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BRAF 変異メラノーマの治療には BRAF 阻害剤 Vemurafenib が奏効するが、多くの 症例において薬剤に耐性を示す腫瘍細胞が生存し、再増殖することが問題となってい る。そのため、メラノーマの薬剤耐性機構に関する研究が盛んに行われているが、現 時点でこの問題を解決する治療法は開発されていない。本研究では、薬剤耐性を減弱 させる新たな標的の同定を目標に、メラノーマ細胞の悪性化関連分子である CD63 に 着目し、解析を行った。その結果、① Vemurafenib により CD63 へ特定の糖鎖の付加 が亢進されることで、細胞膜上の CD63 量が増加し、メラノーマ細胞の増殖が抑制さ れること、② CD63 の発現増加が Vemurafenib の細胞増殖抑制能を増強することを見 出した。本研究の結果は、抗がん剤処理により生じる糖鎖構造の変化が、付加される 糖タンパク質の表現型を変化させ、そのことが薬剤の効果に影響を与えることを示し ている。本研究のように、薬剤耐性を克服しうる分子の発見はメラノーマ治療のブレ イクスルーになり得、このような分子の機能を解明し、また分子的な特徴を理解する ことは、メラノーマ以外の様々ながん種の薬剤耐性獲得機構の解明さらには克服にも 繋がるかもしれない。

細胞膜上での CD63発現増加が細胞増殖の抑制を引き起こす分子機構

ヒト BRAF変異メラノーマ細胞でのCD63の過剰発現により、Vemurafenib 存在下に おける細胞増殖が著しく低下することを見出した (Fig. 9)。よって、CD63の発現増加 を誘導する薬剤が Vemurafenib 耐性獲得の回避に有効であると考えられる。加えて、

CD63 がメラノーマ細胞の増殖能を低下させる分子メカニズムの解明が、新たな標的 の発見につながる可能性があり、今後の課題である。この点に関して、2 つの仮説を 考えている。1つ目は CD63がIntegrin 1のエンドサイトーシスを促進することで、

Integrin 依存的な下流シグナルを減弱させるという考えである。CD63 の代表的な相

互作用分子に Integrin 1があり、その下流に存在するFAKシグナル経路の活性化はメ ラノーマ細胞の Vemurafenib 耐性を増強させる (Hirata et al., 2015; Fedorenko et al., 2016; Satow et al., 2017)。テトラスパニンCD151はインテグリン (31, 51, 61) の

エ ン ド サ イ ト ー シ ス を 制 御 し て 、 イ ン テ グ リ ン 依 存 的 な 細 胞 機 能 を 調 節 す る (Berditchevski et al., 2006; Liu et al., 2007)。Integrin 1のエンドサイトーシスに CD63の 関与を示した報告はないが、CD63 もファミリーメンバーと同様に種々の分子のエン ドサイトーシスを制御することから(Duffield et al., 2003; Codina et al., 2005; Yoshida et

al., 2008)、細胞膜上でのCD63量の増加により、CD63/Integrin 1複合体が増加し、エ

ンドサイトーシスが促される可能性が考えられる。エンドサイトーシスの促進によっ て、細胞表面上の Integrin 1量が減少し、FAK などの下流シグナルが減弱することで、

薬剤耐性が減弱しているのかもしれない。この仮説を証明するには、Vemurafenib存在 下での CD63 と Integrin1 の複合体形成、Integrin1 の局在および細胞表面上での量 の変化について解析する必要がある。

2つ目の仮説は、CD63が細胞膜において、受容体やシグナル分子の局在を制御した り、結合パートナーを隔離したりすることでシグナル調節に関わるという考えである。

インテグリンや増殖因子受容体をはじめとした細胞膜受容体は、コレステロールやセ ラミドに富んだ膜ミクロドメイン、脂質ラフトでクラスター化し、シグナルを惹起す るケースが多く知られている。テトラスパニンも脂質ラフトに存在し得、種々の受容 体やテトラスパニン同士と複合体を形成することで、これら分子の細胞膜での局在を 制御し、シグナル伝達を調節する (Claas et al., 2001; Charrin et al., 2003; Silvie et al.,

2006)。また、テトラスパニン CD9 の欠損により、フリーとなった CD14 が脂質ラフ

トでToll like receptor-4 (TLR4) とCD14複合体を形成することで、TLR4/CD14の量が 増え、下流のシグナル伝達が増強されるという報告もある (Suzuki et al., 2009)。この 知見は、隔離分子としてのテトラスパニンの機能を示している。この後者のケースの

ように、Vemurafenib処理により細胞膜上で増加した大量のCD63は、脂質ラフトにお

いて受容体の複合体形成を阻害し、下流シグナルを減弱させる可能性が考えられる。

一方、SDC4 ETを用いて、CD63を細胞膜に局在させた際、SDC4 ET-CD63 (AAA) 発 現細胞では SDC4 ET-CD63 (WT) 細胞に比べ、強い細胞増殖能の低下が認められた (Fig. 14)。 しかし 、SDC4 ET-CD63 (AAA) 発現で 見られ た増 殖能の 低下が SDC4

ET-CD63 (WT) 発現時のものと同じ機構を介したものかは不明である。糖鎖が無いこ

とで、他の分子との結合が強まり、別の経路を介して、細胞増殖を阻害している可能

性も考えられる。そのため、キメラタンパク質の結果の解釈については、今後さらな る解析が必要である。CD63とCXCR4の複合体形成にはCD63に付加された糖鎖が必 須だと報告されている (Yoshida et al., 2009)。このCD63の相互作用分子との結合様式 は、他の分子でも起こり得るため、糖鎖付加を受けない SDC4 ET-CD63 (AAA) では、

細胞膜上での相互作用分子との複合体形成が起こらず、より制限なく無秩序に他の分 子同士間のスペーサーとして機能している可能性が考えられる。今後、CD63 の分子 スペーサーとしての機能を解明するためには、CD63 過剰発現細胞において、薬剤処

理時に Vemurafenib 耐性との関与が示唆されている分子の細胞膜局在および下流シグ

ナルの伝達に変化が認められるか検討する必要がある。

ポリラクトサミン付加による細胞膜上のCD63量の増加機構

本研究では、Vemurafenib処理による細胞膜上のCD63量の増加が、ポリラクトサ ミンの付加を介することを明らかにした (Fig. 13)。次に、ポリラクトサミンの付加が CD63 の細胞膜局在を促進する詳細なメカニズムを解明することが必要である。この メカニズムとして、CD63 の細胞膜上での滞留時間が長くなることで、細胞膜上での その量が増加するという仮説をたてている。ポリラクトサミン糖鎖構造に結合する分

子として Galectin という糖鎖結合タンパク質 (レクチン) ファミリーが知られてい

る。その中の 1つであるGalectin-3は、細胞膜上においてEGFRなどのN-型糖鎖上の ポリラクトサミン糖鎖に結合し、恒常的なエンドサイトーシスによるこれら分子のエ ンドサイトーシスを遅延させる (Patridge et al., 2004; Lajoie et al., 2007; Kimura et al.,

2012)。Galectin-3 とCD63の直接的な複合体形成を報告した例はないが、CD63と同様

に 代 表 的 な リ ソ ソ ー ム 膜 タ ン パ ク 質 で あ る LAMP-1 お よ び LAMP-2 (Lysosomal associated membrane protein-2) が Galectin-3 のリガンドであることは報告されている (Ohannesian et al., 1995; Sarafian et al., 1998)。さらに、Galectin-3は CD63が極めて多く 存在する細胞外小胞エクソソームにも局在することが示されており (Thery et al., 2001; Weilner et al., 2016)、CD63がGalectin-3のリガンドになりうる可能性は高いと考 えられる。そのため、ポリラクトサミンが付加された CD63 に Galectin-3 が結合し、

細胞膜上からのエンドサイトーシスが遅延することで、細胞表面での CD63 量が増加

するのかもしれない。また、Galectinの N-型糖鎖に対する親和性は、コア構造からの 分 岐 の 数 と N-ア セ チ ル ラ ク ト サ ミ ン の 数 に 比 例 す る こ と が 報 告 さ れ て い る

(Hirabayashi et al., 2002; Lau et al., 2007)。このことから、本研究で示唆された長鎖の ポリラクトサミンの付加は、CD63とGalectin-3の複合体形成をより増強させることが 推測される。Galectin-3 はメラノーマ細胞の悪性化に寄与し (Mourad-Zeidan et al.,

2008)、ヒトメラノーマ組織ではその発現増加が認められることから (Prieto et al.,

2006)、メラノーマとの関連が深い分子である。また、Galectin-3 は Galectin ファミリ

ーの中で唯一、5 量体の格子構造を形成することも報告されている (Braeuer et al.,

2012)。そのため、単量体や2量体で働く他の Galectinより、効率よく結合した受容体

のエンドサイトーシスを抑制する力が強いと考えられる。この仮説を証明するには、

今後、Vemurafenib存在下での Galectin-3 のタンパク質量および CD63 とGalectin-3 の 複合体形成の有無などについて解析する必要があるだろう

Vemurafenib処理によるCD63の表現型変化における細胞間での差異

Vemurafenib 耐性の低い HT-144 細胞および G361 細胞では、薬剤処理により A375

細胞では検出されない50kDa以上の超高分子種CD63が観察される (Fig. 7)。しかし、

薬剤処理による3GNT-2 mRNA 量の発現増加量はA375細胞の方が顕著であったこと から、糖転移酵素の量の違いが、A375細胞で超高分子種CD63が認められない理由で はないと予想される。A375 細胞では、HT-144 細胞と比較して、3GNT-2発現量が少 ないことから、薬剤処理による3GNT-2発現増加の割合が顕著であるのかもしれない。

N-型糖鎖構造は、N-型糖鎖コア構造からの枝分かれが2−5分岐の構造を取りうるが、

3GNT-2はin vitroにおいて、図に示すようなテトラアンテナ糖鎖構造に最も高い活性 を示す (Togayachi et al., 2010) (Fig. 16)。薬剤非存在下において、HT-144とG361細胞 では、A375 細胞に比べ高分子の CD63 分子種が検出されることから、A375 細胞に比 べ、より分岐の多い糖鎖構造を有する CD63 が存在すると予想している。これらのこ とから、薬剤処理により 50kDa以上の分子量を示す CD63は、おそらくは 3ヶ所の糖 鎖付加部位にテトラアンテナ糖鎖構造を有する高分子種 CD63 だということを考えて いる。そのため、このことを検証するために糖鎖構造の分岐を認識するレクチン

PHA-LやPHA-E などを用いて、メラノーマ細胞間およびVemurafenib処理の有無での 糖鎖分岐数を比較する必要があるだろう。また、糖タンパク質への長鎖ポリラクトサ ミンの付加には、糖タンパク質がゴルジ体をゆっくりと通過することが必要とされる (Wang et al., 1991)。そのため、Vemurafenib処理は糖転移酵素の量のみだけではなく、

CD63のゴルジ体内での通過時間を変化させているのかもしれない。

一方で、ポリラクトサミンが付加するタンパク質は CD63だけではない。そのため、

Vemurafenib 処理による、ポリラクトサミン自体の増加が、薬剤耐性に対してどのよう

に影響しているかは不明である。しかし、A375細胞では他の細胞株と比較して、ポリ ラクトサミン量が少ないことを LEAによるレクチンブロットから見出している。今後、

薬剤耐性とポリラクトサミン自体の関連について解析することは有意義なものであろ う。もし、より詳細な薬剤耐性におけるポリラクトサミンの機能を解明できれば、

3GNT-2が有効な新規治療標的となり得るかもしれない。

Figure 16. N-型糖鎖構造における分岐数の模式図

全ての 型糖鎖構造は、基本構造としてアスパラギン残基に2つのN-アセチルグルコサミンと3つの マンノースからなるコア構造をもつ。ゴルジでのプロセシングにより、分岐が増加したり、伸長した りすることで多様な構造の糖鎖構造が創り出される。ポリラクトサミンは糖鎖構造の非還元末端に N-アセチルグルコサミンとガラクトースが交互に付加した特徴的な糖鎖構造である。

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