第 3 章 ベクトル空間の性質 46
3.2 ベクトルの一次独立性
(1,0)と(0,1)をe1とe2とおくと、xe1+ye2 = (x, y)は平面上のすべての点をあら わす。
一方、(1,0)と(1,1)もc1(1,0) +c2(1,1)という線形結合を考えると、平面上のすべて の点を表すことができる。
しかし、(2,1)と(4,2)をどう足しあわせても、c1(2,1) +c2(4,2) = (c1+ 2c2)(2,1)と なり、直線y = x2 上の点しか得られない。
本章ではこれを一般化した議論を行う。
まず、線形結合
c1a1+c2a2+· · ·cnan
を考える。この線形結合が0になるとき、すなわち
c1a1+c2a2+· · ·+cnan =0 (3.2) となるのは、c1 =c2 =· · ·=cn = 0という自明な解以外にない場合、a1,a2,· · · ,anは
一次独立(線形独立)と呼ぶ。もし、自明な解以外を持っている場合は、一次従属(線形
従属)と呼ぶ。
第3章 ベクトル空間の性質 48
一次独立でない場合、つまり一次従属の場合、c1, c2, (m)
· · ·, cnのうち、どれかは0で ないという解が存在する。その0でないものをcmとおくと、
am =−c1
cma1− c2
cma2− · · · − cn
cman (3.3)
となる。ここで右辺ではm番目の項を除いてある。こうして一次従属でない場合、あ るベクトルamが他のベクトルの線形結合で書き表せることがわかる。
問 (ai,aj) =δij (1≥i, j ≥n)を満たすベクトルを正規直交系という。正規直交系 は一次独立であることを示せ。
Theorem 3.2 a1,a2,· · · ,anが一次独立、a1,a2,· · · ,an,an+1が一次従属なら、an+1
はa1,a2,· · · ,an の線形結合で表せる。
証明)
c1a1+c2a2+· · ·+cnan+cn+1an+1 =0 の解は、自明でないものを含む。その非自明 解はcn+1= 0である(なぜならもしこれが0ならa1からanの一次独立性により自明 解になってしまうから)。これより、
an+1 =− c1
cn+1a1− c2
cn+1a2− · · · − cn cn+1an
この表し方は一意的である。というのはもしan+1 =n
i ciai =n
i ciai というよう に二通りに表せていたら、n
i(ci−ci”)ai =0となり、一次独立性よりci =ci”となる ので。
この対偶命題は
a1,a2,· · · ,anが一次独立で、an+1がa1,a2,· · ·,anの線形結合で書くことができなけ れば、a1,a2,· · · ,an,an+1は一次独立である
ということである。
こうしてa1,a2,· · · ,akが与えられたとき、一次独立のベクトルを選ぶには
1. a1から順番に調べていき、0でないものをみつける
2. それをai1 とおき、ai1 の定数倍でないものをai1+1,ai1+2· · · から選び、これを ai2とおく。
3. 次にai1, ai2 の線形結合で表せないものをai3 とおく。
第3章 ベクトル空間の性質 49 4. これを繰り返す
とすればよい。こうしてできたベクトルの集合を極大集合、もしくは極大線形独立系 と呼ぶ。
Theorem 3.3 a1,a2,· · · ,anとb1,b2,· · · ,bn はそれぞれ一次独立で、a1,a2,· · · ,an
はb1,b2,· · · ,bn の線形結合で表せ、逆にb1,b2,· · · ,bn はa1,a2,· · ·,anの線形結合 で表せるとき、
n=n である。
証明)
題意より
bj = n
i=1
cjiai
ai =
n
j=1
dijbj
なので、
bj = n
i=1 n
j=1
cjidijbj
ai =
n
j=1
n i=1
dijcjiai
となる。ここでcij は(n, n)型、dij は(n, n)型である。bの一次独立性から 0 =
n i
n
j
cjidijbj−bj
= n
i n
j
cjidijbj−
n
j
δjjbj
=
n
j=1
( n
i=1
cjidij −δjj)
となる。よって係数cij, dijを成分とする行列をそれぞれC, Dと書くと CD=In
第3章 ベクトル空間の性質 50 同様に
DC =In
をうる。Binet-Cauchyの定理より、n=nでないときは、CDかDCのどちらかの行 列式が0になってしまい、左辺の|I|= 1と矛盾する。よってn =n。
これより、二つの独立な集合間の変換行列(CとかDのこと)は正則であることもわ かる。
以上の議論をまとめると
Theorem 3.4 a1,a2,· · · ,anからai1,ai2,· · · ,aim というm個の一次独立なベクトル の集合を選び出し、a1,a2,· · · ,anをこれらの線形結合で表すことができる。この選び 方は何通りもありうるが、mの値は一通りに決まる。
今まで示したことから「n次元ベクトルのうち、一次独立なものはn以下」というこ とがわかる。
証明)
e1,e2,· · · ,en は一次独立で、これですべてのベクトルを表すことができる。ここで
{e1,e2,· · · ,en,a1,a2,· · ·,am} のなかで一次独立なのはn。また
{a1,a2,· · · ,am,e1,e2,· · ·,en} のなかで一次独立なものはm+sなので
n=m+s≥m
Theorem 3.5 m個のn次元ベクトルaj(1 ≤j ≤m)があったとする。これより行列 (A)ij =aijを考える。Aは(n, m)型。これが一次独立なためには、Aのn個の行から m個とったm次行列式がすべて0ということはないことが必要十分。
証明) 十分条件)
a1c1+a2c2+· · ·+amcm = (a1 a2· · ·am)
⎛
⎜⎜
⎜⎝ c1 c2 ... cm
⎞
⎟⎟
⎟⎠=0
第3章 ベクトル空間の性質 51 を考える。Aからm行だけ取り出した行列をAとおくと、
Ac=0 detA = 0なのでc=0となり、確かに一次独立。
必要条件)
{a1,a2,· · · ,am,e1,e2,· · ·,en}から極大線形独立系を選ぶと {a1,a2,· · · ,am,ei1,ei2,· · · ,eis}, n=m+s
となる。また{a1,a2,· · · ,am,ei1,ei2,· · · ,eis}は{e1,e2,· · · ,en}の線形結合で表せる。
もしi1 =m+ 1, i2 =m+ 2,· · · , is =nなら二つの基底の間の変換行列の行列式は0 でないので
a11 · · · a1m
... . .. ... 0 am1 · · · amm
am+1,1 · · · am+1,m 1 0 · · · ... . .. ... 0 . ..
... ... ... · · · 1
= det
⎛
⎜⎝
a11 · · · a1m ... . .. ... am1 · · · amm
⎞
⎟⎠= 0
一般には1からnのなかで{i1,· · · , is}をとりさったのこりを{j1,· · · , jm}とおき、
1 2 · · · m m+ 1 · · · n j1 j2 · · · jm i1 · · · is
という置換を施すと、
aj11 · · · aj1m
... . .. ... 0 ajm1 · · · ajmm
ai1,1 · · · ai1,m 1 0 · · · ... . .. ... 0 . ..
... ... ... · · · 1
= det
⎛
⎜⎝
aj11 · · · aj1m ... . .. ... ajm1 · · · ajmm
⎞
⎟⎠= 0
よって、少なくともある行列式が0でないことが必要であることが示された。
Theorem 3.6 (Gramの行列式) m個のn次元ベクトルaj(1≤j ≤m)が一次独立で あるための必要十分条件は
(a1,a1) · · · (a1,am)
... ... ...
(am,a1) · · · (am,am)
= 0(>0) (3.4)
第3章 ベクトル空間の性質 52 が必要十分条件である。この行列式をGramの行列式と呼ぶ。この行列はエルミート 行列で行列式の値は非負である。
証明)
{yk}を正規直交系とする。
aj = n
k=1
αjkyk
と表せる。そこでAをαjkを成分とする行列とすると (aj,ak) =
n j=1,k=1
α∗jkαkj(yk,yj)
= n j=1
α∗jjαkj
= (A∗At)jk = (AA†)tjk
|AA†|はBinet-Cauchyの定理よりベクトルのn個の成分からm個とったものの行列式 の積で表せるが、この積は互いに複素共役の関係にあるので必ず正か、0。これが0と いうことは行列Aからm個の列を選んで作った行列の行列式がすべて0ということ。
よって定理3.5から、このGramの行列式が0でないことが、aj(1≤j ≤m)が一次独 立であることの必要十分条件。