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考 察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 47-53)

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れた結果、基底層の肥厚が生じているものと推察される。また興味深いことに、

本研究では癌化したOLのΔNp63陽性率は非癌化症例の陽性率よりも有意に高い 結果を示した。Chen(2005)らはΔNp63を高発現しているOLはOSCCへ癌化 する傾向にあることを示している(60)。さらに、Chen(2003)らは発癌物質で あるジメチルベンズアントラセン(dimethylbenz[a]anthracene)を投与し、OSCC を誘発させたハムスターの頬粘膜組織においてΔNp63が高発現していたことを 明らかにしている(61)。これらの知見より、ΔNp63の高発現が上皮性異形成の みならず、OSCCの発生に関与していることが示唆され、さらにΔNp63が上皮性 異形成からOSCCへの癌化の有用な予測因子となり得ることが示された。

OSCCにおいてもΔNp63の発現は正常口腔粘膜上皮と比較して亢進しており、

さらに、低分化なものほどその陽性率は増加していた。これらの結果はOSCCに ついて検討した他の報告例と一致している(61, 62)。Lo Muzio(2005)らはOSCC 患者94名の切除標本におけるΔNp63の発現を免疫組織化学的に検討しており、

低分化型OSCCにおけるΔNp63陽性率が高分化型および中分化型OSCCよりも

有意に高かったことを示している(62)。これらの結果を踏まえると、ΔNp63の 発現がOSCCにおける分化度の指標になり得る可能性が考えられる。また、OSCC 生検材料におけるΔNp63の発現と臨床所見および予後との関連について検討を 行ったところ、疾患特異的累積生存率においてΔNp63の高発現群は低発現群と 比較して予後が不良であった。頭頸部癌において、ΔNp63陽性率と患者の予後と の関連を検討した報告がいくつかなされている(44, 62-65)。Borba(2010)らは 喉頭扁平上皮癌患者127名の切除標本におけるΔNp63の発現を免疫組織化学的 に検討し、ΔNp63低発現群において予後が不良であったことを明らかにしている

(63)。これは本研究とは相反する結果である。その一方で、われわれと同様の 結果を示す報告例も認められており、ΔNp63の免疫組織化学的解析における予後

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の評価については統一した見解が得られていない(62, 64)。これら報告間の相違 は免疫組織化学的染色に使用したモノクローナル4A4抗体によるものと推察さ れる。本研究では、Dako Cytomation社製のモノクローナル4A4抗体を使用して おり、この抗体はΔNp63のN末端部の1-205のアミノ酸領域を認識すると考え られている。Moergel(2010)らは、OSCC患者33名の生検材料を対象にこのモ ノクローナル4A4抗体を使用して免疫組織化学的染色を行い、その陽性率を算出 して予後との関連を検討した。その結果、ΔNp63の高発現群において患者の予後 が不良であったことを明らかにしており、本研究と一致した見解を述べている

(62)。一方、他社のモノクローナル4A4抗体を使用した報告例ではわれわれと 相反する結果が示されている(63, 65)。Foschini(2004)らはOSCCの切除組織

におけるTAp63の発現をRT-PCRおよびnested PCRを用いて解析し、TAp63を

発現していた患者群は予後が良好であったことを明らかにしている(66)。以上 のことを踏まえると、TAp63にドミナントネガティブに作用するΔNp63の高発 現がOSCC患者の予後不良に関連していることが考えられる。本研究においても

ΔNp63の発現がOSCC患者の予後と関連していたが、その理由としては、ΔNp63

の発現が頸部リンパ節および遠隔転移にも有意な関連を示したためであると考 えられる。OSCCの組織学的悪性度の評価法の一つに腫瘍宿主境界部の浸潤様式 に着目したYK分類があり、頸部リンパ節転移の発生率と強い相関を示すことで 広く知られている(52)。本研究においても、結果は示していないが、頸部リン パ節転移の発生頻度とYK分類との間に相関が認められた。そこで、ΔNp63の発 現とYK分類との関連についても検討を行ったが、その両者に有意な相関はみら れなかった。以上のことから、ΔNp63がYK分類とは独立した予後予測因子であ ることが示唆される。

本研究ではまた、OSCC細胞株を用いてΔNp63、CK5、およびCK14の発現を

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検索したところ、ΔNp63の発現とCK5あるいはCK14の発現の間に相関性があ ることが示された。ΔNp63はCK5の5’末端に位置し、エンハンサーとして機能 するDNase I Hypersensitive siteやCK14のプロモーターおよびエンハンサー領域 に結合することによって、これらの発現を誘導している(67-70)。したがって、

ΔNp63はCK5やCK14を直接的に制御している可能性が推察される。さらに、

ΔNp63 siRNAの導入によって、未分化マーカーであるp75NTR、BMI1、そして頭

頸部扁平上皮癌のCSC表面マーカーと考えられているCD44の発現量も減尐し たことから、ΔNp63はOSCC細胞を未分化な状態に維持している可能性が示され た。さらに、ΔNp63 siRNAの導入がOSCC細胞株の細胞増殖に与える影響につい て検討を行ったところ、ΔNp63 siRNA導入細胞では増殖活性が低下し、細胞周期 の進行を抑制するCDKインヒビターであるp27kip1の発現量が増加していた。こ れは、ΔNp63が細胞周期の制御因子であるCDKインヒビターの転写因子である ためであると考えている。CDKインヒビターはInk4ファミリーとCip/Kipファ ミリーの2つに分類される。前者は細胞周期の移行を促進するサイクリンと拮抗 することでCDKの作用を抑制し、後者はサイクリン-CDK複合体に結合するこ とで、CDK活性を阻害し、細胞周期のG1期からS期への移行を抑制していると 考えられている。ΔNp63はCip/Kipファミリーに属するp21cip1p27kip1およびp57kip2 の転写抑制因子として機能しているため、ΔNp63 siRNAが導入されたOSCC細胞

では、p27kip1 経路 を介した細胞周期の停止が生じ、その結果増殖活性が低下し

たものと考えられる(71-73)。

本研究では、ΔNp63のノックダウンにより上皮系細胞マーカーや上皮幹細胞の マーカーの発現量の減尐、細胞増殖活性の低下が認められ、さらに間葉系細胞マ ーカーであるvimentinの発現量の増加、細胞遊走能の亢進、扁平上皮様形態から 紡錘形への形態変化も認められた。近年、癌の浸潤、転移に関する研究において、

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上皮系細胞が間葉系細胞のような形質を獲得する、いわゆる、上皮-間葉転換

(epithelial-mesenchymal transition: EMT)が関与していることが示唆されている

(74-76)。EMTは初期胚の発生や形態形成に必須の過程であり、それを獲得した

細胞において、上皮系細胞マーカーの発現量の減尐、間葉系細胞マーカーの発現 量の増加、細胞増殖活性の低下、紡錘形の細胞形態、細胞遊走能の亢進が認めら れている。また、EMTを獲得した細胞は高度浸潤能を有しているなど、癌組織 においてもEMTに着目した報告がいくつかなされている(74-78)。Higashikawa

(2007)らは、EMTを獲得した高度浸潤型OSCC細胞株においてΔNp63の発現 が消失していることを示しており、Barbieri(2006)らは、ΔNp63をノックダウ ンさせた頭頸部扁平上皮癌細胞株において間葉系細胞のマーカーである

N-cadherinの発現増加が認められたことを報告している(77, 78)。これらのこと

から、ΔNp63を消失あるいはその発現が低下している癌細胞はEMTを獲得して いる可能性が考えられる。近年、分化の進んだ状態にある癌細胞でもEMTを獲 得することによってCSC様の形質を獲得することが明らかにされてきた(74)。

さらに、EMTを獲得した細胞とCSCとでは遺伝子の発現パターンが極めて類似 しているとの報告もあることから、EMTの制御に関与している可能性がある

ΔNp63の機能を明らかにすることは癌の発生、浸潤、転移の制御機構の解明のみ

ならず、CSCの同定に大きく貢献できるものと考えられる(75)。今後、ΔNp63 を介したEMTによるOSCCの発生、浸潤、転移の分子機構についてさらなる詳 細を解明するために、ΔNp63が上皮系マーカーであるE-cadherin、間葉系マーカ

ーであるN-cadherin、そしてEMT関連遺伝子と考えられているWnt-4および

Wnt-5aにどのように影響を及ぼすか検討を行う必要がある(79)。さらに、ΔNp63

の発現が消失している高転移株であるSQUU-B細胞の細胞生物学的特性につい ての詳細な解析を行うことも、ΔNp63によるEMTの制御機構およびOSCCにお

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けるCSCの同定に重要であると考えられる(80)。本研究の結果をもとに、OSCC

におけるΔNp63の発現および機能についてさらなる検討を行う予定である。

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