• 検索結果がありません。

今後の課題

ドキュメント内 森林環境2016 (ページ 117-124)

最後に、被災地の林業・木材産業・地場住宅産業の復興に向けた課題を、

何点か示してみたい。1 点目は上記で扱わなかった原木シイタケの出荷制限 である。岩手県内のシイタケ生産者は約 1600 人(ちなみに林業従事者は約 2100 人)であるが、原発事故の影響で約 1000 人が出荷制限を受け、震災 後 4 年半を経過した現在でも出荷制限の解除は完了していない。県南広域振 興局では種菌メーカーや農協などと協力して「県南広域原木しいたけ産地再 生応援隊」を組織し、ほだ木の調査と栽培管理の指導に取り組んでいる

14)

。 2 点目は木質バイオマスのエネルギー利用の規模である。専燃発電の場合、

採算ベースに合うのは 5000kW 以上(原木換算で 10 万 m

3

以上の燃料が必 要)と言われ、契約納入の導入による価格高騰や納期確保のために上のラン クの材を供給せざるを得ないなど、加工用原木の安定供給への影響も懸念さ れている。先進地のドイツでは、山間部の中規模製材所が 850kW の樹皮ボ イラーで自社工場および近隣の病院・ホテル・住宅に熱電併給(熱:電= 4:

1)している例

15)

がある。日本の FIT 制度にも 2015 年 4 月より未利用木質 バイオマスに 2000kW 未満で 40 円 /kWh という区分が新設されて環境は整 いつつある。木質が蓄えたエネルギーの効率的利用、地域の持続的な森林整 備、木質資源の適切なカスケード利用(品質に応じた段階的利用)に向けて、

小規模熱電併給は理想的なシステムの一つであり、先進地の技術を参考にし ながら日本の特性に合った純国産システムの開発を期待したい。

3 点目は住宅再建の円滑化である。労働力、資材(木材)ともに内陸部と

の連携が鍵になると考える。沿岸部の地元工務店のキャパシティーに余裕が

ない状況は当面の間続くと考えられ、前述のマッチングサポート制度が有効

に機能するよう、検討が必要であろう。また、地域材利用に特化したインセ

ンティブの制度も有効と考えられるが、域内に製材工場等が少なく、木材の

供給力が小さい市町村もある。内陸部も含め、ある程度広域で木材供給を考

えていく必要がある。そのような制度を市町村単位よりも大きな枠組みで展

開していくことも検討すべきであろう。

117 被災地の林業・木材産業・地場住宅産業の復興状況

〔引用文献〕

1)林野庁編:森林・林業白書(2010 年度版)

2)日本住宅・木材技術センター:木材需給と木材工業の現況(2008 年度版),194-195 3)関野 登、酒井博忠:木材工業,67(10), 420-425(2012)

4)岩手県:いわて復興の歩み 2011-2014 東日本大震災津波からの復興の記録(2015)

5)岩手県復興局資料

  http://www.pref.iwate.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/001/806/matijyuuhonbukaigi.pdf

(2015.09 閲覧)

6)関野 登:木材工業 ,66(11),539-540(2011)

7)内田信平、関野 登:NPO 木の建築 , 第 31 号 , 42-45(2011)

8)関野 登、内田信平:岩手大演報,43,41-54(2012)

9)岩手県ホームページ http://www.pref.iwate.jp/kenchiku/tetsuzuki/toukei/019298.html (2015.09 閲覧)

10)杉本未耶、豊岡瑞季:岩手県立大学盛岡短期大学部生活科学科卒業研究論文集,15,45-48(2014)

11)岩手県・宮城県・福島県地域型復興住宅推進協議会:被災三県の地域住宅生産者グループ所属の 工務店による木造住宅の建設状況調査【調査結果】(2015)

12)岩手林業新報社:岩手林業新報,第 6327 号,2015 年 1 月 1 日付 13)岩手林業新報社:岩手林業新報,第 6337 号,2015 年 2 月 13 日付 14)岩手日報社:岩手日報 2015 年 7 月 15 日付

15)関野 登、山本信次:木材工業,69(1),32-35(2014)

関野 登(せきの・のぼる)

岩手大学農学部教授。東京農工大学農学部林産学科 卒業、東京大学大学院農学系研究科博士課程(中退)、

農学博士、一級建築士。専門は木質材料学。日本木材 加工技術協会木質ボード部会長などを務め、木質資源 のカスケード利用を教育・研究。1958 年生まれ

内田 信平(うちだ・しんぺい)

岩手県立大学盛岡短期大学部准教授。東北大学工学部 建築学科卒業、早稲田大学大学院理工学研究科修士課 程修了、一級建築士。専門は建築計画。東日本大震災 後、宮古地域の地元建設業者・木材業者と共同で「宮 古発・復興住宅『ぬぐだまり』プロジェクト」の取り 組みを進めている。1965 年生まれ

118 あとがき

東日本大震災から 5 年、復興はどこまで進み、また、どのような課題が残ってい るのか。本特集では三つのフレームを設け、復興の現場でモニタリングを行ってきて いる研究者に整理していただいた。特集を終えるにあたって、東日本大震災の経験を どのように活かしていけばいいのか、私なりに整理しておきたい。

1. 原発事故による森林生態系への影響

里山に降り注いだ原発事故由来の放射性物質は、里山の暮らし・文化を消失させよ うとしている。森林生態系の特質であるリター・腐植層と植物との循環系は、放射性 セシウムを保持し、生物に供給し続ける。里山に入ること、キノコを採ること、食べ ること、材を切り出して販売すること等、それぞれの活動に対するリスクを、個々人 が見積もり、行動を選択しなければならない。その意思決定を支えるための情報、例 えば、森林内の放射線量地図を誰がつくり、どのように届けるのか。個々がリスク管 理を行っていけるようにするための道筋を作ることが必要だ。

人が入らなくなった里山では、野生動物が自由に移動し繁殖する。クマやイノシシ などの大型哺乳類が増加した里山は怖く、人が里山に入ることを妨げるようになる。

そうした負のスパイラルが生じている。家畜やペットの野生化、外来種の分布拡大も 起こっている。体内に高濃度の放射性物質を蓄積することで、それら動物は放射性物 質を運搬する。原発事故が、動物と人との間に新たな軋轢が作りだしている。放射性 物質による野生動物への影響をモニタリングしながら、野生動物の個体数調節を行っ ていくことが必要となっている。

2. 海浜生態系・海岸林と防潮堤

巨大津波によってダメージを受けた沿岸域の生態系は、当初の予想を上回る速さで 回復しつつある。その一方で、動植物の生息・生育地を消失させ、生態系の回復可能

あとがき

徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部教授

 鎌田 磨人

東日本大震災の経験を

学びにかえるために

119

性を奪う復旧・復興事業もある。防潮堤計画に対して、地域内合意が得られていない こともあると伝えられるようにもなった。朝日新聞 DIGITAL(2016 年 1 月 31 日)は「巨 大防潮堤、何守る? 地元離れる住民たち 宮城・雄勝」1)で、岩手日報 WebNews は「防 潮堤が問う減災」とする連載記事(2015 年 12 月 7 日~ 13 日)2)で、地域で出てい る様々な疑問を報じた。中央防災会議・専門調査会の座長を務めた河田恵昭氏も、「防 潮堤を計画する際、まちづくりと連動させ、住民の生活を結びつける作業をしてこな かった」と論じている(朝日新聞宮城県版、2016 年 2 月 8 日)。

日本弁護士連合会が出した「防潮堤建設についての意見書(2014 年 11 月 20 日)」3) によると、これらの問題は、全額国負担の復興予算を使用できる期限が 2015 年度末 だったことにも起因するようだ。復興予算を用いて防潮堤の整備を実施したい県や市 町村は、予算措置年限内に計画を具体化することを優先し、地域での合意形成に十分 な時間をかけられなかった。2013 年岩手県を訪問した際、案内してくださった県担 当者は、100 を超える小湾に散在する全ての集落で年限内に合意形成のプロセスを経 ることなど不可能であるとの実情と、やるせなさを口にしておられた。また、現行の 海岸法に基づく海岸事業は環境影響評価法の適用外であるため、大規模な事業でもあ るにかかわらず、アセスメントが行われなかった3)

東海、東南海、南海地震への備えとしても、現行法のもとで行われている事業を評 価し、環境政策統合のあり方も含めた、法や施策のあり方を検討しておく必要もある だろう。海浜生態系にしても海岸林にしても、長時間をかけて回復・再構築されるも のだ。また、それらは地域の資源・財産として、地域の復興計画の中にしっかりと位 置づけるべきものだ。広域性とかかる時間の長さを考慮し、順応的に実施していける 復興計画とそれを支える法・制度が必要だ。

1) http://www.asahi.com/articles/ASJ17621SJ17UNHB00V.html?iref=comtop_6_01 2) http://www.iwate-np.co.jp/311shinsai/saiko/saiko_top.html

3) http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2014/opinion_141120_2.pdf

3. 地域社会の復興

復興とは、これからの地域社会のあり方を地域で考え、そのビジョンに向かってい くことだ。それを支えるのは、地域自治の仕組みだろう。しかし、事業が全額国負担 となったことで、市町村はイニシアチブをとれなくなった。復興計画を策定しようと している者に、地域の声を届けるチャンネルがなかったとも言える。トップダウンの 仕組みの弊害だ。また、個々の地区では協議会を支援できる専門家が足らず、また、

支援が必要な場と支援できる者をマッチングする仕組みもなかった。

とは言え、地域内での協議体制は一朝一夕でできる訳ではなく、また、これからの 地域のあり方をいきなり考えられる訳でもない。だから、常日頃から地域のことを地

ドキュメント内 森林環境2016 (ページ 117-124)

Outline

関連したドキュメント