• 検索結果がありません。

被保護成年者である会社役員の行為の効果

ドキュメント内 _論説13|内田先生.indd (ページ 36-42)

 以上のような理解によれば、被保護成年者である会社の法定代表者は、

単独で、会社の名において行為する権限を保持することになる

(124)

。裁判所 も、Paris 控訴院1997年 4 月 4 日判決

(三 1 参照)

において、「保佐制度は、

理論的には、不動産民事会社の業務執行者の職務の遂行を妨げるものでな い」と判示し、破毀院商事部2009年 9 月29日判決

(三 2 参照)

において、

被保佐人が保佐人の補佐なしに、会社の名において有効に和解契約を締結 することを認めている

(125)

そうすると、会社役員として行った行為が「被保護者が…補佐または代 理なくして行うことができた行為を単独で行った場合」

(民法典465条 1 項

(123) Cass. 2e civ., 7 avril 2016, no 15─12.739, JurisData no 2016─006479; AJ famille 2016. 272, obs. Thierry VERHEYDE; D. 2016. 1535, obs. David NOGUÉRO; Dr. famille 2016. 156, note Ingrid MARIA; RTD civ. 2016. 823, obs. Jean HAUSER.

(124) LE CANNU et DONDERO, op. cit. (note 69), no 492参照。

(125) HOVASSE et GAUDEMET, op. cit. (note 3 ), no 66; GAUDEMET, op. cit. (note 50), p. 87の指摘による。

1 号)

に該当することとなり

(126)

、同号の適用により、当該行為は無効とはな らず、単なる損害を理由とする取消しまたは過分な部分の減殺の訴えの対 象となるにすぎなくなる

(一 2 ( 1 )参照)

 もっとも、行為時に精神障害があったことを証明した場合には、保護措 置のもとに置かれているかにかかわらず、当該行為の無効を主張すること ができる

(同法典414─ 1 条)

。無効の訴えは、本人の生存中は本人

(同法典 414─ 2 条 1 項)

、死亡後は相続人

(同条 2 項)

にのみ認められる

(相対無

(127)効

。会社やその取引相手方はこの無効を主張できない

(128)

。 3  被保護成年者である会社役員の責任

( 1 )民法上の被保護成年者の責任

 民法典414─ 3 条は「精神障害の支配下にあったときに他人に損害を生じ させた者も、それについて同様に賠償の義務を負う」と定め、精神障害を 理由とする免責を明示的に排除している。1968年法律により同条が置かれ て以降

(当時は同法典489─ 2 条(129)

、同法典1382条

(2016年オルドナンス改正後 同法典1240条)

以下に定める不法行為責任

(契約外責任)

にとどまらず、民

(126) MOUY et ROBBE, op. cit. (note 14), p. 2922参照。民法典465条 1 項 4 号は、被保 護者により単独で行われるべき行為を後見人等が単独で行った場合には、当該行為 は法律上当然に無効であるとする。同文献は、後見人等が会社役員の権限の行使に 介入した場合に、同号が適用される可能性を示唆する。

(127) PETERKA, CARON─DÉGLISE et ARBELLOT, op. cit. (note 98), nos 335.11 et suiv. 参 照。ただし、後見人は、被後見人を裁判上代理することができる(民法典425条 1 項、504条 2 項)。

(128) SCHILLER et FABRE op. cit. (note 13), no 8; SCHILLER et MARTIN, op. cit. (note 63), no 486; MOUY et ROBBE, op. cit. (note 14), p. 2922参照。 

(129) 1968年改正後民法典489─ 2 条(2007年改正後同法典414─ 3 条)の意義につき、

廣峰正子『民事責任における抑止と制裁』(日本評論社、2010年)91頁以下、窪田 充見「成年後見人等の責任─要保護者の不法行為に伴う成年後見人等の責任の検 討を中心に─」水野紀子=窪田充見編『財産管理の理論と実務』(日本加除出版、

2015年)112頁、同「責任能力と監督義務者の責任─現行法制度の抱える問題と 制度設計のあり方」現代不法行為法研究会編著『不法行為法の立法的課題』別冊 NBL155号(2015年)87頁以下参照。

事、刑事、税法の分野において一般的に適用されるに至っているという

(130)

。 同法典414─ 3 条は、保護措置のもとに置かれているかにかかわらず適用さ れる。

 ま た、 倒 産

(集 団 手 続)

法 上、 法 律 上 ま た は 事 実 上 の 会 社 指 揮 者

(dirigeant de droit ou de fait)

には、業務執行上のフォートにより、会社の 資産不足

(insuffisance d’actif)

に寄与した場合の責任が課せられている

(商法典 L. 651─ 2 条 1 項(131)

。判例は、民法典414─ 3 条の適用により、被保護 成年者である会社指揮者にこの資産不足責任を課しており

(破毀院第一民 事部1983年11月 9 日判決、破毀院商事部1986年 6 月17日判決(132)

、学説もそれを 支持している

(133)

( 2 )会社法上の会社役員の責任

 学説はここからさらに、会社法上の会社および第三者に対する会社役員 の責任にも、民法典414─ 3 条の適用が及ぶとしている

(134)

。株式会社の取締役 および執行役員は、個別にまたは連帯して、会社または第三者に対し、株 式会社に適用される法令の規定の違反、定款の違反、または、その業務執

(130) 不法行為責任につき、Cass. 2e civ., 4 mai 1977, no 75─14.473, D. 1978. 393参照。

同条は契約の分野でも適用されている。Cass. 1re civ., 28 janv. 2003, no 00─12.498, Dr. famille 2003, comm. 152, note Thierry FOSSIER参照。適用範囲の拡大につき、

TERRÉ, SIMLER, LEQUETTE et CHÉNEDÉ, op. cit. (note 56), no 961参照。

(131) 倒産時の会社指揮者の責任については多くの研究があるが、近時の研究には、

張子弦「フランスの企業倒産手続における経営者責任( 1 〜 2 ・完)」北法67巻 5 号360頁、67巻 6 号(2017年)224頁がある。

(132) Cass. 1re civ., 9 nov. 1983, no 81─16.548, JurisData no 1983─702359, Bull. civ. I, no 263; D. 1984. 139, note Fernand DERRIDA; Cass. com., 17 juin 1986, no 84─17.668, JurisData no 1986─701254, Bull. civ. IV, no 129; Defrénois 1987, art. 33950, note J.

HONORAT参照。

(133) HOVASSE, op. cit. (note 43), p. 36; HOVASSE et GAUDEMET, op. cit. (note 3 ), no 70; MOUY et ROBBE, op. cit. (note 14), p. 2923参照。

(134) HOVASSE et GAUDEMET, Ibid., nos 69 et suiv.; MOUY et ROBBE, Ibid., p. 2923;

BOUQUEMONT, op. cit. (note 79), no 13; Ingrid MARIA, note sous Cass. 2e civ., 7 avril 2016, Dr. famille 2016. 156, spéc., pp. 54 et suiv. 参照。

行においてなしたフォートにつき、責任を負う

(商法典 L. 225─251条 1 項、

執行役会構成員につき同法典 L. 225─256条 1 項、監査役会構成員につき同法典 L. 225─257条 1 項)

。有限会社の業務執行者も、法令違反・定款違反・業務 執行におけるフォートにつき、個別にまたは連帯して、会社または第三者 に対し責任を負う

(同法典 L. 223─22条 1 項)

。対第三者責任に関しては、判 例 法 上、 職 務 か ら 分 離 さ れ る フ ォ ー ト

(faute détachable ま た は faute séparable)

がある場合、すなわち、会社役員が「会社の職務の通常の遂行 とは両立しない特に重大なフォートを故意になした

(135)

」場合にのみ、責任が 認められている

(ただし、会社の倒産時は、上述の資産不足責任を負うことに なる)

 以上のような理解によれば、被保護成年者である会社役員も会社法およ び倒産法上の責任を負うことになることから、会社役員民事責任保険

(assurance de responsabilité civile)

への加入が推奨されている

(136)

。この保険は 一般に、会社役員の職務の遂行におけるフォートがもたらす金銭的結果に 対する会社役員の個人責任を補償することを目的とするものであり、会社 がその保険料を負担する

(137)

(135) Cass. com., 20 mai 2003, no 99─17.092, Bull. civ. IV, no 84. 会社役員の対第三者 責任につき、COZIAN, VIANDIER et DEBOISSY, op. cit. (note 28), nos 405 et suiv. 参照。

分離されるフォートの概念につき、ミシェル・ジェルマン=鳥山恭一(訳)「上場 会社のガヴァナンス」慶應ロー15・16号(2010年)205頁以下、222頁参照。拙稿

「フランスの会計監査役会社における監査担当者の個人責任」奥島孝康先生古稀記 念第二巻『フランス企業法の理論と動態』(成文堂、2011年)89頁でも、この概念に 言及した。

(136) MOUY et ROBBE, op. cit. (note 14), p. 2923; BOUQUEMONT, op. cit. (note 79), no 13; PETERKA, CARON─DÉGLISE et ARBELLOT, op. cit. (note 98), no 355.31参照。

(137) 会社役員の民事責任保険につき、COZIAN, VIANDIER et DEBOISSY, op. cit. (note 28), no 414; Mémento pratique Sociétés commerciales 19, op. cit. (note 59), no 14460 et suiv. も参照した。

おわりに

 以上のように本稿では、フランスの現行成年後見制度および株式会社・

有限会社の機関を概観したのちに

(一、二参照)

、第一に、被後見人等によ る会社役員の就任可能性について、2008年デクレの公表前後の判例・学説 の状況を紹介し、2016年債務法改正の影響

(フランス民法典1160条)

を検討 した

(三参照)

。第二に、在任中に後見等が開始された会社役員について、

解任の実現可能性の有無や当然辞任条項など定款等による事前対応に関す る議論を紹介した。フランスでは、特に、会社役員が多数派株主・社員で ある場合に生じる問題状況が意識されている

(四参照)

。第三に、後見人 等が会社を代表・補佐することの可否、被後見人等が会社役員として行っ た行為の効果、および被後見人等である会社役員の責任の有無に関する判 例・学説を整理した

(五参照)

 日本では、取締役等の欠格条項が存在するところから、それを削除する 方向に立法が進んでいるのに対し、フランスでは、欠格条項が存在しない ところから、被後見人等の就任・在任をできるだけ限定する方向に立法 論・解釈論が進められている。とはいえ、仮に欠格条項が削除された場合 に起こりうる問題状況はフランスのそれと重なりうる。日仏の成年後見法 と会社法の相違はあるにせよ、フランスの対応は日本における議論の参考 になると思われる。

 要綱案通りの改正が行われた場合、後見開始の審判を受けたことは取締 役等の終任事由になると解されるが

(民法653条 3 号)

、保佐

(・補助)

開始 の審判を受けたことは取締役等の終任事由とならない

(138)

。また、在任中の取

(138) 会社法制(企業統治等関係)部会資料24「会社法制(企業統治等関係)の見直 しに関する要綱案の作成に向けた個別論点の更なる検討( 2 )」第 3 (補足説明)

2 参照。この点をはじめ、竺原摩紀「会社法改正における取締役等の欠格条項の見 直しの動き」金法2105号(2019年) 4 頁では、取締役等の欠格条項の見直しに関す る法制審議会の議論状況が紹介されている。

締役等が後見の開始によって終任したのちに再任された場合

(139)

または成年被 後見人が新たに取締役等に選任された場合、その在任中に取締役等として の職務の執行が困難になることもありうる。成年被後見人等である取締役 等が辞任しない場合、その者を解任することが考えられる。フランスで は、会社側が解任のための総会を招集しない場合に備えて、少数派株主・

社員による株主権・社員権の行使や裁判所の関与など、総会開催の実現を 担保するための手段について議論が行われている

(四 1 参照)

。そして、

総会開催に至ったとしても、会社役員が多数派株主・社員でもある場合に は解任決議の成立が困難なため、定款等による事前対応が推奨されている

(四 2 参照)

 日本について考えてみると、取締役会設置会社であれば、取締役の交代 について他の取締役や監査役の関与を期待しうるが

(140)

、非取締役会設置会社 で取締役以外の機関が置かれていない場合

(しかも取締役が 1 人だけで、そ の者が成年被後見人等である場合)

には、状況は深刻である。株主による監 督是正権の行使を期待するにしても、同族経営の会社やオーナー経営の会 社において、成年被後見人等である取締役が多数派株主でもある場合に は、仮に株主総会が開催されたとしても、解任決議の成立は困難であろ

(141)

。フランスにおける裁判上の解任のような制度

(四 1 ( 2 )②参照)

が ない以上、手詰まり状態となることが容易に想像されるため、定款等によ る事前の対応をしておくことが考えられる。もっとも、定款においてどこ まで定めることができるかについては検討の余地があろう。また、成年被 後見人等である取締役の交代のために

(場合によっては、事業承継も選択肢 となりうる)

、成年後見人等の関与を要求すべきか、という問題もあるよ

(139) 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会「第10回会議議事録」27頁〔神作 委員発言〕参照。

(140) 会社法制(企業統治等関係)部会資料17「取締役等の欠格条項の削除に伴う規 律の整備の要否」 5 ( 2 )参照。

(141) 第10回会議議事録・前掲注(139)35頁〔梅野幹事発言〕、法制審議会会社法制

(企業統治等関係)部会「第15回会議議事録」38頁〔梅野幹事発言〕参照。

ドキュメント内 _論説13|内田先生.indd (ページ 36-42)

関連したドキュメント