第 3 章 ベクトル空間の性質 46
4.6 行列の正定値
第4章 固有値と固有ベクトル 86
第4章 固有値と固有ベクトル 87 は正値(半正値)エルミート行列になり、これは確かにB2 =Aを満たしているので。
ところで任意の複素数u= a+ ibは√
uu∗eiθ とかけた。行列には似たようなことが できるのであろうか?そこで0でない数を正則行列に対応づけ、、正の実数は正値エル ミート行列、eiθはユニタリ行列に対応させて考えると、次の定理が成り立つことが予 想される。
Theorem 4.14 任意の正則行列Aは正値エルミート行列Hとユニタリ行列U の積と して一意的にあらわすことができる。
証明) H =√
AA†は正値エルミート行列。ここでU =H−1Aとおくと、
U U† =H−1AA†(H−1)†=H−1H2H−1 =I となり、U はユニタリ行列となる。
一意性は以下のようにして示せば良い。別のあらわ仕方が有ったとしてA=HUと すると、
HU =HU →H =HU U† 一方、H =H† =UU†Hより、
H2 =HU U†UU†H =H2 となる。このH2, H2をユニタリ行列V で対角化すれば
V†H2V = (V†HV)2 = (V†HV)2= diag(α1, α2,· · · , αn) となり、
V†HV =V†HV = diag(√
α1,· · · ,√ αn)
が示されるので、H =H。これからU =Uが導かれるので結局一意的にあらわされ ることがわかる。
4.6.1 実対称行列
エルミート行列の中で行列要素がすべて実数のものを実対称行列とよぶ。固有値は 実数で、特性方程式det(A−αI)の解をαiとすると、
(A−αiI)ui =0
の解は実の非自明解を持つ。つまり固有ベクトルは実数ととれる。よって変換行列U も行列要素を実数とすることができる。このように成分が実のユニタリ行列を直交行 列とよび、通常Oと書く。ゼロ行列と紛らわしいので注意。
第4章 固有値と固有ベクトル 88
問 ⎛
⎜⎝
1 1 0 1 0 1 0 1 1
⎞
⎟⎠
を対角化せよ。
4.6.2 2次形式
x1, x2,· · ·, xnの2次関数、
f(x1, x2,· · · , xn) = n i,j=1
aijxixj
を2次形式と名づける。ここでxixjの係数は(aij+aji)xixjなのでaijの選び方は任意 性がある。そこでaij = ajiという条件を付け加える。するとaij を行列要素とするA は実対称行列になり
f(x1, x2,· · · , xn) =xtAx となる。ここでAを対角化する行列をOとおくと、
f(x1, x2,· · ·, xn) = xtOOtAOOtx
= ytdiag(α1,· · · , αn)y
=
i
αiyi2
となる。ここでy=Otxである。さらにyi =zi/
|αi|とおくと、固有値を大きさの順 にならべて
f =z12+· · ·+zp2−z2p+1− · · · −z2p+q
をうる。これを二次形式の標準形とよぶ。上式のように係数が正のものがp個、負の ものがq個あるとき、2次形式の符号は(p, q)であるという。
4.6.3 主小行列
Akとは行列Aの最初のk行k列をとってきたものである。これを使うと、行列の正 値性がわかる。
第4章 固有値と固有ベクトル 89 Theorem 4.15 実対称行列Aにたいして、xtAx>0がすべての0でないxに対して 成り立っているためには、detAk >0が必要十分条件である。ここで|Ak|は主小行列 式である。
必要条件)
xとして最初のk行以外はすべて0のベクトルxkをとると、
0<xtAx=xtkAkxk
Akは実対称行列なので対角化でき、定理4.13より固有値はすべて正ということがわか る。よってdetAk>0。
十分条件)
数学的帰納法で示す。n−1のとき、この定理が成立していると仮定する。(n= 1なら 確かに成立している。)この仮定より、|A1|,|A2|,· · · ,|An−1|>0が成り立っていれば、
xtn−1An−1xn−1 >0が成立。そこで(n, n)型行列Aを
An−1 B Bt c
とかく。cはスカラーである。
A=
In−1 0 BtA−1n−1 1
An−1 0
0t c−BtA−1n−1B
In−1 A−n−11 B
0t 1
とかけるので D=
An−1 0
0t c−BtA−n−11B
, P =
In−1 A−n−11B
0t 1
とすると、
xtAx=ytDy Dが正定値ならxtAxも正定値。
|A|=|An−1|(c−BtA−n−11B), |A|=|An|>0, |An−1|>0 より、e=c−BtA−n−11B >0となる。こうして
ytDy=ytn−1An−1yn−1+ey2n>0 こうして正値が示される。
問 逆にxtAx<0のためには(−1)k|Ak|>0が必要十分であることを示せ。
第4章 固有値と固有ベクトル 90
4.6.4 アダマール (Hadamard) の不等式
正値エルミート行列の性質を用いて、以下のことがわかる。
i) Aを正値エルミート行列とする。このとき A=
An−1 b bt ann
とし、
detA=anndetAn−1−btadjAn−1b よって、
|A| ≤ann|An−1| ≤annan−1n−1|An−2| ≤ · · · ≤!
i
aii
が成立する。等号は各ステップでb=0なら成り立つので対角行列の場合である。
ii) Aを任意の行列とする。このとき 1. detA= 0ならdetA†A= 0
2. detA= 0ならB =A†Aは正値エルミート。よって、
detA†A =|detA|2 ≤!
i
bii, bii=a†iai =|ai|2 こうして
0<|detA| ≤ ||a1|| × ||a2|| × · · · × ||an||=
!n i=1
||ai||
等号が成立するのはbij = (ai,aj) = 0(i = j)、すなわちaiが互いに直交すると きである。
以上はアダマールの不等式と呼ばれている。