また防潮堤は海抜 7. 2m の高さ、底部の幅およそ 6.2m の連続するコンク リート堤防を建設する事業である。国土交通省が 2012 年 8 月に設立した「仙
2. 覆された常識を検証する
東日本大震災津波の被災地の多くで、海岸林の樹木の倒伏、根返り(~流 出)、幹折れ等の被害が発生した。被害を受けた樹木のほとんどがクロマツ であったが、これは単に、もともとの海岸林でクロマツが主な構成樹種であっ たからであって、クロマツが津波に弱かったことを示す証拠ではない。また、
仙台平野などの例で流出したり根返りしたりしたクロマツの根系が浅い円盤 状を呈していたことから、クロマツは浅根性である(したがって、津波への 耐性がない)という見解が広まるに至っているが、ことはさほどに単純では ない。まず、被災地をつぶさに見て回れば、海岸前線部にあって流されも倒 されもしなかったクロマツが少なからず存在し(写真 2) 、あるいは幹折れ 被害の現場では、根系は津波に耐えたが幹が先に限界に達して折損に至った ものであるという事実に気づくことができる(中村 2015) (写真 3) 。また、
深根性とされるクロマツで垂直根が発達しない場合があり、それは地下水位 が高く根系発達が阻害されるからであることは、実は以前から知られていた ことであった(苅住 1978、小田 2001)。震災後に集約的に取り組まれた研 究からも、根系の浅いクロマツが多く見られた仙台平野では地下水位が高く
(野口ほか 2014、渡部ほか 2014)、実際に、残存するクロマツの根系を調べ
ると地下水が現れる高さで垂直根の発達が止まっていた(菊池ほか 2012)。
64 特集 震災後 5 年の森・地域を考える
従って、津波による倒伏に耐性のあるクロマツ林を成立させるには、地下水 面までの距離をかせぎ、根系発達のための植栽基盤を確保することが重要で あると結論できる(飯塚 2012、渡部ほか 2014)。地下水を突き抜けて根を 伸長させられないのはクロマツに限られたこととは考えがたいので、この結 論はクロマツ以外の多くの樹種に敷
ふ衍
えんできるはずのものである。
被災直後の段階で、津波に耐えて立木として残ったクロマツの多くは緑の 葉を維持し、倒伏した個体ですら新芽を伸長させていることがあった。とこ ろが、一見したところ問題なく見えたこれらのマツで、その後衰退症状を呈 し、枯死するものが現れた。例えば、青森県の太平洋岸の海岸クロマツ林で は、津波による直接的な被害 面積が 12ha であったのに対 し、その後のクロマツの枯死 被害が 120ha を超えるとい う事態となり、復旧計画に大 きな影響が及んだ(青森県林 政課 2014)。
樹木を海水に浸けると高濃 度の塩類による生理障害(塩 害)が生じ、これに対する抵 抗性(耐塩水性)はクロマツ、
マサキ、ハマゴウなどで強く、
アカマツは弱いことが知ら れている(高橋・堀江 1965、
堀江 1968)。津波被災地の海 岸松林で我々が行った経時的 な毎木調査(中村ほか 2012)
でも、アカマツには被災直後 から葉量の減少などの衰退 症状が現れ、枯死に至るもの も少なくなかった。一方クロ マツでは、場所や条件により
写真 2 海岸前線部にあって津波に耐えたクロマツの樹群(岩手県山田町、2011 年 6 月)
写真 3 津波の強大な勢力に耐え抜いたクロマツ の根系(岩手県山田町、2011 年 5 月)
65
「役に立つ」海岸林を再生するために
枯れるものと枯れないものが あった。まず、被災前から他 個体に被陰された状態にあっ た劣勢木や、津波で根元から 押し倒されたり樹幹が屈曲さ せられたりする強い物理的な ダメージを受けた木は、多く が早期に針葉を変色させて枯 死した。被陰や物理的損傷に よるストレスのため、塩害に 対抗する余力がなかったので あろう。また、林内の土地の 起伏や人工構造物のため浸入 した海水が滞留しやすかった と考えられる所では、慢性的 にクロマツの衰弱が進んで全 滅に近い枯死被害となったと ころがあった(写真 4) 。上 記の青森県の例などもこれに あたる。結局、津波被災地の クロマツの衰弱・枯死はこの ような悪条件下で生じたもの であり、クロマツ自体の耐塩 水性の高さは過去の知見で示 されていた通りであると結論 できる。実際に、津波被害を 乗り越えたクロマツの多くは 枯死を免れて維持され、その 場での海岸林再生の一翼を 担っている(写真 5) 。
ただし、津波後も維持され
写真 4 青森県八戸市の津波被災海岸林で見られ たクロマツの衰弱・枯死(上:2011 年 6 月、下:2012 年 10 月撮影)
写真 5 仙台平野の復旧工事現場にパッチ状に 残っている震災前からのクロマツ海岸林
(宮城県仙台市、2015 年 9 月)
66 特集 震災後 5 年の森・地域を考える
ていたクロマツ林が復興工事との兼ね合いで伐採され、消失ないし大きく面 積を縮小させてしまった場所は少なくない。また、もともと松くい虫被害が 蔓
まん
延
えん
していた地域では、震災後の混乱のため十分な防除を実施することがで
きなくなったため、残存する海岸松林で被害が広がってしまった例も報告さ
れている(八木・佐々木 2015)。津波被災地で見られる松林の衰退は、この
ような人為的な要因によっても生じているのである。
ドキュメント内
森林環境2016
(ページ 64-67)