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支援終了後のインタビューで,一番難しかった活動として,本活動が挙げられた。その 要因として,やはり,1年分の月刊雑誌から記事を選び出すため,情報量が多いという点,

さらに,他活動は主に稿者とのやり取りを通して理解を深めていくが,本活動は情報の検 索・取捨選択という情報の応用面に重きが置かれていたことが考えられる。そのため,本 活動では以下の点に留意し,Scfを行った。

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・目次や見出し,写真,図などを有効に活用すること

・情報を段階的に絞り込むこと

・図書のカテゴリーを意識し,活用すること

・インターネットの検索方法を提示すること

・新聞の読み手の既有知識の限界や読み易さを意識すること

まず,膨大な情報の中に埋もれてしまわぬよう,目次や見出し,写真,図などを活用し,

スキミングを行うことを提案した。さらに,興味を持った記事に付箋を付け,付箋を付け たものだけを机の上に並べ,その中から,2 つの記事を選ぶように提案した。このように 情報をスキミングし,さらに段階的に情報を絞っていく方法を提示した。次に,図書室の 本棚を見て回り,どんな種類・カテゴリーごとに分けられているかを調べた。さらに,情 報収集の具体的な方法を提示した。最後に,読み手のことを考えながら,記事を書くよう に促した。具体的には,自分だけが知っている情報ではないか,もしそうならば補足説明 をする必要はないか,情報が整理されていて,読み易いか等,読み手を意識させるように した。

CMH は,家庭の事情により学期を終える前に,中国へ一時帰国を余儀なくされてしま ったため,新聞を完成するには至らなかった。しかし,記事をまとめる段階で,読み手へ の配慮,特にVFNを意識して作業を行っていることがCMHの発言より明らかになった。

まず,記事を書き出すにあたり,VFNがどの程度漢字が読めるのかを稿者に確認している 会話を以下に示す。

【会話 5】 ※H…稿者

CMH VFN って,どのぐらい読めるの?

H うーん,あんまり難しい漢字は読めないね。

CMH ふーん。でもね,全部ひらがなで書いたら,勉強にならないからだめなんだ。

H そうだね。どうしよっか?

CMH まずね,漢字は大きく。小さいと気持ち悪くなるから。

H あ,そうだね。

CMH で,その横にひらがなを書く。

H うんうん,親切だね。

CMH あんまりギュッて書く(稿者注:行間を詰めて書く)と,読めないから,このぐらいだね。

H なるほど,なるほど。よく気持ちがわかるね。

CMH だってね,俺だってさ。中国で3年生までしか学校で勉強してないから,漢字3年生までの しかわかんなかったんだよ。で,日本来てさ,日本語もわかんないし。だから,俺,今もあ んま漢字わかんねーし。俺,班長なのにさ,音読で,はいって,やるとき,漢字読めなくて,

めっちゃ,はずかしー。だからさ,わかるんだよ。

上記の会話より,CMHは過去の苦労した経験から,漢字の扱い方に関して,VFNに配

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慮していることが見受けられた。このように,間接的ではあるけれど,交流する機会を設 けることで,お互いに刺激し合い,さらに仲間意識も芽生えるようになると思われる。ま た,上記のCMHの発言からもわかるように,JSL児童間の交流を省察することで,支援 者が学び得ることは大きいのではないだろうか。

このような活動を通して,教科内容やテキストに書かれていることの理解を求めるだけ ではなく,どのように情報を活用していくのかを学ぶことで,自律学習の基礎となる力を 身につけていけるのではないかと思われる。

156 第2節 社会参加を目指して

2 年間の支援を終え,来日から 2012 年 3月までの心の状態をグラフ化し,子どもたち 自身で振り返る活動を行った。まず,心の状態を折れ線グラフで表し,変化が起きた箇所 に,その時の心情と合致する表情のシールを貼る作業を行った。この表情を表すシールは,

事前に稿者が用意したものだが,合致するものがなければ,子どもたち自身で作成した。

作成後,そのグラフを基にインタビューを行った。

5.2.1 VFNについて

以下にVFNが作成したグラフを示す。

図 1 VFNの心の状態を示したグラフ

VFNは2010年4月に来日した。来日当初は,日本での生活,特に友だちや学校に対し て期待を抱いていたという。しかし,1 か月が経過すると,グラフも下降し始める。その 理由として以下のように述べている。

【会話 6】 ※H…稿者

番号 発話者 発話内容

13 H ここどうしたの?ヒューンッて下がってるけど。

14 VFN なんか,つまんなそう。

15 H ふーん,何がつまんなかったの?

16 VFN 日本語とかしゃべれないし,何もできない。

17 H ああ,ベトナムのときは…。

18 VFN 自分でやって,友だちと一緒にいつも,映画とか。

19 H え?映画館とか行ってたの?

20 VFN 映画館一人で行きました。友達とも。

21 H えー,本当?映画館とか行ってたんだ。それが行けなくなったんだ。

22 VFN うん。できること少ないになった。

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発話番号16「日本語とかしゃべれないし,何もできない」という発言を聞き,日本語が できないので,授業がわからない,または学校生活に馴染めないことが理由として挙げら れると予測していた。しかし,実際には,日本語ができないために,普段ベトナムで一人 でできていたことができなくなり,行動が制限されてしまったことに不満を感じていたこ とが明らかになった。

来日から 3 カ月すると,徐々にグラフが上昇しはじめる。その理由として,「日本語が しゃべれる,できた。日本語しゃべりたい。友達もたくさん作れて,一緒に遊んでくれた

(VFN)」と述べている。VFNの発言からも,この時期,生活言語の習得とともに,人間関

係が良好に構築され始めたことが窺える。しかし,その後,徐々に下降し,怒りを表すシ ールが貼られた。

【会話 7】 ※H…稿者

上記の会話にある通り,友人がいじめに遭い,それをどうすれば助けられるのか分から なかったと述べている。このような問題は,JSL児童生徒のみならず,日本人児童生徒に も見られる問題である。しかし,VFNが第二言語の日本語でこのような複雑かつ繊細な問 題に対処するのは,負担が大変大きく,困難であったことは想像に難くない。

その後,グラフは友人関係の修復とともに上昇し,卒業式を目前に控え,下降する。VFN の通っていた小学校は,3 つの中学校に分かれて進学するため,何人かの友人と別れるこ とになるが,それを寸前まで VFN は知らずにいた。その事実を知り,ショックを受けた ことが下降の理由であった。そして,最後に,グラフが上昇した理由を以下のように述べ た。

番号 発話者 発話内容

31 H それで,これ,すごい怒った顔だけど,どうしたの?

32 VFN 友だちに悪いことがあって。

13 H 悪いこと?ケンカ?

14 VFN ケンカじゃないけど,隠れものとか,隠れものとか。かく,うしの,いしの,あ,

椅子の下とかに「馬鹿」とか書かれて。のりの机に塗って。

15 H いじめ?

16 VFN まあ。

17 H VFNもされてたの?

18 VFN 前があったけど。でも,この時はJ1。

19 H でも,誰がやったのかわかんないんでしょ?

20 VFN 分かったけど。どうする,どうすれば,分からない。

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【会話 8】 ※H…稿者

上記の会話より,上昇の理由として,勉強がわかるようになったことを挙げている。さ らに,クラブ活動を楽しめるようになったことも窺える。以前,料理クラブの実習でVFN が手順を誤り,失敗してしまったことがあった。しかし,6 年生からは料理クラブの副部 長として,積極的に参加するようになった。

以上のように,VFNにとって,授業内容を理解することも大切だが,上記のインタビュ ーより,友人関係や学校生活を「お客さん」としてではなく,クラス内の正規メンバーと して参加できるか否かが,重要であることが明らかになった。

5.2.2 CMHについて

以下に,CMHが作成したグラフを示す。

図 2 CMHの心の状態を示したグラフ

来日前は,外国に行けること,両親とともに暮らせることに大きな期待を抱いていたが,

日本の学校と中国の学校の違いに戸惑い,落胆してしまったと言う。以下にその発話を示 す。

番号 発話者 発話内容

13 H それで,最後ちょっと上がってるけど。

14 VFN 先生にいろいろなことを教えてもらったから,ちょっと嬉しい,勉強とか。

15 H 勉強ってどんなこと?

16 VFN 授業の勉強とか,理科とか,わかるようになった。

17 H ああ,理科ね。他には?

18 VFN クラブも楽しい。

19 H 料理クラブ?

20 VFN うん。いろいろわかるようになった。

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【会話 9】 ※H…稿者

CMH は,中国では全寮制の私立小学校に通っており,教師と生徒間,生徒同士の距離 も近かったという。また,冷暖房や教室の設備に関しても,CMH が思い描いた日本の学 校のイメージとはかけ離れており,それが落胆の原因になったと述べた。

来日,半年を過ぎると,徐々にグラフは上昇するが,5年生に入ると再び下降し始める。

これには,担任教師との関係性が強く影響していた。以下に,インタビュー中に,担任教 師について述べたものを示す。

【会話 10】 ※H…稿者

CMHが授業内容についていけなかった際,教師Fは授業中に対応したが,教師SはCMH

が,授業中にわからないと発言しても「みんな授業中だから大きい声で話さないで」と注

番号 発話者 発話内容

3 H なんでこんなに下がっちゃったの?

4 CMH なんか,この学校見たら,なんだこれ~って。運動会の時さ,中国では超でかい 体育館でやるんだよ。で,移動するとサッカーやる所もあるんだよ。

5 H 全然違うね。この学校と。で,がっかりしちゃったの?

6 CMH そう。この学校の何倍もあるよ。中国の私立の学校だから,まあ,しょうがない かと思ったけど,入ったら,ここはクーラーもないから。

番号 発話者 発話内容

8 H なんでこんなに下がっちゃったの?

9 CMH でも,みんなが優しくて,どんどんつきあって,つきあって,日本語も上手にな って。

10 H で,だんだん上がってったんだ。

11 CMH

最初はね。F先生はテストとかそんなにないし,宿題もそんなになかったのに。

ただ,学校でいろんなことやる感じ。それで,俺がわかんなかったらF先生は優 しく教えてくれた。

省略

22 CMH

で,また5年生になって,クラス替えで,友達とかも離れて,先生も変わって,

担任の先生がS先生になって,「うわ~」って。勉強が難しくなって,だんだん 嫌になって。

23 H S先生って,放課後に日本語教えてくれるんじゃないの?

24 CMH

でもさ,S先生になってから,宿題とかテストとかいっぱいになってさ,それで さ,「高学年になったから」とか言ってさ。それに,当り前のこと言うんだよ。

俺のこと馬鹿にしてるよ。

25 H 当たり前のことって?

26 CMH 「みんな授業中だから大きい声で話さないで」とか言うんだ。俺1年生じゃない のに,なんか子どもみたいな話し方してきて。

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