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自己の思考状態推定に基づく遠隔コミュニケーション進行支援

ドキュメント内 1.2 研究の概要 (ページ 99-102)

第 5 章 自己の思考状態推定に基づく

5.3 自己の思考状態推定に基づく遠隔コミュニケーション進行支援

本章では,自己の思考状態把握に基づく遠隔コミュニケーション進行支援について述べ る.これは,5.2節の問題点を解決するために自己の思考状態を的確にあらわす指標とし

てMS-Levelを利用し,これを直感的な方法で視認するためのものである.

5.3.1 MS-Level の導出

3.2.1.3項で述べたように,被指導者は簡易脳波計IBVAを装着し,脳波測定・記録ソフ

トウェアを利用して脳波測定を行う.そして,3.2.2.1項で述べた手続きに基づいて,各時 間帯におけるMS-Levelを導出する.

なお,MS-Level導出の際のNの値は,4.4.3項の実験において思考を要するタスク中と 思考を要しないタスク中の思考状態を的確に表している N = 50 を採用する.

5.3.2 自己の思考状態を反映した仮想コミュニケーション空間

既存の遠隔コミュニケーション環境では,参加者の無意識的な参加意欲低下がコミュニ ケーションの円滑な進行を妨げるという問題があった.本研究では,この問題をより詳細 に掘り下げ,次の2点が原因であると考えた.

参加意欲の低下に気付くことが難しい

無意識のうちに自分の参加意欲が低下した場合でも,ユーザはそのことに気付け ない.

仮想空間とのインタラクションが不足している

固定視点から描かれた仮想空間はインタラクション性に乏しく,ユーザは退屈を覚 えやすい.

本研究ではこれらの原因を取り除いて問題を解決するために,自己の思考状態を反映し た仮想コミュニケーション空間を提案する.つまり,共有空間を表示している各参加者の PC上に参加者自身の思考状態をフィードバックするのである.これにより,各参加者は 自身がどの程度頭を働かせているか把握しながらコミュニケーションを進められる.する と,各参加者が無意識的に気が緩んでぼんやりしてしまった場合も各自がそれに気付ける ので,各参加者のコミュニケーションへの積極的な参加意欲を維持しやすくなり,コミュ ニケーションの質を高めることが可能になると思われる.

5.3.2.1 自己の思考状態フィードバック方法の検討

自己の思考状態を参加者にフィードバックする方法はいくつか考えられる.まずは単純 に思考状態を数値化してメーター等で表示する方法がある.しかし,会話の流れや仮想空 間中のコミュニケーション相手に意識を配りながら,さらにメーターを読み取るという作 業はユーザへの負担となりかねない.

また,VALENTINEのように,タスクへの集中度に応じて仮想空間中における視野の 広さを変える手法もある[97, 98].このシステムでは,集中度が高まるほど仮想空間の周 辺部からモザイクがかかる仕組みになっており,周囲の余計な情報が遮断されて自分の作 業により集中できる.しかし,本章にて対象としているのは相手とのインタラクションが 大切なコミュニケーションであるため,画面の一部がモザイクで隠されて相手の発する情 報が欠落するおそれがあるこの手法は適切とは言えない.

これらの点を考慮すると,直感的で視認性が高く,かつコミュニケーション相手が発す る情報をなるべく欠落させないフィードバック方法が必要であると思われる.

ここで,フィードバック方法のヒントを得るために研究室の学生の日常的なコミュニ ケーションを長期間観察したところ,話に夢中になっている人は身を乗り出し,話に興 味が無い人は椅子の背もたれに寄りかかる傾向があることが分かった.そして,この日

常的な動作をモデルにすればより直感的なフィードバック方法になると考え,PC上の仮 想空間全体をズームアップ・ズームアウトさせることで思考状態をフィードバックする Forward-backwardモデルを考案した.このモデルにおいては,頭が活発に働いている 時は画面がズームアップされ,頭の働きが鈍い時は画面がズームアウトさせる.この方法 であれば参加者は仮想空間から目を離さなくても済むし,ズームを一定範囲内に抑えて おけば相手の情報が欠落する心配も無い.また,思考状態に応じてインタラクティブに画 面の状態が変化するので参加者が退屈を感じる可能性を低減させ,5.3.2項冒頭で述べた 2つ目の原因除去にも繋がると思われる.

5.3.2.2 仮想空間のズーム方法の検討

今回は,仮想空間を5段階にズームさせることにした.そのため,MS-Levelを1から5 までの整数値にスケーリングしてZoom-levelとした.つまり,Zoom-levelは1(最もズー ムアウト)から5(最もズームアップ)までのズーム度合いを示す指標である.

ここで,脳波はまばたき等によるノイズが乗りやすい指標であり,短時間で急激に変化 することもあるので,各瞬間の脳波強度をそのままズームに反映させると頻繁にズーム が発生してコミュニケーションに集中できないおそれがある.例えば,図5.4(上側)の 縦軸は代表的なユーザ1人のコミュニケーション中の脳波強度を[0, 1]の範囲にスケーリ ングしたもの,横軸は時間(秒)を表したものであるが,脳波という指標が短時間で変動 しやすいことがよく分かる.しかし,3.2.2.1項で述べたとおり,MS-Levelの導出には各 瞬間の脳波強度だけでなく一定時間過去のデータ(今回は5.3.1項で述べたとおりN=50,

約12秒分の過去データ)も併せて利用されている.これにより,脳波の突発的な変化に よる影響が軽減されているので,ズームの頻発は起こりにくくなっている.

実際,図5.4(上側)で示した各瞬間の脳波強度からZoom-level,つまり各瞬間のズー

ムの度合いを求めると図5.4(下側)のようになる.例えば,上側の図の600秒付近を見 ると脳波強度は大きく乱れている(これは,まばたき等が原因と思われる)が,下側の図 の同時刻を見るとズームの度合いではこの変動がある程度吸収されていることが分かる.

これにより,脳波の突発的な変化によるズームの頻発を防ぐことができ,ユーザに負担を 与えない表示方法となっている.図5.5はそれぞれズームアップとズームアウトが起こっ た時の状態であり,両者の間は滑らかに補完される.

なお,システム利用中の脳波強度を[0, 1]の範囲にスケーリングするためには脳波強度 の最大値・最小値を利用する必要があるが,これらの値はシステム利用後でないと判明し ないし,被験者ごと,あるいは体調等によってもに異なる値になると思われ,予め規定値 を用意することは難しい.

そこで,本システムの利用者はシステム利用の直前に脳波強度の最大値・最小値を計測 しておき(以降“事前タスク”),これらの値をシステム利用(以降“本タスク”)中に用

いる方法を採っている.その際,まばたき等によるアーチファクトを最大値と判定しない ように考慮している.事前タスク中の最大値・最小値は本タスク中のものとは厳密には異 なるが,事前タスクを本タスクと極力似せる(あるいは同一の形態にする)ことでこの影 響は低減されると思われる.

Time (sec)

Time (sec) EEG

pow er

Zoo m le vel

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

1 301 601 901 1201 1501 1801

1 2 3 4 5

1 301 601 901 1201 1501 1801

0 300 600 900 1200 1500 1800

0 300 600 900 1200 1500 1800

図 5.4: 脳波強度(上)とズームの度合い(下)

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