• 検索結果がありません。

読書案内

ドキュメント内 game1608notes 最近の更新履歴 H Reiju Mihara (ページ 46-49)

第 5 章 その他の応用例とまとめ 43

5.5 読書案内

5.5.1 最後の読書案内

ゲーム理論の重要な応用分野であるメカニズム・デザインあるいはマーケット・デザインについて授業でほ とんど触れることができなかったのは残念.ここに申しわけ程度に触れておく.

• メカニズム・デザインあるいはマーケット・デザインでよく研究されている具体的問題としては,望ま しいオークションの設計がある.たとえばこの科目で学んだように,セカンドプライス・オークション

(Vickrey auction)は「各入札者が自分の評価額をそのまま提出するのが最適」という望ましい性質を

持つ.(このオークションを考案したヴィックリーは,ノーベル賞受賞発表[にびっくりして? ]数日後 に心臓発作で亡くなった.ちなみにメカニズム・デザインで受賞したミネソタのハーヴィッツはノーベ ル賞受賞の翌年に亡くなった.二人ともぎりぎりで受賞したことになる.)オークション設計は,コン

ピュータ・サイエンティストによる研究の盛んな分野でもある.

ある財(モノ)を,それをいちばん高く評価する者に,金銭の支払いを要求することなしに配分するメ カニズムも存在する.そのもっとも簡単なものとして,セカンドプライス・オークションをもとにした 三原による配分メカニズムがある.(著者自身の解説(リンク)あり.)このメカニズムの10分間解説 ビデオ (リンク)も存在する.

• この分野の概要を手ごろに知るには伊藤『ひたすら読むエコノミクス』[13, 8章]を読むといい.一般 向けの読み物としては坂井『マーケットデザイン: 最先端の実用的な経済学』[20]と川越『マーケッ ト・デザイン: オークションとマッチングの経済学』[19]がある.川越の3章末コラムでは上記の三原 メカニズムが丁寧に解説されている.

• メカニズムデザインは大学院レベルのミクロ経済学では標準的な内容なので,そのレベルのテキスト を読めばきちんと学べる.Tadelis [4, Part IV], Jehle and Reny [1, Chapter 9], そしてMas-Colell,

Whinston, and Green [2, Chaper 23] を挙げておこう.ただし,これらの書籍の別の章で不完備情報

ゲームをきちんと理解した上で学ぶべきである.これらの一歩手前として,不完備情報ゲームの知識を 要求しない三原の「メカニズム・デザイン: レクチャー・ノート(リンク)」あるいはほとんど要求しな

い林[7, 31章]が参考になるかもしれない.

• 日本語で書かれた本格的なテキストあるいは研究書としては坂井,藤中,若山『メカニズムデザイン: 資源配分制度の設計とインセンティブ』[23]が有用である.三原メカニズムも最初の方に登場する.た だしこの本は学部レベルのミクロ経済学とゲーム理論をマスターした上でないと読みづらいだろう.

(英語力不足で大学院テキストが読みこなせないようないちぶの日本人大学院生にとっては最初の方の 章はありがたいだろうが,普通の学部生なら通常は読む必要がない本.)著者のひとり若山琢磨は香川 大学経済学部出身で,ゼミナールをふくむ三原の授業の多くに参加していた.現在はメカニズムデザイ ンの分野で国際的な業績を積み上げている.*29

メカニズム・デザインでは,プレーヤーがなんらかの均衡概念にしたがって行動したときの結果が望ましい ものになるようにルールを設計する.一方で,プレーヤーの行動にかならずしも仮定を置かなくとも,ルール が満たすべき望ましい性質を考えることはできる.社会選択理論とは,投票制度や資源配分メカニズムをふく む意思決定ルールがそういった性質を満たすかどうかを考察することにより,ルールの良し悪しやその限界を 数学的に分析する(抉り出す)分野である.(プレーヤーの行動に仮定を置かないこともあるので,ゲーム理論 を使わない研究も少なくない.)特定の一つのルールを取り上げて分析することよりも,一定範囲のあらゆる ルールを同時に分析することが多い.たとえば望ましい性質を何個か列挙した上で,一定範囲のルールのなか にそれらを同時に満たすものがなければ「不可能性定理」を得るし,一定範囲のルールのなかでそれらを同時 に満たすものが特定のものに絞られるならば「特徴付け定理」を得る.三原麗珠の専門分野でもある社会選択 理論の紹介になりそうな情報源をいくつか挙げておく:

• YouTubeに置いた社会選択理論10分間コース (リンク)では,授業でやった投票のパラドックス(コ

ンドルセのパラドックス)にもかかわる根本的な定理であるアローの不可能性定理を紹介している.

• 坂井(2015)『多数決を疑う: 社会的選択理論とは何か』[22]は一般向けの概説書であり,同著者による

『社会的選択理論への招待』[21]はこの分野の入門テキストである.

*29香川大学経済学部出身者で,ゼミナールをふくむ三原の授業の多くに参加した学生は極めて限られる.その中にはゲーム理論や経 済理論の研究者になった宇野浩司もいる.

• 社会選択の研究をやるためには必ずしも社会選択理論のテキストを読む必要があるわけではない.大学 院レベルのミクロ経済理論(ただしメカニズムデザインの場合とちがって不完備情報ゲーム理論はあま り必要ではない)と多少の抽象数学を学んだ者ならば,アローの定理とギバード・サタスウェイト定理 と呼ばれる定理を学ぶだけで社会選択理論の論文をかなり読めるようになっているはずだ.これらふた つの定理とその証明は林[7, 30–31章],Jehle and Reny [1, Chapter 6],Mas-Colell, Whinston, and

Green [2, Chapers 21, 23] などのミクロ経済学テキストにも載っている.これらの定理と最近の社会

選択理論の論文数本を取り上げた科目の例としては,2013年に三原が筑波大学大学院で担当した社会 選択理論の科目(リンク))がある.

• Eric PacuitによるCourseraコース: Making Better Group Decision: Voting, Judgement

Aggrega-tion and Fair Division (リンク)のサイトでは,社会選択のさまざまなトッピックをカバーした動画が

見れる.

• ところで18世紀のコンドルセとボルダ,20世紀真ん中のアローという偉大な投票理論家の次に続くの はだれか?  こちらのWebページ (リンク)のどうでもいい「記録」 その2にその答えが.;-)

参考文献

[1] Geoffrey A Jehle and Philip J Reny. Advanced Microeconomic Theory. Prentice Hall, 2011.

[2] Andreu Mas-Colell, Michael D Whinston, and Jerry R Green. Microeconomic Theory. Oxford University Press, New York, 1995.

[3] James D Morrow. Game Theory for Political Scientists. Princeton University Press, Princeton, 1994.

[4] Steven Tadelis. Game Theory: An Introduction. Princeton University Press, 2013.

[5] ロバート・ギボンズ. 経済学のためのゲーム理論入門. 創文社, 1995.

[6] 奥野正寛. ミクロ経済学. 東京大学出版会, 2008.

[7] 林貴志. ミクロ経済学. ミネルヴァ書房,増補版, 2013.

[8] 天谷研一. 図解で学ぶゲーム理論入門. 日本能率協会マネジメントセンター, 2011.

[9] 梶井厚志. 戦略的思考の技術: ゲーム理論を実践する. 中公新書 1658.中央公論新社, 2002.

[10] 梶井厚志,松井彰彦. ミクロ経済学: 戦略的アプローチ. 日本評論社, 2000.

[11] 金子晃. 数理基礎論講義: 論理・集合・位相. サイエンス社, 2010.

[12] 武藤滋夫. ゲーム理論入門. 日本経済新聞社, 2001.

[13] 伊藤秀史. ひたすら読むエコノミクス. 有斐閣, 2012.

[14] 茨木俊秀. 情報学のための離散数学. 昭晃堂, 2004.

[15] 岡田章. ゲーム理論・入門. 有斐閣,新版, 2014.

[16] 尾山大輔,安田洋祐(編). 経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める. 日本評論社,改訂版, 2013.

[17] 渡辺 隆裕. ゼミナール ゲーム理論入門. 日本経済新聞出版社, apr 2008.

[18] 神取道宏. ミクロ経済学の力. 日本評論社, 2014.

[19] 川越敏司. マーケット・デザイン: オークションとマッチングの経済学. 講談社, 2015.

[20] 坂井豊貴. マーケットデザイン: 最先端の実用的な経済学. 筑摩書房, 2013.

[21] 坂井豊貴. 社会的選択理論への招待: 投票と多数決の科学. 日本評論社, 2013.

ドキュメント内 game1608notes 最近の更新履歴 H Reiju Mihara (ページ 46-49)

関連したドキュメント