第 5 章 実際の生体データを用いた血圧調整システム内の信号間における因果関係の推定 33
5.4 解析結果と考察
5.4.1 血圧調整システム内の 3 つの信号間における因果関係
図5.8 M BP,HR,P Aの3つの信号間の若年者と高齢者それぞれにおけるMTEDをとる 割合.
図5.9 M BP,HR,P T T の3つの信号間の若年者と高齢者それぞれにおけるMTEDをと る割合.
図 5.10 M BP,HR,M K1の3つの信号間の若年者と高齢者それぞれにおけるMTEDを とる割合.
図 5.11 M BP,HR,M K2の3つの信号間の若年者と高齢者それぞれにおけるMTEDを とる割合.
図 5.12 M BP,HR,M K3の3つの信号間の若年者と高齢者それぞれにおけるMTEDを とる割合.
図 5.13 M BP,HR,CRの3つの信号間の若年者と高齢者それぞれにおけるMTEDをと る割合.
図5.14 M BP,HR,1/CRの3つの信号間の若年者と高齢者それぞれにおけるMTEDを とる割合.
図5.15 8種類の血管系の信号ごとの若年者と高齢者におけるMTEDの割合の差の絶対値の 総和.
まず,シミュレーションの結果と比較する.図4.5,図5.7を見ると,シミュレーションと実験 データのどちらの場合においてもMTEDをとる割合は,若年者はM BP →HRの方向が最も 大きく,高齢者はHR→M BP の方向が最大であった.このパターンに当てはまった被験者は,
若年者については,圧受容器反射機能が高い被験者であり,高齢者については,圧受容器反射機 能が低い被験者である可能性が高いと考えられる.また,シミュレーションではM BP →P P の方向が最も大きくなることは無かったが,実験データでは若年者においてM BP →HRと 同程度の割合であった.M BP →HRの因果関係というのは,圧受容器反射により心拍数を調 整していることを意味し,M BP →P P の因果関係というのは,圧受容器反射により血管を調 整していることを意味すると考えられる.したがって,この2つの方向は主に圧受容器反射に よる働きを表していると考えられ,実際に,圧受容器反射機能が低下している高齢者において はM BP →HRとM BP →P P のいずれにおいても強い因果関係がほとんど見られなかった.
しかし,高齢者においても圧受容器反射は機能しているので,M BP →HRとM BP →P P の方向の情報移動は存在していると考えられる.高齢者においてHR→M BP やHR→P P の方向のMTEDとなる割合が大きかった理由は,循環系の物理的要因による因果関係を表す HR→M BP やHR→P P のIT Emaxが相対的に大きくなったためであると考えられる.
次に,若年者,高齢者別に従来の圧受容器反射感度の指標であるαLF で被験者を分類(0<= αLF < 5,5 <= αLF < 10,10 <= αLF)した場合におけるMTEDをとる割合をそれぞれ図 5.16,図5.18に,3つの信号間における因果関係を表したものをそれぞれ図5.17,図5.19に示 した.なお,若年者と高齢者におけるαLF の分布は図5.20のようになっており,また図5.21 に示した通り,両者のαLFの平均値には有意差がみられた(p <0.001).図5.16,図5.18を見 ると,αLFが同程度であっても若年者と高齢者とでMTEDをとる傾向が異なっていた.前述 したようにαLF という指標は圧受容器反射機能のゲインを表す指標であり,M BP →HRや M BP →P P の方向の因果関係と同じ傾向になると考えられる.若年者に関してはこの予想通 り,αLF が大きい被験者ほどMTEDがM BP →HRやM BP→P P である割合が大きくなっ ていた.しかし高齢者においては,αLFが大きい被験者であってもMTEDがM BP →HRや M BP →P P になることはほとんどなかった.この理由は,前述したようにM BP →HRと M BP →P P の方向の情報移動は確かに存在しているが,それらの方向よりもHR→M BP やHR→P P のIT Emaxが相対的に大きくなったためであると考えられる.また,高齢者で αLF が大きかった被験者は圧受容器反射機能のゲインが大きいのではなく,不整脈等により心 拍数変動が大きくなった結果,(2.1)式におけるSRRIが大きくなってしまったことが影響して いる可能性も考えられる.
さらに図5.16において注目すべき点として,若年者ではαLF が大きい群がM BP →HRと M BP →P P に分かれているという点がある.前述したように,M BP →HRの因果関係とい うのは,圧受容器反射による心拍数調整を表し,M BP →P P の因果関係というのは,圧受容 器反射による血管調整を表すと考えられる.したがって,αLF では分類することができなかっ た圧受容器反射による心拍数調整と血管調整の優位性の区別を,ITEを用いることにより評価 できる可能性が示唆された.
図 5.16 若年者において被験者をαLF に基づいて3群(0 ≤ αLF < 5,5 ≤ αLF < 10, 10≤αLF)に分類した場合におけるMTEDをとる割合.
図 5.17 若年者において被験者をαLF に基づいて3群(0 ≤ αLF < 5,5 ≤ αLF < 10, 10≤αLF)に分類した場合のM BP,HR,P P 間における因果関係.線が太くなるほど強い 因果関係があったことを表す.
図 5.18 高齢者において被験者をαLF に基づいて3群(0 ≤ αLF < 5,5 ≤ αLF < 10, 10≤αLF)に分類した場合におけるMTEDをとる割合.
図 5.19 高齢者において被験者をαLF に基づいて3群(0 ≤ αLF < 5,5 ≤ αLF < 10, 10≤αLF)に分類した場合のM BP,HR,P P 間における因果関係.線が太くなるほど強い 因果関係があったことを表す.
図 5.20 若年者と高齢者のαLF の分布.緑の直線は分類(0 ≤ αLF < 5,5 ≤ αLF < 10, 10≤αLF)の境界線を表す.
図5.21 若年者と高齢者のαLFの平均値.