○事業・調査における環境配慮の徹底のために
小笠原で実施される各種の公共事業や調査は、島民の豊かな生活環境の確保のために不 可欠であるものの、脆弱な小笠原の自然環境を維持するためには、事業・調査の実施にあ たって、貴重な自然環境の保全と外来種の非意図的導入の排除について徹底する必要があ る。
特に外来種の問題については、事業・調査の全般にわたって、たとえそれが自然再生事 業であったとしても、鉄パイプなどの資材にグリーンアノールが潜み、属島に運搬してし まうような外来種拡散についての危険性が指摘されていることから、徹底した配慮の実施 と事後の確認が必要である。
○自然環境保全・再生事業・調査に関する積極的な情報発信のために
基本計画の検討をきっかけとして、環境省は「小笠原の自然再生」に関するホームペー ジを開設し、基本計画の検討の経緯や小笠原に関する自然環境情報等の発信に努めてき た。また、環境省のみならず、林野庁、東京都、小笠原村等の各関係行政機関はそれぞれ の立場から、事業や調査の実施に先立った地元説明会の開催、広報やリーフレット等の配 布、シンポジュウムや勉強会、意見交換会の開催などを実施している。
今後は、島民ばかりでなく来島者に対しても、より積極的な情報発信が必要であり、さ らに、各主体の共同・連携による効果的な情報の発信手段と相互交流の機会を確保してい く必要がある。
○法制度等の見直しによる自然環境の保全と再生の着実な推進のために
小笠原における自然環境保全にかかる法指定は、自然公園法に基づく国立公園、自然環 境保全法に基づく原生自然環境保全地域(ただし南硫黄島のみ)、鳥獣保護法に基づく鳥 獣保護区、種の保存法による国内希少野生動植物種、外来生物法による特定外来生物、文 化財保護法による天然記念物、森林法による保安林の指定がある。加えて国有林の制度と して保護林(森林生態系保護地区)の指定がされており、森林法により森林計画も定めら れている。しかしながら、これらの中には、小笠原の自然環境の保全と再生を円滑に実施 する上で不十分なものも多い。例えば国立公園では生物多様性の保全上重要な地域を十分 に保護していないケースも見られ、また、森林法やその他の指定では、場合によっては外 来種駆除の障害になる規定になっているケースもある。従って、これらについては見直し て、必要な修正を講ずる必要がある。
また、アカギのケースに代表されるが、小笠原の特殊性で、民有地の所有関係が著しく 複雑化しているため、民有地の外来種駆除が難しい場合も多い。このような場合でもスム ーズな駆除が可能なよう、例えば条例を策定するなど、法令面からも対策を検討する必要 がある。小笠原の場合、本州の在来種が外来種になるため、外来生物法で対応できない種 も危険な場合がある。このような場合も、小笠原独自のこととして、条例などの対応が求 められるであろう。
3.島づくり、仕組みづくりの方向性
◆事業・調査に関する実施計画の検討
基本計画において島ごと及び外来種ごとに検討された対応方針に従い、特に緊急的・重 点的対策の必要性が確認された対象・地区に対しては、実施主体ごとに事業・調査の実施 時期、実施方法、モニタリング・評価手法等を検討し、より具体的な調査・事業の実施計 画を作成する。作成にあたっては、実施主体間での充分な調整・連携を進めるのみならず、
専門家や島民の関与を得て進めることとし、そのための協議を行う場を確保する。
◆基本計画の適切な見直し・更新の実施
「小笠原の自然環境の保全と再生に関する基本計画」は、現時点までの知見の蓄積と事 業成果に基づいて検討されたものである。そのため、今後実施される各種の事業・調査の 成果を踏まえて、見直し・更新が行われることを前提として策定された第一段階の計画で あり、不完全かつバラツキのある内容となっている。
したがって、今後の計画の見直し・更新に当たっては、特に以下に示す部分については、
重点的に補完・修正・追加を行っていく必要がある。
○自然再生事業の達成目標の明確化:例えば 5 年、10 年後に、何をどの程度(根絶、
ゼロ密度抑制、持続的抑制など)減らすといった明確な目標を設定して、事業を 進めるものとする。
○固有種の保護・管理に関する指針の充実:固有種のうち、特に絶滅の危険性が高 い種に対しては保護・増殖・再導入等に関する技術指針を明確にするとともに、
その実現を支える仕組みについても検討する必要がある。
○新たに発見された侵略的外来種影響の反映:これまでの知見では不明確であった 外来種の影響が、特定の場所や種に対して極めて侵略的であるといった事実が明 らかになる場合も多いことから、このような場合には緊急性等も考慮した柔軟な 対応が必要である。
◆事業・調査の順応的管理
各種の事業実施箇所では、事前にデータを取得し、自然環境の再生状況をモニタリング していくが、それらの評価を事業にフィードバックし、事業内容を柔軟に見直すことによ り、事業の順応的管理の実施を徹底する。
◆事業・調査の特性に応じた環境配慮措置の検討と実施
各種事業の施工にあたっては、行政(施工業者)は、生態系を破壊しないよう慎重かつ 丁寧に実施することとし、その事業・調査の特性に応じて環境に配慮すべき措置を検討し、
施工計画へと反映する。施工業者は、実施にあたって、これらの環境配慮措置を遵守する とともに、行政は、専門家等の協力を仰ぎながら、適切な情報提供や自然環境教育の拡大 を図り、施工業者の一人ひとりの作業員の自然環境に対する理解の徹底を促す。そして、
行政は、環境配慮措置が適切に実施されているかチェックする。配慮措置としては、例え ば、地域内での種苗・現地産資材を使用する、外来種の非意図的導入を絶対に避ける、必
要な範囲内で慎重に機械を用いるなどが考えられる。
東京都では、「公共事業における環境配慮指針」を策定し、現在、小笠原支庁では、こ のような環境配慮措置に関するテキストを作成しており、ここでの知見を参考としつつ、
小笠原における統一的な事業・調査での環境配慮ガイドラインの確立に向けて検討・調整 していく。
◆外来種の非意図的導入、属島への拡散の排除
事業・調査の実施にあたっては、小笠原のアクセス拠点である父島、母島への外来種の 非意図的導入を抑制するとともに、属島などへの外来種の非意図的な拡散の危険性を徹底 的に排除する。そのために、特に工事に伴う資材の搬入にあたっては、行政及び施工業者 は、持ち込む資材の入念なチェック、海水などによる洗浄、地面接触の回避、消毒された 土壌のみの使用、外来植物種の使用回避など、非意図的な導入・拡散のために必要な配慮 措置を洗い出し、実施を徹底するとともに、検疫システムの導入など、入口箇所での適切 な予防策を検討する。
◆事業・調査に関する情報・技術の蓄積・更新、主体間の共有化
小笠原の環境保全・再生に向けて実施した事業・調査に関する情報・技術を蓄積してい き、以降に実施されている事業・調査に有効に反映させるようなシステム化を検討する。
それとともに、例えば緑化事業などにあたって、外来植物の危険性の予防措置となる「外 来植物リスク評価システム(WRA)」など有効な手法などの積極的な活用を進めていく。
各種の事業・調査に関する情報は、地域住民や来島者に対しては広く公開することによ り、合意形成・理解促進・協力要請等に積極的に活用していく。
一方、関係行政機関や専門家の間では、相互の情報の共有化を強めることにより、各種 事業の横断的な進捗状況と相互の影響確認を行うなど、小笠原における保全再生事業・調 査全体の連携を可能にする仕組みを検討する。特に、事業・調査を実施する前には、様々 な立場の専門家を交えた情報共有・総合調整を行える仕組みづくりを進める必要がある。
また、必要に応じて、行政間が連携して事業・調査を効果的・総合的に実施していくとと もに、島民等による事業・調査への参加を推進する。
◆法等による指定の見直し、条例化などの対応
国立公園などの地域指定については、現在の小笠原における自然環境の保全と再生を進 めるべきものとして見直し、修正するべきものは早急に修正することが必要である。また、
様々な課題に対処するため、場合によっては、技術面ではなく、制度面での対応が必要な ことが多い。この場合、条例化などの対応も含めて検討を進める。
◆行政間での事業・調査の相互調整・情報共有の仕組みづくり
さまざまな行政機関が各種の事業・調査を連携して実施していくためには、行政間や関 係者の相互調整の場を確保し、情報の共有化を進めるとともに、事業や調査の結果を踏ま えて基本計画の見直しを継続的に行う仕組みを確保する。