オルソネイザル アロマ
2.1 緒 言
コ ー ヒ ー は 、 世 界 中 で 嗜 好 さ れ る 飲 料 で あ る 。 コ ー ヒ ー の 特 性 は コ ー ヒ ー の 産 地 、品 種 、等 級 、工 程( 例 え ば 、焙 煎 、抽 出 )、ミ ル ク や 砂 糖 添 加 の 有 無 に よ り 異 な る 。 こ の よ う に 、 様 々 な 要 因 が コ ー ヒ ー の 嗜 好 性 に 影 響 を 及 ぼ す 。
自 宅 や カ フ ェ シ ョ ッ プ で 淹 れ る レ ギ ュ ラ ー コ ー ヒ ー は 、 コ ー ヒ ー 本 来 の 香 り を 有 し て い る 。 一 方 、RTD コ ー ヒ ー は 、 手 軽 で 、 い つ で も 、 ど こ で も 簡 単 に 飲 む こ と が で き る と い う 利 点 を 有 す る 。 し か し 、RTD コ ー ヒ ー 製 造 に 必 須 で あ る 殺 菌 時 の 加 熱 あ る い は 保 存 に よ る 経 時 は 、 淹 れ た て の コ ー ヒ ー が 有 し て い る 香 り の 変 化 を も た ら す 要 因 と な っ て い る 。 ま た そ の こ と に 加 え 、 製 造 や 保 存 中 の 品 質 安 定 化 を 目 的 と し た RTD コ ー ヒ ー 製 造 工 程 に お け る pH 調 整 も 、 コ ー ヒ ー の 香 り を 変 化 さ せ る こ と が 知 ら れ て い る 。 そ の た め 、 淹 れ た て の コ ー ヒ ー が 有 す る 自 然 で 本 来 の 特 徴 的 な 香 り を も つ RTD コ ー ヒ ー を 作 る こ と は 非 常 に 難 し い 。(Kumazawa and Masuda, 2003a, 2003b; Murakami et al., 2010 ; 熊 沢 ら 、1998)
コ ー ヒ ー 本 来 の 香 り を 有 す る 理 想 的 な RTD コ ー ヒ ー を 開 発 、製 造 す る に は 、 製 造 工 程 に 起 因 す る 香 り を 変 化 さ せ て し ま う 要 因 を で き る だ け 減 ら す 工 夫 が 必 要 に な る 。 日 本 で は 、 微 生 物 リ ス ク を 減 じ て 保 存 性 を 高 め る レ ト ル ト 滅 菌 を 行 っ た 缶 入 り ミ ル ク コ ー ヒ ー が 、RTD コ ー ヒ ー の 約 68%を 占 め て い る(( 社 )全 国 清 涼 飲 料 工 業 会 、2015)。し か し 、 香 味 に 及 ぼ す レ ト ル ト 滅 菌 時 の 熱 の 影 響 が 大 き い た め 、 缶 飲 料 と い う 製 品 形 態 に よ っ て レ ギ ュ ラ ー コ ー ヒ ー 本 来 の 香 味 を 保 持 す る こ と は 非 常 に 難 し い 。 一 方 で 、UHT 殺 菌 製 品 は 、レ ト ル ト 製 品 に 比 べ て 熱 履 歴 が 小 さ い た め 、 コ ー ヒ ー 本 来 の 香 り を 減 じ る 要 素 が 少 な い と 言 え る
(Murakami et al., 2010)。さ ら に 、UHT 殺 菌 と 無 菌 充 填 を 組 み 合 わ せ た ア セ プ テ ィ ッ ク 製 品 は 、 レ ト ル ト 製 品 ほ ど で は な い も の の 製 品 の 賞
味 期 限 を 延 ば す こ と が で き 、 か つ レ ト ル ト 製 品 と 比 較 し て コ ー ヒ ー 本 来 の 香 り の 保 持 に 有 効 な 技 術 で あ る 。
ア セ プ テ ィ ッ ク 技 術 に よ る ミ ル ク 入 り コ ー ヒ ー 飲 料 の 製 造 は 、 次 の よ う な 工 程 か ら 成 っ て い る の が 一 般 的 で あ る 。
① コ ー ヒ ー 抽 出
② コ ー ヒ ー 抽 出 液 の pH 調 整
③ コ ー ヒ ー 抽 出 液 と ミ ル ク や 砂 糖 と の 調 合
④ 調 合 液 の UHT 殺 菌
⑤ 無 菌 充 填
こ こ で「 コ ー ヒ ー 抽 出 液 の pH 調 整 」と い う 工 程 が あ る が 、こ れ が 必 要 な 理 由 は 、 ブ ラ ッ ク コ ー ヒ ー ( ミ ル ク 無 し ) 飲 料 の 場 合 、 コ ー ヒ ー は 殺 菌 時 の 加 熱 に よ り 酸 が 増 加 す る の で 、 そ れ に よ っ て 発 生 す る 濁 り を 防 止 す る こ と が 目 的 で あ る 。一 方 、ミ ル ク 入 り コ ー ヒ ー 飲 料 の 場 合 は 、 弱 酸 性(pH 5~6)で あ る コ ー ヒ ー 抽 出 液 と 、ほ ぼ 中 性 で あ る ミ ル ク を 混 合 す る こ と に よ る 製 造 時 お よ び 製 品 保 存 時 の 乳 た ん ぱ く 質 の 凝 固 、 沈 殿 を 防 止 す る こ と が 目 的 で あ る 。 こ の 中 和 に は 、 食 品 添 加 物 で あ る 炭 酸 水 素 ナ ト リ ウ ム や 炭 酸 ナ ト リ ウ ム を 使 用 す る の が 一 般 的 で あ る
( 食 品 添 加 物 表 示 問 題 連 絡 会 ・ 日 本 食 品 添 加 物 協 会 共 編 、2012)。 し か し 、 コ ー ヒ ー 抽 出 液 の pH を 中 性 域 に 調 整 す る こ と の 弊 害 と し て 、 香 り が 弱 く 、 味 が 平 坦 な 製 品 に な っ て し ま う こ と が 経 験 的 に 知 ら れ て い る 。こ の こ と に つ い て は 、pH 調 整 が 匂 い 成 分 の リ リ ー ス に 及 ぼ す 影 響 や 熱 殺 菌 時 の 匂 い 成 分 の 安 定 性 に 及 ぼ す 影 響 に 関 す る デ ー タ が 報 告 さ れ て い る (Kumazawa and Masuda, 2003a, 2003b) が 、 コ ー ヒ ー 香 気 成 分 全 般 に つ い て の 詳 細 な 報 告 は な さ れ て い な い 。 こ の こ と か ら 、 コ ー ヒ ー 本 来 の 香 味 を 減 じ る こ と の 少 な い RTD ミ ル ク コ ー ヒ ー の 製 造 に つ い て 考 え る と 、 コ ー ヒ ー 抽 出 液 の pH 調 整 を せ ず に ミ ル ク と 混 合 し 、 殺 菌 で き る 製 造 方 法 が 理 想 的 で あ る 。
一 方 で 家 庭 や コ ー ヒ ー シ ョ ッ プ な ど で 提 供 さ れ る ホ ー ム メ イ ド ( 以 下 HMD)の ミ ル ク 入 り コ ー ヒ ー に は 、レ ギ ュ ラ ー コ ー ヒ ー の 抽 出 液 が 有 し て い る 本 来 の 香 り が 保 持 さ れ て い る 。 な ぜ な ら 、 こ の 作 製 過 程 で
は 、 コ ー ヒ ー の 香 り を 損 な う コ ー ヒ ー 抽 出 液 の pH 調 整 と そ の 後 の 殺 菌 と い う 工 程 が 行 わ れ て い な い か ら で あ る 。 こ の HMD 製 法 に よ る ミ ル ク 入 り コ ー ヒ ー の 香 味 を 提 供 す る こ と を 目 標 と し た RTD ミ ル ク コ ー ヒ ー の 製 造 方 法 と し て 、 コ ー ヒ ー 抽 出 液 の pH 調 整 を 行 わ ず に コ ー ヒ ー 抽 出 液 本 来 の 香 味 を 維 持 し 、 ミ ル ク と pH 未 調 整 の コ ー ヒ ー 抽 出 液 を 個 別 に 殺 菌 し 、 低 温 下 で 混 合 す る 殺 菌 後 混 合 ( 以 下 BAS) 製 法 を 考 案 し た (Morinaga Milk Industry Co., Ltd. 2006)。
加 え て 、こ の 方 法 に お い て 、製 品 の 香 味 変 化 を で き る だ け 小 さ く し 、 か つ 微 生 物 リ ス ク を 抑 制 し て 製 品 の 賞 味 期 限 を 長 く 設 定 す る た め の 殺 菌 方 法 が UHT 殺 菌 と な る 。UHT 殺 菌 に つ い て は 第 1 章 で 述 べ た 通 り に 幾 つ か の 方 法 が あ る が 、 牛 乳 や コ ー ヒ ー の よ う な 飲 料 製 品 の 殺 菌 に は 、 高 い 処 理 能 力 と 操 作 性 か ら PLT 殺 菌 を 用 い る の が 一 般 的 で あ る 。
本 研 究 の 目 的 は 、 無 菌 充 填 チ ル ド カ ッ プ ( 以 下 AC) に よ る RTD ミ ル ク コ ー ヒ ー 製 造 に お け る 理 想 的 な 工 程 を 開 発 し 、 そ の 評 価 を 行 う こ と に あ る 。 こ こ で い う AC 製 品 と は 、180‐240 mL の プ ラ ス チ ッ ク 製 の カ ッ プ に 入 っ た 製 品 で 、 飲 用 は ス ト ロ ー で 行 う も の と す る 。
香 り の 認 知 に は 第 1 章 で 述 べ た よ う に 二 つ の 経 路 が あ る 。 一 つ は オ ル ソ ネ イ ザ ル で 、 も う 一 つ は レ ト ロ ネ イ ザ ル で あ る 。 上 記 の よ う に ス ト ロ ー で 飲 用 す る 製 品 の 場 合 、 飲 料 は 直 接 口 腔 内 に 入 る の で 、 香 り の 認 知 の 主 体 は 鼻 腔 で 知 覚 す る レ ト ロ ネ イ ザ ル ア ロ マ に な る 。 レ ト ロ ネ イ ザ ル ア ロ マ の 測 定 に は 様 々 な 装 置( 小 竹, 2013, van Ruth et al., 1994;
Elmore and Langley, 1996)が あ る が 、口 腔 内 で の 咀 嚼 模 擬 装 置 の 一 つ と し て Roberts and Acree(1995) に よ っ て 開 発 さ れ た RAS は 、 レ ト ロ ネ イ ザ ル ア ロ マ に 相 当 す る 香 気 成 分(RAS 香 気 )を 捕 集 す る こ と が 可 能 で あ る (Deibler et al., 2001)。 コ ー ヒ ー 香 気 の GC-MS、GC-O 分 析 へ の RAS の 使 用 に は 次 の よ う な 例 が あ る 。
① コ ー ヒ ー の レ ト ロ ネ イ ザ ル ア ロ マ の GC-O 匂 い 特 性 と 官 能 特 性 の 関 係 (Michishita et al., 2010)
② ミ ル ク の 組 成 が コ ー ヒ ー の RAS 香 気 成 分 に 及 ぼ す 影 響(Akiyama et al., 2009, 2016)
③ 冷 蔵 保 存 時 に お け る AC コ ー ヒ ー の RAS 香 気 成 分 の 変 化
(Akiyama et al., 2014)
コ ー ヒ ー 本 来 の フ レ ー バ ー を 有 す る RTD ミ ル ク コ ー ヒ ー を 開 発 、製 造 す る た め に 、 本 研 究 で は 以 下 の こ と を 調 べ た 。
① pH 調 整 お よ び 加 熱 殺 菌 に よ る コ ー ヒ ー 抽 出 液 の RAS 香 気 成 分 全 般 の 変 化
② RTD ミ ル ク コ ー ヒ ー の 製 法 と し て 、 コ ー ヒ ー の pH 調 整 ( 中 和 ) を 必 要 と す る 一 般 的 な BBS 製 法( ミ ル ク と pH 調 整 し た コ ー ヒ ー を 混 合 し て 一 括 殺 菌 す る 製 法 )と 、pH 調 整 を 必 要 と し な い 新 た な BAS 製 法 ( ミ ル ク と pH 調 整 し な い コ ー ヒ ー を 別 々 に 殺 菌 後 、 混 合 す る 製 法 ) に よ る ミ ル ク コ ー ヒ ー の RAS 香 気 成 分 の 違 い
③ BAS 製 法 に お け る ミ ル ク 分 の 殺 菌 方 法(PLT 殺 菌 、INF 殺 菌 )の 違 い に よ る ミ ル ク お よ び ミ ル ク コ ー ヒ ー の RAS 香 気 成 分 へ の 影 響
こ れ ら か ら 得 ら れ た 結 果 を も と に 、 目 標 と す る HMD 製 法 に よ る ミ ル ク コ ー ヒ ー に 近 い 香 気 特 性 を 有 す る RTD ミ ル ク コ ー ヒ ー の 製 造 方 法 を 提 案 す る 。