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2.6.2 薬理試験の概要文

2.6.2.6 考察及び結論

2.6.2.6.1 薬理作用及び吸着特性

ビキサロマーは米国ILYPSA社(現Amgen子会社)において創製された非吸収性のアミン機能 性ポリマーである。本剤は,消化管内でリン酸を吸着して血清リン濃度を低下させる。今回の申 請にあたり,国内において透析患者における高リン血症を適応症としているセベラマー塩酸塩と の比較検討も含めて,ビキサロマーの薬理学的特性を明らかにする目的で,各種試験を実施した。

ビキサロマーは高リン食摂餌5/6腎臓摘出CKDラットにおいて,血漿リン濃度及びCa×P積を 有意に低下させた(図2.6.2-1,図2.6.2-2)。また,ビキサロマーはアデニン誘発CKDラットにお いて,血漿リン濃度及びCa×P積をほぼ正常レベルまで低下させた(図2.6.2-3,図2.6.2-4)。セベ ラマー塩酸塩もまたアデニン誘発CKDラットにおいて,血漿リン濃度をほぼ正常レベルまで低下 させた(図2.6.2-5)。以上の結果より,ビキサロマーはセベラマー塩酸塩と同程度の血漿リン濃度 低下作用を示すことが明らかとなった。なお,ビキサロマーが高リン食摂餌正常ラットにおける 尿中リン排泄量を低下させ,糞中リン排泄量を増加させた結果(図2.6.2-15,図2.6.2-16)及び,

ビキサロマーのリン酸吸着作用が腸管内pH付近であるpH 6.09で最大値を示した結果(図

2.6.2-14)からも,CKDモデルにおいて認められたビキサロマーによる血漿リン濃度低下作用は,

消化管内でリン酸を吸着し,糞中に排泄することにより消化管からのリンの吸収を抑制している 可能性を支持している。

CKDに伴う高リン血症においては,ビタミンDの活性化障害による血清カルシウム濃度低下[5]

及び副甲状腺に対するリンの直接的な作用[6,7]を介してPTHの分泌を亢進し,二次性副甲状腺機 能亢進症(SHPT)が誘発される[8,9,10]。そこで,CKD動物モデルを用いて,SHPTに対するビキ サロマーの作用を検討した。副甲状腺機能の指標として,血漿PTH濃度及び副甲状腺重量比(副 甲状腺湿重量/体重)を用いた。高リン食摂餌5/6腎臓摘出CKDラット及びアデニン誘発CKD ラットにおいて,血漿PTH及び副甲状腺重量比の有意な増加が認められ,これらの病態モデルは SHPTの病態を示すことが確認された(図2.6.2-6,図2.6.2-7)。アデニン誘発CKDラットにおい ては,大腿骨の空隙面積率及び線維化面積率の有意な増加が認められたことより,骨ミネラル代 謝異常(腎性骨異栄養症)が誘発されていると考えられた。ビキサロマーはこれらの病態モデル において,血漿リン濃度を低下させる用量で血漿PTH及び副甲状腺重量比を有意に低下させた(図 2.6.2-6,図2.6.2-7)。また,アデニン誘発CKDラットで認められた骨病変も改善した(図2.6.2-10,

図2.6.2-11)。以上の結果より,ビキサロマーは血漿リン濃度を低下させることにより,SHPTを

改善し,その結果として腎性骨異栄養症の進展を抑制することが示唆された。

CKDにおいて,高リン血症は,Ca×P積の上昇を招き,リン酸カルシウムが軟部組織(血管壁,

心臓弁膜,関節周囲等)に沈着し,異所性石灰化が生じる[11,12]。今回,大動脈の血管石灰化を 指標に,異所性石灰化に対するビキサロマーの作用を検討した。ビタミンD負荷アデニン誘発 CKDラットでは血漿Ca×P積並びに血管石灰化の指標である大動脈カルシウム含量が有意に増加 した。このモデルにおいて,ビキサロマーは血漿Ca×P積並びに大動脈カルシウム含量を有意に

低下させた(図2.6.2-8,図2.6.2-9)。以上の結果より,ビキサロマーは血漿Ca×P積を低下させる ことにより血管石灰化を抑制することが示唆された。

CKD患者では,腎機能低下により不揮発性酸性物質の排泄及び重炭酸イオンの再吸収が低下し,

アシドーシスが生じる。アシドーシスは,骨病変の発症・進展,心機能及び腎機能の悪化をもた らす可能性が示唆されているため[13,14,15],K/DOQIガイドラインにおいて重炭酸イオン濃度を

22 mmol/L以上に保ちアシドーシスを改善させることが推奨されている[16]。セベラマー塩酸塩は

分子内に塩素を含むため,高塩素性代謝性アシドーシスを引き起こすことが報告されている[17]。

そこでアデニン誘発CKDラットにおいて,ビキサロマー及びセベラマー塩酸塩の血液pH,重炭 酸イオン濃度に対する作用の検討を行った。アデニン誘発CKDラットにおいて,血液pH及び重 炭酸イオン濃度が有意に低下し,アシドーシスが誘発されていた。ビキサロマーは低下した血液 重炭酸イオン濃度及び血液pHを改善させた(図2.6.2-12,表2.6.2-2)。セベラマー塩酸塩は,4 日目及び7日目において,血液pH,重炭酸イオン濃度の低下を改善しなかった。以上の結果より ビキサロマーは,セベラマー塩酸塩と異なりアシドーシスを改善する作用を有することが示唆さ れた。ビキサロマー群では血液重炭酸イオン濃度の増加が認められたが,これはビキサロマーが 塩基性化合物であるため消化管への重炭酸イオンの分泌が抑えられたためと推察される。

ビキサロマーのリン酸溶液中における最大リン酸吸着能は,6.49 mmol/gであり,リン酸吸着特 性を有することが示された。なお,リン酸溶液中におけるビキサロマーのリン酸吸着能はセベラ マー塩酸塩よりやや小さかった(添付資料4.2.1.1-15(参))が,ビキサロマーのヒト消化物及び ヒト消化物類似組成液におけるリン酸吸着能はセベラマー塩酸塩の約2倍であり(表2.6.2-4,表

2.6.2-5),これらの結果もビキサロマーのリン酸吸着特性を支持する。

ビキサロマーのヒト胆汁中における主要な6種の胆汁酸の最大吸着能はセベラマー塩酸塩の約 半分であった(表2.6.2-6)。これには,ビキサロマーはセベラマー塩酸塩に比して浸潤可能最大分 子量が小さい特性を有することが寄与していると推察される。本結果から,ビキサロマーはセベ ラマー塩酸塩に比して胆汁酸とともにミセルを形成して吸収される脂溶性ビタミンの吸収を抑制 しにくい可能性が示唆された。なお,この結果は高リン食摂餌正常ラットにおいて,ビキサロマー が糞中胆汁酸及び脂肪酸排泄量にはほとんど影響を及ぼさなかったが,セベラマー塩酸塩はいず れも用量に応じて増加させた(図2.6.2-17,図2.6.2-18)結果によっても支持される。

ビキサロマー及びセベラマー塩酸塩の膨潤指数はそれぞれ,2.15,8.10水(g)/ポリマー(g) であり,ビキサロマーはセベラマー塩酸塩よりも膨潤性が小さいことが示された(表2.6.2-10)。 このことから,ビキサロマーは消化管内での膨潤の程度が小さく,そのためセベラマー塩酸塩で 認められている消化器系副作用が発現しにくい可能性が考えられる。

以上をまとめると,ビキサロマーは非吸収性のリン酸吸着ポリマーであり,セベラマー塩酸塩 に比して浸潤可能最大分子量が小さい特性を有する。この特性により,セベラマー塩酸塩に比し て胆汁酸等の吸着が小さい。ビキサロマーは消化管においてリン酸を吸着することで血漿リン濃 度並びにCa×P積を低下させ,また,SHPTを改善させ,それらにより高リン血症及び随伴する血 管石灰化,腎性骨異栄養症を改善する可能性が示唆された。更に,ビキサロマーはCKDによる血

液pH及び血液重炭酸イオン濃度の低下を改善させたことから,CKD患者及び透析患者で問題と なるアシドーシスを改善する作用を有する可能性も示唆された。

安全性薬理試験として,中枢神経系,呼吸器系,胃腸管系に及ぼす影響をラットで,心血管系 に及ぼす影響をイヌで評価した。いずれの試験も単回経口投与で実施した結果,ラット及びイヌ でそれぞれ6000及び2000 mg/kgまでビキサロマーの影響は認められなかった。

2.6.2.6.2 非臨床試験及び臨床試験成績の関連性(薬効用量と有効性)

ヒトのリン摂取量は約1000 mg/日であり、ビキサロマーの臨床用量は1.5~7.5 g/日であるので,

食事中のリン含量とビキサロマーの服用量の比は約0.13~0.67と算出される。一方,高リン食摂 餌5/6腎臓摘出CKDラット及びアデニン誘発CKDラットにおける餌中リン濃度はそれぞれ約

1.63%,及び約1%であったので,ビキサロマーを薬効用量である2又は3%混餌投与した場合,

餌中のリン含量とビキサロマーの投与量の比はそれぞれ,約0.54及び0.82,約0.33及び0.5と算 出された。これらの値は臨床試験における食事中のリンとビキサロマーの量の比と同程度である。

参考文献

1. Cozzolino M, Staniforth ME, Liapis H, Finch J, Burke SK, Dusso AS, et al. Sevelamer hydrochloride attenuates kidney and cardiovascular calcifications in long-term experimental uremia. Kidney Int 2003;64:1653-61

2. Katsumata K, Kusano K, Hirata M, Tsunemi K, Nagano N, Burke SK, et al. Sevelamer hydrochloride prevents ectopic calcification and renal osteodystrophy in chronic renal failure rats. Kidney Int 2003;64:441-50

3. Tamagaki K, Yuan Q, Ohkawa H, Imazeki I, Moriguchi Y, Imai N, et al. Severe hyperparathyroidism with bone abnormalities and metastatic calcification in rats with adenine-induced uraemia. Nephrol Dial Transplant 2006;21:651-9

4. Terai K, Nara H, Takakura K, Mizukami K, Sanagi M, Fukushima S, et al. Vascular calcification and secondary hyperparathyroidism of severe chronic kidney disease and its relation to serum phosphate and calcium levels. Br J Pharmacol 2009;156:1267-78

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6. Naveh-Many T, Rahamimov R, Livni N, Silver J. Parathyroid cell proliferation in normal and chronic renal failure rats: the effects of calcium, phosphate and vitamin D. J Clin Invest 1995;96:1786-93 7. Hernandez A, Concepcion MT, Rodriguez M, Salido E, Torres A. High phosphorus diet increases preproPTH mRNA independent of calcium and calcitriol in normal rats. Kidney Int 1996;50:1872-8 8. Slatopolsky E, Finch J, Denda M, Ritter C, Zhong M, Dusso A, et al. Phosphorus restriction prevents

parathyroid grand growth. High phosphorus directly stimulates PTH secretion in vitro. J Clin Invest.

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