• 検索結果がありません。

4. 3 日本語学,日本語そのものに関する研究論文 数と日本語教育を意識した研究論文数の動向

5.  考察

本稿では,学会誌ENPULLCJの研究発表のセクションに掲 載された論文の数や傾向を数量的に,また質的に分析をし,

ブラジルの日本語(教育)研究の全体像や動向に関する考察 を試みた。その結果,第2回大会(1991年)から第23回大会

(2014年)までの23年の間に,学会誌の研究発表のセクショ

ブラジルにおける日本語(教育)研究の動向と今後の展望-

全伯日本語・日本文学・日本文化大学教師学会誌からの数量的,及び質的考察-

XI CIEJB - XXIV ENPULLCJ 134

ンに掲載された「言語」「文学」「文化」全体の論文数はほぼ4 倍に増え(図3参照),各セクションの論文数も増加傾向にあ ることが分かった。累計では,「言語」の論文総数が一番多か ったが,第20回大会(2009年)前までは「言語」の論文数が優 勢傾向にあったのに対し,それ以降は「文化」が「言語」の近 似曲線を上回った。それは「文化」の論文の広がりと発展を 示しているとも言えるが,「言語」や「文学」以外のすべての論 文が「文化」として扱われることを見直すべきである。

「言語」のセクションの211本の論文(ポルトガル語のみ)の タイトルをテキストマイニング(抽出語,共起ネットワーク,階 層的クラスター分析)した結果,「japones(a)(日本語)」と

「lingu(a)(言語)」と「ensin(o)(教育)」,また「uso(使用)」と

「didat(ico/a)(教授法の)」と「abordag(em)(アプローチ)」の 語彙の出現回数が多く,それらの語の結びつきが強いことが 分かった。つまり,「言語」のセクションの全体の傾向として,日 本語そのものに関する論文ではなく,日本語教育に関する論 文を連想させる語彙が優勢であると推測することができる。

ところが,「言語」に関する226本の論文のタイトル(ポルト ガル語,日本語など)を(1)日本語学,日本語そのものに関す る研究論文と(2)日本語教育を意識した研究論文の2つの カテゴリーに1つ1つ分類した結果,累計では前者の論文 数が後者よりも多いことが判明した(表4参照)。両者の論文 数推移を見てみると,第2回(1991年)から15回(2004年)まで の13年間は,カテゴリー1の日本語(学)を意識した研究論文 数が優勢であったのに対して,2005年の第16回大会から 2014年の第23回大会までの9年間は,カテゴリー2の日本語 教育を意識した論文数が逆転し,常に上回っていたことが確 認された(図8参照)。更に,両者の論文数を近似曲線で表し た結果(図9参照),日本語(学)を意識した論文数の推移の傾 向は実は下降気味で,日本語教育を意識した論文数の推移 の傾向が上昇していたことが明らかとなった。このことから,

全体として「言語」の論文数が増加している傾向にあったのは

(図3参照),実は日本語教育を意識した論文数の上昇傾向

Yûki MUKAI

XI CIEJB - XXIV ENPULLCJ 135

によるものであることが分かった。また,テキストマイニング の結果も,実はこの日本語教育を意識した論文数の著しい上 昇傾向を反映していた結果ではないかと思われる。

日本語そのものに関する研究論文のサブカテゴリーの傾 向を調べた結果,語と文レベルに関する論文数が約半数を 占める一方,音レベルとコロニア語に関する論文数が非常 に少ないことが分かった(表5参照)。このことから,カテゴリ ー1の今後の課題は,論文数の少ないサブカテゴリー分野 に関する研究の進展である。

一方,日本語教育に関する研究論文のサブカテゴリーの傾 向は,教育に関する論文数が圧倒的に多く,学習者と社会に関 する論文数は非常に少なかった(表7参照)。言語教育の発展の ためには,教育(教室活動,教授法,評価など)に関する研究だ けではなく,学習者の言語(アウトプットやインプット)や心理(

モチベーションやビリーフなど)を調査して知る必要がある。ま た,社会(地域社会が関係する研究,社会の人々の意識,言語政 策)に関する研究も,コロニア社会や高等教育をはじめ,初等・

中等の公教育17でも日本語教育が行われている以上,ブラジ ルにおける日本語教育の発展には欠かせない。

以上のことから,今後の日本語(教育)研究の展望として は,日本語教育に関する研究が成長し続け,日本語そのもの に関する研究は更に減少する可能性があると考えられる。そ れは,院生を指導する大学教員のプロフィールとも関係して いる可能性が高い。この傾向は,4.3節で考察したとおり,ブ ラジルだけではなく,日本の学会誌『日本語教育』に掲載さ れた論文の傾向にも見られた。

本稿では,数量的,及び質的にブラジルの日本語(教育)研究 の全体像や動向を探り,特に数量的結果に基づいて今後の日 本語(教育)研究の進展に関する問題点を挙げた。質的な解釈 的アプローチだけではなく,数値を具体的に示すことで日本語

(教育)研究に関する問題点を指摘することも不可欠である。

17 国際交流基金サンパウロ日本語文化センター(編)『ブラジルの日本語教 育-初等・中等・高等教育の学校と講座-』(2015年).

ブラジルにおける日本語(教育)研究の動向と今後の展望-

全伯日本語・日本文学・日本文化大学教師学会誌からの数量的,及び質的考察-

XI CIEJB - XXIV ENPULLCJ 136

今回は,ENPULLCJ大会の学会誌に掲載された論文からブ ラジルにおける日本語(教育)研究の全体像や動向を図ろう と試みたが,今後の課題として,ブラジルで発行されている 他の学術雑誌18やブラジル(応用)言語学会の中での日本語

(教育)研究の位置づけなども考察する必要がある。

関連したドキュメント