要な資料であるため、現在実施されている観測要領を気象庁の観測指針から抜粋して記載す る(3 節)。
海氷観測では、海氷の種類等の分類は
1970年(2014 年に改訂)に世界気象機関
WMO (World Meteorological Organization)によって刊行された海氷用語集に準拠する。従って、
WMOが定めた海氷用語について
4節に、代表的な写真例を
5節にまとめて掲載した。
2
船上海氷観測
2-1.概説
船上海氷観測においては、船舶が海氷域を航行中に定時に船舶から海氷の状態を目視で観 測するものが重要な役割を果たす。海氷密接度、氷盤の大きさ、氷厚や積雪深などの氷況デ ータを国際的に標準化されたコードに従い記録する。船舶航路に沿った広域の氷況にかかわ る情報を提供して船舶の安全航行に資するのみならず、衛星等のリモートセンシングデータ の検証データとしても用いられる。さらに、長期間にわたって記録された資料の統計は各海 氷域間の氷況特性の相互比較あるいは気候変動の基礎資料として有用な情報を提供する。
これまで南極海氷域の船上海氷観測に関しては、
1997年に南極研究科学委員会
Scientific Committee on Antarctic Research (SCAR)が設立した
Antarctic Sea Ice Processes and Climate (ASPeCt)計画により観測プロトコルが確立した
(http://aspect.antarctica.gov.au/)。これは観測手 法を指南するのみならず、従来南極海の様々な海域で様々な様式で記録されてきた氷況の記 録を統合するのも一つの重要な目的であった。観測プロトコルは基本的には世界気象機関
海洋観測ガイドライン Vol. 7 Chap. 5 海氷 ©豊田威信2018 G705JPr1:001-043
G705JPr1-2
World Meteorological Organization (WMO)
が
1970年(
2014年に改訂)に刊行した海氷用語(
4節)を基本としており、分類した各々の氷種に対して氷厚、氷盤の大きさ、表面起伏、積雪 の種類と厚さを記録するように定めている。観測マニュアルは
Worby and Allison (1999)にま とめられており、ここでは観測に必要な箇所を抜粋して翻訳したものを
2-2節と
2-3節に掲載 する。観測種目の中でもとりわけ氷厚推定に重点が置かれており、観測者は基本的には平坦 氷の氷厚を観測し、リッジ氷の氷厚は簡易なリッジモデルを用いて表面起伏データから推定 して氷盤の平均氷厚を見積もるのが特徴である(2-3-3 節)。氷種別にあらかじめ定めたアル ベドを用いて各氷種の占める面積比率から海氷域全体のアルベドを推定するのも利用方法の 一つである(
2-3-4節)。一年氷であれば海氷の形態には共通点が多いことから、南極海氷域 に限らずオホーツク海など様々な季節海氷域で適用可能な観測手法と考えられる。日本南極 地域観測隊(
Japanese Antarctic Research Expedition)用に簡略した形式も大島ら
(2006)によっ て提唱されている。
一方、北極海氷域に関しては、海氷観測の歴史が南極域よりも長く、様々な機関がそれぞ れに定めた様式で氷況を記録してきた経緯があるため、却って標準化された観測プロトコル を確立するのが容易でない状況にあった(Worby and Eicken, 2009)。しかしながら、近年北 極海の氷況の急激な変化に伴い、現場における観測ネットワークを構築することへの期待と 観測手法の標準化への関心が高まりつつある。この機運に応じて
2008年、世界気候研究計画
World Climate Research Programme (WCRP)の主要プロジェクトである気候と雪氷圏計画
Climate and Cryosphere (CliC)
は北極海氷ワーキンググループを立ち上げ、標準化された観測
プロトコルを確立しつつある。 基本的には南極海氷向けに確立された
ASPeCtに準拠したもの であるが、いくつか北極海氷向けに観測項目が追加されている。北極海氷と南極海氷の主要 な違いは融解期の表面形態、セディメントの含有量などが挙げられる。北極海氷は南極海氷 と異なり表面融解が盛んであり、融解期には表面に多くのメルトポンド(パドル)が発達す る。メルトポンドは季節とともに進展し表面熱収支に及ぼす影響が大きいため、新たなコー ドが設けられている。また、水深が
30 m以下の比較的浅い海域で成長する海氷が多く、高濃 度のセディメントを含有する海氷も時折見られる。このため、セディメントに関する観測コ ードも設けられている。その他、海洋生物に関する項目が設けられているのも特徴の一つで あ る 。 観 測 プ ロ ト コ ル に 関 す る 詳 細 は ウ ェ ブ サ イ ト
(https://sites.google.com/a/alaska.edu/ice-watch/)を参照されたい。
なお、目視観測のほかにも船舶搭載型の氷厚センサーとして、1990 年代後半から電磁誘 導(electromagnetic induction、略して
EM)法が多くの砕氷船で用いられるようになった。センサー部は両端に各々送信コイルと受信コイルを持つ約
4 m長の円筒状の装置であり、船体 から十分放してセンサー部を水平になるように保ちながら走行して計測する(図
1)。装置 の片端の送信コイルから発信された電磁場によって海水―海氷境界面(海氷底面)に渦電流 が誘導され、この渦電流によって生じた二次磁場の強度をもう一方の受信コイルで測定する ことにより装置から海氷底面までの距離が見積もられる。同時にレーザー距離計により装置 と海氷表面までの距離を測定して両者の差を取ることにより、海氷厚を推定するという手法 である。平坦氷もリッジ氷も区別なく比較的厚い氷も含めて連続的に測定できる点に特長が ある。航路選択によるバイアスを考慮する必要があるものの、この手法により船舶は走行し ながら広域の氷厚分布を定量的に把握することが可能となった。南極海およびオホーツク海
海洋観測ガイドライン Vol. 7 Chap. 5 海氷 ©豊田威信2018 G705JPr1:001-043
G705JPr1-3
に適用された観測の詳細については
Haas (1998)と
Uto et al. (2006)を参照されたい。ほぼ定 まった航路上で継続的に観測を実施できれば気候変動の監視に有用な基礎資料となることが 期待される。
図1.ドイツ砕氷船”Polarstern”に搭載されたEMセンサーの模式図(Haas (1998)より引用)
2-2.
観測の手法(南極海氷域、
Worby and Allison (1999)より。ゴシック体小文字は訳注。)
標準的には観測者は船橋から毎正時に観測を行う。船舶を中心とする半径約
1 kmの領域 を対象として氷厚に応じて
3つの主要なカテゴリーに分類し、船舶の位置、全体海氷密接度、
それに各々のカテゴリーに属する海氷の部分海氷密接度、氷厚、氷盤の大きさ、表面起伏、
積雪の見積もりを行う。
3つの主要な海氷カテゴリーへの分類は面積を基準に定められるが、
最大の氷厚をもつカテゴリーが「主要氷種(
primary ice type)」と定義される。カテゴリーが 一種類か二種類しか存在しない場合もあり得るが、この場合には主要氷種、あるいは主要氷 種と第二氷種(
secondary ice type)のみを定める。観測結果は
WMO (1970)の海氷用語に基づ き、特に南極域の海氷を意図して作成された観測シートに記入される。
観測シート(空欄)の見本は表1に、観測コードの一覧表は表2に掲載した。
2-2-1.海氷密接度(c)
全体海氷密接度はあらゆる種類の海氷で覆われた面積全体を見積もった量であり、対象領 域に対する比率として十分位数で表され
0から
10までの整数で記録される。ごく僅かのクラ ックが存在する非常に高い海氷密接度(
95-99%)の場合には全体海氷密接度は
10と記録さ れるべきであり、開水面の形態コードを
1(
small cracks)に分類することにより、完全に海氷 に覆われた領域(開水面の形態コードは
0: no openings)と識別される。3つの主要なカテゴ リー各々の海氷密接度の見積もりも同様に行う。これらもまた面積比率を十分位数で表し、
3つの部分海氷密接度の合計は全体海氷密接度と等しくならねばならない。時おり海氷域内に 多くの海氷の種類が存在して
3つのカテゴリーに分類することが困難な場合もあるが、この 場合には代表性を確保しながらいくつかのカテゴリーをひとまとめにする必要がある。
2-2-2.海氷の種類(ty)
様々な海氷の種類のカテゴリーが、観測記録に用いるコードと併せて表
2に示されてある。
海洋観測ガイドライン Vol. 7 Chap. 5 海氷 ©豊田威信2018 G705JPr1:001-043
G705JPr1-4
海氷のカテゴリーは
WMO (1970)の海氷分類に基づいている。およそ
0.1mよりも厚い一年氷 は氷厚に応じて薄い板状軟氷(
young grey ice 0.1-0.15 m)、並の一年氷(
first year ice 0.7-1.2 m) などと分類される。一方、
0.1 mよりも薄い氷は一般に種類によって晶氷(
frazil ice)、スポ
ンジ氷(
shuga)、グリースアイス(
grease ice)、ニラス(
nilas)などと分類される。多年氷
についてはただ一つのカテゴリーとしている。その他に砕け氷(
brash ice)のカテゴリーもあ る。これはうねりの影響を受ける領域、リッジ
が崩壊する領域の氷盤間でよく見られる氷で ある。
2-2-3.氷厚(z)
氷厚は
3つの主要な氷種の各々に対して見
ドキュメント内
Underway 日本海洋学会 — The Oceanographic Society of Japan
(ページ 177-180)