第 9 章 力学的エネルギー保存則 (2) 89
11.6 解答
● 問158 2011年3月に発生した,東北太平洋沖地震 の後, 地球の自転周期が1.8マイクロ秒だけ短くなった
(自転が早くなった)ことが観測された。この現象を慣 性モーメントの考え方を使って定性的に説明せよ。
よくある質問87 私はクラシック・バレエをやっています。
バレエでも,フィギュアスケートで言うスピンと同じことを地 表で行い(踊り)ますが,腕をうまくタイミング良く体の中心 に引き寄せると速く且つ安定して回れます。...これは問158 と同じ原理です。回転現象は本当に不思議ですね。
よくある質問88 物体の運動をここまで数式で予測できるな んて凄いですが,実際に自分では思いつける気がしません。や はり私に物理は無理って感じです... 大丈夫。ここまで物理学 が発展するのに何千年間もかかったのです。20歳くらいの若 者がすぐに理解したり思いつけるようなものではありません。
先人の業績をもとに,真理を謙虚に学べばそれでよいのです。
11.6 解答
答145 (1) 略。(2)式(11.6)より, Iの単位はmkrk2 の単位なので, kg m2
答146式(11.6)でn= 2,r1=r2=r,m1=m2=m とすればよい。I=m r2+m r2= 2m r2
答147式(11.6)でn= 3,rk=r, mk=mとすればよ い。I= 3m r2
答148 式(11.6)で, rk =r, mk = mとすればよい。
I=nm r2
答149前問でnm=M とすれば与式を得る。
答150 円環盤も円環の一種だ。この円環盤をどこか1 箇所で切ってまっすぐに伸ばしたら,断面積はb∆r, 長 さは2πrの鉄棒になる。その体積は2πbr∆r。密度がρ なので,質量は2πρbr∆r。これをM として式(11.9)に 代入すると与式を得る(ただしここでは慣性モーメント
*6以下,参考までに述べておく(今は理解できなくてもよい)。
式(11.33)は,実はベクトルの方程式に拡張できるのだ。すな
わち,角運動量は本来はベクトルなのでLと表そう。角速度 は,回転軸の方向を向いているベクトル量とみなすことができ て,それをωωωとおこう。慣性モーメントは,先述のように,実 は行列で表現できる。それを改めてIとおこう。すると,式
(11.33)は,
L=Iωωω (11.34)
となるのだ。
をIでなく∆Iと書いていることに注意)。
答151 円盤を∆r の幅のn 個の円環盤に分割し, 式
(11.10)で与えられる各円環盤の慣性モーメントを足し
合わせると,円盤の慣性モーメントIになるはずだ。す なわち,次式のように書ける:
I=
∑n k=1
2π ρ b r3k∆r (11.35)
ここでrkはk番目の円環盤の半径である。分割をどん どん細かくして∆rを十分に0に近づけ, 円環の数をど んどん増やすならば, この式は次式のようになる:
I=
∫ R 0
2π ρ b r3dr (11.36)
ここでRは円盤の半径である。この積分を実行すると, I =π ρ b R4/2。ここで改めてRをrに置き換えると,
式(11.11)を得る。ところで, この円盤の質量M は,
M =π ρ b r2 なので, 式(11.11)よりI=M r2/2 とな
り, 式(11.12)を得る。これは同質量の円環の慣性モー
メント,つまり式(11.9)の半分である。
答152 慣性モーメントの本来の定義, つまり式(11.6) では, rk は原点からの距離ではなく, 回転軸からの距離 だった。連続的な剛体に関する慣性モーメントも事情は 同じだ。従って,剛体の各部分について,rとして原点か らの距離つまり√
x2+y2+z2ではなく,回転軸(z軸) からの距離つまり√
x2+y2を考えねばならない。
答153回転軸をz軸,それに直交して円盤の直径方向に x軸,厚さ方向にy軸をとる。円盤の中心を原点とする。
円盤の厚さをbとする。密度をρとする。円盤上の点 (x, y, z)とz軸との距離は√
x2+y2だ。慣性モーメン トIは,式(11.15)より
I=
∫ r
−r
∫ b/2
−b/2
∫ √r2−z2
−√ r2−z2
ρ(x2+y2)dx dy dz
である。ここで円盤が十分に薄いとすれば,x2+y2≒x2 であり,その近似のもとに,yについて先に積分すれば,
I=b
∫ r
−r
∫ √r2−z2
−√ r2−z2
ρx2dx dz (11.37)
となる。これをxについて積分すれば, I=b
∫ r
−r
[ ρx3
3
]√r2−z2
−√ r2−z2
dz= 2bρ 3
∫ r
−r
(r2−z2)3/2dz
110 第11章 慣性モーメント となる。この被積分関数はzに関する偶関数だから,
I=4bρ 3
∫ r 0
(r2−z2)3/2dz (11.38) となる。ここでz = rsinθ と置換すると(置換積分), dz =rcosθ dθであり, 積分区間は0 ≤θ ≤π/2であ り, 被積分関数は(r2−z2)3/2 = (r2−r2sin2θ)3/2 = {r2(1−sin2θ)}3/2 = (r2cos2θ)3/2 = r3cos3θ。従っ て,I=
4bρ 3
∫ π/2 0
r3cos3θ rcosθ dθ= 4br4ρ 3
∫ π/2 0
cos4θ dθ ところで,オイラーの公式から,
cos4θ=
(eiθ+e−iθ 2
)4
=e4iθ+ 4e2iθ+ 6 + 4e−2iθ+e−4iθ 16
=e4iθ+e−4iθ
16 +e2iθ+e−2iθ
4 +3
8
=cos 4θ
8 +cos 2θ
2 +3
8 (11.39)
従って, I=4br4ρ
3
∫ π/2 0
(cos 4θ
8 +cos 2θ
2 +3
8 )
dθ
=4br4ρ 3
[sin 4θ
32 +sin 2θ 4 +3θ
8 ]π/2
0
=4br4ρ 3
3π
16 =πbr4ρ
4 = M r2
4 (11.40)
ここで,M =πbr2ρを使った。
答 154 (1) U = M gh。(2) 速度が0 なので, 運動エ ネルギーは0。従って力学的エネルギー E0 はポテン シャルエネルギーU だけだ。(1)より, E0=M gh (3) rω∆t/∆t = rω (4) 重心の運動エネルギーは, M v2/2 であり,回転の運動エネルギーはIω2/2である。これら を足すと,与式を得る。(5) (1)と(4)より,与式を得る。
(6)前小問の式に(3)の結果を代入してvを消すと, M gh= M r2ω2
2 +Iω2
2 (11.41)
となる。両辺を2倍してM で割ると,与式を得る。(7) 略(式(11.20)をv=の形に式変形すればよい)。(8)略
(式(11.21)にI= 0を代入するだけ)。(9)式(11.9)を 式(11.21)に代入して与式を得る。(10)式(11.12)を式 (11.21)に代入して,v=√
4g h/3
答155 式(11.21)より,慣性モーメントIと質量M の 比(I/M)が小さいほど転がる速さは大きい。I/M は,
質量が回転軸に近い部分に集中するほど小さい。鉄球A は内部が空洞なので, 質量は回転軸から遠い部分に分布 するが,鉄球Bは質量が回転軸に近いところにも(鉄球 Aに比べると)多く分布する。従って, I/M は鉄球B の方が小さい。従って,鉄球Bの方が速く転がる。
答156略。(3)は1012/s〜1013/s程度の量になる。
答157 (1)剛体の振動運動は, ごく短い時間を切り出し
て考えれば, 軸を中心とする回転運動の一部とみなすこ とができる。その角速度ωは,単位時間あたりに変化す る角なので, θを時刻tで微分したものに等しい。従っ て, ω=dθ/dtである。これを式(11.7)に代入して, 与 式を得る。(2)剛体の(重力による)ポテンシャルエネル ギーは, 基準点からの重心の高さと全質量, そして重力 加速度をかけたものに等しい。題意より, 定点(軸の位 置)Pから原点Oまでの距離はlである。Pから重心G までの距離もlだが, 剛体が角θだけ傾いているときは, PとGの高さの差は,lcosθとなる。従って,原点Oと 重心Gの高さの差はl−lcosθとなる。従って,ポテン シャルエネルギーは与式のようになる。(3)力学的エネ ルギー保存則より, T(t) +U(t)は時刻によらぬ定数で ある。従って,T(t) +U(t)をtで微分したら恒等的に0 になる。従って,
d
dt{T(t) +U(t)}
= d dt
{1 2I
(dθ dt
)2
+M g l(1−cosθ) }
=I (dθ
dt )(d2θ
dt2 )
+M g l sinθdθ dt = 0
この式から与式を得る。(4) 略(式 (11.28)を使って 式(11.27)からIを消去すると式(11.29)を得る)。(5) sinθ=θと近似すれば与式を得る。(6)注: 以下のωは (1)で出てきたωとは別物である。θ =θ0cosωtを式 (11.30)に代入すると,
−ω2θ0cosωt=−g
lθ0cosωt (11.42)
となる。これが全てのtについて成り立つから, ω2 = g/l。振動の周期T は, T = 2π/ωより, 与式を得る。
(7)式(11.31)をg=の形に式変形すれば与式を得る。
答158 地球の角運動量Lは一定なので, 自転の角速度 ωが大きくなったということは,式(11.33)より,自転軸 まわりの地球の慣性モーメントIが小さくなっているは ず。おそらく, 地震に伴う地殻変動によって地球がわず かに変形し, Iがわずかに小さくなったと考えられる。
111
第 12 章
慣性系と慣性力
車がカーブする時には搭乗者は回転の外側にひっぱら れる力を感じる。エレベーターが動き始めたり止まっ たりするときに,中にいる人は身体が重くなったり軽く なったり感じる。このような力を慣性力という。慣性力 は,地球の気象を司る「コリオリ力」の源であり,農業機 械の自動運転に欠かせない「慣性計測装置」の原理でも ある。この章では,慣性力について学ぼう。
12.1 慣性系と慣性の法則
質点の位置(x, y, z)とは,どこかにある「原点」(0,0,0) と,どちらかに向かう座標軸(x軸,y軸,z軸)の組み合 わせ,つまり座標系を定めることによって初めて定量的 に定まる概念だ。つまり,座標系が無ければ位置は定ま らない。位置の(時刻による)微分が速度であり,速度の (時刻による)微分が加速度なのだから,位置が定まらな ければ速度も加速度も定まらない。加速度が定まらねば 運動方程式は意味を持たない。すなわち, 座標系が無け れば運動の法則も無いのだ。
では, 「座標系」というのは, どのようにして与えら れるのだろうか? 例えばつくば市のどこかの地点を「原 点」と定めて,そこから東西南北と上下に座標軸を張れ ば, それはひとつの座標系だが, それ以外にも座標系は あり得る。ハワイやフランクフルトあたりに原点を置く こともできるだろう。あるいはつくばエクスプレスの, 走行中の快速電車の先頭車両の真ん中に原点を定めて, 進行方向にx軸, 右方向にy軸,などと定めることもで きるだろう。そんなのありか!?と思うかもしれないが, 座標系は静止していなくてもよいのだ。そもそも「静 止」という考え方が,何か特定の座標系を基準にしたと きにのみ成り立つ概念であり, どれかの座標系で見れば 静止している質点も, 別の座標系で見れば動いている, ということは十分にありえるのだ。
そういうわけで,座標系の与え方には任意性があるし, 座標系の与え方によって運動の様子も違って見える。実 は,我々がこれまで学んだ「運動の3法則」が成り立つ
ように見えるのは, そのような多種多様な座標系の中で も一部の, 特別な座標系である。そのような座標系を, 慣性系という。
よくある質問89 えっ!? 運動の3法則が成り立たないなん てことがあるのですか!? なら運動の3法則は「基本法則」と は言えないじゃないですか! ... 運動の3法則は,「慣性系で 考える」ことが前提条件です。慣性系でない座標系で運動の3 法則が成り立たないことがあっても,それは運動の3法則が不 完全であるとか,間違っているとか,普遍性に欠けるというこ とではなく,単に前提条件を満たしていないだけです。
よくある質問90 でも運動の3法則には,「慣性系で考える なら...」みたいな前提条件は無かったように思いますが... い え,ちゃんと入っていますよ。第1法則,つまり「慣性の法則」
がそれです。「前提条件」でなく「法則」という形で入ってい るので読み取りにくいですけどね。もう少しこの続きを読ん でみて下さい。
実は, 運動の3法則の中でも, 慣性の法則が成り立つ かどうかが鍵である。つまり,
慣性系の定義
「力がつりあっていれば,質点が等速直線運動をす る」ように見える座標系, つまり, 慣性の法則が成 り立つ座標系を 慣性系 という。
後に示すように,慣性の法則が成り立たない座標系も 存在する。それを 非慣性系 という。
慣性の法則は, この世の中には, どこかに慣性系が存 在する,ということを保証する法則なのだ。つまり,「力 がつりあっていれば, 質点が等速直線運動をする」よう に見える座標系が, この世のどこかに必ず存在する, と いうのが, 慣性の法則の本当の意味(物理学における位 置づけ)なのだ。そして, そういう座標系で見れば, あ との2つの法則(運動方程式・作用反作用の法則)も成 り立つよ, ということを言っているのだ。そういう意味
112 第12章 慣性系と慣性力 で,慣性の法則は,運動の3法則の「舞台」を設定する法
則だと言えよう。