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考察

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4. 無負荷での円軌道到達運動 21

4.2 考察

図15に示す被験者1を例として抜粋し考察する.まず従来手法による手先剛性 の推定結果については,報告されている特徴と同様の形状変化が確認できる.特に

図21(a)に示す腕を屈曲させる方向から伸展させる方向へ状態が変化する際,手先

剛性が高くなる傾向がある.図15(a)に示す筋力発揮と比較すると,時刻3.2[sec]

において三角筋後部と上腕三頭筋外側頭の活動が増加することで手先剛性が増加 していることがわかる.しかし,従来手法ではどの筋群の活動による剛性の増加 なのかは判断できない.

次に提案手法での推定結果を,従来手法と比較して考察する.図21に示す被 験者1の実験結果は,上記従来手法により推定した実験結果と同じ被験者で同じ 試行である.こちらも先で述べたように,従来知見の特徴と同様の形状変化が確 認できる.図21(a)と図21(b)に示すような腕を伸展させる方向へ状態が変わる ときを抜粋して比較すると,図21(c)に示すように提案手法では運動に係る筋群 が拮抗する筋群より増加していることが確認できる.

図15(c),図16(c)に示す平衡位置についても従来手法と提案手法の推定結果を

比較すると,ほぼどちらも同様の傾向にある.これは平衡位置を求める関節トル クはどちらも同様であるため,大きな差が現れなかったと考える.なお,これら の推定結果については各被験者間での個人差はあるが,他の被験者でも同様の傾 向が確認できた.こうした平衡位置を観測することにより,筋群の活動レベルで 人間がどのように運動を計画しているかを推察できる可能性がある.

また被験者5名中2名において,試行の繰り返し後,運動中の剛性が全体的に減 少する傾向が確認できた.図22に被験者3の手先剛性推定結果について,1セッ ト目と4セット目の試行を示す.この結果より,肩・肘の屈曲および伸展の両筋群 の活性化が,繰り返しによる学習によって減少していることが確認できた.1.2.2 節で述べた従来知見より,被験者が内部にもつ運動制御モデルが最適化されるこ とで,筋群の同時活性化が減少した可能性が考えられる.一方,試行の繰り返し により剛性が減少傾向にあった被験者についての平衡位置推定結果を図23に示 す.計画された平衡位置の軌道は近い傾向が確認できるが,試行ごとのばらつき などが考えられるため,平衡位置から運動の習熟を推し量ることはできなかった.

−0.50 0 0.5 0.2

0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(a) 従来手法

−0.50 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b) 提案手法

−50 0 50

−60

−40

−20 0 20 40 60

Ky[N/m]

−0.5 0 0 0.5 0.2

0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(a) 手先剛性推定結果:1セット目

−0.5 0 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b) 手先剛性推定結果:4セット目

図 22 無負荷の場合での手先剛性推定結果:被験者3

−0.5 0 0 0.5 0.2

0.4 0.6 0.8 1

X[m]

Y[m]

(a) 平衡位置推定結果:1セット目

0.2 0.4 0.6 0.8 1

Y[m]

5. 手先に負荷のある円軌道到達運動

本章では,3章で述べた実験環境と実験条件下で,手先にゴムバンドによる負 荷を与えながら円軌道を描く運動による実験について述べる.手先に負荷を掛け ることで,手先に負荷の無い場合と比べて異なる筋活動となることが予想される ため,その点を提案手法による剛性と平衡位置推定を用いて評価することが可能 であるかを検証する.

図 24 負荷のある円軌道運動実験の概観

5.1 実験結果

手先に負荷を掛けた場合での提案手法を用いた推定結果について,被験者5名 の結果を示す.図25−29に,被験者1−5における筋力,手先剛性,平衡位置 の推定結果を,試行の1セット目と最終セット目のある試行を示す.

図25(a),図26(a),図27(a),図28(a),図29(a)に示す各被験者の筋力推定結果に おいて,次の傾向が確認できた.

三角筋前部:手先位置がx軸においてマイナス方向に動き始めるとき(時刻 0.0から2.0[sec]の間)にピークとなる

三角筋後部:手先がx軸においてプラス方向に動くとき(時刻2.0から4.0[sec]

の間)にピークとなる

上腕筋:手先がy軸においてマイナス方向に動くとき(時刻0.0から2.0[sec]

の間)や,運動終了時の肘の伸展を止めるとき(時刻5.0[sec]付近)にピーク が現れる.

上腕三頭筋外側頭:図25(a)に示す被験者1は手先がy軸においてプラス方 向に動くとき(時刻3.0から4.0[sec]の間)にピークを示しているが,他の4 名については顕著なピークは現れなかった

上腕二頭筋長頭:図26(a)に示す被験者2は手先がy軸においてプラス方向 に動くとき(時刻3.0から4.0[sec]の間)にピークを示しているが,他の4名 については顕著なピークは現れなかった

上腕三頭筋長頭:どの被験者も運動中を通して顕著なピークは現れなかった 図25(b),図26(b),図27(b),図28(b),図29(b)に示す各被験者の剛性推定結果に

手先がy軸のマイナス方向に移動する直前から,平衡位置もy軸のマイナ ス方向に移る

手先がy軸のマイナス方向からプラス方向へ移る際,平衡位置はy軸のプ ラス方向に円軌道の内側に移る

手先位置が円軌道の下方から終点に向かう際,平衡位置は終点の下方付近 に移る

2 3 4 5 6 0

5 10 15 20 25 30

t[sec]

F[N]

(a) 筋力推定結果

−0.50 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b) 手先剛性推定結果

0.2 0.4 0.6 0.8 1

Y[m]

2 3 4 5 6 0

10 20 30 40 50

t[sec]

F[N]

(a) 筋力推定結果

−0.50 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b) 手先剛性推定結果

−0.50 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

X[m]

Y[m]

(c) 平衡位置軌道推定結果

図 26 負荷のある実験結果:被験者2(提案手法)

2 3 4 5 6 0

10 20 30 40 50

t[sec]

F[N]

(a) 筋力推定結果

−0.50 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b) 手先剛性推定結果

0.2 0.4 0.6 0.8 1

Y[m]

2 3 4 5 6 0

10 20 30 40 50

t[sec]

F[N]

(a) 筋力推定結果

−0.5 0 0.5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b) 手先剛性推定結果

−0.50 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

X[m]

Y[m]

(c) 平衡位置軌道推定結果

図 28 負荷のある実験結果:被験者4(提案手法)

2 3 4 5 6 0

10 20 30 40 50

t[sec]

F[N]

(a) 筋力推定結果

−0.50 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b) 手先剛性推定結果

0.2 0.4 0.6 0.8 1

Y[m]

5.2 考察

図30に示す被験者1を例として考察する.図30(a)と図30(b)での手先剛性を 抜粋すると,無負荷での運動時と比べて,負荷のある運動における筋群は図30(c) のように筋群のバランスが変化することが確認できる.

平衡位置については,無負荷時と比べて下方に移る傾向がある.これは先で述 べたように肘を屈曲させる剛性が低くなることにより,実軌道との差が大きくなっ たと考えられる.

また被験者5名中2名において,試行の繰り返し後,運動中の剛性が全体的に 減少する傾向が確認できた.図31に被験者3の手先剛性推定結果について,繰り 返し前の1セット目と繰り返し後の4セット目の試行を示す.この結果より,肩・

肘の屈曲および伸展の両筋群の活性化が,繰り返しによる学習によって減少して いることが確認できた.1.2.2節で述べた従来知見より,被験者が内部にもつ運動 制御モデルが最適化されることで,筋群の同時活性化が減少した可能性が考えら れる.一方,手先が円軌道の上部つまり運動の開始時と終了時付近での手先剛性 は,繰り返し後に縦長になる傾向がある.手先剛性の形状はその姿勢に大きく依 存することから,運動の学習により,ゴムバンドの引張力に対抗しやすい姿勢を 伴う運動の仕方を学習した可能性が考えられる.

−0.50 0 0.5 0.2

0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(a) 無負荷の場合

−0.50 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b)負荷のある場合

−50 0 50

−60

−40

−20 0 20 40 60

Ky[N/m]

−0.5 0 0 0.5 0.2

0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(a) 手先剛性推定結果:1セット目

−0.5 0 0 0.5

0.2 0.4 0.6 0.8 1

12.5[N/m]

X[m]

Y[m]

(b) 手先剛性推定結果:4セット目

図 31 負荷のある場合での手先剛性推定結果:被験者3

6. 結言

人間が運動や環境に対する筋群の調節に着目し,筋群の協調制御による手先剛 性の推定モデルを用いた従来の運動解析手法を紹介した.従来の手先剛性推定は 筋群の協調制御による手先剛性の増減を確認できるが,主動筋群と拮抗筋群の剛 性総和を推定するために,主動筋群に対する拮抗筋群の剛性の状態を判別するこ とは出来なかった.

本論文では,従来の剛性推定を拡張することで,肩および肘の屈曲・伸展に係 る主動筋群と拮抗筋群による手先剛性をそれぞれ推定し,運動や外部環境に対し ての筋群ごとの運動解析手法を提案した.また,主働筋群と拮抗筋群の剛性が釣 り合う平衡位置を推定し,目標軌道を描く運動に対する筋活動レベルでの運動計 画の可視化を行った.提案手法の評価として水平面内での円軌道運動の被験者実 験を2種類行い,運動や環境に対して人が主動筋群と拮抗筋群の剛性をどのよう に設定しているかを,本手法により解析できる可能性を示した.

今後の課題は,提案手法を用いた運動スキル評価などを考えた場合,どのよう な指標により評価できるのかを示す必要がある.また,提案手法の推定モデルの パラメータとして,筋肉のモーメントアームを一定値で与えている.本来は運動 によりモーメントアームが変化するため,モデルの詳細化により推定精度が向上 すると考える.他の推定モデルのパラメータについても,特に筋肉の生理断面積 などは被験者ごとに個人差があるため,MRIを用いた被験者実験による個別のパ ラメータを計測することで,推定精度が向上すると考える.

謝辞

本研究を遂行するにあたり,貴重なご指導とご助言を賜りました本研究科小笠 原司教授に深く感謝致します.

論文執筆にあたり丁寧なご検討,ご教示をいただきました杉本謙二教授に御礼 申し上げます.

また本研究の遂行,論文執筆など様々な点においてご指導していただきました 本研究科の高松淳准教授に深く感謝致します.

研究全般にわたり,非常に多くのご助言,ご指導,ご協力を頂きました広島大 学の栗田雄一准教授に深く感謝致します.

本研究の遂行に当たってご助言,ご質問とともに多くの適切なご指導をいただ きました本研究科の竹村憲太郎助教に深く感謝致します.

研究全般にわたり,多くの適切なご助言とご指導いただき,ご協力頂きました 本研究科の池田篤俊助教に深く感謝致します.

本研究について的確なコメント,アドバイスをして頂きました本研究科の山口 明彦特任助教に深く感謝致します.

大学生活や事務処理など様々な面でサポートして頂きました本講座秘書の山口 美幸氏,大脇美千代氏に深く感謝致します.

本研究の遂行にあたり,様々な議論やご助言を頂いた本講座ヒューマンモデリ ンググループ博士前期課程の鈴木隆裕氏,松本真氏,武藤誠氏,グループの皆様 に深く感謝致します.

また,本研究の遂行にあたり,様々な議論やご助言を頂いた先輩,同期の皆様,

そして様々な補助に動いてくださった後輩達には本当にお世話になりました.

最後に,長年の学生生活を支えていただいた両親.家族,そして友人に心から 感謝致します.

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