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華僑・華人研究から現在の海外中国人研究への展開

ドキュメント内 趣味による紐帯の形成を中心に (ページ 73-82)

中国人の海外移住の歴史はかなり古くまで遡ることができるが,大量移住はアヘン戦争

(1840~1842)以後になる.現在,在日中国人の研究資料においては,1980年代中期か ら在日中国人のマスコミによる新聞や雑誌などの発行物が約200種類・数万点もあって多 様である.この多様であるということは,在日中国人社会が変化しつつあり,直ちに,華 僑・華人研究の困難さに直結することを意味している.

日本における華僑・華人研究は,近年,華僑・華人に関する諸問題に取り組む若い研究 者も年々増加している.

2003年3月,日本華僑華人学会も設立された(山下 2005:18,25-40).

華僑・華人に関する研究が本格化になってきたのは20世紀以来のことで,その問題関心は,

日本対アジア関係の膨張と収縮に密接に連動している.主に経済・歴史の視点から地縁・

血縁を基盤にして行われ,

1980年代以降はエスニシティ研究のアプローチに見られるよう

に,アイデンティティ・同化の視点を持つ研究が主流となってきた.

多様であり,重層的であり,多軸的であり,複合的であり,相互関係的であり,不断に 交渉とネットワーク化を繰り返す「華僑・華人状況」とも呼び得る現象は,ひとたびそれ を検討し,議論しようとするとき,単に「マルチディシプリン」に,とだけ繰り返しては いられない広さと深さ,そしてなによりも,日々刻々変動する態様に直面する.これまで,

華僑研究は,ひとつの「事情研究」や「動向研究」に留まっていたということも十分頷け るところである(濱下 2006).

本章では,そこに至る華僑・華人に関する代表的な研究を取り挙げ,それらをネットワ ーク的視点から検討してみる.

6-1 在日中国人社会における量と質の変化

21世紀の初め,日本で外国人労働力への需要が高まるにつれて,日本の外国人関連の制

度が規制緩和され,就学生,研修生も留学生及び就職者と同様に在日中国人社会の構成母 体となっている.彼らは,異なる身分(滞在資格)を持ち,日本社会において異なる場所 で勉強,仕事,生活をしている.昔の華僑・華人と比べると,彼らには価値観,行動意識 などに大きな違いがあり,新しい在日中国人社会を形成している.ここでの分析の焦点は 中日国交正常化以後の近年になり,新・老華僑だけではなく,就職者・留学生・家族滞在 も含む最近来日の中国本土の人々,特に東北の出身者が大勢いる若い中国人グループにあ る.

日本華僑華人の歴史は,世界の移民史の一部であり,同時に現代の先進国における華僑 華人史の重要な構成部分である.今までの華僑華人研究の中で,朱慧玲は新・老華僑華人 を研究対象として,在日中国人を一つの全体として探究した.多様な理論を運用し,多角 的かつ総合的な比較研究を行った.そして,新・老華僑間の相違と共通点について比較,

日本華僑華人社会の相対的な発展形勢を探究した.日中関係史の視点,社会学の視点,歴

史学と社会学の視点から最近の先進国の華僑華人社会全体の発展形勢とその直面する課 題を探究した.現在の在日華僑華人社会における「量」的激増と「質」の多元化,すなわ ち,数の増加と職業構成,出身,教育レベルなどマクロの視角から論じ,特に台湾系華僑 華人を強調している.新華僑華人の「予備軍」としての留学生及び留学から就職までの現 状,日本人の配偶者になった新華僑について描いている.そして,伝統的な課題である政 治的・文化的なアイデンティティの華人化の視点から,日中関係正常化以前における日本 の華僑・華人社会の状態を検討して,現在に至る新老華僑の進展変化の要因を明らかにし ている.

日本留学ブームを歴史的な視点から,朱はその隆盛期を詳しく述べ,新中国成立以降の 三つの段階,及び,改革開放以降の三つの時期の在日中国人留学生の進展変化を検討して いる.その在日中国人留学生の変遷を問い,昔と今の中国人留学生の違いについて現在の 在日中国人社会の変容と比較している.昔の中国人留学生は,日本に来て,精一杯勉強し,

学業を終えて,帰国する場合が多かった.そして,大学や研究機関などに入り,科学技術 分野で中国に大きな貢献を果たしてきた.現在の在日中国人留学生は空前の規模となって いる.朱のデータによると70年代以来,中国大陸から海外への留学生数は50万人を超えて いる.しかし,中国の経済発展とともに,彼らは昔の留学生の真剣に勉強した人々より,

もっと活躍し,新しい高学歴志向のグループになっている.学校を卒業して日本の企業で 働き,社会的地位を求め(永住ビザを取り),日本社会に長期滞在にすることを目的にし ている.彼らは今の在日中国人社会の中心として,グローバルな社会の中で最も優れたグ ループとなり,21世紀の中国と日本,ひいて世界に重要な社会的影響を及ぼしつつある.

新華僑・華人の社会的境遇,生活状況に対して,朱の論述によると,彼らは日本での生 活に基本的に満足しており,生活は安定してきていると結果が出たが,本研究の調査に関 するデータでは,日本における外国人に対する政策により,滞在資格が多様であり,取得 するのも簡単ではないので,まだ不安定な日々を暮らしている人がたくさんいる.しかし 社会的な地位を求め,自分の信頼性を築き,日本社会に融合していこうとする彼らは,昔 の稼ぐグループより生活が豊かになり,これから安定しつつあると予想されている.

朱慧玲は現在の在日中国人社会を巨視的な見方で論述し,マクロレベルでまとめている が,それぞれのミクロレベルの問題を,論じる研究者や論文も現れてきた.本章では,日 本の中国人社会が急速に高学歴化・低年齢化する影響を本研究の結果から明らかにしてみ たい.

6-2 在日中国人社会における多様化と若年化

1990

年代以降,在日中国人の急増に直面し,以前から華僑華人を対象にしてきた研究 者も新たな調査をおこなっている.たとえば,横浜をはじめ伝統的なチャイナタウンの研 究をおこなってきた山下清海は,東京の池袋にできた新華僑街の形成に注目している(山 下 2000).また,江・山下は,埼玉県の川口芝園団地の華人ニューカマーズの調査をおこ

なっている(江・山下 2005).これらの調査事例は,ニューカマーズの商業活動や一定地 域内に集住する在日中国人に焦点を当てたものである.

社会学においても,奥田道大と田嶋淳子がやはり東京の池袋や新宿の調査を通じて,大 都市インナーエリアに集住し活発化する在日中国人のライフスタイルやネットワークに 着目している(奥田・田嶋 1995:29-52).彼らは同じ地点で調査を繰り返すことによって,

池袋がアジア系外国人の一時受け入れ地として機能し,多層化する外国人および日本人ネ ットワークの核になっていることを示している.これらの研究は,新しい在日中国人社会 の動態を解明する上でも貴重な知見を提供しているが,多様化する流入者の中からどのよ うに新しい層を見いだしていくか,あるいは地域的に分散しつつある全体像をどのように 分析すればいいのか,課題も残っている.

在日中国人社会の変化については,中国人研究者からも様々なアプローチが試みられて いる.主要な論点の一つとして,急増する留学生への注目がある.王維の調査によると,

1996

年の入国管理法の改正以前は,身分保証人の条件が障壁となって,日本に親族や知 人がいないと中国からの留学はむずかしかった.しかし,改正後は一定の費用を払えば受 け入れの学校側が保証人になることが可能になり,それによって留学生が急増し,その半 面,血縁や華僑団体の重要性が相対的に薄れることになった(王 2006).

また,朱慧玲の調査によると,留学生を送り出す中国本土の経済・社会的発展によって,

現在の留学生の大半は

1990

年代以前の留学生よりも経済的に豊かな生活を日本で過ごし ており,余暇生活の質にも高い欲求水準をもっている.彼らによって,在日中国人社会の 若年化と高学歴化が進んでいる(朱 1999:130-158,2003:88-93).さらに殷燕軍は,留学 生はいまや在日中国人全体の

70%に達しており,その多くが豊かな中流階級以上の一人っ

子として育ち,留学後も自らのアルバイト収入よりも家族からの仕送りに頼って生活して いる者が多く,その趣味や行動様式は上の世代よりもむしろアメリカや日本の若者に近い という(殷 2005).

在日中国人社会における東北出身者の台頭についてはまだ調査も尐なく注目されてい ないが,王維は,サンフランシスコの中国人社会を調査する中で「東北新移民」が現代の 中国移民の主要グループになっていることを示している.彼らは伝統的な移民あるいは他 の地方の出身者と異なり,自らの同郷団体をもたないゆえに結束に乏しい集団に見えるが,

インタビュー記録を通じて,実は彼らの友人間の弱い紐帯のネットワークが重要な役割を 果たしているという(王 2006).また,ヨーロッパにおける中国系移民について,Pieke

Xiang

は,特に

1990

年代後半から中国東北部出身者(主に都会の出身)のイギリスへ

の流入が増加していると述べ,その特徴として,彼らは留学からそのまま移住する場合が 多かったという(Pieke and Xiang 2007).

以上のように,近年の多くの調査研究によって,在日中国人社会で留学生を中心とする 若年層が増えており,相対的に高学歴で経済的にも豊かな階層を形成していることが明ら かになった.日本に関して言えば,もともと親日的な人が多い東北地方出身者が留学生と

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