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言語発達の遅れの指導事例と基礎知識

ドキュメント内 久保山.indd (ページ 108-130)

       Ⅰ.【指導事例 5】 言語発達の遅れの指導事例    

       Ⅱ.言語発達の遅れへの指導の基礎知識

Ⅰ.【指導事例5】言語発達の遅れの指導事例

個を大切にしたグループ指導によりコミュニケーションへの指導を行った事例

1.はじめに

 子どもたちは本来、仲間とのかかわりを通してものの見方を広げていきます。また、互いに学 び合い、自分と人との違いを受け入れ、協力し合うことを学びながら社会性を育てていきます。

通級児の中には、通常学級の中で友だちとうまくコミュニケーションがとれずに、トラブルをお こしたり、孤立したりする子どもたちもいます。コミュニケーションがうまくとれない原因とし ては、言語発達の遅れや社会性の未熟さ等が考えられます。そこで、グループ指導を行い、これ らの課題を解決していくこととしました。

2.対象となる児童の概要

 対象となったのは、学級集団の中で友だちとのトラブルが多い通級児2名(A児、B児)です。

2人とも男子で、A児は小学2年、B児は小学1年です。主訴が同じこと、年齢が近く仲間意識 を持ちやすいことなどを考えてグループにしました。ここでは、A児を中心に報告します。

(1)保護者からの主訴

 本教室の入級あたって、保護者は、以下のような希望を持っていました。

 ・コミュニケーションが上手になってほしい

 ・話を最後まで聞いて行動できるようになってほしい

 ・感情のコントロールができるようになって、落ち着いてほしい

(2)A児の実態

①家族構成

  父、母、本児(8歳)、弟(6歳)の 4 人家族です。

②幼児期

喃語が出た時期は、8か月、始語は1歳頃でした。二語文が出たのは2歳頃でした。

ことばの発達はゆっくりで、同年齢児に比べて遅く、多動が目立ち大変だったと母親は記憶して いました。

 3歳児から保育園に通いましたが、年少時は友だちを咬むなどのトラブルが頻繁にあったよう です。年中になると、咬むことはなくなりましたが、友だちが「嫌」と言っても止められず、し つこくするので、友だちとのトラブルは減りませんでした。

 3歳から、A市幼児通園教室でグループ指導や言語指導を受け、4歳にはA市福祉センターで 言語指導を受け、5歳からはB町幼児通園教室でグループ指導や言語指導を受けています。

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③在籍級での様子

 学習面では、細かいところまで注意を払わず、不注意な間違いをすることがよく見られます。

また、話が終わらないうちに出し抜けに答えてしまう様子も見られます。図鑑を見ることが好き ですが、音読は苦手です。読解は説明文は得意ですが、物語等は苦手です。図画工作や字を書く ことは苦手です。運動では、ドッチボールやサッカーは好きですが、縄跳びや鉄棒などは苦手です。

 学級では、やるべき事をしばしば忘れ、最後までやり遂げないために常に担任の声かけが必要 です。立ち歩きはしませんが、椅子や机で音をたてることがあります。片付けも苦手で、机の中 や周りには物が散乱しています。勝手なおしゃべりも目立ちます。言いたいことが伝わらなかっ たり、やりとりの中に割り込んでいったりするために、友だちとよくトラブルになります。また、

勝敗にこだわり、負けると怒りだすこともあります。

④家庭での様子

自分の興味のある事を優先して、家族の制止も聞かずにやり続けることがあります。また、や る事が乱暴で、弟とトラブルになることもよくあります。言いたい事を相手にわかるように伝え ることが難しく、約束をすぐ忘れてしまうようです。

⑤通級教室での実態把握

言語面:構音に誤りがありました(/r/ - /d/,/t/ - /k/ ,/s/)。 知的・学習面:本読みやひらがなや漢字を書くことが苦手なようでした。

 WISC-Ⅲ検査結果:VIQ:97、PIQ:94、FIQ:96(7歳7か月時)

 全般的な知的遅れはなく「平均」の域です。動作性検査では「組合せ」「積木模様」の項目が 高いことから視覚的情報の処理については得意であり、視覚情報処理能力は年齢相応です。言語 検査からは、言語力不足が見られ、社会的理解が低い傾向です。そのことから、行動上の問題の 背景には、想像力の欠如や他者の意向や感情を察知することの難しさに起因し、状況認知の弱さ が関係していると考えられます。

運動機能面:動きのバランスやコントロールすることが難しい様子です。

情緒的心理面:勝敗のこだわりが強く、ルールを守らなかったり、周囲を責めたりすることが見 られました。

社会性:みんなと一緒に活動しない行動が目立ちました 。

3.指導方針の立案

 A児の抱えている困難さを整理すると、不注意、不器用さ、協調運動の苦手さ、言語表現の未 熟さ、社会性の未熟さ等があると考えられます。一方、A児は視覚的認知が良好で、「友だちが ほしい」という気持ちや人への関心が高いという長所があります。友だちを求める気持ちはあっ ても、適切に接する方法が分からないために、孤立感を高めたり、友だちとのトラブルが生じた りするなど学級生活では大変苦戦しています。そこで、A児の抱えている課題の中で、まず社会 性を支えているソーシャルスキルの学習が必要ではないかと考えました。具体的には、次のよう なスキルです。

・相手の言っていることを最後まで聞き、意味内容を理解するスキル ・相手に自分の考えを伝えるスキル

 ・知りたいことを質問したり、聞かれたことに答えたりするスキル  ・相手とことばのやりとりをして結論を導くスキル

 ・日常のことばのやりとりをスムーズにこなすスキル

 以上のようなソーシャルスキルを学習する形態として、体験を通して習得するグループ指導が 最適と考えました。

(1)グループ指導のねらい

 指導の中では <モデルやスキルを提示→体験→成功 ( 褒める・認める ) > のプロセスを大 切にして、ソーシャルスキルの向上を目標にしながら、A児の個別課題である巧緻性・協調運動 を高め、語彙の不足や表現の苦手さ、そして読み書きの課題などの言語指導も取り入れていくよ うにします。

(2)グループ指導の留意点

①グループ構成と指導者について

 グループの構成メンバーは、主訴が同じであることや学年が近いなどの要素を加味し、1人1 人が生き生きと活動できるような構成とします。また、指導者は役割分担をし、進行役(T1)1 名、そして子ども1人1人に対応する指導者2名(T2・T3)とします。

②環境整備について

 姿勢保持の難しい子どもたちなので、椅子や机の高さに配慮します。また、気が散りやすく注 意がそれないように指導室を片付け、当日使用する教材も指導開始まで目につかないように配慮 します。

③指導の流れについて

 集中の短さを考慮し、前半は机上の活動として言語面の課題を中心に行い、後半は運動をとも なう活動、協調性に関する課題を行うことにします。

④ルールの理解について

 ルール理解の弱さや自分に都合の良いルールに変えてやりたがる状態に対して、ルール説明の 方法を工夫します。初めは単純化したルールでモデルを提示してから進め、そのルールが定着し た後で、子どもたちの考えを入れながら徐々に変化させ、段階的に発展させていきます。「ルー

【グループ指導を取り入れるポイント】

子どもは、友だちと一緒に活動することを通して自分の考えを話すこと、友だちの話を聞 くことを学んでいきます。そして、共通の課題(ゲーム)を順番を守りながら一緒に活動す ることによって、友だちの努力を褒めたり、認めたり、励ましたりしながら、友だちと協力 する・ルールを守る・工夫することも体験を通して学びます。

グループ指導を取り入れることで、ソーシャルスキルを学習することができます。

【グループ指導をすすめる上でのポイント】

グループ指導では、グループ構成員のそれぞれの課題や課題に即した指導内容等について、

指導者間で共通理解しておくことが大切です。

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ルに従えた」「楽しかった」という経験を大切に、参加意欲と自信を高めます。

⑤モデル提示・説明を工夫することについて 

 言語理解の弱さや注意集中時間の短さを考慮し、ルール説明や提示では、短く・具体的なこと ばを使います。モデルや絵・文字などの視覚的援助を行います。また、全体指示で理解できない 事は個別に指導していくようにします。

4.指導目標の立案

(1)長期目標

 ・コミュニケーションスキルを向上させ、より良い対人関係が保てる  ・「自分でできる」という自己肯定感を高め、自ら解決する力を育てる

(2)短期目標

 子どもたちの実態を考慮して、それぞれの子どもの目標を念頭におきながらグループの短期目 標を次のように設定しました。

①最後まで話しを聞き、簡単な内容 ( ルール ) を理解することができる

②ルールを守って活動することができる

③友だちや周りの人の良いところを取り入れることができる

④相手に質問したり、聞かれたことについて答えることができる

⑤動きのコントロールができる

⑥ひらがなを読んだり、書いたりができる

 グループの短期目標とA児の個別指導目標の関係を表5-1に示します。

表5-1 グループの短期目標とA児の個別指導目標の関係

グループ短期目標 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥

A 児 の 目 標

・最後まで話しを聞くことができる ○

(指導者の援助があれば)ルールを守って活動することができる ○

・友だちの様子を見ることができる ○ ○

・知りたいことを質問したり、聞かれたことに答えることができる ○ ○

・粗大運動で動きのコントロールができる ○

・音読ができる(分かち書き)

・ひらがなや漢字を書くことができる ○

【グループ活動の目標と個別の指導目標の設定のポイント】

子どもの個々の実態に応じて、グループ目標からより具体的かつ段階的な個別指導目 標を設定することが大切です。

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