第 4 章 本分析フレームワークのケーススタディ
4.1 照明環境変化による知的生産性変化のデータ解析
4.1.4 解析結果
4.1.4.1 データクレンジング
実験参加者の体調不良、指示の無視、計測の不備、解析不能等でいくつかの計測デー タは解析対象外とした。CTRは38個、自覚症しらべ調査票の各項目は24個、執務環
境に関する主観評価調査票の各項目は27個のデータ欠損とした。データ欠損への対処 は、CTRは欠損データを除外し、その他の計測項目は全サンプルの平均値を欠損の代 替データとした。CTRのデータ欠損原因の多くは、算出ができなかったためである。
算出ができないときは、計測対象者がタスク中に寝てしまっていたり、極端にタスク への集中が低かったりと、著しく知的生産性が低い場合が多い。そのため、全サンプ ルの平均値を当てはめるデータ補完方法は妥当ではないと考えた。
4.1.4.2 計測データの要約結果
要素要約
検証的因子分析は、MMS、自覚症しらべに対して行った。これらの調査票は、因子 分析がされることが前提とされており、調査票の計測項目に対応した下位概念が決定 づけられているからである。以下にその結果として因子負荷量を示し、因子が対応す る下位概念から抽出できているか検討する。因子負荷量とは、下位概念を説明する項 目(下位項目)から、因子を説明する項目(上位項目)を算出する際にどれだけ影響 を与えるかを示す数値であり、数値が大きいほど影響を与えているとされる。因子が 対応する下位概念から抽出できているかは、その下位項目がどれだけ因子負荷量を持 つかで検討する。また、以下で示す表に因子負荷量の値が記入されておらず空欄になっ ているところがあるが、極端に負荷量の小さい下位項目は負荷がないとしているため 空欄にしている。
表4.1〜4.4にMMSの因子分析結果として因子負荷量を示す。非活動的快項目の因
子負荷量がやや小さいが、計測した4因子とも対応する下位概念から抽出できたと考 えられる。その場合、因子負荷量の大きさから、因子1〜因子4はそれぞれ、集中、倦 怠、活動的快、非活動的快を示していることが分かる。
表4.5に自覚症しらべの因子分析結果として因子負荷量を示す。上から5項目が自覚 症しらべで設定されているねむけ感の下位項目で、下から5項目がぼやけ感の下位項 目である。計測した2因子は、対応する概ねの下位概念から抽出できたと考えられる。
ただし、ぼやけ感の下位項目である「ものがぼやける」の上位項目への負荷量が著し く小さく、むしろ、ねむけ感への負荷量の方が大きい。これは、ぼやけ感は眼疲労感 としての意味合いが大きいものだと解釈できる。
探索的因子分析は、執務環境に関する主観評価と3調査票(執務環境に関する主観評 価・MMS・自覚症しらべ)の上位項目に対して行った。3調査票の上位項目とは、検証 的因子分析で定量的に要約した結果である「MMS」「自覚症しらべ」の上位項目、探
表 4.1: 照明環境変化でのMMSの因子負荷量 因子1(集中)
因子1 因子2 因子3 因子4 ていねいな 0.672 0.133 0.301
鋭敏な 0.544 0.344 -0.434
緊張した 0.609 0.301 0.153 -0.144
賢明な 0.713 -0.102 0.421
思慮深い 0.687 0.370 0.240 0.186
慎重な 0.710 0.116
真剣な 0.896 0.220
注意深い 0.838 0.168 0.229 -0.117
丁重な 0.731 0.151 0.149
用心深い 0.673 0.307 0.143 -0.212
表 4.2: 照明環境変化でのMMSの因子負荷量 因子2(倦怠)
因子1 因子2 因子3 因子4
だるい 0.160 0.639 -0.186
つまらない -0.190 0.711 -0.270 ばからしい 0.239 0.754 0.124 ぼやぼやした 0.227 0.658
ぼんやりした 0.150 0.533 -0.191 0.185
退屈な 0.785 -0.242 -0.178
疲れた 0.267 -0.197 -0.517
不機嫌な 0.660 0.113
無関心な 0.276 0.677
無気力な 0.174 0.715
表 4.3: 照明環境変化でのMMSの因子負荷量 因子3(活動的快)
Factor1 Factor2 Factor3 Factor4 さわやかな 0.172 0.713 0.186 はつらつとした 0.216 0.722 -0.161
快調な 0.356 -0.160 0.644 0.298
快適な 0.281 -0.124 0.785 0.228
活気のある 0.266 -0.425 0.592 0.297 機嫌の良い 0.576 0.345 0.243 気持ちの良い 0.411 -0.341 0.604 0.293 気力に満ちた 0.459 -0.334 0.625
元気いっぱいの 0.143 0.793 -0.245
陽気な 0.114 0.399 0.571 0.198
表 4.4: 照明環境変化でのMMSの因子負荷量 因子4(非活動的快)
因子1 因子2 因子3 因子4 おっとりした 0.106 0.486 -0.129 0.433
のどかな 0.162 0.384 0.297 0.592
のんきな 0.340 0.710 0.397
のんびりした 0.403 0.423 やわらいだ 0.328 0.442 0.531 ゆっくりした -0.154 0.513 0.323 ゆったりした 0.403 0.317 0.304 0.233
ゆるんだ 0.222 0.471 0.241
気長な 0.509 0.284 0.208 0.267
平静な 0.551 0.289 0.274 0.194
表 4.5: 照明環境変化での自覚症しらべの因子負荷量 全因子(ねむけ感・ぼやけ感) 因子1 因子2
あくびがでる 0.903
ねむい 0.919 0.140
やる気が乏しい 0.811 0.110 横になりたい 0.761 0.343 全身がだるい 0.635 0.512 ものがぼやける 0.405 0.285 目がしょぼつく 0.258 0.500
目が乾く 0.587
目が痛い 0.582
目が疲れる 0.433 0.743
索的因子分析で定量的に要約した結果である「執務環境に関する主観評価」の上位項 目を合わせたものである。すなわち更に、その3調査票の上位項目を探索的因子分析 で定量的に要約し、上位項目の上位項目を算出したということである。3調査票を更に 要約する理由は、各調査票を要約してもなお、項目数が多いからである。本解析の対 象とする環境条件変化のメカニズムにたいして仮説が無いため、探索的に共分散構造 分析を行うために、本解析では項目数を多くても6個以下に要約することにする。
執務環境に関する主観評価の探索的因子分析の因子数は平行分析法によりいくつか 候補を推定し、それぞれの因子数で分析を行った結果、因子への意味づけが容易なも のを採用した。
表4.6, 4.7にそれぞれの因子負荷量を示し、各因子に名付けを行った。まず、因子1
は、「眼がさえる環境」「眼が疲れない環境」「仕事がはかどる環境」「集中しやすい環 境」といった下位概念をもつことから、「シャッキリ環境」と名付けた。次に、因子2 は、「快適な環境」「好きな環境」「明るい環境」といった下位概念をもつことから、「明 良快適環境」と名付けた。
3調査票(執務環境に関する主観評価・MMS・自覚症しらべ)の上位項目をまとめ た因子分析においても、探索的因子分析の因子数は平行分析法によりいくつか候補を 推定し、それぞれの因子数で分析を行った結果、その中で因子への意味づけが容易な ものを採用した。表4.8〜4.10にそれぞれの因子負荷量を示し、まず、因子1は、「倦
表 4.6: 照明環境変化での執務環境に関する主観評価の因子負荷量 因子1 因子1 因子2
眼がさえる(眠くなる) 0.613 0.291 眼が疲れない(眼が疲れる) 0.504 0.110 仕事がはかどる(仕事がはかどらない) 0.819 0.154 集中しやすい(集中しにくい) 0.939
表 4.7: 照明環境変化での執務環境に関する主観評価の因子負荷量 因子2 因子1 因子2
快適な(不快な) 0.897
好き(嫌い) 0.141 0.810
明るい(暗い) 0.745
表 4.8: 照明環境変化での3調査票上位項目の更に上位項目への因子負荷量 因子1 因子1 因子2 因子3
倦怠 0.810 0.106
集中 0.739 -0.198
非活動的快 0.878
怠」「集中」「非活動的快」といった下位概念をもつことから、「静的集中」と名付けた。
次に、因子2は、「ねむけ感」「ぼやけ感」「活動的快」といった下位概念をもつことか ら、符号を反転させ「エネルギッシュ」と名付けた。最後に、因子3は、「シャッキリ 環境」「明良快適環境」といった下位概念をもつが、その両項目とも執務環境に関する 主観評価の因子である。この2因子は平行分析法によって情報量を担保に要約できる とされたものである。これをまた要約した場合、1因子のみで要約したことになり、そ の調査票の情報量を著しく減らしてしまう。よって、因子3に関しては要約を実行せ ず従来の「シャッキリ環境」「明良快適環境」のまま扱う。
対象要約
対象要約には前述のようにクラスター分析、回帰木を用いた。
クラスタリング手法には、階層的クラスタリングのウォード法を用いた。ウォード法 は、その分類感度の高さから多く用いられている手法の一つである。クラスターを目
表 4.9: 照明環境変化での3調査票上位項目の更に上位項目への因子負荷量 因子2 因子1 因子2 因子3
ねむけ感 0.858
ぼやけ感 0.672
活動的快 0.317 -0.610
表 4.10: 照明環境変化での3調査票上位項目の更に上位項目への因子負荷量 因子3
因子1 因子2 因子3
「シャッキリ環境」 0.161 0.764
「明良快適環境」 1.024
的変数とした決定木の結果を図4.2に示し、そこからクラスターを特徴付ける名前を考 察する。図より、CTR平均値71.3未満の11人と、CTR平均値71.3以上かつCTR差 10.5以上の2人がクラスター1に属すること、CTR平均値71.3以上かつCTR差10.5 未満の8人がクラスター2に属することがわかる。解釈の都合上先に人数の少ないク ラスターから名前を考察する。クラスター2を特徴づけるために「天井グループ」と 名前を付けた。このグループの特性は、CTRの個別基準値が高い点、また、環境によ りCTRが上昇していない点から、心理実験データの天井効果のように常にCTRを高 く維持している特性が考えられる。クラスター1をクラスター2と対比づけるために
「非天井グループ」と名前を付けた。このグループは、CTR平均値、つまりCTRの個 別基準値が高くない点、また、CTRの個別基準値が高くも、環境によりCTRが上昇 している点から、まだCTR上昇の余地があるという特性が考えられる。また、各クラ スターセントロイドの個人特性を表4.11、4.12に示す。各構成要素の環境感度と個別 基準値の項目名をそれぞれ「〜差」や、「〜平均」のように示す。また、因子分析で算 出した上位項目の値は因子得点といい全サンプルで平均値=0、標準偏差≒ 1となるよ う算出しており、例えば表4.12の「エネルギッシュ」平均は0.88とサンプル中で比較 的高い値をとっていると見ることができる。
次に、回帰木による対象要約の結果を述べる。目的変数はCTRの環境感度、つまり、
照明環境によるCTRの変化とした。CTRが照明環境の変化により向上した集団とそ うでない集団とで、似通った個人特性、すなわち同様のメカニズムを持つのではない かと仮定したからである。また、CTR変化の程度でそれぞれ違うメカニズムが確認で