• 検索結果がありません。

英語教育における CDS を使った自己評価

II. 実践編

10. 診断的テスト結果の提示

10.3. 英語教育における CDS を使った自己評価

新潟県内の2 大学の1 年生対象に開講された一般教養科目の英語 7クラスの受講生合計 295 名(工学系・看護系・福祉心理系の学部学科)の協力を得て,STEPの英検Can-doリストのCDS を使って,入学時の英語力を自己評価してもらった.分析には,4技能すべての自己評価を行っ た233名のデータを対象に始めたが,途中ですべてにYesまたはNoとするなど,明らかに誠実 に回答していないと思われる者を分析対象から外したので,分析した回答者数はListeningが217,

それ以外の3技能が220となった.

STEPのCDSは2003~2006年に1級から5級の合格者のべ20,000人超に対してアンケート調

査を実施し,その結果によって作成されたものである.本研究ではこのうち英検4級~準1級の 4技能(R: reading, L: listening, S: speaking, W: writing)別のCDSを学習者の自己評価のツールと して用いることとした(表40参照).STEPの調査では,共通項目を配置しながら各級ごとに質 問紙が作成され,各級の合格者に対して,自信の度合いを5段階で回答する形式であったが,本 研究では協力者全員に,表2に示した数のCDSを技能ごとにすべてYes/Noで回答するように求 めた.5段階でなくYes/Noで回答を求めたのは,協力者に多くのCDSを見て判断してもらうこ

21 http://www.dialang.org/

とを優先したためで,回答時間のよりかからない方法としてこの方法を選択した.回答データは

Moodle のフィードバックモジュールで収集し,Excel 形 式でエクスポートしたデータを

ExametrikaによりLRTに基づいた分析を行った.すでに,RMに基づいた分析はKimura & Nagaoka

(2011a) で WINSTEPS を使って行っているが,ここでは,LRT に基づいた分析結果を中心に述

べ,考察を加える.

表40 利用した英検Can-doリストのCDSの数

R L S W

準1級 6 4 4 4

2級 5 5 7 6

準2級 4 6 6 5

3級 6 6 6 5

4級 5 6 7 6

合 計 26 27 30 26

CDSの困難度の順序性が保たれているかどうか検証するために,4技能ごとに各CDSのIRP 指標βと,そのCDSが所属する級の順位相関を調べた.英検4級を1に,3級,準2級,2級,

準1級をそれぞれ2,3,4,5 と序数化して,βとの間の相関がどの程度あるか,スピアマンの 順位相関を求めた.全般的にβの方が小さくなるケースが多い.これは協力者の英語力のレンジ がほぼ英検3級から2級に収まっているため,英検4級と3級のCDSの両方に対して「できる」

と回答した者が多かったため,この2つの級のCDSがどちらも同じランク1に分類されること が多かったためであろう.

また,完全に一致している割合はRとWが72%と62%と比較的高いのに対して,LとSが44%

と 47%と低いのは,協力者たちが実際に英語を聞いたり話したりする機会は,英語を読み書き

する機会に比べて極めて少ないためだと推察する.つまり,LとSについて比較的難しい内容の CDS を見ても,文字媒体しか使っていない状況で,経験したことのない音声活動のことを想像 しても,「(やったことはないが)これくらいは,もしやればできるだろう」と判断してしまうの ではないだろうか.

表41に示すようにいずれの技能についても.93~.95と非常に高い相関を示した.本研究で分 析した CDS の困難度は,STEP の調査結果とその順序性がほぼ一致していると言ってよいだろ う.RMに基づいた分析はKimura & Nagaoka (2011a) でも,4技能の項目の信頼性は,いずれも 0.99と非常に高かった.しかしながら,CDSの所属英検級とIRP指標βがすべて一致している わけではない(表42参照).

全般的にβの方が小さくなるケースが多い.これは協力者の英語力のレンジがほぼ英検3級か ら2級に収まっているため,英検4級と3級のCDSの両方に対して「できる」と回答した者が 多かったため,この2つの級のCDSがどちらも同じランク1に分類されることが多かったため

であろう.

また,完全に一致している割合はRとWが72%と62%と比較的高いのに対して,LとSが44%

と 47%と低いのは,協力者たちが実際に英語を聞いたり話したりする機会は,英語を読み書き

する機会に比べて極めて少ないためだと推察する.つまり,LとSについて比較的難しい内容の CDS を見ても,文字媒体しか使っていない状況で,経験したことのない音声活動のことを想像 しても,「(やったことはないが)これくらいは,もしやればできるだろう」と判断してしまうの ではないだろうか.

表41 CDSの所属英検級とIRP指標βの順位相関

R L S W

0.93 0.94 0.94 0.95

表42 CDSの所属英検級とIRP指標βの一致度 級-β R L S W

-2 0 0 0 0

-1 4 1 1 2

±0 20 14 18 17

+1 1 11 10 7

+2 1 1 1 0

総数 26 27 30 26 一致% 77% 44% 47% 62%

英検Can-doリストのCDS全体の順序性を乱していると考えられるのは,表42の中の「級-β」が +2となっている3つのCDSである.これらのCDSへの回答に対して今後も同じ傾向が表れるよう なら,何らかの修正を加えるかリストから除外した方がよいかもしれない.以下に,そのCDS を示しながら原因を考察する.

(1)「簡単なチラシやパンフレットを理解することができる.(商品の値段,セールの情報など)」

(英検2級のRのCDS,β=2):同じ2級のRのCDSが「一般向けに書かれた実用書」や「日本 語の注のついた英字新聞」を題材としたものなので,「チラシやパンフレット」は相対的に易 しいと感じたのかもしれない.しかし,実際に英語の「チラシやパンフレット」を手にした 経験がない者が多いと予測されることも,この結果に影響を与えているかもしれない.

(2) 「簡単な道案内を聞いて,理解することができる. (例:Go straight and turn left at the next

corner.)」(英検準2級のLのCDS,β=1):道案内は初級英会話でよく扱うトピックであること

と,実際は音声を聞いて理解できるかが問題なのだが,文字で提示されていることで,より 易しいと感じたのではないだろうか.

(3) 「自分の気持ちを表現することができる.(うれしい,悲しい,さびしいなど)」(英検準2級 のSのCDS,β=1):文の意味するところが少し曖昧に思える.感情が表現できるということ は,感情を表す単語と表現(I’m happy. I feel sad.など)を知っていることだけなのか,単語 レベルだけでなく抑揚など音声レベルに変化をつけて感情を表現することも含むのか.後者 は比較的難しいが,多くの回答者は前者の単語レベルのことだけを想定して回答したのでは ないだろうか.