作成のポイント
●30 昇 給
第●条(昇給)
賃金は、毎年4月1日に***円を基準として従業員の勤務成績及び能力等を勘案して行う。
1.昇給に関する事項
昇給に関する事項は、就業規則において、昇給時期と昇給の基礎となる賃金、方法などを明らかにしなけれ ばなりません。昇給には、通常、定期昇給と特別な場合に臨時的に行われる臨時昇給などがあります。特に注 意しなければならないのは定期昇給に関して定める場合です。規定例のように、「毎年4月1日に行う***円 を行う」旨を規定した場合には、業績等の如何に関わらず、4月1日に自動的に少なくとも***円の昇給を確 約したことになります。しかし、会社の経営状況の変化によっては、昇給停止もあります。また、人事考課制 度を導入しているなどの場合には、降給することもあります。
したがって、昇給を定める場合には、金額等の基準を設けることなく、また「ただし書」を設けて、会社の 業績が低下した場合やその他やむを得ない事由がある場合には、昇給時期を延期することもあること又は昇給 しないこともありえることを定めておくべきでしょう。
2.その他検討事項
・賃金体系に基づき、昇給の基礎となる賃金の範囲を明確にすることの検討
関係する法令・判例など
・ 労働基準法第89条
・ 高見澤電機製作所事件:東京高裁判決平成17.7.30(定期昇給と労働慣行)
・ アーク証券事件:東京地裁判決平成8.12.11(就業規則に明確な根拠のない降給)
作成のポイント
●31 割増賃金
第●条(割増賃金)
所定労働時間外、所定の休日及び深夜業に労働した場合には、労働基準法第37条に基づき計算した割 増賃金を支払う。ただし、業務手当として、時間外労働30時間相当分を支払う。
1.時間外労働・休日労働に伴う割増賃金
時間外労働、休日労働、深夜業(午後10時から午前5時まで)をさせたときには、その労働時間について、
所定の割増率(時間外労働:2割5分以上、休日労働:3割5分以上、深夜業:2割5分以上)で計算した賃 金を、残業手当、休日出勤手当、深夜手当として支払わなければなりません。なお、規定を定める場合には、
給与計算等実務上の面からも、それぞれの手当について労働基準法第37条に基づき具体的な計算式を記載して おくべきです。
ただし、労働基準法上、割増賃金の支払義務が生じるのは法定労働時間(原則:1週40時間、1日8時間)を 超えて労働させた場合、法定休日(週1回)に労働させた場合又は深夜業に労働させた場合です。したがって、
会社の定める所定労働時間が法定労働時間内であれば、その所定労働時間を超えて労働させても、休日労働と 深夜業を除き、法定労働時間を超えない限り、割増賃金を支払う必要はありません。完全週休2日制を採用し ている場合などで、週1回の休日が確保されている限り、もう1日の休日に労働させても休日労働としての割増 賃金を支払う必要はありません。この場合、週の法定労働時間を超えない限り通常の1時間当たりの賃金を支 払うことで足ります。しかし、規定例のように、所定労働時間を超え、又は所定の休日に労働した場合にも割
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解 説
規 定 例
増賃金を支払う旨を定めると、法定労働時間を超えていない場合でも割増賃金を支払わなければなりません。
なお、平成22年4月から施行される労働基準法の改正により、月45時間を超える時間外労働については2割 5分を超える率で計算した割増賃金を支払うことが努力義務となります。さらに、月60時間を超える時間外労 働については5割以上の率で計算した割増賃金を支払うか労使協定の締結により代替休暇を与えるかのいずれ かの措置を講じなければならないことになります(業種に応じて一定規模以下の企業には猶予措置あり)。
2.割増賃金の算定基礎となる賃金
割増賃金の1時間当たりの単価の算定基礎となる賃金は、基本給だけではありません。割増賃金の算定の基 礎から除外できる賃金は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支 払われる賃金、⑦1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つです。ただし、①及び⑤は、それが家族数 や家賃等の実態に応じたものでなく一律に支払われているものは、算定の基礎に含めなければなりません。
したがって、①〜⑦の除外賃金以外のものは、役付手当、資格手当等その名称を問わず定額で支払われている 場合には、割増賃金の算定の基礎に含めなければならず、規定を作成するときには注意しなければなりません。
3.定額残業手当の支給
規定例のように、残業抑止と残業手当の削減等を目的として、割増賃金(残業手当)の定額支給を定める場 合があります。残業手当を定額で支給することは何ら問題はありません。ただし、実際に残業した時間に基づ き計算した割増賃金が、定額で支給されている残業手当を超えた場合は、その差額を支払う必要があります。
また、営業手当などの名目で一定時間数の残業手当をその手当に含めて定額支給する場合もあります。この 場合には、その金額のうちのいくらが残業手当であり、かつ何時間分に相当する額が含まれているのかを明確 に区分しなければなりません。これらの条件を満たさないと「賃金不払い残業」となる恐れがあるので注意が 必要です。
したがって、定額残業代の規定を設ける場合には、定額残業代は何時間相当分なのかを明確に規定し、かつ、
その時間を超えた時間外労働については実態に応じて割増賃金を支払う旨を定めておくべきでしょう。
4.その他の検討事項
・監督若しくは管理の地位にある者(労基法第41条第2号該当者)の範囲を明確にした上での除外規定の検討
・年俸制を導入している場合の割増賃金の規定の検討
関係する法令・判例など
・労働基準法第37条(割増賃金)、同法第37条第4項・同法施行規則第21条(割増賃金の計算の基礎に含 めない賃金)
・行政通達:昭和22.11.5基発231号、昭和22.12.26基発572号(一律に支給される手当は除外賃金に該当し ない)
・関西ソニー販売事件:大阪地裁判決昭和63.10.26(定額残業代を上回る残業に対する残業代の支払)
・共同輸送賃金等請求事件:大阪地裁判決平成9.12.24(残業代込みの手当に関する区分)
作成のポイント
●32 賞 与
第●条(賞与)
賞与は、毎年7月及び12月に会社の業績を考慮して支給する。ただし、会社の業績が著しく低下して いる場合その他経営上やむを得ない場合には支給しないこともある。
1.賞与の支給と支給対象者
賞与は、法律上当然に使用者が支払義務を負うものではなく、規定例のように就業規則などにより支給基準
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が定められている場合や、確立した労使慣行によりこれと同様の合意が成立していると認められる場合に、労 働契約上支払い義務を負うものです。
しかし、その場合でも、規定例ただし書のように「支給しないこともある」と規定しておくことで、業績等 に応じて支給しないことがあって問題はありません。
また、パートタイマーなどの非正規従業員に対しては賞与が支払われないことも少なくないと思われますが、
それが有効となるのは労働契約を締結する際に、その旨を定めているからです。同様に就業規則においても、
賞与の支給対象となる労働者の範囲を明確にしておくべきでしょう。
賞与の支払時期や支払日を確定すると、支給する場合にはその時期及びその支払日に支払義務が生じますの で、「原則として」又は「支給時期又は支払日を遅れることもある」などと定めることも考えられます。
2.支払日在籍要件及び支払査定期間
賞与の支払査定期間を設けて、その全部または一部を勤務したにもかかわらず支給日前に退職した者に賞与 を支給しないという取扱いは有効かという問題があります。判例では、支給日在籍条項の定めを合理的なもの と認めているケースが多く、支給日に労働者が退職している場合には賞与を支給しなくても有効と解する判断 が一般的な傾向です。
しかし、こうした規定は、労働者が退職の日を自由に選択できる自発的退職者についてのみ有効とする傾向 にあります。つまり、定年や人員整理等の会社都合による退職の場合には、退職日を労働者本人が選択するこ とができず、不利益を被ることがあるからです。したがって、支給日在籍条項は設けることに問題はないもの の、労働者の自発的退職の場合だけに合理性があると考えるのが、法的には妥当なところでしょう。
また、支給日在籍要件でいう「支給日」とは、賞与が支給される予定の日であり、労使交渉で現実の支給が 遅れたりした場合には、仮に現実の支給日前に退職したとしても、支給予定日に在籍していれば賞与を受け取 る権利はあるものと考えられてます。
関係する法令・判例など
・労働基準法第89条第4号(就業規則、臨時の賃金)
・大和銀行事件:最高裁第一小法廷判決昭和57.10.7(賞与支給日在籍要件を有効とするもの)
・須賀工業事件:東京地裁判決平成12.2.14(賞与支給日在籍要件と支給日の遅延)
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