4.1 第3章のまとめ
尺度の信頼性本研究で用いた各尺度について、α係数(Cronbach s α)を算出した結果、
概ね基準値の.70を超えていたため、内的一貫性が確認された。
また、安定性を表す再検査信頼性係数においても、各側面のすべてに中程度 以上の正の相関関係がみられ、安定性も確認された。
時点間における各変数の変化
同一変数内における、1時点目と2時点目の平均値の比較を対応のあるt検定 を用いて行なったところ、ライフスキル下位尺度の「最善の努力」において、
0.5%水準(t=2,018,pくO.5)で1時点目のほうが有意に高い値を示した。それ以外 の変数については有意な差は認められなかった。
横断的データを用いた相関分析
集団凝集性、集団効力感とライフスキル各下位尺度との相関分析における結 果では、rコミュニケーション」r感謝する心」の両スキルが集団凝集性,集団 効力感との間にr:.50以上の中程度の正の相関係数を示した。また、1時点目の データを用いた結果の再現性を確認するための2時点目の調査においても、同 様の結果が得られた。このことから、集団のまとまりとチームに所属する選手 個々の「コミュニケーション」「感謝する心」の両スキルとの間に正の関連性が
あることが示唆された。
縦断的データを用いた重回帰分析
集団凝集性、集団効力感とライフスキル各下位尺度との関連性を厳密に検証 するため、1時点目のライフスキル各下位尺度得点を独立変数、2時点目の集団
凝集性、集団効力感の両尺度を従属変数とする重回帰分析を行なった。その結 果、効力感、凝集性ともに、ライフスキル下位尺度の「コミュニケーション」
が有意な正の影響を与えていた。このことから、チームに所属する選手個々の
「コミュニケーション」スキルが上がると、集団効力感、集団凝集性が上がる のではないかと示唆された。また、1時点目のライフスキル各下位尺度得点を独 立変数、2時点目の「コミュニケーション」スキルを従属変数として重回帰分析 を行なった。その結果、「コミュニケーション」スキルには、「感謝する心」が 有意な正の影響を与えていることが示された。このことから、集団のまとまり を高めるためには、「感謝する心」をいかにして高めるかが重要になってくるの ではないかと推測された。
4.2 「集団凝集性・集団効力感」に影響を及ぼす要因の分析 4.2.1 時点間の変数比較について
「最善の努力」において、1時点目と比較し、2時点目が有意に低い結果とな った。また、集団凝集性、集団効力感、ライフスキルの尺度得点についても、
有意差はみられなかったが、2時点目に各尺度得点が低下している。この結果か ら考えられる要因としては、調査対象チーム(以下A大学)のチーム状況が関わっ ているのではないかと推測する。A大学は、1年間を通じて行われる、関西学生 サッカーリーグ1部に所属している。そのリーグ戦において、A大学は、リー
グ前期の成績が芳しくなかった。そのため、2時点目の調査を行なった、中断期 間中の9月の選手の言動がネガティブな類のものが多く、練習の雰囲気も良く なかった。先行研究では、試合の勝敗と集団効力感との間には関連性があるこ
とが示唆されている(Za㏄aro et a1.1995)。このことからも、チーム成績が原因 となり1時点目の調査と比較し、2時点目のほう集団効力感が低かったことが考 えられる。それに伴い、2回の調査を通じて、集団効力感と中程度の有意な相関
第4章考察
がみられた「最善の努力」が2時点目に有意に低下したのではないかと推測さ
れる。
4.2.2集団凝集性・集団効力感の総得点に影響する要因
〜集団凝集性・集団効力感とコミュニケーションスキル〜
重回帰分析の結果から、ライフスキルの「コミュニケーション」スキルが集 団凝集性、集団効力感に正の影響を与えていることが示された。特に集団効力 感については、芹澤(2008)らの知見と同様の結果を示している。このように示さ れた要因としては、調査対象クラブがコミュニケーションの活性化を重要視し
た活動を行なっているためではないかと推測する。
当該チームは、ファミリ』制度という活動を実施している。ファミリー制度 とは、4回生が親となり立場、学年関係なく5,6名の ファミリー という枠をつ くり練習時間以外で食事や遊びなどでコミュニケーションが取れる場をつくろ うという目的で実行されている活動である。対象チームは、100名近い学生が所 属している。選手の競技能力に応じて、カテゴリーがA,B,Cとあり、学年も1 回生から4回生がおり普段からカテゴリーごとに練習時間も異なる。そのため、
コミュニケーションが取ることができない学生同士がいるといった問題が生じ、
それを改善するために取り入れられた活動である。この活動を通して、複数の 選手から、「普段接することがない選手と接しクラブに自分が関わっている気持
ちが高まった」や「リーグの応援に一生懸命なれるようになった」等の声が聞 かれた。この活動があったため、集団効力感に対して選手個々の「コミュニケ ーション」スキルが影響を与えたのではないかと推測する。
ファミリー制度の活動は、近年、チームや企業のまとまりを高めるために実 施されて注目を集めている「チームビルディング」に近い活動だといえる。チ ームビルディングとは、予め組まれているプログラムをチーム、企業に所属す
る聴講者に対して、ファジリデーターが実施する。プログラムは目的によって 様々だが、チームで目標を確認し合い、目標に対するアプローチの方法をグル ープで話し合うこと等が大部分のチームビルディングのプログラムの内容であ る。荒地ら(2011)は、チームビノレディングによって、集団効力感が高まることを 確認している。また、チームビルディングは、プログラムの内容を除き、主な 活動の根幹となっているものが、メンバー間のコミュニケーションである。水 野ら(2012)は、チームビルディンクプログラムを経験することにより、実施前よ
りも実施後は、学生の他者理解スキルが有意に高くなっていることを確認して
いる。
これらのことからも、選手個々の「コミュニケーション」スキルを高めるこ とが、チームの集団凝集性、集団効力感が高ねるごとに繋がる可能性があるこ
とが示唆される。
4.2.3集団凝集性・集団効力感の総得点に影響する要因
〜コミュニケーションスキルと感謝する心〜
重回帰分析の結果から、ライフスキルの「コミュニケーション」スキルに正 の影響を与えている変数が、ライフスキル因子の1つである「感謝する心」で ある。この結果について考察していくこととする。筆者も含め、経験的に感謝 の一言を伝えるか否かによって、その後のコミュニケーションの円滑さが変化 することを経験したことがあるだろう。感謝の一言が自然に出てくるためには、
「自己開示」が必要となると推察する。中村(1991)は、コミュニケーションスキ ルを高めるためには、自己開示、対人魅力、非言語的行動の3つの側面が正の 影響を与えていることを示している。これらの経験則や先行研究からも、「感謝 する心」を育成することが、コミュニケーションスキルを向上させるキーワー
ドになるのではないかと推察できる。さらに、「感謝する心」を育成することに
第4章考察
より、コミュニケーションスキルが向上し、最終的に集団効力感、集団凝集性 が高まるのではないかと推測する(図4.1)。
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実際に、「感謝する心」を育成するための実践的取組みとしては、原田(2006)
が行なった事例として松虫中学陸上部で行なった例が挙げられる。原田が最も 力を入れたことは清掃活動と奉仕活動であったという。そして、原田はこの活 動によって、大阪の松虫中学陸上部を7年間で13回の日本一を輩出する強豪校 に育てた。この事例以外にも、「感謝する心」を再確認するため、他者理解を深 めるために清掃活動をおこなっている企業、チームが幾つか存在する。この事 実からも、今後は、「感謝する心」について焦点を当てた検討を行なっていく必 要がある。
また、今回の調査において、「コミュニケーション」と「感謝する心」を除く ライフスキルの各因子は、集団凝集性・集団効力感に対して有意な影響を与え ていなかった。このことから、「最善の努力」や「責任ある行動」などのライフ スキルの各因子は、第3の変数を介して集団凝集性・効力感に影響を与えてい
るとも考えられ、今後は、そのような媒介変数について検討を行っていく必要
があるだろう。