本章では、クロスワードゲームを用いて、自由会話法を実施し、その効果を 調査する。施設にて行った評価実験の結果を示し、考察を述べる。
6.1 実験内容
評価実験を行う際、事前に施設の施設長、介護職員に本研究における実験計 画と論理的配慮の説明を行う。
6.1.1 論理的配慮
クロスワードゲームを行うにあたり、参加する高齢者および施設の介護職員 に、研究目的、内容、個人情報の保護などについて本研究以外の目的で情報を 利用しないことを、紙面を用いて説明した後、紙面にて同意を得た。
6.1.2 評価方法
会話相互作用量計測法を用いて、相互に発話した単語の量を評価する[8]。
まず、各参加者の発話の文字起こしを行う。国立国語研究所が開発した unidic を用いた形態素解析エンジンに web 茶まめを用いて、形態素解析の結果から品 詞分類し、発言単語量を比較する。予備実験 4.1 及び会話相互作用量によると、
単位時間内に提示された単語の量は、他の品詞と比べて一番出現が多いものは 名詞だ[8]。そして、本研究では、文字起こしされた会話の記録に対して、ク ロスワードゲーム中や自由会話の段階で、毎回 2 名の対象者がクロスワードゲ ームに使用した単語に関係がある話を名詞に分類し、新たな発話した単語数と 比較し、分析する。
実際に用いられた身体部位②についての自由会話による図 6-1 を例として、
本研究での評価方法を説明する。
まず、発話内容に関係のある話、関係のない話に分類する。(本研究で、関 係がある単語のみを分析する。) 次に、形態素解析エンジンを用いて分析し
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た名詞・動詞は、発話内容でそれぞれ緑色・青い色を付ける。自分以外に発言 をしていない単語は、「新たな発話した」のところに書いてまとめる。自分以 外の人の発言内容に既に含まれた単語は、「重複した」ところに書く。そして、
Excel 上に、発話対象に対応した単語リストを作る。
計算方法:
対象者が発話した単語数=新たな発話した単語数+重複した単語数 対象者が新たな発話した単語数=他の人に重複しない単語
対象者が聞いた単語数=他の人が発話した単語の総数-中に重複した単語数 対象者が新たな聞いた単語数=他の人が新たな発話した単語の総数
(図 6-2 の例として、高 A:発話した名詞の単語数=11+2=13、新たな発話し た単語数=11、聞いた単語数=2+1=3、新たな聞いた単語数=2)
図 6-1 自由会話の発話の文字起こし
図 6-2 品詞の分解(例)
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6.2 健常な高齢者向けの実験
6.2.1 第一回及び二回実験
対象:健常な高齢者 72 歳(高 C)・健常な高齢者 76 歳(高 D) 時間:一回目 12 月 26 日 17:00~17:30
二回目 12 月 26 日 17:30~18:00
内容:まず 21 枚の写真を使って、名称確認用紙(図 6.2)で写真に対する名称 を書く。次クロスワードゲームを体験し、用紙に現れた単語について自由会話 を行う。そして、再び名称を確認し、知っている場合は「ご存知」のところに
〇を付す。
結果:
⑴
名称確認名称確認用紙(図 6-3-左)に示すように、赤い線を引く単語は、認識が曖昧な 単語である。名称確認の結果は、(図 6-3-右)に示す。
⑵クロスワードゲーム(時間・状態)
図 6-3 名称確認(健 1 と 2 回目)
28
Ⅰ時間(図 6-4):
この結果から見ると、高 C は、高 D のスピードより速かった。また、一回目 で高齢者が一番時間かかったのは、身体部位②である。さらに、高 C は、変化 の幅は小さかった。また、高 D にとって時間がかかったものでは、身体部位①、
身近な物②、身近な物①、身体部位①の順での増加がみられた。
Ⅱ状態(表 6-1):
対象、回数、ヒント(幾つの単語に対する提示をあげること)、身体部位①/
身体部位②/身近な物①/身近な物②、様子
対象 高 C 高 D
回数 一回目 二回目 一回目 二回目
ヒント 0個 0個 2 個/3 個/2 個/0 個 1 個/1 個/2 個/1 個 様子 穏やか・自信
的・熟練
スピードアッ プ
回りに見る・緊張・
発話少ない
スピードアップ・一 回目より発話を増え た
よくしゃべった
面白いけど、簡単すぎる。
「平仮名」探しにくい
身体部位②:二回目でゲームを通し「手 首」を出した。身近な物①:名称確認時二 回とも「たまご」、「みかん」の写真は認 識できたが、「たまご」は「みかん」と思 って置いた。「くるま」は「自動車」と考 えた。身近な物②:「パン」は「みかん」
のところを置いた。
表 6-1 健常な高齢者の状態(1 と 2 回目)
⑵
新たな発話量(一回目:図 6-5、二回目:図 6-6):図 6-4 健常な高齢者の使用時間(1 と 2 回目)
29
ゲーム中の新たな発話内容は、ほぼクロスワードゲームに現れた単語のヒン ト、またはわからない場合への質問だ。自由会話の中の新たな発話内容は、ほ ぼクロスワードゲームに現れた単語についての思い出、または連想する物事だ。
新たな発話量の結果に見られる高齢者の反応として、ゲーム中では、高 D の 発話量が高 C より多かった。逆に、高 C の方は、会話中の発話量が多かった。
また、ゲーム中で、身体部位の発話量が身近な物より多かったが、一方で、
会話中では、身近な物の発話量が身体部位より多かった。さらに、二回目の会 話中では、身近な物①で二人の発話量が著しく増加した。
考察:
二回実験において、単語の名前を知っている場合に、クロスワードゲームを 完成できないことがあった。このことから、事前に名称確認をすることが必要 であると考えられる。
また、高 D は、二回とも「おでこ」、「くるま」のところで詰まってしまった。
よって、クロスワードゲームに現れた単語に二つ以上の読み方がある場合は、
高齢者が判断しにくく、より時間がかかる可能性があると思われる。
図 6-5 健常な高齢者の新たな発話量(1 回目)
図 6-6 健常な高齢者の新たな発話量(2 回目)
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さらに、身体部位より身近な物の方が人々の生活にかかわりが深いため、発 話しやすいと思われる。また、二回とも、自由会話の段階において、「クロス ワードゲームに現れた単語に関係ある話」の質問がされた際、新たな発話量が 増えたことはなかった。そのため、三回目の実験では、具体的な単語に対して、
その特徴、類似物、関連することなどの質問をして、発話量の増減を明らかに しようと思った。
6.2.2 第三回実験
対象:健常な高齢者 72 歳(高 C)・健常な高齢者 76 歳(高 D) 時間:三回目 12 月 29 日 17:00~17:30
結果:
⑴ 名称確認:
高 D:「手首」が認識できた。「おでこ」は、「でこべ」と言った。「くるま」
と「自動車」の両方を話したが、「くるま」のみを書いていた。
⑵クロスワードゲーム(時間・状態)
Ⅰ時間(図 6-7):
この結果から見ると、高 C は、高 D のスピードより明らかに速かった。
また、三回目で高 D にとっては、一番時間がかかったのは身体部位②だ。
Ⅱ状態(表 6-2):
30 89 30 28 48
235
96 128
0 50 100 150 200 250
身体部位① 身体部位② 身近な物① 身近な物②
健常な高齢者三回目使用時間
高C 高D (s)
図 6-7 健常な高齢者の使用時間(3 回目)
31
対象 高 C 高 D
ヒント 0 個 0 個/1 個/1 個/1 個 様子
スピードが速かった 落ち着いている、専門的な 方。
慣れそうな感じ、前よりリラ ックスした。喜んでいる顔。
身体部位②:「ひたい」は
「おでこ」のところを置い た。身近な物①:「くるま」
は相変わらず「自動車」を考 えた。
表 6-2 健常な高齢者の状態(3 回目)
⑵ 新たな発話量(図 6-8):
今回ゲームに利用した単語について、質問の形式を自由会話する(表 6-3)。
表 6-3 自由会話中の質問(3 回目)
この表から見ると、高 C にとって自由会話中の新たな発話量は、ゲームより も非常に多かった。また、高 D にとして、ゲーム中で身体部位の発話量は、身
カテゴリー 質問
身体健康① 体の痛いところはないのか。(あし・あたまとか) 身体健康② 「おでこ」は言わないのか
身近な物① 袋にはどんな時に使うのか。
どんな「卵」料理を作るのか、または好きのか。
今どんな会社の「車」を運転しているのか。
身近な物② 「傘」で、何を作る道具のか。
「かがみ」は見たことがあったのか。
図 6-8 健常な高齢者の新たな発話量(3 回目)
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近なものよりも多かった。また、質問の形で、自由会話中の二人は相互に交流 する傾向が見られた。
6.2.3 健常な高齢者への実験のまとめ
⑴ 時間(図 6-9):
回数によると、かかった時間は、短くなる傾向が分かった。身体部位にかか った時間は、身近な物よりも長い傾向にあることがわかる。
⑵ 新たな発話した単語数(図 6-10):
図 6-9 健常な高齢者の平均使用時間
図 6-10 健常な高齢者の平均の新たな発話量
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高 C の場合では、クロスワードゲームの段階において、ゲーム回数の増加と ともに、新たな平均発話量が段々と減少していく。一方、高 D では、増加した ことがわかった。また、双方にとって、回数により自由会話で新たな平均発話 量が増えることが分かった。また、身体部位と身近な物以上の二つのカテゴリ ーの面から見ると、ゲームで身体部位については新たな平均発話量が多かった が、自由会話では身近な物方が多かったとみられる。さらに、三回目の発話量 は、二回目の 2 倍ぐらいになった。
⑶ 総合的新たな発話量(図 6-11):
1 各カテゴリーで、ゲームと自由会話中を含む合計の単語数と、以前発話し た単語数の比較
三回目では、同じクロスワードゲーム用紙に利用した単語について、会話中 に、異なる考えが出る可能性がある。そこで、表示するように、三回のゲーム 中と自由会話中の合計発話量、以前に重複した単語量について、新たな利用し た単語数計算をした。
緑色の数:一回目より、新たな利用した単語数。
青い色の数:一回・二回より、新たな利用した単語数。
Ⅱ回数により、発話した単語数の変化(図 6-12):
図 6-11 カテゴリーによる新たな総合発話量(健)