実質的には教 員の長期研修制度でC大学大学院臨床心理学コースに在籍する大学院生であった。従って,授 業や校務の担当からは外れており,調査対象の生徒を直接指導教育する立場になかった。一方 でB高校の状況を詳しく知り,教師や生徒たちと綿密に関わることもできた。つまり,倫理的 にも調査実施上も適切な距離を取りながらこうした自傷行為の調査を行える立場にあった。

B高校における調査は,臨床心理学の指導教員の指導を受けながら,校長,教職員,スクー ルカウンセラー(臨床経験の豊富な大学教員)との綿密な連携の下,著者が校内に待機する中で,

クラス担任によって行われた。

質問紙は,本章の「自傷傾向尺度」の全項目,第5章,第6章に関係する一連の質問項目を 含む82項目から作成され「高校生の生命観に関するアンケート」(資料2参照)と題された。

そして,表紙には,高校生が「命や自分自身についてどのように考えているか」確認するとい う調査目的を説明する文章が付され,回答は任意でいつでも中断できることが記載され,口頭 でもその旨を伝えてもらった。そして,回答終了後,生徒に命を尊重する意識を育むことを意 図した授業を,担任との連携の下,著者が行った。そして,調査後も定期的にB高校教職員と 連絡を取り調査の影響がないか確認をした。

なお,本研究のデータは,佐野・内田(2009)で用いたデータと同じものである。

Table 4-1. B高校の在籍生徒の年齢構成

年齢(歳) 15 16 17 18 19 20~24 25~ 合計 男性(人) 56 45 33 23 12 5 1 175 女性(人) 53 56 46 27 2 4 3 191 計(人) 109 101 79 50 14 9 4 366

Table 4-2. 調査対象生徒の学年別人数

学年 1年生 2年生 3年生 4年生 合計 男(人) 46 40 27 17 130 女(人) 43 44 32 17 136 合計(人) 89 84 59 34 266

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第 6 節 分析方法

この尺度の併存的妥当性や再テスト法等による信頼性の確認は,高校生に対して自傷行為に ついて何度も尋ねたり,それに類する侵襲性の高い尺度を同時実施したりすることの負担への 懸念から行わなかった。代わりに,調査後のデータにおける内的整合性の確認,判別分析の実 施等で信頼性,妥当性を検討した。このように再テストや他の尺度との併存的妥当性の検討を 行わず,内的整合性や判別分析で尺度の信頼性等を検討する方法は,「自傷行為に関する質問 紙」を作成している岡田(2005)も行っている方法である。

第 7 節 結果

1.記述統計

「自傷傾向尺度」の各質問項目の具体的内容及びそれに関する平均値,標準偏差等の記述統

計はTable4-3の通りであった。

2.信頼性

信頼性に関してはクロンバックのα係数では9項目全体で.770となる。また,全9項目につい て主成分分析を行ったところ,1主成分のみの検出であった。

3.妥当性

1)自傷経験項目による確認

本研究では,自傷行為等について何度も質問紙調査を実施することの弊害への倫理的配慮に

度数 最小値 最大値 平均値 標準偏差 I-T相関

項目が削除 された場合 の Cronbach

のアルファ 1自分の体が傷つかないように注意

している

265 1 5 2.99 1.212 .478 .745

2自分の体を傷つける人の気持ちが 理解できない

266 1 5 2.83 1.400 .541 .734

3身体の痛みの方が、心の痛みより ましである。

263 1 5 3.66 1.107 .232 .776

4自らを傷つけるのは格好悪い。 265 1 5 2.66 1.206 .391 .757

5危険なことをわざとやりたくな る。

266 1 5 2.53 1.259 .389 .758

6自分はもうどうなってもかまわな い、という気持ちになる。

264 1 5 2.94 1.335 .493 .742

7リストカットに関するドラマやマ ンガ、本をみたことがある。

264 1 5 3.41 1.510 .382 .762

8リストカットなどの体を傷つける ことをしたことがある。

265 1 5 2.15 1.557 .635 .717

9現在、自分を傷つけることをして いる。

266 1 5 1.95 1.229 .518 .740

Table 4-3. 自傷傾向尺度の項目ごとの記述統計

項目1,2,4は逆転項目

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より,他の自傷尺度との併存的妥当性の検討は行わなかった。また,弁別的妥当性に関しては,

うつ傾向の尺度や自殺企図に関する尺度等との比較が考えられるが,同様にそれらの尺度を実 施することに伴う弊害が懸念されるので行わなかった。

ここでは,9つの質問項目のうち,項目8「リストカットなどの体を傷つけることをしたこと がある。」(以下,「自傷経験項目」)が,本研究が問題としている自傷行為を直接指している ので,この質問項目を基準にして,基準関連妥当性の検証を行った。

まず,I-T 相関をみると,「自傷経験項目」を除く他の全項目との I-T 相関は.635(有意確率 p<.001両側検定)である。従って,中程度の相関がうかがえる。

次に,「自傷経験項目」の「5 ものすごく当てはまる」,「4 当てはまる」に丸をつけた 者を自傷経験群,この項目の「1 まったく当てはまらない」に丸をつけた者を自傷未経験群と して群分けし(「自傷経験群間」),他の 8 つの質問項目との 1 要因分散分析を行ったものが

Table4-4である。その結果,すべての項目で自傷経験群平均得点の方が未経験群の平均得点を

有意に上回った。

項目1,2,4は逆転項目

Table 4-4. 自傷傾向尺度の項目ごとの自傷経験群間分散分析

群分け 人数 平均値 標準偏差

未経験群 157 2.73 1.153

34.57(1,220) ***

自傷経験群 65 3.74 1.203

未経験群 158 2.27 1.213

99.27(1,221) ***

自傷経験群 65 4.02 1.139

未経験群 156 3.58 1.130

7.36(1,218) **

自傷経験群 64 4.03 1.069

未経験群 157 2.38 1.151

30.14(1,220) ***

自傷経験群 65 3.32 1.213

未経験群 158 2.35 1.262

10.30(1,221) **

自傷経験群 65 2.95 1.280

未経験群 157 2.55 1.263

43.64(1,219) ***

自傷経験群 64 3.77 1.192

未経験群 157 2.95 1.576

36.67(1,219) ***

自傷経験群 64 4.25 1.069

未経験群 158 1.56 .987

57.57(1,221) ***

自傷経験群 65 2.83 1.431

未経験群 153 20.30 4.590 137.29(1,213) ***

自傷経験群 62 28.94 5.584

*p<.05,**p<.01,***p<.001 7リストカットに関するドラ

マやマンガ、本をみたことが ある。

9現在、自分を傷つけること をしている。

8項目全体

値(自由度)

1自分の体が傷つかないよう に注意している

2自分の体を傷つける人の気 持ちが理解できない

3身体の痛みの方が、心の痛 みよりましである。

4自らを傷つけるのは格好悪 い。

5危険なことをわざとやりた くなる。

6自分はもうどうなってもか まわない、という気持ちにな る。

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さらに,自傷経験群と未経験群の群分けに対する「自傷経験項目」を除いた残りの8項目の 合計得点による判別分析を行ったところ,自傷経験群と未経験群の正判別率は,83.3%(自傷経 験群の判別的中率80.6%,未経験群の判別的中率84.3%)であった。つまり,直接自傷行為につ いて質問しなくても,他の8項目で自傷傾向を予想することができる(Table4-5)。

2)現在の自傷行為の継続状況について

「自傷経験項目」はあくまで過去の自傷行為経験を問うものであって,現在進行形の自傷行 為を問うていない。ところで,項目 9「現在,自分を傷つけることをしている」は,自傷行為 に限らない現在の自分を傷つけることをしているかを問う項目である。この項目9を「現傷項 目」と呼ぶ。この質問は自傷行為そのものを問うものではないため,この項目だけで,現在の 自傷行為の状況を判断できない。しかし,項目8の「自傷経験項目」の群分けで自傷経験群に 入る生徒のうち,「現傷項目」にも「当てはまる」等と答えた生徒は,現在自傷行為をしてい ると考えてよいのではないか。自傷経験群に入る生徒のうち,「現傷項目」に「5 ものすごく 当てはまる」,「4 当てはまる」と回答した生徒を「現在自傷継続群」とする。この群と「自 傷経験項目」で「未経験群」とされた生徒を対比(「現在自傷継続群間」)して検討する。

現在自傷群間に関連する項目8「自傷経験項目」と項目9「現在項目」を除く残り7項目で,

現在自傷継続群間の判別分析を行ったところ,Table4-6 のようになった。現在自傷継続群と未 経験群の正判別率は,92.5%(現在自傷継続群の判別的中率85.7%,未経験群の判別的中率93.5%) であった(Table4-6)。

Table 4-5. 自傷傾向尺度の自傷経験群間の判別分析

未経験群 自傷経験群

未経験群 129 49 153

自傷経験群 12 50 62

未経験群 84.3 15.7 100.0

自傷経験群 19.4 80.6 100.0 人数

比率(%)

判別分析による予測

合計

Table 4-6. 自傷傾向尺度の現在自傷継続群間の判別分析

未経験群 現在自傷継続群

未経験群 143 10 153

現在自傷継続群 3 18 21

未経験群 93.5 6.5 100.0

現在自傷継続群 14.3 85.7 100.0 判別分析による予測

合計 人数

比率(%)

58 4.カットオフ値の確定

1)自傷経験の有無のカットオフ値

この「自傷傾向尺度」の自傷経験の有無のカットオフ値を確定する。本尺度全9項目の合計 得点のヒストグラムを,未経験群と自傷経験群に分けるとFigure4-1のようになる。それをみる と両群のグラフが交差するのは28点前後のところである。また,カットオフ値をみるため,自 傷経験群を陽性,未経験群を陰性と考え陽性率(感度)を縦軸,偽陽性率(1-特異度)を横軸にした ROC曲線を作成するとFigure4-2の通りであり,その座標を示したものがTable4-7となる。ROC 曲線では,(0,1)座標に最も近い点がカットオフ値の候補となるが,尺度得点が26.5点に対応す るROC曲線の座標がそれにあたる。

Figure 4-1. 自傷経験群間別の自傷傾向尺度得点のヒストグラム

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さらに,このカットオフ値候補の26点近辺の陽性率(感度)と除外率(特異度)を表したのが表 7である。それによると,27点前後で,両者の率が逆転し,25/24点のところで 95.2%,24/23 点のところで96.8%の陽性率となることがわかる。

2)現在自傷継続群のカットオフ値

次に現在自傷行為をしているかどうかを見分ける現在自傷継続群間のカットオフ値を推定す る。両群のヒストグラムを示すのがFigure4-3である。それによると,32~33点のところがカッ トオフ値になるであろう。さらに,ROC曲線はFigure4-4の通りであり, (0,1)座標に最も近い 点は,尺度の30.5点のところが該当した。31点以上を陽性とすることで現在自傷のほぼ100%

を捉えることができる。

Figure 4-2. 自傷経験群間の ROC 曲線

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