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補論 D 独占的競争モデル

ある産業において、類似はしているが同一でない製品を生産する多数の企業が存在 し、それぞれはある程度の価格(及び数量)支配力を持っているようなとき、その産業 は独占的競争にあると言われる。New Keynesian Phillips Curveでは、何らかの価格 の硬直性が生じるメカニズムを組み込んでいるが、その際、誰が価格を決定している のかが一つの問題となる。以下で解説する独占的競争モデルによって、企業が生産コ ストにマージンを上乗せする形で製品価格を決定するという簡潔なプロセスを導くこ とができる24

最初に考慮すべき経済主体を確認しておく。この経済には、中間材を購入して最終 財を生産する最終財生産企業と、資本と労働力を購入し中間材を生産する中間材生産 企業の2種類の企業が存在する。最終財生産企業は完全競争市場に直面しており、そ の企業の生み出す利潤はゼロとなる。t期に生産される最終財Ytは各種中間材Yt(i) 生産要素として、以下の生産関数によって生産されるものとする。

Yt= [∫

Yt(i)qdi ]1

q

0< q≤1  (110) 最終財生産企業は、上記の生産関数、最終財価格及び中間材価格を所与として、PtYt

Pt(i)Yt(i)diを最大化するように生産量を決める。この利潤最大化から、中間材の要 素需要関数が求められる。

Ytd(i) = [ Pt

Pt(i) ]1−q1

Yt (111)

上式を最終財生産企業の利潤関数に代入し、この利潤がゼロである関係を用いると、

個々の中間材と最終財価格の関係式が求められる。

Pt= [∫

Pt(i)

q q−1di

]q−1

q

(112) 続いて、中間材生産企業に視点を移す。それぞれの中間材生産企業は以下の

Cobb-Douglas型の生産関数を持つとする。

Yt(i) =Kt(i)aLt(i)1a (113) 中間材生産企業は独占的競争市場に直面していると仮定すると、中間材生産企業の利 潤最大化問題は、先に導出した要素需要関数( 111)式を組み込んだ上で、以下の式を 最大化することと等しくなる。

πt(i) =Pt(i)Yt(i)−rtKt(i)−WtLt(i) (114)

24ここでの解説はWalsh(2003)を参考にしている

この利潤関数の最適化は2段階のステップを踏むことにより行うことができる。STEP1 では、要素需要関数(2)を組み込んだ上で、最適な生産水準を決定する。STEP2では、

先の最適な生産水準を達成するのに必要な生産要素を費用最小化行動により決定する。

STEP1として、( 114)式のYt(i)に( 111)式を代入するとともに、費用部分を生産 水準とその単位費用を掛け合わせたものとして再定義した上で、最適な中間材価格を 決定するという最適化を行う。この中間材生産企業の利潤関数は以下のように( 114) 式を書き換えられる。

Pt(i)Yt(i)−PtVtYt(i) = [Pt(i)−PtVt] [ Pt

Pt(i) ] 1

1q

Yt (115)

ここで、PtVtは、名目の単位費用を示している。これをPt(i)について微分して得られ る一階条件は次の通り。

[ Pt Pt(i)

] 1

1q

Yt 1

1−q[Pt(i)−PtVt] [ Pt

Pt(i) ]2q

1q ( 1 Pt

)

Yt= 0 (116) これを整理すると、次の式が得られる。

Pt(i) = PtVt

q (117)

この式から、企業は一定のマークアップ率q1を単位費用に掛けることで製品価格を 決定することがわかる。

続いて、この単位費用は具体的にどのような形をしているのかを特定するため、

STEP2に進むこととする。企業の名目の費用関数はrtKt(i) +WtLt(i)であり、これを

技術条件( 113)式のもとで最小化を行う。最適化のため、以下のラグランジュ関数を

セットアップする。

L=rtKt(i) +WtLt(i) +λ(Yt(i)−Kt(i)aLt(i)1a) (118) 資本及び労働市場はそれぞれ完全競争市場と仮定されており、企業はrt, Wtを所与と して最適化を行う。資本、労働、ラグランジュ乗数それぞれの一階条件は以下の通り。

∂L

∂Kt =rt−λaYt(i)

Kt(i) = 0 λ= rt

aYt(i)/Kt(i) (119)

∂L

∂Lt =Wt−λ(1−a)Yt(i)

Lt(i) = 0 λ= Wt

(1−a)Yt(i)/Lt(i) (120)

∂L

∂λ =Yt(i)−Kt(i)aLt(i)1a= 0 Yt(i) =Kt(i)aLt(i)1a (121) ここで、包絡線定理を用いると、ラグランジュ乗数は生産量を一単位増やすことに伴 う限界(単位)費用であることがわかる。労働需要に注目すると、( 117)式で求めた価 格決定式は、( 120)式を用いて以下のように書き直すことができる。

Pt(i) = (1

q

) [ Wt

(1−a)Yt(i)/Lt(i) ]

(122)

ここまでで、個別企業の要素需要と価格決定に関する最適条件は確認できたが、依 然として個別企業と経済全体での変数との関係はわかっていない。ここで、企業は全 て均質であるという条件(symmetric condition)を課すことにより、これまで(i)が着 いていた変数は、全て(i)を除くことができる。25すると、( 122)式は以下のように書 き直すことができる。

Pt= (1

q

) [ Wt

(1−a)Yt/Lt

]

(123) 労働需要の形に書き直せば以下の通り。

Lt= q(1−a)Yt Wt/Pt

(124) 後は、労働供給は家計の最適化行動から導きだせるため、それらを連立させること により均衡を求めることができるが、ここではこれ以上議論しない。

25つまり、Yt(i) =Yt, Pt(i) =Pt, Lt(i) =Lt, Kt(i) =Ktということ。これは、( 110)式や( 112)式の(i) 付き変数を(i)に依存しない変数に置き換えれば、すぐにわかる。

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