第 5 章 高齢者傷害解析モデルの拡張
5.2 脊柱モデルのマルチボディモデルへの組み込み · 30
高齢者の傷害においては,致命的となる頭部傷害のみならず,寝たきりの原因となる大腿 骨頸部骨折や脊柱圧迫骨折も予後に重大な影響を与える.このような状況は交通事故統計に は現れにくいが,高齢者医療の観点から重要な傷害の評価にはマルチボディ解析では不十分 である.
申請者らはこれまでに全身マルチボディモデルと股関節-大腿部有限要素モデルを組み合 わせたマルチボディ-有限要素複合モデルを構築し,大腿骨頸部骨折リスク評価に適用して きた.本研究においてもこのモデルを利用し大腿骨頸部骨折評価を行っていくが,これに加 えて脊柱圧迫骨折リスク評価のために脊柱有限要素モデルを組み込んだ新たなマルチボディ
-有限要素複合モデル開発を目指した.
新たに作成した第11胸椎,第12胸椎,第1腰椎,第2腰椎,第3腰椎とその間にある椎 間板の有限要素モデルをマルチボディに組み込んだ.椎骨と椎間板の材料特性を表5.2に示 す.
各骨と骨は棘上靭帯と棘間靱帯を簡易的に作成し,骨と骨をつなげた.また,椎間板と骨 は接している面のノードを複数点選びつなげた。また,圧力を伝えるために接触面にはコン タクト条件を設定した.これらによって作成しモデルを図5.8に示す.
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表5.2 脊柱モデルの材料特性
Cancellous bone Cortical bone Annulus fibrosis
Young’s modulus[MPa] 236.65 120000 10
Poisson’s ratio[-] 0.4 0.4 0.4
Yield stress[MPa] 7.81 107.01
図5.8 脊柱有限要素モデル
構築した脊柱有限要素モデルはマルチボディモデル内において胴部関節挙動を再現できる ように接続した.第11胸椎を胸のマルチボディに第3腰椎を腰のマルチボディに固定し,マ ルチボディが動いたときにそれと同様な動きをするようにした.また,この第11胸椎と第3 腰椎はすべての要素を皮質骨と同じ材料特性とした.図5.9に骨とマルチボディの接続位置 を示す.
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図5.9 脊柱有限要素モデルとマルチボディモデルとの接続
脊柱圧迫骨折の危険性が考える転倒シミュレーションへの適用を試みたが,軟組織 と硬組織の境界に不自然に大きな変形が発生し,実用上に向けての課題がまだある.
今後,脊柱モデルの精度を高め,実際の事故を模擬した境界条件での解析に適用す るべく,改良を進める.
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第 6 章
まとめと今後の課題
6.1 今年度の成果のまとめ
本年度の研究成果は以下のようにまとめられる.
まず,申請者がこれまでに開発してきた高齢歩行者及び高齢自転車−自動車衝突シミュレー ションモデルにより,路面 2 次衝突時の頭部傷害予測とメカニズムの検討を行った.高齢歩 行者の場合,車両衝突条件そのものよりむしろ車両衝突後の人体挙動が路面 2 次衝突時の傷 害程度と相関することがわかった.一方,自転車乗員の場合には,単純に車両衝突速度に相 関して路面 2 次衝突時の頭部傷害値が増大した.自転車乗員では車両衝突後の人体挙動に対 して自転車車体が外乱として強く影響した.
次に, 高齢自転車乗員の腕部筋緊張を考慮する方法を検討するため,逆動力学シミュレー
ションモデルの肘関節および肩関節に受動的関節剛性を導入し,マルチボディシミュレーシ ョンとの比較によりマクロな関節剛性から発揮筋力を予測する基礎技術が確立できた.さら に脊柱有限要素モデルを構築し,マルチボディ傷害解析モデルへの組み込み手法を検討した.