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第 3 章 オートフォーカス処理のロバスト性向上技術 19

3.5 評価実験

3.5.1 擬似画像を用いた合焦位置の算出精度

画像SNRに対する合焦位置算出精度についてシミュレーション評価を行った。

ここでは、まず焦点深度と焦点測度の関係を評価し、次に、焦点測度の算出誤 差と合焦位置の算出誤差の関係について評価し、焦点深度内の精度で合焦位置 を算出するのに必要な焦点測度の算出精度を評価した。最後に画像SNRと焦点 測度の算出誤差の関係について評価した。

まず,焦点深度と焦点測度の関係を評価した。焦点深度は焦点位置の変化に よる画像のぼやけが目視において認識できない範囲である。本研究においては、

画像ぼやけをガウシアンフィルタの重畳と仮定し,標準偏差が0.5画素のガウシ アンフィルタ重畳に相当するぼやけは焦点深度以内とした。画像ぼやけに対す る焦点測度の変化を定量化するため,ガウシアンフィルタを重畳した際の焦点 測度の比率を数値計算により算出した。具体的にはバンドパスフィルタにガウ シアンフィルタを重畳した際に透過するパワースペクトルの比率を算出してお り、これは全周波数で同じ強度を持つ画像(白色雑音)における焦点測度変化率 を表している。実画像においては周波数成分に偏りがあるため誤差が生じるが、

多数の画像における平均的な比率として利用可能である。評価結果を図3.6に 示す。

㻜㻚㻤㻜 㻜㻚㻤㻡 㻜㻚㻥㻜 㻜㻚㻥㻡 㻝㻚㻜㻜 㻝㻚㻜㻡

㻜㻚㻜 㻜㻚㻞 㻜㻚㻠 㻜㻚㻢 㻜㻚㻤 㻝㻚㻜

0.99 0.97

䜺䜴䝅䜰䞁䝣䜱䝹䝍䛾ᶆ‽೫ᕪ 䠄䜌䛛䛧㔞䠅[Pixel]

↔Ⅼ ᗘẚ⋡

㧗࿘Ἴഃ䝣䜱䝹䝍 ప࿘Ἴഃ䝣䜱䝹䝍

図 3.6: 画像ぼかし量に対する焦点測度分布の低下率

25

評価結果から、0.5画素以上のぼやけが生じるならば、開発した高周波側フィ ルタで算出した焦点測度は3%以上低下することがわかる。この対偶より、焦点 測度の低下が3%未満ならば0.5画素未満のぼやけであり、焦点深度以内と言え る。高周波側フィルタにより算出した焦点測度分布が標準偏差σHighp のガウス分 布である場合、exp((0.2472)/2) = 0.97より、±0.247σpHighが焦点深度内となる。

同様に低周波側フィルタでは焦点測度の低下が1%以内の未満であれば焦点深度 内と言える。低周波側フィルタにより算出した焦点測度分布が標準偏差σpLowの ガウス分布である場合、exp((0.1422)/2) = 0.99より、±0.142σpLowが焦点深度内 となる。

次に、焦点測度の算出ばらつきと合焦位置の算出誤差の関係について評価し た。本評価では、擬似的な焦点測度カーブζi (i = 0, ...,10)を式(3.5)に示すモ デルにより作成し評価に用いた。pは合焦位置を表すパラメータ、εζi は焦点測 度の算出誤差を表す離散的な確率変数であり、平均µζ、標準偏差σζの正規分布 Nζ, σζ)に従うものとする。

ζj(i) = exp (

(i−p)22p

) +εζi εζi ∼ Nζ, σζ)

(3.5)

図3.7に生成した擬似的な焦点測度分布に対するモデルフィッティング結果を 示す。焦点測度算出誤差の大きさσζが小さい場合には、精度高く合焦位置を算 出可能である(図3.7(a))のに対し、σζが大きくなるとモデルフィッティングによ り算出した合焦位置には誤差perrが生じる。各σζについて、10,000個の焦点測 度カーブζj(i) (j = 0, ...,9999)を生成し、焦位置算出誤差perrのばらつきσperr

評価した(式(3.6))。結果を図3.8に示す。なお、3シグマ分の大きさを考慮する

ため、図中の横軸・縦軸の値はともに3倍している。

㻜㻚㻞 㻜㻚㻠 㻜㻚㻢 㻜㻚㻤 㻝㻚㻞

㻥 㻝㻜

㻜㻚㻜 㻜㻚㻞 㻜㻚㻠 㻜㻚㻢 㻜㻚㻤 㻝㻚㻜 㻝㻚㻞

㻥 㻝㻜

↔Ⅼ఩⨨䜲䞁䝕䝑䜽䝇i ↔Ⅼ఩⨨䜲䞁䝕䝑䜽䝇i

↔Ⅼ ᗘ ↔Ⅼ ᗘ

(a)ıȗ= 0.001 (b)ıȗ= 0.1

㻜㻚㻜 㻜㻚㻞 㻜㻚㻠 㻜㻚㻢 㻜㻚㻤 㻝㻚㻜 㻝㻚㻞

㻥 㻝㻜

perr

↔Ⅼ ᗘȗ (i) 䝰䝕䝹䝣䜱䝑䝔䜱䞁䜾⤖ᯝ

図 3.7: 擬似的な焦点測度分布に対するモデルフィッティング結果(p= 0.5, µζ = 0.2, σp = 1.0)

26

σperr = vu ut 1

Nζ

Nζ1 j

(

pjerr 1 Nζ

k

pkerr )2

, Nζ = 10000 (3.6)

↔Ⅼ ᗘ䛾⟬ฟㄗᕪ(3ıȗ)

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50

0 0.1 0.2 0.3 0.4

0.247

0.24 0.142

0.15

(3ı)perr

図 3.8: 焦点測度算出誤差σζと合焦位置算出精度σperr の関係

前述のとおり、高周波側フィルタ・低周波側フィルタを用いた場合の焦点深度 はそれぞれ、±0.247σpHigh±0.142σpLowである。合焦位置の算出ばらつきを焦点

深度±0.247σpHighに含めるためには、高周波側フィルタを用いた際の焦点測度算

出の誤差σζを0.24以内に抑える必要があることがわかる。同様に、低周波側フィ ルタでは焦点測度算出の誤差σζを0.15以内に抑える必要があることがわかる。

次に、画像SNRと焦点測度の算出誤差σζの関係について評価した。周波数お よびノイズ量が既知の画像を用いるため、本評価では式(3.7)により擬似的な画 像IP(x, y), IB(x, y)を生成し、評価に用いた。IP(x, y)は合焦画像を模擬したも

の、IB(x, y)は焦点振り幅の開始(終了)位置で撮像した非合焦画像を模擬したノ

イズ画像である。なお、Qは画像幅W を用いて正規化した周波数(Q = 周波数W )、 εIはショットノイズ成分である。本来、SEMのショットノイズはポアソン分布に 従うが、簡略化のため平均0.5、標準偏差σIの正規分布N(0.5, σI)に従うものと した。生成した画像IP(x, y)の例を図3.9に示す。

IP(x, y) = S

2 cos(2πQx) +εI IB(x, y) = εI

εI ∼ N(0.5, σI)

(3.7)

0.5

⏬ീᖜW㻔㻡㻝㻞㻕

S

⏬ീ

㧗䛥H 㻔㻞㻡㻢㻕

1.0

1 / Q

x

⃰ῐ

図 3.9: 評価用模擬画像の例(Q= 0.01, σI = 0.0)

画像SNRおよび周波数Qが異なる擬似画像を用いて、焦点測度の算出誤差σF を評価した。画像SNRはS/σIとする。なお、本評価ではS = 128の固定とし、

σIを変化させることでSNRを変化させた。また、評価に用いた擬似画像の枚数

NIは1,000枚とした。焦点測度の算出誤差は式(3.8)により求める。ただし、FP

およびFBは算出した焦点測度の平均値であり、式(3.9)により算出する。この うち、FBはノイズ画像から算出される焦点測度の平均値であり、焦点測度分布 のオフセット成分(式(3.5)におけるµζ)に対応する。焦点測度分布の高さを1と したときの算出誤差を求めるため、(FP − FB)で正規化を行っている。

画像シミュレーションにより求めた焦点測度の算出誤差σFと、前述の擬似的 な焦点測度分布に与えたσζを比較することで、焦点深度以内となる画像条件を 明らかにすることが可能となる。

σF = 1

FP − FB vu ut 1

NI

NI1 k=0

(

FM(IkP)− FP)2

(3.8)













FP = 1 NI

NI1 k=0

FM(IkP)

FB = 1 NI

NI1 k=0

FM(IkB)

(3.9)

評価結果を表3.1に示す。焦点深度以内となっている条件(0.24および0.15以 内)をハッチングで示している。以上示した結果より,低周波側フィルタと高周 波フィルタを組み合わせることにより,画像SNRが1.5以上あれば周波数Q

0.01〜0.08の範囲で焦点深度以内の合焦位置を算出可能である。対応周波数の

妥当性に関して述べる。先端プロセスで製造される線幅10nm、ピッチが20 nm 28

の回路パターンを観察するためには撮像倍率として200k〜500k程度が利用され る。この場合、画像上のピッチは約15〜38画素となり、周波数Qは約0.07〜0.03 となる。よって,周波数Qは0.01〜0.08までカバーすれば先端プロセスによる微 細回路パターンに対して十分に対応可能である。

表 3.1: 画像SNRおよび周波数Qに対する焦点測度の算出誤差σF の評価結果 Q[cycle/pixel]

0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.10

SNR

0.5 0.169 0.039 0.041 0.059 0.458 1.000 1.000 1.000 1.000 1.000 1.0 0.061 0.019 0.023 0.025 0.135 1.000 1.000 1.000 1.000 1.000 1.5 0.038 0.013 0.015 0.016 0.075 1.000 1.000 0.693 1.000 1.000 2.0 0.029 0.010 0.012 0.012 0.051 1.000 1.000 0.459 1.000 1.000 2.5 0.024 0.009 0.009 0.010 0.040 1.000 0.953 0.282 0.849 1.000 3.0 0.020 0.007 0.008 0.009 0.035 1.000 0.712 0.216 0.644 1.000 3.5 0.016 0.006 0.007 0.008 0.031 1.000 0.530 0.172 0.486 1.000 4.0 0.016 0.006 0.006 0.008 0.028 1.000 0.423 0.143 0.378 1.000

Q [cycle/pixel]

0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.10

SNR

0.5 1.000 0.147 0.054 0.041 0.039 0.048 0.086 0.231 1.000 1.000 1.0 0.318 0.046 0.021 0.016 0.016 0.020 0.033 0.073 0.333 1.000 1.5 0.166 0.027 0.013 0.011 0.011 0.013 0.022 0.040 0.159 1.000 2.0 0.104 0.020 0.009 0.008 0.008 0.010 0.018 0.026 0.094 1.000 2.5 0.076 0.016 0.007 0.007 0.006 0.008 0.013 0.018 0.070 0.740 3.0 0.055 0.013 0.006 0.005 0.005 0.007 0.011 0.015 0.054 0.522 3.5 0.047 0.012 0.005 0.005 0.003 0.006 0.010 0.011 0.043 0.394 4.0 0.040 0.010 0.005 0.005 0.003 0.006 0.009 0.011 0.035 0.300

(a)ఁबഀଈϓΡϩν

(b)߶बഀଈϓΡϩν

3.5.2SEM画像を用いた合焦位置算出の成功率

焦点測度カーブの算出結果例を図3.10に示す。(a)は回路パターンの形成密度 が疎な領域に対する結果であり、2つのバンドパスフィルタ両方によりピークが 得られている。(b)は回路パターンの形成密度が密な領域に対する結果であり、

高周波側フィルタのみにおいてピークが得られている。この画像は周波数Qが およそ0.06となる画像であり、シミュレーション実験結果(表3.1)からも低周波 側フィルタでは焦点測度を安定に算出できないことがわかる。(c)は低コントラ スト欠陥の例として膜下欠陥を対象とした結果であり、低周波側フィルタのみ においてピークが得られている。

ピークが得られないフィルタについては回路パターンもしくは欠陥の陰影で はなく、他のノイズ成分に反応していると言える。仮に、2つのバンドパスフィ ルタの周波数特性を1つのフィルタでカバーするようにした場合、回路パター ンや欠陥の陰影とノイズ成分の分離性が低下する。2つのバンドパスフィルタを

䝰䝕䝹䝣䜱䝑䝔䜱䞁䜾⤖ᯝ

↔Ⅼ ᗘ

ప࿘Ἴഃ 㧗࿘Ἴഃ

䝞䞁䝗䝟䝇䝣䜱䝹䝍

↔Ⅼ ᗘ

↔Ⅼ ᗘ ↔Ⅼ ᗘ

↔Ⅼ఩⨨

↔Ⅼ఩⨨ ↔Ⅼ఩⨨

㻔㼏㻕㻌ᅇ㊰䝟䝍䞊䞁䛺䛧㡿ᇦୖ䛾 䝇䜽䝷䝑䝏Ḟ㝗 㻔㼍㻕㻌␯䛺ᅇ㊰䝟䝍䞊䞁㡿ᇦ

㻔Q§ 0.01㻕

㻔㼎㻕㻌ᐦ䛺ᅇ㊰䝟䝍䞊䞁㡿ᇦ 㻔Q§ 0.06㻕

図 3.10: 実SEM画像から算出した焦点測度分布の例

用いて区分的に焦点測度を算出することにより、ノイズに対するロバスト性が 向上していると考えられる。

次に、回路パターン領域の45画像、回路パターンなし領域の23画像、計68 画像を用いて合焦位置算出成功率を評価した。結果を表3.2に示す。複数のバン ドパスフィルタを用いることにより、高周波側フィルタのみを用いた場合と比較 して成功率が60.3→95.6%に向上した。失敗した事例はいずれも画像SNRが1.5 未満、周波数成分Qは約0.01の画像であり、シミュレーション実験結果(表3.1) とも一致する。この場合、画像SNRが向上するように画像取得条件を変更(例 えば加算フレーム数を高くする)してリトライする必要がある。以上、2つのバ ンドパスフィルタを用いることで実画像において合焦位置をロバストに算出可 能となることがわかった。また、失敗事例に関してシミュレーション実験と一致 していることを確認した。

表 3.2: 合焦位置算出の成功率

# 画像種類 評価数 成功率 %

高周波側フィルタのみ フィルタ併用 1 回路パターン領域 45 84.4 100.0 2 回路パターンなし領域 23 13.0 87.0

Total 68 60.3 95.6

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