第 4 章 研究 2 :有声性の生成処理の変化が知覚処理に与える影響の検討
4.3 考察
どのような変化をもたらしたのかを議論する。そして, それらの変化が有声性の知覚 にどのように影響したのかを, Patri et al.(2018)のTAF課題に関する議論と比較しな がら考察する。Patri et al.は, TAF実験が音韻情報と聴覚情報, 調音情報と聴覚情報の対 応関係を変化させることで聴覚情報と調音運動情報に基づく音声知覚処理の両方を変 化させたと述べている(図6)。Lammeti et al.(2014)のTAF課題を用いた実験で生 成の変化と知覚の変化の間に相関が見られなかったことについても, TAF課題が2つ の処理両方に影響を与えたことが原因だと考えられている。一方で, CAF課題ではフ ィードバックされる聴覚情報が調音情報から予測される聴覚情報と大きく異なるため, それらの対応付けに変化は生じないと考えられる(Mitsuya et al., 2014)。さらに, CAF 課題では発声した音韻とは異なる音韻がフィードバックされるため音韻情報と聴覚情 報の対応関係についても変化は起きないと考えられる。そのため, CAF課題が音声生 成・知覚処理過程における音韻情報, 調音情報, 聴覚情報の対応付けに及ぼす影響は TAF課題が及ぼす影響とは全く異なると考えられる。それでは, CAF課題はどのよう なメカニズムで有声性の生成や知覚に変化を及ぼしたのだろうか。生成の変化につい
てはMitsuya et al.によって議論がなされており, CAF課題で呈示される聴覚刺激は自ら
が発したものではないことが容易に分かるが, 実際に自らが発声したことで得られる はずの聴覚フィードバックが聴覚刺激によって遮られることが原因で生成に変化が生 じた可能性があると述べられている。本研究で生じた有声性知覚の変化については, 有声性の生成が変化したこと自体が知覚に影響を及ぼした可能性が考えられる。音韻 の生成が変化することは音韻情報と調音情報の対応関係を変化させることと同義であ
り(図11), もし音声知覚時に聴覚情報から音韻情報を知覚する際に調音情報を介在
させる処理が働くのであれば音韻情報と調音情報の対応関係の変化は知覚を変化させ る要因となり得るだろう。
本研究では, CAF課題を用いた実験を行うことで有声性の生成処理の変化が有声性 のカテゴリー知覚に影響を及ぼすことを示すとともに, その相互作用のメカニズムに ついて音声生成・知覚処理過程における音韻情報, 調音情報, 聴覚情報の対応付けに注 目して議論を行った。CAF課題を用いた本実験では音韻情報と調音運動の対応付けの 変化が調音運動情報に基づく音声知覚処理に影響を及ぼした可能性を示唆したが, 更 なる追加実験を行うことでTAF課題を用いた先行研究で議論されている聴覚情報と調 音運動の対応付けの変化が調音運動情報に基づく音声知覚処理に与える影響について も検討を行うことが可能だと考えられる。追加の実験案について具体的に説明をする と, /da/の生成時に比較的長いVOTを持つ/da/の音声刺激をフィードバックし, /ta/の生 成時には比較的短いVOTを持つ/ta/の音声刺激をフィードバックするといった擬似的 なTAF課題を行うことで, 聴覚情報と調音運動の対応関係を変化させるとともに補償 応答(CAF課題と同じ発話の変化)を引き起こすことが出来ると考えられる。そのた め, このような擬似TAF課題の前後での有声性知覚の変化をCAF課題の前後での変化 と比較すれば音韻情報と調音運動の対応付けの変化だけでなく聴覚情報と調音運動の 対応付けの変化が音声知覚における調音運動情報に基づく音声知覚処理に与える影響 についても議論が可能である。
音声生成と知覚の間で見られた相互作用のメカニズムを探る他の方法として, TAF 課題やCAF課題と脳機能計測実験を組み合わせたアプローチも考えられる。例えば,
Schuerman et al.(2017b)は, /ɛ/と/æ/の音韻対を用いてTAF課題前後にカテゴリー知覚
にどのような変化が生じるかを調べる実験を行ったが, TAF課題時にはEEGの計測も 行った。この実験では, TAF課題での発声の変化とTAF課題前後での音韻カテゴリー 知覚の変化の間に有意な相関が見られること, さらに, TAF課題時の発声の変化とEEG で計測した聴覚応答(自らの発話音声を聴くことで生じた応答)の間に有意な相関が 見られることが示された。この結果から, TAF課題時に生じた聴覚情報と調音運動の
対応関係の変化が音声の生成および知覚の変化を引き起こした要因であると考えられ ている。TAF課題や本研究で用いたCAF課題を行っている際の脳活動に加えてその前 後で行う音声知覚課題時の脳活動を調べ, 音声の生成や知覚の変化に関連する脳活動 を特定して両者の共通性について検討することが出来れば音声生成と知覚の相互作用 について更なる議論が可能となるであろう。