第4章 職員人事異動
30. 計算物質科学人材育成コンソーシアム
【本年度の主要成果】
芝特任助教: 2次元粒子系を急冷してガラス転移に近づけた際に見られる粘弾性特性についてのシミ ュレーションを行い,新たな知見が得られた.深く過冷却した 2 次元ガラス形成液体ではフォノン 熱振動振幅が発散する異常性が前年度までに判明していたが,さらに流体力学的ゆらぎに由来する 拡散係数の発散が 2 次元ガラス転移点まで残ることを実証した.また、これらの長波長ゆらぎの効 果を取り除いて局所密度を定義すると、Vogel-Fulcher の経験則に表される動力学の緩慢化を表現す る緩和時間を再定義できることがわかった.以上の結果は論文として投稿中である.
山崎特任助教:DNA塩基モデル分子カフェインにフェムト秒極端紫外パルスを照射した場合の無輻射 失活過程について,リヨン第1大学のFranck Lepine博士らと共同研究を行った.その結果,カフェ イン分子は,1価のRydberg状態へと励起された後,100状態以上の電子状態を経由する超多段階無 輻射失活過程を経由して時定数40 fs程度で緩和していくことを明らかにした.[1]
寺田コーディネーター:計算物質科学(以下,CMS)の知識や成果とヒューマンスキルを能動的学習 によって同時に学ぶ短期融合研修プログラム(対象:CMS分野の博士課程学生や若手研究者などの 博士人材)の開発を進めている.そのモデルケースであるPCoMS合宿セミナー2018の事後アンケ ートなどの解析を行い,プログラムの有効性を検証した.その結果,グループ課題討論などの能動 的学習では,参加者は課題を難しいと感じても満足度や学習効果が高いことを明らかにした.また,
日本国内のCMS分野の博士人材数の定量的な調査研究を開始した.[2]
参考文献
[1] A. Marciniak, K. Yamazaki, F. Lepine et al., J. Phys. Chem. Lett. vol. 9, pp. 9627-6933 (2018), 関連 招待講演4件]
[2] 寺田 弥生,毛利 哲夫,日本金属学会2019年春期講演大会,日本の過去50年の計算物質科学
分野の博士号取得者数の経年変化とその教育的・社会的要因に関する考察 (2019).
【今後の研究計画】
芝特任助教:イオン液体機能性材料の計算材料科学研究を継続して実施する.機能性材料としてのイ オン液体の物性評価には,数十ナノメートル,ナノ秒のスケールで現れる時空階層的なゆらぎと動 力学が鍵となる.今年度は,アルキルイミダゾリウム系イオン液体における拡散係数や粘度など輸 送特性の分子論的発現メカニズムの解明と新材料開拓の研究を引き続き実施する.また,カーボン 系多孔質電極による電位勾配下に置かれたイオン液体の導電性およびキャパシタンスを明らかにす るシミュレーションを実施する.
山崎特任助教: バイオ分子の無輻射失活過程に関する理論研究に加えて,超短極端紫外・X線パルスを 用いた,ナノバイオ分子・固体材料の光化学反応動力学の理論研究と反応イメージングへの応用を 実験グループと緊密に連携しながら進める.また,金属イオン交換ゼオライトを触媒とするメタン 活性化機構を量子化学計算に基づいて解明し,より効率の良いメタン転換を行える触媒を設計する.
寺田コーディネーター:これまでの調査研究の成果,及び最新のCMSと高等教育学の知見に基づき,
短期融合研修プログラムの開発を進める.また,研究中心大学とそれ以外の大学群に適した研修プ ログラムを開発するために,CMS博士数の推移の傾向がそれぞれの大学群で異なる原因の解明を進 める.
31
. 量子エネルギー材料科学国際研究センター
センター長・教授(兼)
永井 康介
【構成員】
センター長・教授(兼):永井 康介/准教授:外山 健、吉田 健太/特任准教授:小無 健司/助教:仲村 愛、清水 悠 晴/助手:海老澤 直樹/技術職員:山崎 正徳、渡部 信、阿部 千景、鈴木 克弥/事務係長:山口 教光/事務職員:
神野 祐太/学術研究員[2名]/事務補佐員[8名]
---
教授(アルファ放射体実験室・室長):笠田 竜太(〜2018.11.30)/講師(アルファ放射体実験室・室長):白崎 謙次
(2018.12.1〜)/技術職員:白崎 謙次(〜2018.11.30)、永井 満家/技術補佐員[1名]/研究支援者[1名]
【研究目標】
本センターは、材料試験炉JMTRや高速実験炉「常陽」等の研究用原子炉を利用した材料・燃料研 究の全国共同利用施設として1969年に開設され、軽水炉材料の健全性の研究や先進原子炉・核融合炉 材料開発の研究、放射性廃棄物の分離・処分・再処理を念頭に置いたアクチノイド科学の研究や5f電 子を有するアクチノイド系新物質・新材料の探索研究、新型核燃料開発の研究、放射化分析など、幅 広い材料研究を進めることを目標としている。最近は、海外の研究用原子炉と学術協定を結び JMTR を代替する中性子照射実験を行うとともに、人材交流、試料や関連技術の交換などにも取り組んでお り、さらなる国際化を進めている。これより、世界的にも有数なホットラボと先端分析/物性計測/材料 創製能力を兼ね備えた本センターの特徴ある設備を活かした最新の材料研究拠点としての役割を強化 しようとしている。また、大学院生を中心とした原子力材料の夏の学校や放射性廃棄物分離/処分の冬 の学校、高専生のインターンシップなど、人材育成への貢献も目標の一つである。
【本年度の主要成果】
○原子炉を用いた材料照射研究
ベルギー原子力研究所(SCK/CEN)との研究協力を進め、MICADOプロジェクトとして加圧水型炉タイプ 照射リグおよび低温低フラックス照射リグを設計し作製した。また、大洗研究会を主催し、ほぼ全て の国内の照射関連研究者や文部科学省の出席を得て、材料照射研究に関する議論を行った。
○原子力材料研究
陽電子消滅・3次元アトムプローブ・透過型電子顕微鏡などによるミクロ組織分析を進展させた。
原子炉圧力容器鋼では、微小転位ループを従来よりも大幅に広い観察領域で高分解能で観察したこと により、微小転位ループは従来考えられていたよりも大きく照射脆化に寄与することを示し、圧力容 器鋼の照射脆化メカニズムを明らかにした(
Ref. 1
)。核融合炉材料では、核融合科学研究所との共同 研究をさらに進め、放射線管理区域内に整備された小型プラズマ装置付昇温脱離装置の共同利用を推 進した。これにより、タングステン中の水素同位体挙動を明らかにした。○アクチノイド研究
アクチノイド化合物の基礎物性研究を主軸とした試料作成および評価のための機器の整備が格段に 進み、国内の共同利用研究者のみならず海外の研究者の利用実績も増加傾向にある。純良な試料を作 成できる環境が整っており、育成された純良な単結晶試料を用いた研究が多数行われている( 例えば
Ref. 2, 3
)。2018年度はもっとも利用頻度の高い装置の一つである磁気特性測定システムを更新し、育成したアクチノイドや希土類化合物の磁気測定をより精密かつ迅速に行えるようになった。研究面 では新たに発見されたウラン化合物新奇超伝導体 UTe2 の純良単結晶を化学気相成長法により作成し、
詳細な電子状態の研究を行っている。
○人材育成
大洗原子力夏の学校(平成30年8月6日-8月10日、受講生:19名)、高等専門学校学生原子力イ ンターンシップ(平成30年8月27日-8月31日、受講生:10名)を実施した。また、文部科学省の
「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」として「放射性廃棄物処理・処分における分離・分析に 関する教育」を実施した。本課題では、平成31年1月21日-25日に24名の大学生及び大学院生等を 対象に、一般の原子力発電所や東京電力福島第一原子力発電所で対応が必要となる放射性廃棄物の処 理・処分に焦点を当てた講習及び実習を実施した。
参考文献
1 ) M. Shimodaira, T. Toyama, K. Yoshida, K. Inoue, N. Ebisawa, K. Tomura, T. Yoshiie, M. J.
Konstantinovic, R. Gerard and Y. Nagai, Acta Mater. 155, 402 (2018).
2 ) W. Iha, T. Yara, Y. Ashitomi, M. Kakihana, T. Takeuchi, F. Honda, A. Nakamura, D. Aoki, J. Gouchi, Y. Uwatoko, T. Kida, T. Tahara, M. Hagiwara, Y. Haga, M. Hedo, T. Nakama, and Y. Onuki, Journal of the Physical Society of Japan, 87, 064706 (2018).
3 ) Y. J. Sato, A. Nakamura, Y. Shimizu, A. Maurya, Y. Homma, D. Li, F. Honda, and D. Aoki, Journal of the Physical Society of Japan 87, 053704 (2018).
【今後の研究計画】
原子炉利用では、常陽の再稼働に向けた準備を行い、照射キャプセルの概念設計や熱計算などを検 討する。海外原子炉の利用では、原子炉国際ネットワークの構築とその中での特徴的な役割分担が重 要であることをふまえ、国際原子力機関などの国際機関との連携、各地域における拠点との連携強化 を継続する。具体的には、ベルギー原子力研究所の BR2 を利用して加圧水型炉条件照射、多段多分割 照射、低温低フラックス照射などを行う。
照射後試験研究では、当センターに整備されたミクロ組織解析装置(透過型電子顕微鏡、3次元ア トムプローブ、陽電子消滅法、昇温脱離測定など)や機械的試験装置を共同利用研究に引き続き提供 し、軽水炉・次世代炉・核融合炉の関連材料における照射効果を調べる。また、過去にJMTRや常陽で 照射された試料を共同利用研究に引き続き提供する。
アクチノイド化合物の物性研究では、テトラアーク炉によるチョクラルスキールスキー法、フラッ クス法、ブリッジマン法、化学輸送法などを駆使して、主にウランおよびトリウム化合物の純良単結 晶を育成する。希釈冷凍機や断熱消磁法により極低温、さらに必要に応じて高磁場や超高圧での多重 極限下での物性測定を行う。また、ドハース・ファンアルフェン効果、核磁気共鳴、メスバウアー分 光等のミクロスコピックな測定技術を駆使して新物質、新奇超伝導体探索および電子状態の解明を進 める。
大学院生等を対象として長年に渡って夏期休暇期間に実施している「大洗原子力夏の学校」および
「高等専門学校学生原子力インターンシップ」を継続して実施する。また、「放射性廃棄物処理・処分 における分離・分析に関する教育」も継続して実施する。