Q1 法人著作の要件を満たさない場合でも、大学 に著作物を原始帰属させる規則は有効か?
著作権をはじめとする知的所有権は独占権であり、権利者が自分以外の 他人の利用を排除する対世的禁止権を中核とする権利であることから、そ の創設・帰属は公の秩序にかかわるとなります。よって、権利の原始帰属 は法律があってはじめて認められるものであり、私的な領域(契約や学内 規則)で勝手にこのような権利の創設・帰属を決めることはできません。
法人が著作権を原始取得できるかは、著作権法 15 条の要件を満たすかの みが判断基準であり、同条の要件を満たさない場合は規則で大学が原始取
*3:アルゴリズムはいわばアイ デアであり、アルゴリズムに従っ てコード化する段階になって初め て「表現」となり、著作権の保護 対象となる。
得すると定めても無効となります。
Q2 次のソフトウエアは、規則に定めておけば大 学に原始帰属するか?
以下、現実にある規則の例を掲げて検討してみます。
■大学が企画を立てて教職員が職務上作成したコンピューター・プログラム 企画を立てたことが「発意*4」にあたれば、法人著作の要件を満たし大 学が原始取得します。
■教職員が大学の支援のもとで作成したコンピューター・プログラム 「支援」には経済的支援、物理的支援、人的支援等が考えられますが、
「支援」と「発意」とは異なるので、「発意」要件を満たさない場合には、
大学がどれだけ支援、貢献をしたからといって、大学が原始取得すること はできません。
■教職員が研究活動の過程で作成したコンピューター・プログラム
「職務上」要件に関しては、研究活動がこれに該当する可能性もあります が、大学の「発意」かという点は別の要件であり、上記同様「発意」要件 を満たさなければ著作権は大学に原始帰属しません。
■学生が大学の業務の一環として作成したコンピューター・プログラム 「発意」要件の問題の他、学生は、そもそも大学と雇用関係がないので
「職務上」という要件もまた満たしません。大学と雇用関係のない学生が作 成したプログラムについて、大学に原始取得させるのは困難でしょう。
■教職員が大学の発意のもと職務上作成したが、大学名義では公表されな い仕様書、設計書、フローチャート
前述 I で説明したとおり、法人名義での公表は、「プログラムの著作物」
に限り法人著作の要件から除外されています。プログラムはあくまでも機 械に対して指令を送るものであって、プログラムを書く前提となる仕様書、
設計書、フローチャートは、「プログラムの著作物」ではありません。よっ て、これらが大学名義で公表されていなければ、大学が原始取得すること はできません。
■学生が教員の指導のもとに作成したプログラム
前述のとおり学生は大学と雇用関係にありませんので、著作権 15 条の 適用は難しいでしょう。機関帰属させたいソフトウエアの開発をするにあ たり、学生をアルバイトとして雇用する等、「職務上」の要件を満たすよう な手当ては考えられます。
Q3 大学が原始取得しない場合、「帰属する」と の規定で著作者からの譲渡を定めたものと解 釈する余地はないか?
大学が原始取得しない場合でも、「大学に帰属する」との規定に基づい て、個人(教員や学生)が原始取得したものを機関が承継するという考え方
*4:「発意」とは、著作物作成の 意思が直接または間接に使用者の 判断にかかっているかどうかが決 め手であり、例えば会社の従業員 がアイデアを出し、または企画を 立てて、上司の了承を得たという 場合も含まれる(加戸守行著「著 作権法逐条講義」)。
は成り立ちうる余地があります。民間の契約では、「帰属する」という文言 がこのように解釈される場合は少なくありません。
しかし、大学が作成した規則があるということのみで、譲渡の合意(契 約)があった場合と同じ効果を認めて良いかは疑問です。通常、学内規則 は大学が一方的に作成するものであり、個々の教員や学生の意思が反映さ れてはいません。合意の形成という意味では、少し無理があるように考え られます。ただし、教員に関しては、規則が雇用契約に付随するものとし て契約内容だと解釈する余地はあるかもしれません。この点は、学内規則 の法的性質について議論を詰める必要があるのではないでしょうか。
また、規則とは別に個別の同意(契約)により機関承継する場合でも、前 述の著作権法上の 27 条、28 条の権利留保に関する処理、登録による対抗 要件の具備、著作者人格権の処理ができているのか、ということが次の問 題になります。
III.まとめ
産学連携という観点からすると、いくら優れたソフトでも、誰が著作権 者なのかがはっきりしないと、企業が世にそれを送り出すインセンティブ が働かないのは当然でしょう。ある程度の成果ができ上がってから、「譲渡 に同意しない!」と言われてしまうと、大学も企業も非常に困った事態に なるのは目に見えています。
この意味でも、著作物管理規則の規定の仕方は、不安定なもの、あいま いなところをできる限り排除する工夫が必要です。例えば、原始取得の場 合と、権利承継(譲渡)の場合を明確に区別した規定とすることで、解釈の 余地の少ない条項とすることができます。現状は、この問題を含めまだま だあいまいな規定が多いようですが、今後、大学発のソフトが注目される ようになるにつれ、解決しておかなければいけない課題となるでしょう。
特許法第73条3項の規制緩和を!
製品化進め技術を世のために生かす
金沢大学の出版物にしばしば「Since 1862」とある。これは明治維新以 前に加賀藩が金沢・彦三(ひこそ)にワクチンセンター “種痘所” を開設し た年を金沢大学の医学部の起源としているからである。
大学の起源としては日本で 3 番目に古く、最も古い長崎大学の起源は、
それより 5 年前の 1857 年と聞く。
その長崎の名所南山手に位置する、ホテルグラバーヒルで昨年 9 月 20 日に開催された、科学技術振興機構(JST)主催の「イノベーションコーデ ィネータフォーラム 2007」で、次の趣旨の話をさせていただいた。
◆DNAが生きたまま見える顕微鏡
金沢大学の安藤敏夫教授は、今まで人類が見ることのできなかった、ナ ノメートルサイズの分子レベルの生体観察ができる「高速原子間力顕微鏡」
の開発に成功した。それを受けて、私は産学官連携コーディネーターとし て、この研究成果を日本、米国、ドイツの原子間力顕微鏡専業メーカー 3 社にライセンスすることに努力した。
技術の概要は、①従来の原子間力顕微鏡よりも、1,000 倍早い撮影速度 を達成、②水溶液中で動くタンパク質分子や DNA を、生きた映像として とらえることに世界で初めて成功(写真 1)、③生命科学の研究手法を将来 一変させる革新的な顕微鏡、などである。
しかしながら、この特許は企業との共同出願であったため、ラ イセンシングには人知れぬ苦労があった。
◆共有特許の第三者ライセンシング
大学には工場はない。大学には営業所や海外サービス網がない。
大学は研究者の発明を自ら製品化、販売して「人類の福祉のため に貢献」することはできない。それ故、大学は企業に発明技術を ライセンスすること以外に、「世のため人のため」に貢献できな いのである。
しかし、その発明が共同研究の成果として企業との共同出願にした場合 は複雑になる。共同出願した企業を通じて滞りなく製品化される場合は、
大変喜ばしい。しかしその企業が何らかの理由で、製品化を当面思いとど まる場合がある。技術的能力の問題、他の製品に当面注力せねばならない 事業環境などの、企業の特別事情を原因とする場合である。
◆ 発明者の願望
研究者は直情型が多い。自分の発明が、共同出願相手企業の都合により
「人類のために活用できない」ことに対して、泣きたくなるほど切ない気
高速原子間力顕微鏡に関する安藤敏夫教授の研究成果を日、米、独の企業に技術移転したコーディネーター、
平野武嗣氏が共有特許の第三者ライセンシングの課題を指摘し、特許法第73条3項の規制緩和を訴える。
平野 武嗣
(ひらの・たけつぐ)
文部科学省 産学官連携コーディ ネーター/有限会社金沢大学 ティ・エル・オー(KUTLO)取 締役
写真1 生きたDNAの様子
(金沢大学 安藤敏夫教授 提供)
持ちになるであろう。それを理解するからこそ、その事態に直面したとき、
産学官連携コーディネーターや TLO の技術移転担当は、研究者からの非常 に強いプレッシャーを感じるものである。
◆特許法第73条3項の「同意」
打開策として、コーディネーターたちは特許法第 73 条 3 項が定める第 三者へのライセンシングについて、共有者の同意を取り付ける作業に入る。
繰り返して言うが、「共有者が早急に製品化を計らないことが明白になっ たとき」にのみ、共有者からの同意を取ることが必要になる。
筆者は 3 年前にこの場面に直面して、共有相手と交渉した。前述の研究 者の強い願望を主張し、途中紆余(うよ)曲折はあったものの、結果として 幸いに共有者の同意を得て、第三者にライセンスをすることができ、製品 化が進んでいる。間もなく研究成果が人類のために役立つ予定である。
◆同意がなければお蔵入り
もし共有者が第 73 条 3 項の同意をすることを拒んだ場合はどうなるで あろうか。理由はいろいろなケースが考えられる。
「第三者」は、通常ビジネスでは競合相手、商売敵である。せっかく共同 研究に資金を出し権利も共有したものを、競合相手にライセンスされてた まるか! トンビにアブラアゲをとられるようなものだ。「それならば、い ろいろな理由を申し立てて抵抗せよ」と、会社の方針として担当部門に指 示が出たとするとどうなるであろうか。
もちろん、指示を受けた企業の担当者は必死に抵抗する。同意は決して 与えないという考えで抵抗するとどうなるか。
日本の大学はやさしい。しばらくは押し問答をするかもしれないが、『同 意を求める訴訟』などを起こす闘争能力は、今のところ持っていない。
せっかくの研究成果が、共有者の事情で製品化されない場合もないとはい えないのである。少なくとも数年は日の目を見ない発明となり、結局はお 蔵入りとなることもあるのである。
古来、人類の知恵は世界のどこかで同時発生的に起こることがあるとい われる。ましてや、インターネットで瞬時に、研究論文などの情報が世界 のどこでも知ることができる時代である。類似技術で、誰かにマーケット で先を越されることも考えられるのである。
◆法の趣旨と現実
法(特許法)の該当条項(第 73 条 3 項)は、そもそも大学が特許の共有
(共願)者になることを予定していないのではないかと考えられる。
複数の個人の発明者が共同で特許出願した場合、共有者の 1 人が第三者 にライセンスする場合は他の共有者の個人などの同意を得ることを必要と し、共有者を公平に保護する立法趣旨といわれる。
現在の特許法は、大学が特許を出願することを想定していないといわれ る。また、特許法規定の適用前に、民法上の契約自由の原則を範として公 序良俗に反しない限り、共有者間で双方が別途契約を結べる。
それならば、事前に同意不要の契約をしておけばいいのではないかとい う議論もあるかと考えられる。
しかし、特許を出願する直前は、大変緊迫した日程で進められるのが通 常である。例えば、学会発表が近いとか、競争相手が同じことを考えてい