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第 3 章 新規好/耐アルカリ性好塩性微生物の分類学的解析

3.4. 考察

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以上のことから、分離株MK13-1株は、好アルカリ性及び好塩性を示すこと、

近縁種との差違が認められることから、Halorubrum 属に属する新種であると判 断 し た 。 そ し て 名 前 を 原 産 地 で あ る パ キ ス タ ン の 古 代 王 国 、 地 名 か ら gandharaenseと命名し、分離株MK13-1株(= JCM17823T = CECT7963T )を基準株 とする Halorubrum gandharaense として International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (IJSEM) 誌に提唱し、2015年に正式に学名として認め られた。

3.4.2. MK62-1株の分類同定

MK62-1株はフィリピン産の海水塩「マングローブ おちあいどっとこむ」か

らMH4.2、pH 9.5の培地により分離された。この分離株の16S rRNA遺伝子塩基

配列に基づく系統解析の結果、Halobacteria綱のいずれの既知菌株との相同性が いずれも93%以下であり、新属の可能性が示唆された。Halobacteria綱のなかで 比較的近い属であるHalorubrum属、Halopenitus属と比べ、低い増殖NaCl濃度、

オキシダーゼ活性を持たないこと、デンプン加水分解能を有すること、糖資化 性の違い、さらに膜脂質の明確な差違などからHalobacteria綱の新属であること が考えられた。しかし2016年にChenらによってHaloparvum属(Chen et al. 2016) が発見され、MK62-1 株について再度相同性検索を行った結果、Haloparvum sedimenti JCM 30891T(LC163946)との相同性が 99.2%であった。この結果から

MK62-1株はHaloparvum sedimentiの近縁種であることが分かった。またrpoB’

遺伝子塩基配列による系統解析の結果、Haloparvum sedimenti DYS4T(KP276580) との相同性97.4%であった。決定した16S rRNA遺伝子塩基配列を元にして作成 した近隣結合樹では、MK62-1株は Haloparvum属との間にクラスターを形成し

ていた。rpoB’遺伝子塩基配列を元にして作成した最尤系統樹では、Haloparvum

属との間にクラスターを形成していた。しかしながら、Haloparvum sedimenti DYS4Tとの分岐の信頼度は 99%以上であり、新種の可能性がいくらか示唆され た。

MK62-1株はNaCl濃度2.1-4.7 M (12-27% (w/v))の範囲で生育し、至適NaCl濃 度は2.1-2.6 M (12-15% (w/v))であった。生育pHは6.5-9.5の範囲で生育し増殖至

適pH は 7.0-7.5 であった。このことから MK62-1株は耐アルカリ性及び好塩性

83 微生物に分類される。

近縁種であるHaloparvum属との比較においては表3.5からもあきらかのよう

に、pH 9.5であり、これらの中で最も高いpH条件下で増殖可能、デンプンの加

水分解能の有無、オキシダーゼ活性の有無、H2S生産性の有無、糖の資化性、抗 生物質感受性などに違いが見られる。図 3.9 から Haloparvum sedimenti JCM

30891Tとは異なる不明な糖脂質が確認された。

これらの結果から、Haloparvum sedimentiとは表現型、化学的分類、遺伝子型 にいくつかの差異がみられることからMK62-1株はHaloparvum属の新種である と考えられる。

以上のことから MK62-1 株は表現型、化学的分類、遺伝子型に明確な差違が 認められることから、Haloparvum 属に属する耐アルカリ性、好塩性を示す新種 であると判断した。そして、耐アルカリ性を示すことから alkalitolerans と命名 し、分離株MK62-1株(= JCM 30442T = KCTC 4214T )を基準株とするHaloparvum alkalitolerans と し て International Journal of Systematic and Evolutionary

Microbiology (IJSEM) 誌に提唱し、2016年に正式に学名として認められた。

3.4.3. MK206-1株の分類同定

MK206-1株は韓国産の天日塩「전일몀」からMH4.2、pH 9.5の培地により分

離された。この分離株の 16S rRNA 遺伝子塩基配列に基づく系統解析の結果 Halopenitus persicus DC30T (JF979130)と最大の相同性(96.3%)を示し、新属または 新 種 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。MK206-1 株 は 近 縁 種 と の 比 較 に お い て は Halopenitus persicus DC30Tよりも高い pH、高い塩濃度で増殖可能であり Mg2+

要求性の有無、Tween 80加水分解能の有無、Glycineの資化が不可、Rifampicin 耐性などに差違が見られる。これらのことからMK206-1株はHalopenitus属に属 する新規の耐アルカリ性好塩性古細菌にであると考えられた。しかしながら、

2014年にHanらによってHalopenitus salinus (Han et al. 2014)が発見され、再度相 同性検索を行った結果、Halopenitus salinus SKJ47Tと99.7%の相同性を示した。

また、rpoB’遺伝子塩基配列による系統解析の結果、既知のHpt. salinus SKJ47T

の相同性は 98.1%と高い数値を示した。このため、MK206-1 株は Halopenitus

salinusの近縁種であることが分かった。

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MK206-1株はNaCl濃度1.5-5.2 M (9-30% (w/v))の範囲で、至適NaCl濃度は 3.6-4.1 M (21-24% (w/v))で生育した。生育pHは6.5-9.3の範囲で生育し増殖至適 pHは8.0であった。このことからMK206-1株は耐アルカリ性及び好塩性微生物 に分類される。Halopenitus salinusとの比較では表3.6にあるようにMK206-1株

Halopenitus salinusの間には糖資化性などにいくつかの表現型に差がみられる

ものの化学的分類、遺伝子型においては明確な差違がみられない。

以上のことからMK206-1株は耐アルカリ性、好塩性を示す高度好塩性古細菌 として得られたもののHalopenitus salinusと同一の種であると判断した。

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4 章 好塩性古細菌の宇宙環境適応評価

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