( 1 ) サイクルの構成方法について
3節(2)で述べたように、各参加者が1単位の受払いを行うことから、すべての参加者 の支払いはある1つのサイクルに含まれる。したがって、参加者の集合 N ={1, . . . , N} において、同じサイクルに含まれる参加者を1つの部分集合とすると、部分集合の全体は Nの分割となる。
サイクル、すなわちNの分割は日々変動するものと考え、そのランダムネスを分布 FC(m2, . . . , mN) =P[M2 =m2, . . . , MN =mN]
で与える。ここで、Mk はk 人の参加者を含むサイクルの個数を表す。参加者数はN 人 だから、常に∑N
k=2kMk = N が成立する*28。例えば、参加者数N = 8とし、確率1/2 で長さ2のサイクルが4つ、確率1/2で長さ2のサイクルが1つと長さ3のサイクルが 2つできる場合は、
FC(4,0, . . . ,0) =FC(1,2,0, . . . ,0) = 1 2 で、それ以外は0となる。
FC が与えられると、無作為に選んだ参加者が含まれるサイクルの長さLの分布は、
P[L=ℓ] = ∑
m2,...,mN
ℓmℓ
N FC(m2, . . . , mN)
で計算できる。上の例では、P[L= 2] = 1/2·1 + 1/2·2/8 = 5/8、P[L= 3] = 1/2·0 +
1/2·6/8 = 3/8となる。なお、参加者ではなく、サイクルを(長さに無関係に)無作為に
選ぶ場合のサイクル長の分布は、一般にLの分布と異なるので両者を区別されたい。
( 2 ) 補題 1 の証明
無作為に選んだ参加者を参加者1 とし、参加者1を含むサイクルの長さをL、参加者 1の支払人を参加者2、参加者2の支払人を参加者3、というように参加者Lまで番号を 付ける。参加者1がDを選択した場合に支払いを受け取るのは、参加者2がE、参加者 2がQで参加者3がE、以下同様に、参加者 1 ∼ L−1がQで参加者L がE を選択 する場合となる。仮定1のもとでは、各参加者は互いに独立に確率eλX+λX で支払方法
*28PN
k=2kmk̸=N に対しては、FC(m2, . . . , mN) = 0と定める。
X ∈ {E, Q, D}を選択すると考えられるから、
πD(Λ) =
∑N ℓ=2
P[L=ℓ]
ℓ−2
∑
k=0
(eλQ+λQ)k(eλE+λE)
=
∑N ℓ=2
P[L=ℓ]{1−(eλQ+λQ)ℓ−1}(eλE+λE) 1−(λeQ+λQ)
= (1−ξ(λeQ+λQ))(eλE+λE) 1−(eλQ+λQ) ,
と計算することができる。次に参加者1がE を選択した場合に支払いを受け取るのは、
Dを選択して支払いを受け取る場合の他の参加者の選択に加えて、参加者2∼ Lがすべ てQを選択する場合である。したがって、
πE(Λ) = πD(Λ) +
∑N ℓ=2
P[L=ℓ](eλQ+λQ)ℓ−1
=πD(Λ) +ξ(eλQ+λQ)
= eλE+λE+ξ(λeQ+λQ)(eλD+λD) 1−(λeQ+λQ) ,
となる。参加者1がQを選択した場合、受取りによって決済されるのはDを選択した場 合と同じで、オフセット決済されるのは参加者2∼LがすべてQを選択する場合だから、
πQ(Λ) = πE(Λ)となる。 2
( 3 ) 定理 1 の証明
(6)式、(7)式およびπE(Λ) = πQ(Λ)から、
CE(Λ) QCQ(Λ) ⇐⇒ Θ1 Qδ (A-1)
となる。また(7)式と(8)式から、
CQ(Λ)QCD(Λ) ⇐⇒ h(Λ)Θ2 Qδ (A-2) となる。Θ1 >Θ2 とh(Λ) <1から、Θ1 ≤δならばh(Λ)Θ2 < δが成り立つ。したがっ て、任意のΛに対して
Θ1 ≤δ =⇒ CE(Λ) ≤CQ(Λ)< CD(Λ), (A-3) h(Λ)Θ2 ≤δ≤Θ1 =⇒ CQ(Λ)≤min{CE(Λ), CD(Λ)}, (A-4) δ ≤h(Λ)Θ2 =⇒ CD(Λ)≤CQ(Λ) < CE(Λ), (A-5) が成り立つ*29。
*29 (A-3)式でCE(Λ) = CQ(Λ)となるのはδ= Θ1の場合のみである。同様に、(A-4)式でCQ(Λ) = CE(Λ)となるのはδ= Θ1、CQ(Λ) =CD(Λ)となるのはδ=h(Λ)Θ2の場合、(A-5)式でCD(Λ) = CQ(Λ)となるのはδ=h(Λ)Θ2の場合のみである。
Θ1 ≤δの場合、(A-3)式から
CE(Λ(E))≤CQ(Λ(E))< CD(Λ(E)),
が成り立つので、定義1よりΛ(E) が均衡となる。(A-4)式にΛ = Λ(Q) を代入すると、
h(Λ(Q))Θ2 ≤δ≤Θ1 の場合は
CQ(Λ(Q))≤min{CE(Λ(Q)), CD(Λ(Q))},
となりΛ(Q)が均衡となる。同様に(A-5)式にΛ = Λ(D)を代入すると、δ ≤h(Λ(D))Θ2 の場合は
CD(Λ(D))≤CQ(Λ(D))< CE(Λ(D)),
となりΛ(D)が均衡となる。以上で定理1が示された。 2
( 4 ) 定理 2 の証明
補題 2 条件1を仮定する。2つの支払選択ベクトルΛ(i) = (λ(i)E , λ(i)Q , λ(i)D) (i = 1,2) が
λ(1)E ≥λ(2)E かつ λ(1)Q ≤λ(2)Q , (A-6) を満たすならば、
h(Λ(1))≥h(Λ(2)), (A-7)
が成り立つ。さらに、(A-6) 式の少なくとも一方が不等式ならば、(A-7) 式も不等式と なる。
(証明)補題1より、支払選択ベクトルΛ = (λE, λQ, λD)に対して 1
h(Λ) = 1
h(λE, λQ, λD) = 1 + ζ(λeQ+λQ) eλE+λE
, (A-8)
が成り立つ。よって、条件1および(A-6)式が成り立てば、(A-7)式が成立する。(A-6) 式の少なくとも一方が不等式ならば、(A-8)式から(A-7)式も不等式となる。 2
次に、支払選択ベクトルを比較するための半順序を導入する。
定義 4 2つの支払選択ベクトルΛ(i)= (λ(i)E , λ(i)Q , λ(i)D) (i= 1,2) に対して、
λ(1)E ≥λ(2)E かつ λ(1)D ≤λ(2)D , (A-9) のとき、Λ(1) ≼Λ(2)と定義する*30。さらに、(A-9)式の少なくとも一方が不等式のとき、
Λ(1) ≺Λ(2) と定義する。
*30定義4の≼は、確率分布に対する確率順序の一種と考えることができる。
直観的には、支払選択ベクトルの間にΛ(1) ≼Λ(2) の順序がある場合、Λ(1) の方が早い タイミングで支払いが起こりやすく、その結果として受取りも起こりやすいことを意味す る。実際、Λ(1) ≼Λ(2)の場合、受取確率と平均コストの間に以下の大小関係が成り立つ。
補題 3 Λ(1) ≼Λ(2) ならば、任意のX ∈ {E, Q, D} に対して
πX(Λ(1))≥πX(Λ(2)), (A-10) CX(Λ(1))≤CX(Λ(2)), (A-11) が成り立つ。さらに、Λ(1) ≺Λ(2)ならば、(A-10)式と(A-11)式は不等式となる。
(証明)サンプルパスの議論を利用する。Λ = (λE, λQ, λD)に対して、参加者1が含まれ るサイクルの他の参加者2∼Lの支払方法を
参加者iは
E を選択、 0≤Ui <eλE+λE,
Qを選択、 eλE+λE ≤Ui <eλE+λE+eλQ+λQ, Dを選択、 eλE+λE+eλQ+λQ ≤Ui ≤1,
(A-12)
で定める。ただしUi (i = 2, . . . , L)は互いに独立な[0,1]上の一様乱数である*31。この とき、E, Q, Dを選択する確率はそれぞれeλE +λE,λeQ+λQ,eλD+λDとなる。Λ(1) と Λ(2) に対して、(A-12)式に従ってサイクル中の参加者の行動を選択する。ただし、一様 乱数UiはΛ(1)とΛ(2) に共通のサンプルを使用する。Λ(1) ≼Λ(2) を仮定すると、
参加者iがΛ(1) でEを選択 ⇒ Λ(2) ではE またはQを選択、
参加者iがΛ(1) でQを選択 ⇒ Λ(2) ではQまたはDを選択、
参加者iがΛ(1) でDを選択 ⇒ Λ(2)ではDを選択、
となる。Λ(2) の下で、参加者1がある支払方法を選択し、その結果受取りが発生したと する。Λ(2) をΛ(1) に変更すると、このサイクルに含まれる支払方法のうち、D → Q、 Q → E に変更される部分が生じるが、このように変更されても参加者 1はやはり支払 いを受け取ることができる。したがって、Λ(2) で参加者 1の受取りが発生するならば、
Λ(1) においても受取りが発生する。この議論は任意のサンプル Ui に対して成り立つか ら、Λ(1) ≼Λ(2) ならばπX(Λ(1))≥ πX(Λ(2))となることが示された。特にΛ(1) ≺Λ(2) ならば、D→QまたはQ→E への変更が正の確率で起こるため、(A-10)式は不等式と なる。
(6)式〜(8)式より、CE(Λ), CQ(Λ), CD(Λ)はいずれもπE(Λ), πQ(Λ), πD(Λ)の減少関 数だから、上記の議論とあわせるとΛ(1) ≼(≺)Λ(2) ならばCX(Λ(1))≤(<)CX(Λ(2))が
成り立つ。 2
最後に定理 2を示す。Λ(Q) = (0, λ,0)とΛ(D) = (0,0, λ)は(A-6)式を不等式で満た すから、補題2よりh(Λ(Q)) < h(Λ(D))となる。また、Λ(Q) ≺Λ(D) だから、補題3よ り、任意のX に対してCX(Λ(Q))< CX(Λ(D))が成り立つ。 2
*31仮定1のもとでは、参加者2∼Lは独立に確率eλX+λXで支払方法X ∈ {E, Q, D}を選択する。